巨大メーカー パナソニック - 見えてきた100周年の到達点

巨大メーカー パナソニック - 見えてきた100周年の到達点

2017.05.12

「2017年度の増収増益については、強い手応えを感じている。2018年度の経営目標の達成に向けて取り組む」――。

2017年5月11日に行われたパナソニックの経営方針説明で、同社の津賀一宏社長は、創業100周年を迎える2018年度に向けた成長を約束した。

会見で経営方針を説明するパナソニックの津賀一宏社長

意思のある減益となったか?

この日発表した2016年度連結業績は、売上高は前年比3.7%減の7兆3,437億円、営業利益は20.2%増の2,767億円、税引前利益は20.9%増の2,750億円、当期純利益は9.6%減の1,493億円。「為替影響を除く実質ベースでは売上げは増収」(同)と、「実質増収」を強調。最終利益の減収についても、「高成長事業に先行投資を行ったため」と説明する。成長戦略に対するブレーキがかかったとの見方もされた2016年度だが、あくまでも「実質成長」と「意思のある減益」を強調し、そうした見方を払拭してみせた。

さらに、2017年度は、すべての事業区分において、実質ベースでの増収を達成する見通しを打ち出し、「増収による増益の達成」を目指す方針を打ち出した。2016年度までの仕込みをベースに、2017年度は再び成長戦略を踏み出すというのが基本姿勢だ。

「選択と集中」進めるパナソニック

パナソニックでは、事業区分を3つに分類している。

売上げ、利益成長の牽引役と位置づけ、大規模投資などの経営リソースを集中する「高成長事業」、競争力を活かして、着実に利益を創出し、高成長事業への投資原資を生み出す「安定成長事業」、事業の転地や固定費削減、合理化などにより徹底的に収益改善に取り組む「収益改善事業」の3つだ。

高成長事業では、車載電池やインフォテイメントのほか、フィコサの新規連結など、車載関連事業が牽引し、大きく増益に見通しであるのに加え、安定成長事業は、白物家電、配線器具などが収益性向上により増益に貢献。収益改善事業でも、テレビ・AV関連事業での経営体質強化により、増益を目指すという。

「2017年度は、高成長事業の増販益が大きく拡大するとともに、安定成長、収益改善事業において収益性が良化することによって、増収による増益の達成を目指す」と宣言した。

2017年度成功のカギは車載事業の促進

なかでも、2017年度の成長戦略を牽引するのが、車載事業である。

津賀社長も、「車載を中心とした高成長事業が全体の増収を牽引する」と自信をみせ、「車載事業は、2014年以降、積極的に取り組んできたが、それが、2017年後半から目に見える形で成長が見込め、2017年から複数の大型案件の納入を順次開始する」と語る。

津賀社長は、約10年前に、オートモーティブ事業の責任者をつとめていたが、その時点で、クルマの電子化、電動化の時代が到来することを見据えて、テレビなどのデジタル家電技術のリソースを車載向けにシフト。さらに、三洋電機買収によって得た電池やデバイス技術も集約して、オールパナソニックで、車載事業の成長戦略を推進してきた経緯がある。

この成長事業領域を熟知する津賀社長は自信をみせながら、「今後も、EVなどの環境対応車の普及や、自動運転技術の急速な進化などによる電子化、電動化に向けた動きが加速するなか、パナソニックの強みを生かせる分野に集中しながら、さらなる成長を実現させる」と意気込む。

大型案件としては、ジャガーレンジローバー向けに、ディスプレイやヘッドアップディスプレイの納入を開始したことを明らかにしてみせた。

さらに、車載事業では、これらのインフォテインメントとともに、車載用電池がもうひとつの成長の柱となる。

「これまでの電池事業はノートPCや携帯電話向けなどのモバイル向けだったが、このリソースを車載用にシフトしている。現在は、日本と中国で生産しているが、今年は米テスラのギガファクトリーでの生産が本格化する。これにより、本数、金額ともに北米での生産が最も多くなる」とする。現在、テスラに納入している電池も日本および中国で生産したものだ。テスラとの協業が、パナソニックの車載用電池事業の成長を大きくドライブすることになる。

「車載事業では、着実な成果が出ており、2018年度には車載事業の売上高で2兆円が視野に入ってきた」と、2016年度実績の1兆3000億円から、この2年で、売上高を1.5倍にまで引き上げる考えも示す。

「社内では2020年以降の売上げ目標も設定しているが、右肩上がりの数字となっており、継続的に伸ばすことができると考えている」と、この分野では強気の姿勢を崩さない。だが、いくつかの不安材料があるのも事実だ。

テスラへの依存高く、懸念も

ひとつは、成長戦略において、テスラへの依存が大きいということだ。

とくに、車載電池では、テスラのギガファクトリー向けに大型投資を進めており、この進捗が車載電池事業の成長を左右することになる。

もちろん、テスラ以外との協業も模索している。

だが、津賀社長は、「欧州の自動車メーカー向けには、欧州に電池工場が必要だが、信頼できる自動車メーカーと“握る”ことができるかが重要である。そうでなければ投資はできない。現在、欧州の自動車メーカーの要望を聞いているところであるが、他の地域で生産したものを持ってくるのか、ある一定の期間までは他社から調達してもらうのかといった様々なケースを想定している。仮に、大規模な電池工場に投資をするのであれば、2020年以降のことになる」とし、テスラ以外との協業成果は、先の話になる。少なくとも、2018年度までの成長戦略は、テスラとの協業が左右する体質は変わらない。

テスラの影響は、車載用電池だけではない。2016年度は赤字に陥り、収益改善事業に位置づけられているソーラーも、テスラとの協業が回復の鍵になる。

「ソーラーは、国内の市場において引き続き厳しい状況が続くことから、海外での成長を目指すことになる。アンカーなどの海外子会社の販路活用に加えて、2016年12月に発表したテスラとの米バッファロー工場での生産開始の協業などに取り組む」とする。

パナソニックは、2016年度に海外で100MWの出荷を計画していたが、テスラの米バッファロー工場では2019年までに年間1GWの規模を目指しており、まさに「桁が変わる」規模の生産を目指す。

津賀社長は、「ソーラーはテスラ以外からも引き合いがあるが、我々のリソースの問題がある。今年はバッファロー工場の立ち上げに、全面的にリソースを割くことになる」と、ここでも2018年度までの成長戦略では、テスラとの協業が鍵になる。

言い換えれば、テスラがくしゃみをすれば、パナソニックの成長事業は、大きな転換を余儀なくされる可能性を含んでいるともいえるのだ。

成長事業に急ブレーキ

2つめが、これまでの成長を牽引してきたアビオニクス(航空機内AVシステム)関連事業に急ブレーキがかかった点だ。

アビオニクス事業を中心とするAVCネットワークス(2017年度からはコネクテッドソリューションズに名称を変更)のソリューション事業は、2016年度実績では、前年度の特需からの反動もあり、売上高は前年比9%減の4689億円と減収になった。

もともと津賀社長は、「事業部基軸の経営のなかで、事業部を代表し、象徴し、他の事業部を引っ張る存在」とアビオニクス事業を位置づけていたが、「アビオニクスの主力事業となるインフライトエンターテインメントシステムは、すでに市場が成熟していると判断し、2017年度からは、高成長事業から、安定成長事業に位置づける」と、格下げした。

さらに、米国子会社であるパナソニックアビオニクスのアビオニクス事業に関して、米国司法省および米国証券取引委員会から、連邦海外腐敗行為防止法および米国証券関連法に基づく調査を受けており、2016年度決算でも、アビオニクス事業に対する米国政府当局調査関連の引当金を計上。これがAVCネットワークスの減益要因のひとつになっている。

「米当局と協議中であり、今回の引当金は合理的にできたと考えている。だが、これはすべての処理が終わったとか、事実を認めたというものではない」と津賀社長はコメント。今後も、米当局との協議は継続され、事業に対する影響がどんな形で表れるのかも気になるところだ。いずれにしろ、成長の柱のひとつが欠けたという事実は否めない。

2018年度 売上高8兆8000億円達成へポイント

そして、最後に、2018年度の計画達成に向けて、気になる数字があるという点だ。

それは、2018年度の目標に掲げた売上高の8兆8000億円だ。2016年3月に、10兆円という目標を撤回し、8兆8000億円に引き下げたが、それでも、今回発表された2017年度の売上高目標が7兆8000億円であり、逆算すれば、2018年度には、1兆円の上乗せが必要になる。2017年度も約5000億円の上乗せを計画するという意欲的な数字だが、さらに、2018年度はその2倍の上乗せを見込むことになる。

ポイントはいくつかある。ひとつはやはり車載事業だ。

今回の会見では、2017年度の車載事業の目標を明確には示していないが、2016年度の1兆3000億円を、2018年度には2兆円へと引き上げる計画にあてはめれば、この2年間の全社増収計画の約1兆4500億円のうち、約半分の7000億円を、車載事業の成長でカバーしようとしていることがわかる。これを左右するのが、先に触れたテスラとの協業ということになる。

もうひとつは、買収した企業の連結による非連続での成長だ。

パナソニックは、1兆円の戦略投資を設定。これまでに、二次電池への設備投資や、フィコサのM&Aなどに、約4000億円を投資。今後は、車載電池工場への設備投資などを中心として、約4000億円の意思決定を完了。「現時点での候補案件を含めると、総額は1兆円を超えているが、優先順位をつけて、メリハリのある投資を実行していく」(津賀社長)とする。これらの投資案件が、意欲的な売上高の拡大にどう寄与するのかが注目点になる。その点で、今後、パナソニックが、2年間で1兆5000億円の売り上げを上乗せする計画の詳細を明確に示す必要があるといえるだろう。

津賀社長は、会見において、「2018年度の経営目標は堅持し、経営目標達成に向けてグループ一丸となって取り組んでいく」と宣言したものの、そこで示した数値は、営業利益4500億円と、純利益2500億円以上の2つだけ。8兆8000億円という数値については、スライドにも示さず、言及もしなかった。8兆8000億円という数値は、果たして、津賀社長には遠い数値に見えているのか、それとも射程距離なのだろうか。

2016年度の「実質増収」、そして、2017年度の「増収増益」を経て、創業100周年を迎える2018年度には、パナソニックはどんな姿になるのだろうか。今回の会見で打ち出した成長戦略を形にできるかが注目される。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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