なぜ楽天は民泊事業に参入するのか

なぜ楽天は民泊事業に参入するのか

2017.06.24

楽天はLIFULLと共同で子会社を設立し、日本国内における民泊事業に参入する。Airbnbなどが人気を集める一方で、観光地では違法民泊も問題になる中、このタイミングで楽天が民泊事業に参入するのはなぜだろうか。

日本最大級の民泊サービスを目指す

楽天とLIFULLは共同で「楽天LIFULL STAY株式会社」を設立した。これは、6月9日に成立した「住宅宿泊事業法」(いわゆる民泊新法)を受けて設立された民泊サービスの専業会社だ(厳密には楽天とLIFULLが51:49の出資比率で設立した「RAKUTEN LIFULL PTE LTD」の完全子会社)。

同社は観光庁長官に住宅宿泊仲介業者としての登録を受けた上で、民泊を貸したい人と借りたい人を結びつけるプラットフォームを提供する。具体的には「Vacation Stay」(仮称)というサイトを設立し、そこを通じて各種サービスを提供することになる。具体的なサービスの開始は民泊新法が施行される来年1月以降を予定している。

左より、楽天の山田善久副社長執行役員と、楽天LIFULL STAYの太田宗克代表取締役社長、LIFULLの井上高志代表取締役社長

楽天の山田善久副社長執行役員によれば、現在日本各地では空き家の増加が社会問題化している。また同時に海外からの訪日外国人旅行客の増加により、宿泊施設不足が深刻化している。そこで空き家の有効利用手段として、民泊事業に脚光が当たるわけだ。

民泊市場の需要拡大に対応するとともに、特に地方部における空き家の活用とそれに伴う雇用の創出、外国人観光客に向けた宿泊需要への対応がキーポイントとされる

現状でもAirbnbなどの民泊サービスが訪日外国人を中心に人気を集めているが、法的にグレーゾーンな物件が多かったり、近隣住人との摩擦なども問題になっている。たとえば京都市は、2016年に同市を訪れた観光客のうち、およそ110万人が違法な民泊を利用しているという推計値を算出している。安全や衛生といった観点からも、違法民泊の撲滅は重要な課題なのだ。楽天LIFULL STAYは前述のように、住宅宿泊仲介業者として正規に登録される予定であり、発表会の席でも安全・安心を強調していた。当たり前のことではあるが、「合法・安全・安心」が楽天LIFULL STAYのサービスのキーワードということになるようだ。

今回の発表では盛んに「合法であること」と「安心であること」をアピールしていた。やはり民泊という業態自体に、素人が運営する怖さのようなマイナスイメージがまだ払拭しきれていない点はあるようだ

楽天とLIFULLの役割は?

今回の事業において、楽天とLIFULLにとってのメリットはどのようなものがあるだろうか。まず楽天は会員数9000万人という強力な顧客基盤を持っており、これを生かして楽天LIFULL STAYに顧客を紹介できる。楽天には楽天スーパーポイントによる経済圏があり、利用者は民泊の利用を通じてポイントを貯めたり利用できる。日本における民泊事業の利用者は93%が日本人によるものと言われており、楽天の巨大な顧客基盤の持つ影響力がいかんなく発揮されるだろう。海外のユーザーに対するアピールについては、海外の民泊事業者をパートナーにして、パートナーを介して紹介する手法を考慮しているとのことで、おそらく日本に進出していない民泊事業者と提携すると考えられる。

また、ネット上の旅行・宿泊事業において大きな影響力を発揮できる機会を得るとともに、ユーザーの行動データについても新たな知見を得ることになる。ご存知のとおり今後は行動データなどのビッグデータが重要な役割を果たすと言われており、そこに新たな要素を増やせるチャンスになるわけだ。

なお、楽天にはすでに「楽天トラベル」という旅行サービスもあるが、当面は連携は考えていないという。民泊事業は楽天経済圏において、空き家問題や宿泊経済の新たなスタイルを提案するという位置付けになるという。

一方のLIFULLは800万件以上という不動産・物件情報を保有しており、さらに不動産情報サービス「LIFULL HOMES」の加盟店舗は全国で2万4000件を超える。新規の物件開拓についても強力なネットワークがあるわけだ。仮に登録物件の5%が民泊へ転用されたとしても40万件の物件が現れることになる。Airbnbの場合、日本での物件数はおよそ5万件と言われており、いきなり数倍の規模で対抗できることになるわけだ。

また、民泊新法では、都道府県知事に届出をした住宅宿泊事業者が、年間180日を上限に民泊サービスを提供できるようになる。このとき事業者には衛生確保や騒音防止のための説明、苦情対応、宿泊者名簿の作成・備え付けなどが義務付けられる。貸す側の責任と準備の手間が増えたわけだ。個人で家や部屋を貸したいという人がいても、こうした義務が障壁になるケースも多いだろう。そこで楽天LIFULL STAYのような仲介業者が介在することで、単に民泊サービスの提供者と利用者のマッチングのみでなく、民泊を提供したい人への運用支援や代行といった活動も可能になるわけだ。

ライバルのいないうちにトップを目指す方針か

民泊新法の成立により、旅行・不動産業などが民泊事業への興味を示している。例えばウィークリーマンション大手のレオパレス21が民泊事業への参入を検討していると報道されている。またAirbnbやHome Awayといった既存の民泊・バケーションレンタル業も民泊新法の成立を歓迎するコメントを発表している。

しかし一方で、たとえばソフトバンクやLINE、あるいはグーグル、フェイスブックといった現行で楽天同様に大きなユーザー基盤を持つネット企業は、この分野にあまり積極的に参入してくる様子がない。強いて言えば、ソフトバンク系でYahoo! JAPAN傘下の一休.comに、古民家や町家などを丸ごと貸し出すバケーションレンタルがある程度だ。

もちろんこうした企業が今後半年の間に参入を表明する可能性がないわけではないが、強力なライバルが少なく、スタートダッシュで差をつけられるという事実は、楽天LIFULL STAYにとって有利に働くのではないだろうか。楽天とLIFULLの目論見通りに行けば、来年には数十万件の物件を抱えた民泊サービスが登場することになる。これにより既存の旅館業も含め、どのような影響が見られるのか、大変興味深い。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。