スバル「アイサイト」に新機能、高速道は“おまかせ”で走行可能に?

スバル「アイサイト」に新機能、高速道は“おまかせ”で走行可能に?

2017.06.19

「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーで脚光を浴びたスバルの運転支援システム「アイサイト」。ステレオカメラで前方の状況を認識し、プリクラッシュブレーキで衝突を回避する安全装備としての機能が有名だが、このシステムは高速道路の運転支援でも力を発揮する。この夏に進化するアイサイトを実際に試してみると、それはほとんど自動運転のような乗り心地だった。

スバルのアイサイトが進化する

人間の眼のように前方を認識

アイサイトは車両の前方、具体的にはドライバーから見てルームミラーの後部あたりに付いているステレオカメラで前方の状況を認識し、その情報をもとに車両を制御して衝突や車線の逸脱を回避するスバルの独自技術。2010年5月発売の「レガシィ」で初登場し、これまでにバージョン3(ver.3)まで進化を遂げている。

アイサイトは人間の眼のように2つのカメラを使って状況を認識する

人間の“眼”のように2つのカメラを使うアイサイトは、対象の形状や対象との距離を把握するのに優れる。このカメラで得た情報を、人間で言えば“頭脳”にあたるソフトウェアで処理し、ブレーキ、アクセル、ハンドルといったクルマの各ユニットを“手足”のように操る。

スバルは現行の「アイサイトver.3」を大幅に進化させ、新機能「ツーリングアシスト」を搭載する。この新型アイサイトは、2017年の夏に発売する「レヴォーグ」および「WRX S4」の全車に標準装備する。新型アイサイトの進化ぶりを説明すべく、スバルは6月15日、報道陣を招いて試乗会を開催した。

ついていく技術が進化

ツーリングアシストとは、渋滞時を含む高速道路の全車速域でアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を自動制御し、ドライバーの負荷を軽減する機能のこと。もともと、アイサイトver3は「ぶつからない技術」、「(高速道路で)ついていく技術」、「はみ出さない技術」、「飛び出さない技術」、「注意してくれる技術」の5つの機能を備えているが、ツーリングアシストは「ついていく技術」を強化する新機能だ。

これまでのアイサイトでも、先行車を認識してブレーキとアクセルを自動制御できたし、ステアリングについても一定速度以上であれば車線中央を自動でキープできたわけだが、「ツーリングアシスト」の搭載により、具体的には何が変わるのか。

まず、従来のアイサイトver.3では時速60キロ以上でしか使えなかった「車線中央維持」機能が、新型では「時速0キロ以上」、つまりは全ての速度域で使えるようになる。更に、車線が見づらい状況でも先行車を認識し、その軌跡に合わせてハンドルを操作する「先行車追従操舵」という機能も追加となった。

渋滞時でも途切れず運転支援

高速道路で渋滞に巻き込まれると、前にクルマが詰まってきて、車線が認識しづらくなる。その時に、先行車を認識してステアリングを操作する必要が出てくる。新型アイサイトでは、こういうシーンに自動制御で対応できる。ちなみに、先行車が分岐や出口などで走行レーンから抜けていく場合でも、アイサイトは先行車の横方向のスピードを検知して状況を判断するため、先行車を追従して望まぬ方向に進んでしまうという事態は発生しないそうだ。

赤い破線で囲まれた部分が追加となった機能だ。時速120キロまで対応速度を拡大したのは、新東名など一部の高速道路で最高速度の引き上げが検討されているため

機能の追加はソフトウェアの更新により実現したもので、カメラやコンピューターといったハードウェアの部分に変更はない。ちなみにスバルでは、今回の進化でアイサイトが「ver.4」にステップアップしたとは表現せず、あくまで「ver.3」の機能拡充だとしている。

実際の走行シーンで考える

実際に高速道路を走っていると仮定して、新型アイサイトにより可能になることを考えてみたい。まず、高い速度域で順調に走行している高速巡航時は、先行車がいなければ設定速度を守って車線中央付近を走行し、前にクルマがいれば設定した車間距離を守って追従する。

次に渋滞している場合だが、そんな時でもアイサイトは区画線と先行車両の両方を認識しているので、これらの情報を組み合わせてハンドル制御を行う。ノロノロ運転にも対応するし、先行車が止まれば自車も止まる。3秒以内に先行車が発進すれば、自車はアクセルを踏むなどの操作なしで自動的に発進し、また先行車を追従し始める。ただし、事故渋滞などで車線変更が必要になった場合は、自分で操作をする必要がある。

前のクルマが大型トラックで区画線が見えない場合や、そもそも区画線が消えてしまっているような場合であれば、アイサイトは先行車両を認識し、その軌跡をなぞるハンドル操作を自動で行ってくれる。

ドライバーは速度計の隣にあるディスプレイにより、アイサイトが先行車と区画線を捉えているかどうかを確認できる

現行のアイサイトver.3でも高速道路での運転支援機能は使えるわけだが、スバルの技術者の話によると、現行システムでは、対応できないシーンに差し掛かり、運転支援が終了してしまうケースが多いというユーザーからの声があったという。その点、ツーリングアシストが追加になれば、アイサイトが使える場面は確実に広がる。運転支援システムは使えてこその機能だと思うが、今回の進化はアイサイトの作動率を高めることにもつながりそうだ。

乗ってみて思ったこと

これは試乗してみての感想なのだが、新型アイサイトを搭載したクルマであれば、おそらく高速道路は、入る時と出る時だけ自分で操作すれば、あとはほとんどの場面でクルマに運転を任せられそうな印象を受けた。

今夏発売の「レヴォーグ」のプロトタイプ。このクルマに乗って新型アイサイトを試した

ハンドルには手を置いておく必要があったが、ペダルの操作も基本的には不要で、車線の中央をキープするための細かいハンドル操作もいらなかった。今回の試乗は、普通に高速道路を走る時と比べればかなり楽だったといえる。この機能をスバルは「自動運転」と呼んでいないが、乗っているクルマが自動で加減速し、ハンドルの操作まで行ってくれる感覚は、自動運転そのもののような気がした。

リアルワールドで使える技術であること

高速道路において、先行車を追従してクルマの自動制御を行うシステムは「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」と呼ばれ、日産自動車が「セレナ」と「エクストレイル」に搭載している「プロパイロット」が有名だし、欧州勢を含めた複数のメーカーにも用意がある。スバルはどこで差別化を図るのだろうか。同社が試乗会の説明で強調したのは、「リアルワールドで使える」ことと「(アイサイトが行う自動制御は)運転が上手い」ということだった。

スバルが自社計測データをもとに作成した他社との比較

いくら新規技術を搭載してあったところで、実際に使えなかったり、使えたとしても作動率が低かったりしたのでは恩恵に乏しい。スバルでは、アイサイトの機能をカタログ上で終わらせず、現実世界で実際に使ってもらえるものとすべく、渋滞などのケースでもシステムが途切れないように「ついていく技術」を進化させた。

運転が上手いとは、クルマ側が行う自動制御の精度が高いということだ。他のメーカーの機能を試したことがないので判断できないのだが、今回の試乗会で乗った新型レヴォーグのプロトタイプについていえば、自動制御の加速、減速、ステアリングはスムーズで、体が急に前後左右に揺さぶられるようなシーンもなかった。

これから全車標準装備へ

新型アイサイトは今夏発売のレヴォーグおよびWRX S4に全車標準装備し、その後はスバルの全車種で標準装備化を進めていくという。同社では「先進運転支援・安全装備は普及してこそ意味がある」との考えから、価格も低めに設定している。レヴォーグおよびWRX S4では、アイサイトの進化を含め複数の仕様を充実させるが、車両本体価格は現行モデル比で数万円程度の上昇に抑えるとのことだ。

今夏発売の「レヴォーグ」(左)と「WRX S4」

スバルが昨年10月に発売した「インプレッサ」と、今年5月に発売したSUV「XV」はアイサイトver.3に対応している。スバルによると、ツーリングアシスト機能の追加はソフトウェアの更新で可能とのことだったので、インプレッサなどの既存車種でも夏以降は新機能が追加になるのかと思ったのだが、このような変更には国の認可が必要だそうで、すぐに対応するのは難しいという。

インプレッサとXVを最近購入した人には少し残念かもしれないが、これらの車種では次のマイナーチェンジでアイサイトの進化が見られるだろう。レヴォーグおよびWRX S4でツーリングアシストが良い評判を獲得すれば、これからモデルチェンジを迎えるスバル車にとって、アイサイトの進化が大きなアピールポイントになるはずだ。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。