スバル「アイサイト」に新機能、高速道は“おまかせ”で走行可能に?

スバル「アイサイト」に新機能、高速道は“おまかせ”で走行可能に?

2017.06.19

「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーで脚光を浴びたスバルの運転支援システム「アイサイト」。ステレオカメラで前方の状況を認識し、プリクラッシュブレーキで衝突を回避する安全装備としての機能が有名だが、このシステムは高速道路の運転支援でも力を発揮する。この夏に進化するアイサイトを実際に試してみると、それはほとんど自動運転のような乗り心地だった。

スバルのアイサイトが進化する

人間の眼のように前方を認識

アイサイトは車両の前方、具体的にはドライバーから見てルームミラーの後部あたりに付いているステレオカメラで前方の状況を認識し、その情報をもとに車両を制御して衝突や車線の逸脱を回避するスバルの独自技術。2010年5月発売の「レガシィ」で初登場し、これまでにバージョン3(ver.3)まで進化を遂げている。

アイサイトは人間の眼のように2つのカメラを使って状況を認識する

人間の“眼”のように2つのカメラを使うアイサイトは、対象の形状や対象との距離を把握するのに優れる。このカメラで得た情報を、人間で言えば“頭脳”にあたるソフトウェアで処理し、ブレーキ、アクセル、ハンドルといったクルマの各ユニットを“手足”のように操る。

スバルは現行の「アイサイトver.3」を大幅に進化させ、新機能「ツーリングアシスト」を搭載する。この新型アイサイトは、2017年の夏に発売する「レヴォーグ」および「WRX S4」の全車に標準装備する。新型アイサイトの進化ぶりを説明すべく、スバルは6月15日、報道陣を招いて試乗会を開催した。

ついていく技術が進化

ツーリングアシストとは、渋滞時を含む高速道路の全車速域でアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を自動制御し、ドライバーの負荷を軽減する機能のこと。もともと、アイサイトver3は「ぶつからない技術」、「(高速道路で)ついていく技術」、「はみ出さない技術」、「飛び出さない技術」、「注意してくれる技術」の5つの機能を備えているが、ツーリングアシストは「ついていく技術」を強化する新機能だ。

これまでのアイサイトでも、先行車を認識してブレーキとアクセルを自動制御できたし、ステアリングについても一定速度以上であれば車線中央を自動でキープできたわけだが、「ツーリングアシスト」の搭載により、具体的には何が変わるのか。

まず、従来のアイサイトver.3では時速60キロ以上でしか使えなかった「車線中央維持」機能が、新型では「時速0キロ以上」、つまりは全ての速度域で使えるようになる。更に、車線が見づらい状況でも先行車を認識し、その軌跡に合わせてハンドルを操作する「先行車追従操舵」という機能も追加となった。

渋滞時でも途切れず運転支援

高速道路で渋滞に巻き込まれると、前にクルマが詰まってきて、車線が認識しづらくなる。その時に、先行車を認識してステアリングを操作する必要が出てくる。新型アイサイトでは、こういうシーンに自動制御で対応できる。ちなみに、先行車が分岐や出口などで走行レーンから抜けていく場合でも、アイサイトは先行車の横方向のスピードを検知して状況を判断するため、先行車を追従して望まぬ方向に進んでしまうという事態は発生しないそうだ。

赤い破線で囲まれた部分が追加となった機能だ。時速120キロまで対応速度を拡大したのは、新東名など一部の高速道路で最高速度の引き上げが検討されているため

機能の追加はソフトウェアの更新により実現したもので、カメラやコンピューターといったハードウェアの部分に変更はない。ちなみにスバルでは、今回の進化でアイサイトが「ver.4」にステップアップしたとは表現せず、あくまで「ver.3」の機能拡充だとしている。

実際の走行シーンで考える

実際に高速道路を走っていると仮定して、新型アイサイトにより可能になることを考えてみたい。まず、高い速度域で順調に走行している高速巡航時は、先行車がいなければ設定速度を守って車線中央付近を走行し、前にクルマがいれば設定した車間距離を守って追従する。

次に渋滞している場合だが、そんな時でもアイサイトは区画線と先行車両の両方を認識しているので、これらの情報を組み合わせてハンドル制御を行う。ノロノロ運転にも対応するし、先行車が止まれば自車も止まる。3秒以内に先行車が発進すれば、自車はアクセルを踏むなどの操作なしで自動的に発進し、また先行車を追従し始める。ただし、事故渋滞などで車線変更が必要になった場合は、自分で操作をする必要がある。

前のクルマが大型トラックで区画線が見えない場合や、そもそも区画線が消えてしまっているような場合であれば、アイサイトは先行車両を認識し、その軌跡をなぞるハンドル操作を自動で行ってくれる。

ドライバーは速度計の隣にあるディスプレイにより、アイサイトが先行車と区画線を捉えているかどうかを確認できる

現行のアイサイトver.3でも高速道路での運転支援機能は使えるわけだが、スバルの技術者の話によると、現行システムでは、対応できないシーンに差し掛かり、運転支援が終了してしまうケースが多いというユーザーからの声があったという。その点、ツーリングアシストが追加になれば、アイサイトが使える場面は確実に広がる。運転支援システムは使えてこその機能だと思うが、今回の進化はアイサイトの作動率を高めることにもつながりそうだ。

乗ってみて思ったこと

これは試乗してみての感想なのだが、新型アイサイトを搭載したクルマであれば、おそらく高速道路は、入る時と出る時だけ自分で操作すれば、あとはほとんどの場面でクルマに運転を任せられそうな印象を受けた。

今夏発売の「レヴォーグ」のプロトタイプ。このクルマに乗って新型アイサイトを試した

ハンドルには手を置いておく必要があったが、ペダルの操作も基本的には不要で、車線の中央をキープするための細かいハンドル操作もいらなかった。今回の試乗は、普通に高速道路を走る時と比べればかなり楽だったといえる。この機能をスバルは「自動運転」と呼んでいないが、乗っているクルマが自動で加減速し、ハンドルの操作まで行ってくれる感覚は、自動運転そのもののような気がした。

リアルワールドで使える技術であること

高速道路において、先行車を追従してクルマの自動制御を行うシステムは「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」と呼ばれ、日産自動車が「セレナ」と「エクストレイル」に搭載している「プロパイロット」が有名だし、欧州勢を含めた複数のメーカーにも用意がある。スバルはどこで差別化を図るのだろうか。同社が試乗会の説明で強調したのは、「リアルワールドで使える」ことと「(アイサイトが行う自動制御は)運転が上手い」ということだった。

スバルが自社計測データをもとに作成した他社との比較

いくら新規技術を搭載してあったところで、実際に使えなかったり、使えたとしても作動率が低かったりしたのでは恩恵に乏しい。スバルでは、アイサイトの機能をカタログ上で終わらせず、現実世界で実際に使ってもらえるものとすべく、渋滞などのケースでもシステムが途切れないように「ついていく技術」を進化させた。

運転が上手いとは、クルマ側が行う自動制御の精度が高いということだ。他のメーカーの機能を試したことがないので判断できないのだが、今回の試乗会で乗った新型レヴォーグのプロトタイプについていえば、自動制御の加速、減速、ステアリングはスムーズで、体が急に前後左右に揺さぶられるようなシーンもなかった。

これから全車標準装備へ

新型アイサイトは今夏発売のレヴォーグおよびWRX S4に全車標準装備し、その後はスバルの全車種で標準装備化を進めていくという。同社では「先進運転支援・安全装備は普及してこそ意味がある」との考えから、価格も低めに設定している。レヴォーグおよびWRX S4では、アイサイトの進化を含め複数の仕様を充実させるが、車両本体価格は現行モデル比で数万円程度の上昇に抑えるとのことだ。

今夏発売の「レヴォーグ」(左)と「WRX S4」

スバルが昨年10月に発売した「インプレッサ」と、今年5月に発売したSUV「XV」はアイサイトver.3に対応している。スバルによると、ツーリングアシスト機能の追加はソフトウェアの更新で可能とのことだったので、インプレッサなどの既存車種でも夏以降は新機能が追加になるのかと思ったのだが、このような変更には国の認可が必要だそうで、すぐに対応するのは難しいという。

インプレッサとXVを最近購入した人には少し残念かもしれないが、これらの車種では次のマイナーチェンジでアイサイトの進化が見られるだろう。レヴォーグおよびWRX S4でツーリングアシストが良い評判を獲得すれば、これからモデルチェンジを迎えるスバル車にとって、アイサイトの進化が大きなアピールポイントになるはずだ。

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。