"メジャーフルーツ"になれるか? 「国産ザクロ」の挑戦

2016.04.08

庭木でよく見かけるザクロ。赤い実を割ってみると真っ赤な粒がこれでもかと詰まっており、食べてみると甘酸っぱい。庭木ではそこらで見るのに、スーパーで売られているのは「カリフォルニア産」。そういえば、筆者は「国産ザクロ」を買ったことも食べたこともないと気づいた。

皮をむくと、中には赤い粒がつまっているザクロ。この粒々を食べる(写真:PIXTA)

ザクロという果物に対して、筆者のように「スーパーで買って食べる、甘くておいしい果物」というイメージを持っている人もいれば、「庭の木からもいで食べる、酸っぱくてカタイ種のある果物」というイメージを持つ人もいる。筆者のまわりでは、「庭の木になるんだからわざわざ買う必要なんてない」と認識している人も少なからずいた(ちなみに、こう述べたのは概して男性)。

スーパーで買って食べるザクロはアメリカやチリ産のもので、きちんと管理されて育ったものだ。ゆえに甘くておいしいし、見た目も立派。一方で、庭木からとれるザクロはあくまで樹や花を愛でるための園芸用であり、果実を売ろうとして栽培したわけでもない。残念ながら、日本国内にはザクロの果実を商業栽培している地域がほとんどなく、正確な統計もとられていないのが現状だ。

不遇のザクロ

「女性ホルモンであるエストロゲンが含まれている」。そんな謳い文句で一時期ザクロがブームになったが、2000年に国民生活センターがテストした結果、期待されるような成分は検出されなかった。ブームは去り、今でもジュースやザクロ酢は細々と売られているが、決してメジャーとはいえない存在だ。

今でこそ"マイナー果物"の地位に甘んじているザクロ。しかし、江戸時代には「甲斐八珍果」のひとつとされていた。甲斐八珍果とは、甲斐国の代表的な果物8種類「ぶどう」「なし」「桃」「柿」「栗」「りんご」「ざくろ」「ぎんなん(またはくるみ)」を総称したもの(山梨県のホームページより)。甲斐国の代表的な果物としてもてはやされていたのに、どうやら忘れ去られてしまったようだ。

スーパーで買えるのはアメリカやチリから輸入したもの。カリフォルニアの「ワンダフル種」という品種が主流だ。グラフはアメリカからのザクロ輸入動向。輸入量は増加傾向にある(米国ザクロ協会提供のデータをもとに作成)

そんなザクロの機能性に注目したのが森下仁丹だ。

森下仁丹は、ザクロ特有のポリフェノールを濃縮した独自の「ザクロエキス」が、タンパク質の糖による変性を抑制する抗糖化作用、ビフィズス菌の生存を維持させるプレバイオ作用、抗アレルギー作用、長寿遺伝子として知られるサーチュイン遺伝子活性化作用などを持つと明らかにし、有用性研究を進めている。どんな有用性かざっくりいうと、ザクロは美肌やアンチエイジングなどに効果があるかもしれないのだ。

ザクロの機能性を利用した商品化を通じて、日本国内でのザクロ栽培を商業化することも見据えている。その産地として、山梨県に白羽の矢が立ったというわけだ。これにより、農林水産省の補助事業「平成25年度 緑と水の環境技術革命プロジェクト事業(新技術の事業化実証)」に採択された。2015年3月をもって同プロジェクト自体はいったん終了したものの、これをキッカケに誕生したのが「ザクロ果実栽培・利用研究会」(以下、ザクロ研究会)なる組織だ。

ザクロの栽培・加工を研究中

森下仁丹のプロジェクトをキッカケに、ザクロ研究会が発足。会長はテクノ・サイエンスローカル事務所 代表の小宮山美弘氏、副会長は山梨大学 生命環境学部 教授の村松昇氏が務める。ザクロ研究会は、国内にザクロの集積栽培地を作ることが目標だ。国内でザクロをいかに栽培するかという栽培方法の研究、収穫したザクロをどのように消費者に届けるかという加工品研究などを進めている。

テクノ・サイエンスローカル事務所 代表の小宮山美弘氏

この試みが成功すれば、山梨県は日本初のザクロ産地となりうる。山梨といえばブドウや桃の産地として有名だが、村松氏によれば「全国的にみて降水量が少ない」「全国的にみて年間日照時間が長い」「水はけがよい」といった点がザクロの栽培にも適しているそうだ。ザクロは、ブドウや桃に比べて病害虫も少なく、管理作業も少なめ。こういったメリットも、新たな山梨県の特産果物として注目される理由のひとつだ。

何にせよ、国内で本格的に栽培されたことがないため、栽培マニュアルもない状態。カリフォルニアから輸入されているザクロのほとんどが「ワンダフル」という品種だが、ワンダフルが山梨の気候に合っているとは限らない。現在はさまざまな品種を試験的に栽培している状況だ。山梨大学生命環境学部附属小曲農場のほか、都留市、甲州市、富士川町の県内各地で試験栽培が行われている。

山梨に適した育て方を研究

試験栽培地のひとつ、山梨大学附属農場を訪れた。附属農場のほとんどでブドウが栽培されているなか、桃やスモモ、梅、ナシ、リンゴなどと並んでザクロも栽培されていた。山梨大学生命環境学部附属小曲農場ではワンダフルのほか、「水晶大実」「キング」「アークデニス」「スイートハニー」といった品種を育てている。庭木として植えられている従来品種に比べて、「果実が大きい」「種子が小さい(もしくは軟らかい)」「成熟しても果実が開裂しにくい」という理由でこれらの品種を選んだ。

附属農場のザクロはそろそろ3年生になるが、まだ実がなったことはない。村松氏は「今秋にはなんとか実ができるのでは」と予測。加工技術の検討などをしつつ、実がなるのを待っている。

筆者が訪れたのは3月下旬で、桃の花が5分咲きといった様子だった。「枯れているよう見た目ですが、実際にはこれから芽が出て6月頃には花が咲きます」と山梨大学 生命環境学部 教授の村松昇氏が教えてくれた
ビニールハウス内の苗はチマチマっと芽吹いていた
都留市で試験栽培しているザクロの花が咲いたところ。2015年6月撮影(提供:ザクロ研究会)

加工技術の研究も並行して行う。ザクロは果実のなかに可食部分である「アリル」(種衣)と呼ばれる赤い粒が詰まっている特殊な構造だ。ゆえに、ほかの果物の搾汁方法などを応用しにくい。果実のいちばん外側にある皮を除き、アリル部分のみを取り出して搾汁するのだが、アリル部分のみを取り出すのがなかなか大変な作業。手作業なので当然コストもかかる。山梨県内のザクロ約30kgをかき集めて実用レベルで果汁を試作したところ、全体経費の約70%をこのアリル取得作業が占めてしまったそうだ。

【左】ザクロ研究会でもイラン産の濃縮果汁を用いてワインや酢を試作したことはあったが、国産のザクロを用いて果汁を作るのはこれが初。搾汁自体はパルパーフィニッシャーという機械を使用(提供:ザクロ研究会)。【右】試作した果汁をいただいた。左がアメリカ産ザクロを用いた市販のジュース、右が山梨県産ザクロのジュース

試作した果汁をいただいたところ、生のザクロに近い味わいで香り高く甘かった。同時に飲んだアメリカ産ザクロを用いた市販ジュースに比べて、あまり酸っぱくない。加工方法が異なるので一概に比較できないが、個人的には試作果汁のほうがおいしいと感じた。色も試作果汁は淡いピンク色、市販ジュースはダークな赤色でかなり異なる。両者の色のちがいを、小宮山氏は「チェリーと似たような傾向」という。たしかに、市販ジュースはアメリカンチェリー、試作果汁はさくらんぼのような色合いだ。

課題は山積み、一方で可能性も大きい

冒頭から述べているとおり、日本国内でのザクロ栽培はほとんど実績がない。スーパーなどの店頭に並ぶカリフォルニア産ザクロはだいたいが500g前後と大きく、見た目もツヤっとしていて美しい。消費者好みのルックスというわけだ。

カリフォルニア産ザクロには見た目では及ばないが、カットフルーツ(アリルのみ)や果汁なら見た目はそこまで重要な要素にはならない(むしろ、購入者としても皮をむく手間が省ける)。あとはいかにコストを削減できるか、機能性をアピールできるか、といった点がカギとなりそうだ。

とはいっても、「実がならないことにはなんともいえない」(村松氏)。試験栽培が成功し、栽培マニュアルが整えば、本格的にザクロ栽培をスタートできる。店頭に国産ザクロが流通するには数年から数十年かかりそうだが、小宮山氏は「2020年までにはなんとか」と意欲をみせている。2020年の東京オリンピック開催時には、ふだんからザクロを食べている国や地域の人々が日本へやってくるからだ。

小宮山氏と村松氏は中国の泰安で開催された国際シンポジウムにも参加。一面がザクロ畑という、日本では考えられない光景にも出会ったそうだ。そのほか、トルコやイスラエルで栽培・生産が急激に伸びているなど注目度が高いと実感したという

ところで、「第7次ワインブーム」が2012年頃から始まり、今後も息長く続くとみられている。ブームが続いている理由のひとつが国産ワインの品質向上だ。小宮山氏は山梨県ワインセンター支所長などを務め、国産ワインの振興にも貢献した人物。ブドウの栽培技術や醸造技術が数十年かけて研究されてきたからこそ、国産ワインは現在の地位を獲得した。

日本におけるザクロ栽培も現在は"仕込み"の時期といえる。小宮山氏によれば、農家側の関心は低く、積極的に作ってみたいという声はまだあまり聞かないそうだ。しかし、ザクロはアリル部分だけでなく、皮や種子、葉も漢方薬や化粧品として使えるというコストパフォーマンスに優れた果物。特産品になれば花が咲くシーズン(しかも、初夏に比較的長く咲く)には観光需要も喚起できそうだ。今、まだ脚光を浴びていないのが逆にチャンスともいえる。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。