国内最大級の小売業が次に繰り出すM&Aとは?

国内最大級の小売業が次に繰り出すM&Aとは?

2016.04.12

あまりにも突然に訪れたセブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文会長兼CEOの辞任劇。同社は数多くのM&Aによって発展してきたが、どのような沿革をたどってきたのだろうか。M&A Online編集部がまとめた同社のM&Aについての記事で振り返ってみる。

セブン&アイ・ホールディングス<3382>は、2005年にセブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、デニーズジャパンの3社の株式移転によって、純粋持ち株会社として設立された。グループの年間売上高は6兆円、営業利益は3000億円を超える、言わずと知れた国内最大規模の小売業である。同社のM&Aを語るにおいて、1990年のイトーヨーカ堂による米国サウスランドとの関わりは避けて通れない。

※写真はイメージです

もともと“セブン・イレブン”の屋号は、米国サウスランドのものであった。イトーヨーカ堂は子会社であるセブン-イレブン・ジャパンを通じて日本でのエリア・フランチャイザーを務めていた、いわば分家と言うべき存在であった。そもそも分家になったのも、日本国内でのイトーヨーカ堂の出店に対する地元の中小・小売店の反発を抑えるために、大型店と中小・小売店が共存共栄を図るための業態として目を付けたのが始まりである。

そのような成り行きの分家が本家に対して救済買収を行ったのは、91年。当時、サウスランドは敵対的買収から逃れるための防戦買い資金を調達する目的で、利回りの高いジャンク債を大量に発行、買収防衛には成功したものの、ジャンク債の高金利で資金繰りに窮し、倒産の危機にひんした。その救済に乗り出したのが、日本での商標使用権を担保に多額の融資もしていたイトーヨーカ堂である。

イトーヨーカ堂はサウスランドの救済に名乗りを上げるが、サウスランドの再建のためには資金繰りの正常化が急務であった。ジャンク債の処理が焦点となるも、オーナーであるトンプソン一族が大株主にとどまったことで債権者の反発を招いて調整は難航した。最終的には、債権者に大幅に譲歩するかたちで新株・新社債とジャンク債を交換し、イトーヨーカ堂は当初の想定よりも多額の出費を強いられながらも買収を成功させる。

一連の騒動は、M&Aを拒んで疲弊した企業がM&Aによって救済されるという皮肉な筋書きではあるが、それは売り手のサウスランドから見た話だ。買い手のイトーヨーカ堂からみれば、M&Aは日本におけるセブンイレブンブランドの価値を守るためでもあった。

直近の売上高構成比率は、ここ10年米国で30%の伸び、日本は68%

セブン&アイ・ホールディングスの直近の売上高構成は、日本65%、北米33%、その他2%となっている。意外なことは、ここ10年、海外売上比率が低下していることである。もちろん、米国での売上高はここ10年で30%伸びており、その他地域(主に中国)も3.4倍に売り上げが伸びているのだが、ボリュームの大きい日本が68%とそれ以上のペースで伸びたため、海外売上高の割合が低下しているのだ。

所在地別売上高構成

セブン&アイ・ホールディングスの足元のM&Aは国内外での戦略は趣を異にする。 海外、とりわけ北米では、株式譲渡・事業譲渡いずれの場合にもM&Aでまとまった数の店舗を獲得することに主眼を置く。

一方、国内では既に知名度・店舗数ともに十分であり、フランチャイズという店舗展開の形態上、ほかのコンビニエンスストアチェーン本部をM&Aで取得する必然性は薄い。むしろ、他チェーンよりも高い平均日販を武器に、日販に劣る他チェーンの加盟店にフランチャイズ契約のくら替えを促すことで足りる。北米のように一括でコンビニエンスストア多店舗を獲得することよりも、より高級路線の百貨店や、認知度の高い専門店の獲得など、業態の多様性を志向したM&Aを展開する。

営業利益の94%は、コンビニ事業および金融関連事業で生み出す

経営破たんしたそごうと西武を傘下に持つミレニアムリテイリングを06年に野村プリンシパルインベストメントから買収し、百貨店事業に進出すると同時に国内の小売業で第一位となる。

07年にはいずれも専門店であるロフト、赤ちゃん本舗を相次いで子会社化。既存店舗との連携を図る。

これらの結果、ホールディングス発足時には外部売上高が3兆8957億円であったのに対し、15年2月期のそれは6兆389億円と55%伸びている。売上構成もコンビニエンスストア事業が52%から45%へ低下。イトーヨーカドーなどのスーパーストア事業も43%から33%まで低下し、代わって百貨店事業が0%から15%と一定の存在を示しており、売上構成の面ではM&Aの効果が出ている。

業態別売上高構成比率(2006年2月期)
業態別売上高構成比率(2015年2月期)

しかし、利益面からは別の世界が見える。

コンビニエンスストア事業が順調に利益を伸ばしているのに対し、百貨店事業と通信販売事業は低収益、もしくは赤字の状況である。営業利益構成比では10年前の85%から80%まで低下しているが、これは同時期に金融関連事業の営業利益構成比が7%から14%に上昇している影響が大きい。つまり、セブン&アイ・ホールディングスの営業利益の94%はコンビニ事業と金融関連事業でたたき出していることになる。買収した百貨店事業の利益構成比は2%ほどに過ぎない。

業態別営業利益推移

さて、経営戦略としてオムニチャンネルの構想を掲げた13年から同社のM&A攻勢は目覚ましい。

オムニチャンネルとは、リアル店舗とネット販売という違いだけでなく、コンビニと百貨店といった業態の違いも超えた、あらゆる販路をもシームレスに統合し、どのような販路でも顧客に同じ購買体験を提供することを趣旨としたものだ。

ここ最近のM&Aでは13年12月のニッセンホールディングスに対するTOBが起点となった。実店舗・ネット販売の双方で顧客との接点を広げる構想の中、EC(電子商取引)分野が補完されることになる。

ニッセンのTOBと時を同じくしてバーニーズ ジャパンの株式取得を行い、15年には完全子会社化。同ブランドにおける顧客ロイヤルティーの高さ、子会社のミレニアムリテイリングが営む百貨店事業との親和性の高さを買ったかたちであり、同時にオムニチャンネルに乗せる商品としての展開も視野に入れる。

14年1月にはFrancfranc(フランフラン)で知られるインテリア雑貨店バルスの株式を48.67%取得している。

また、セブン&アイ・ホールディングスは1号店を東京都・千住で開店したヨーカ堂がルーツであることから、歴史的に関東地区に強く、地域によっては強みが十分に発揮できていない。それを補完するために、有力な地場スーパーへの資本参加も行っている。11年に近鉄子会社の近商ストアに30%出資(後に資本提携解消)、13年7月に北海道帯広に本拠地を置くダイイチに30%出資、13年12月に岡山と広島に店舗を持つ天満屋ストアに20%出資している。これらは自社店舗網が薄い地域の補完効果を持つものと期待される。

小売業に徹したM&A戦略。次に描く業態は何か

セブン&アイ・ホールディングスによる買収は、一貫して小売業をターゲットとし、その中でポートフォリオを描いている。コンビニ、スーパーを軸とし、百貨店、専門店から通信販売と多様な業態を持つセブン&アイ・ホールディングスであるが、ドラッグストアなど、まだ傘下にはない業態もある。01年に新規参入した銀行業など、金融関連も小売業を補完する位置づけとしてM&Aのチャンスがありそうだ。特にインターネットが普及したことで小売業と金融業の垣根は低くなっている。オムニチャンネルを推進していくにあたり、同社のM&A戦略を占うには「何が足りないか」がカギを握るだろう。

(M&A Online編集部のサイトで記事を読む)

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

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「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

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2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。