六本木ステーキ戦争の号砲? ウルフギャングがバーガーで攻める真意

六本木ステーキ戦争の号砲? ウルフギャングがバーガーで攻める真意

2017.05.12

“高級”なイメージのウルフギャング・ステーキハウスが、ハンバーガーの品揃えを強化している。その狙いは新たなタッチポイントの創出か、ランチタイムの集客か。あるいは、六本木を舞台に近く勃発する“老舗ステーキハウス代理戦争”への布石なのか。

ウルフギャングがハンバーガーに注力?

ハンバーガーが新規顧客とのタッチポイントに?

5月11日から6月30日まで、ウルフギャングが国内4店舗(六本木店、丸の内店、大阪店、福岡店)で展開するキャンペーン「ウルフギャング・バーガーマンス」。ハンバーガーの本場である米国では5月を「ナショナル・ハンバーガー・マンス」と呼ぶそうで、これを日本でも楽しんでもらおうという趣向だ。

ウルフギャングでは普段も、ランチタイムに「プライムビーフ100% クラシックバーガー」を提供しているが、バーガーマンスでは、ウルフギャングの米国内の所在地(ニューヨーク、ワイキキ、マイアミ、ビバリーヒルズ)をイメージした4種類の商品と、各店舗限定メニュー1種類を加えた計6種類のハンバーガーを用意する。

気になる価格帯だが、例えばワイキキ店をイメージした「ロコモコ風ベイクドライスバーガー」は1600円。最高額の六本木店限定メニュー「ドライエイジド ステーキバーガー」でも2800円といった感じだ。期間中、レギュラーメニューであるクラシックバーガーは通常1800円のところを1200円で提供する。

「ロコモコ風」は左上、「ドライエイジド」は下部中央、レギュラーメニューの「クラシック」は右上だ

ちなみに、2人分のステーキメニュー「STEAK FOR TWO」は1万6000円という設定なので、ウルフギャングに行ってみたい人にとって、ハンバーガーがいかに敷居が低いメニューであるかは分かってもらえると思う。念のためだが、上記の価格は消費税とサービス料10%を抜いたものだ。

ウルフギャングがハンバーガーに取り組む理由は、日本で過熱するグルメバーガー戦争に参戦する目的か。あるいはランチタイムの集客であったり、敷居が高いというウルフギャングのイメージを払拭するための施策なのか。そういった狙いの部分を探る前に、まずはハンバーガーを実食した感想から始めたい。

食べれば分かる異次元のバーガー

バーガーマンスに先立つ試食会で、ステーキハウスのハンバーガーがいかなるものなのか、実際に感じることができた。

試食会で目の前に現れたプレートに、ボリューム感満点の「ベーコン&チーズバーガー」が。ハンバーガーと呼ぶにはいささか失礼な大きさと内容に、正直打ちのめされた

“ニューヨークスタイル”と名付けられたベーコン&チーズバーガーはまさに圧巻。見事に存在を主張する厚切りベーコンと、とろけたチーズを身にまとった280グラムの100%ビーフパティは、今までの常識を超えた食べ物として存在感を放っている。ベーコンなどは、単品だけでも十分な味わいと食感を誇示する感じだ。

バーガーの上半分は、バンズと大きめのレタス、そしてこいつも存在を誇示するスライストマト。どのパーツも、重厚なビーフパティの厚さとうまみに負けないボリュームを感じる。よく見るハンバーガー仕様に上下のバンズを重ねると、サイズは自身のこぶしを大きく上回り、とても一口には収まりきらないという感じだ。

何とか頑張って両手に取り、バンズを重ねて口にほおばると、それぞれの味わいがきちんと主張しながら、おいしさの波状攻撃を挑んでくるようだ。280グラムのビーフパティは、未体験の価値を持っている存在。これがランチタイム限定とはいえ、ウルフギャング品質を保持したまま顧客に届けられる。

ステーキがはみだす「ドライエイジド ステーキバーガー」

試食会のあった丸の内店の界隈で、ハンバーグランチや同レベルの定食を頼もうとしたら、この価格帯で提供できる店は少ないだろうと感じた。ちまたで人気のグルメバーガー勢に対しても、十分に勝ち目のある味わいと価格妥当性を持っている。

グルメバーガー戦争に、肉を主軸とする新たなプレイヤーが参入したら、勢力図にどのような影響がでるのだろうか。そもそもウルフギャングに、バーガー戦争で覇権を争う意図はあるのか。ウルフギャング・ステーキハウス・ジャパンでセールス&マーケティング ディレクターを務める小林哲也氏に、そのあたりを含めて話を聞いた。

とにかく1度、来てもらうための戦略

「今回のバーガーマンスはバーガー戦争への参戦ではなく、ウルフギャングのイメージを変えたいという意図があります」。小林氏は言葉を続ける。

「(ウルフギャングは)老舗ステーキハウスというよりは、高級ステーキハウスという面が定着してしまった感があります。ステーキハウスはやはりディナーがメイン。『昼間からステーキ?』というお客様のために、従来からクラシックバーガーを提供していますが、敷居が高いという印象があるためか、昼の客数は決して多くありません。もっとウルフギャングをフレンドリーに感じてほしいと思います。ランチタイムに来店いただければ、イメージが変わるはずです」

丸の内店の外観

確かに、ウルフギャングといえば「老舗のステーキハウス」というよりは「高級レストラン」というイメージが定着している。気軽に入れる、身近なレストランと考えている顧客は多くないのではないだろうか。実際に来店する前に、ハードルを感じてしまっている潜在顧客もいそうだ。ハンバーガーという新たなタッチポイントは、「まずは1度、お気軽にお越しください」というウルフギャングからの招待状と考えることもできる。

高いのには理由がある

ウルフギャングが“高級”になってしまっているのも、店側が意図してのことではない。高価格の背景には強烈な肉へのこだわりがある。

「(日本の)4店舗で計10トンくらいを米国から空輸し、ドライエイジング(熟成)させており、フローズン(冷凍)はしていません。特に、本土でプライムグレード(最上級)の肉が発生しやすい肉処理場から持ってきた肉を使用します。米国全体でも2%くらいしか存在しない肉とも呼ばれています。それしか使いません」

丸の内店の店内の様子

高いレストランと称されるのも、売り物の肉に輸送コスト(送料)や日本の輸入関税(現在約38.5%)などが上乗せされているためなのだ。品質に妥協しないから、自然と価格が上がってしまう。

高級レストランというイメージからの脱却。これがバーガーマンスを仕掛ける意図のようなのだが、ウルフギャングのハンバーガー攻勢には、もう1つの見方がありそうだ。それは、“六本木・老舗ステーキハウス代理戦争”の号砲という側面である。

続々と上陸する同門ステーキハウス

今回の仕掛けは、ウルフギャングとして新たな顧客との関係を作りたいとの戦略にのっとったものだが、もう1つ、隠された狙いがある。実はバーガーマンスは、近く勃発が見込まれる六本木でのステーキハウス戦争に向けた布石なのだ。

ウルフギャングはニューヨークの老舗ステーキハウス「ピーター・ルーガー(Peter Luger)」をルーツとし、六本木には3年前に上陸した。その六本木に、同じくピーター・ルーガーの流れを汲む「ベンジャミン・ステーキハウス(BENJAMIN STEAK HOUSE)」が2017年6月に上陸する。同年秋には、同じくピーター・ルーガー流派の「エンパイア・ステーキハウス(Empire Steak House)」が店を構える見通し。つまり六本木で、ニューヨークを拠点とする同門ステーキハウスの代理戦争が始まるのだ。

3年前に六本木に進出したウルフギャングは、先行者利益を享受できる立場にある。六本木・ステーキ戦争が勃発する前のタイミングで、なるべく多くの顧客と接点を作っておくため、同店としては手頃なバーガーをランチタイムに設定することを考えた、というのがバーガーマンスのもう1つの狙いだ。

外食業界の競合に新機軸

外食産業における「先行チェーンVS新興勢力」という従来の構図は、どちらかといえば価格戦略の面に注目が集まることが多かったという印象だ。しかし、ウルフギャングは先駆者としての地の利を生かしつつ、自らの素材と価格、そして高級路線ではない新たなブランド戦略のもと、新興勢力を迎えようとしている。

外食業界で「戦争」と名のつく争いは、最終的に価格競争に突入し、結果として品質が下がり、消費者の選択肢から外れていくという事例が多かった。新しいスタイルの戦争は、まさに作り手と消費者の双方が得をする競争であってほしい。その点、ウルフギャングは、消費者が認める価値を維持した状態で、競合他社の上陸を迎え撃とうとしているので頼もしい。同門ステーキハウス同士が切磋琢磨すれば、六本木が“ステーキの聖地”となる可能性もある。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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