課題山積の物流業界、ロボネコヤマトは救世主となれるか

課題山積の物流業界、ロボネコヤマトは救世主となれるか

2017.05.02

DeNAとヤマト運輸が2016年に共同発表した「ロボネコヤマト」。その実証実験が神奈川県藤沢市で始まった。物流業界の労働環境悪化が問題視されている中、最終的には自動運転を目指すというこの取り組みは効果があるのだろうか。実証実験の様子を見ながら考えた。

藤沢市で実証実験が始まったロボネコヤマト

1年前の共同発表を具現化

ロボネコヤマト。まずはそのネーミングに感心した。2016年7月、IT企業DeNAと物流大手ヤマト運輸の共同発表で公にされたプロジェクトの名前だ。

ロボネコヤマトは2つのサービスを核とする。その1つは、共働き夫婦やひとり暮らしの人を主な対象とし、希望する時間や場所での荷物の受け取りを可能とするオンデマンド配送サービス。もう1つは、小さな子供がいる家庭や高齢者などに向けて、地域商店の商品をインターネット上で販売・宅配する買い物代行サービスだ。

昨年の発表会で登壇したヤマト運輸代表取締役社長の長尾裕氏は、「集配スタッフの削減が自動運転技術導入の目的ではない。敷居が高いと思われていたトラック運転手のハードルを下げ、女性や高齢者などが気軽に働けるようにするのが狙い」と説明した。

一方、DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏は、「車両側の技術は当社が担当するが、システムについてはヤマト運輸も豊富なノウハウを持っているので、両社で協力しながら構築していきたい」とその場で語っていた。

この時点で両社は、実証実験を2017年春から1年間実施する予定と表明していた。それが藤沢市の実験だ。実証実験開始にあたってDeNAでは、期間中の2018年をめどに一部の配送区間で自動運転を導入するとしているが、これも昨年の共同発表時に明らかにされていたことである。

2種類のサービスを検証

実証実験で使用するのは、日産自動車の小型商用電気自動車「e-NV200」だ。日産とDeNAは2017年1月、自動運転分野での提携を発表している。日産が自動運転車両を提供し、DeNAが新たな交通サービスのプラットフォームを開発するという内容で、2017年に日産の自動運転車両を用いた実証実験を日本国内で開始するとアナウンスしていた。ロボネコヤマトもその1つと見てよいだろう。

車内には保管ボックスが設置してあり、ドライバーは荷物の発送・受け取りには関与せず、配達を頼んだユーザーが自分で荷物を取り出す。つまり走る宅配ボックスだ。スマートフォンで荷物を受け取る場所と時間帯を指定できる「ロボネコデリバリー」と、地元商店の商品をネット上で一括購入して運んでもらう「ロボネコストア」の2種類のサービスを利用できる。

スマホで「ロボネコストア」を利用している画面。左の写真のように、受け取り場所を指定することができる

実証実験の対象エリアは、藤沢市鵠沼海岸1~7丁目、辻堂東海岸1~4丁目、本鵠沼1~5丁目。藤沢市の中でも海に近い地域だ。DeNAは昨年、自動運転技術開発企業ZMPとの合弁事業である「ロボットタクシー」の実証実験をここで行っている。その後も藤沢市とのつながりは続いていたのだろう。

今年1月、DeNAは日産との提携発表と同時に、ZMPとの提携を解消することを発表している。日本人から見ると冷徹な判断だと思うかもしれないが、パートナーを次々に変えつつ、多方面に進出するのはグーグルやインテルも行っていることで、これがIT流と言えるかもしれない。

実験開始は両社にとってグッドタイミング?

物流の世界では今、ドライバーの過酷な労働環境が問題になっている。業界最大手でもあるヤマト運輸では今年2月、労働組合が今年の春闘で荷物の取り扱いを抑える要求を行うと発表。賃下げにもつながる取扱量低下を組合側が求めるという異例の事態になった。

これを受けて経営側は、宅急便の基本運賃を27年ぶりに値上げすると発表。さらに、インターネット通販大手のアマゾンをはじめ、大口の法人客約1000社との間でも値上げ交渉を進め、取扱荷物量を減らすことで労働環境改善を目指していくという。

しかし、ロボネコヤマトの実証実験は、この問題を受けて始まったわけではない。昨年7月にDeNAとの共同発表を行ったことで分かるように、ドライバー問題が表面化する昨年秋より前から、同社はこの問題を深刻に受け止め、問題解決のための手段をいろいろと考えていたのだ。ロボネコヤマトはその1つと見ることができる。

“走る宅配ボックス”は物流業界の課題解決につながるか

一方のDeNAは、多くの方がご存知のように、昨年秋に同社が運営していたまとめサイトで問題のある記事や画像が大量に見つかり、10カテゴリーあったまとめサイトすべてを休止するという事態に追い込まれた。同社にとっての損害はかなりのレベルに上ると思われる。

しかし、DeNAもヤマト運輸と同じように、2年前から自動運転の分野に積極的に取り組んでおり、ロボットタクシーやロボネコヤマト以外にも、昨年からはフランス製無人運転小型バス「イージーマイルEZ10」を全国各地で実験走行させて経験を積んでいる。

ロボネコヤマトの実証実験がこの時期にスタートしたのは、ヤマト運輸、DeNA両社の状況を考えると、とてもタイミングが良いと感じる。でも前述したように、両社はこの時期を狙っていたわけではなく、昨年時点で、2017年春から1年間の実証実験を予定していた。予定どおりの動きだったのである。

自動運転の実用化もスケジュールどおりか

今後ロボネコヤマトは、オペレーターを乗せた自動運転(SAEなどが定義するレベル3)の試験サービスを始めながら、ビジネスモデルの検討を行い、2020年頃には無人運転(同レベル4)のサービスを目指すという。

今回の実証実験が予定どおりであったことを考えると、今後もこのスケジュール通りに進むことが考えられるし、そうなれば物流問題は解決の方向に向かうことが予想される。両社の物流改革にこれからも期待したい。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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