VR元年に沸く印刷業界? 新規事業で競う大手2社の狙いとは

VR元年に沸く印刷業界? 新規事業で競う大手2社の狙いとは

2016.04.14

コンシューマー向けHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のラインナップが充実しつつあり、VR(仮想現実)元年になるともいわれる2016年。大日本印刷はVRコンテンツと紙製ゴーグルを併せて提供するサービスを開始し、同事業で先行する凸版印刷を追いかける体勢に入った。紙製ゴーグルの受注競争が始まるのかと思いきや、意外にも両社が自信を示しているのは「コンテンツ制作」の部分だ。印刷会社が目指すVR事業の方向性を探った。

凸版印刷の「VRscope」(ヴィアールスコープ)と大日本印刷の「DNPカートンVRスマートフォンシアター」。スマートフォンを装着できる紙製のゴーグルと、スマートフォンに配信するVR映像・動画を一括して制作・提供するサービスだ。

用途はイベント、販促、観光、住宅の内見などを想定。用途に合わせてゴーグルにプリントを施すことができるのは印刷会社ならではの特徴といえるだろう。先行して同事業を始めた凸版印刷に話を聞くと、サービスイン後の受注状況は好調な様子。海外でも引き合いがあるという。

凸版印刷の紙製ゴーグル。没入感の高いボックス型(写真左上)と簡易タイプのカード型(写真右上)の2種類を用意している。写真下は組み立て前のボックス型だ

コンテンツありきのVR事業

一見すると両社のサービスは似通っているが、凸版印刷に1年遅れて同事業に乗り出した大日本印刷の狙いはどの辺りにあるのだろうか。同社出版メディア事業部事業企画開発本部兼国際本部で本部長を務める若林尚樹氏に聞くと、「VRに『参入した』というのは我々(の考え)にそぐわない。コンテンツを扱っているというのが前提で、VRは1つの表現手段と捉えている」との答えが返ってきた。

表現手段を時代に合わせて拡充してきた大日本印刷が、VRコンテンツ+紙製ゴーグル事業を始めたのも不思議ではない。同社としては、VR市場の盛り上がりを見て反応したわけでも、凸版印刷の動きに合わせて同様のサービスを始めたわけでもないということなのだろう。

VRに落とし込む印刷会社ならではの知見

VRコンテンツには印刷会社ならではのノウハウが活用可能だ。視線誘導などについて研究する大日本印刷C&I事業部コンサルティング本部IM&Sコンサルティング室の久永一郎室長によれば、印刷物の“見せ方”に関する知見はVR動画にもいかせるという。

VRコンテンツを観る場合であっても、HMDを装着した人が必ずしも周囲を見回すとは限らない。そのため、VRコンテンツには観る人が視線を動かしたくなるような仕掛けが必要になる。雑誌やカタログの印刷を手掛ける過程で、読み手の視線に関する研究を続けてきた印刷会社には、VRコンテンツにも落とし込むことが可能な知見が蓄積しているようだ。

フランス国立図書館の依頼を受けて、古い天球儀(写真左)や地球儀などの3Dデジタルデータ化を行った大日本印刷。このデータとVR技術を組み合わせ、「天球儀を内部から鑑賞できる」コンテンツを制作した。DNP五反田ビルで開催中の「体感する地球儀・天球儀展」(会期は2016年9月4日まで)で鑑賞することができる(写真右:©Photo DNP)

高精細CGの研究でたどりついた可視化の技術

コンテンツの見せ方に関する技術開発を進めてきた印刷2強が、VRの研究に着手したのは1990年代のこと。印刷業界でデジタル化が急速に進展するなか、高精細CG技術の研究開発が進み、「見えないものの可視化に(同技術が)使えるのではと考えた」と回想するのは、凸版印刷情報コミュニケーション事業本部トッパンアイデアセンター先端表現技術開発本部の鈴木高志本部長だ。

VRであれば、普段は入れない場所や、まだ完成していない建物などを視覚的に表現(可視化)できる。その可能性に印刷会社が着目した。ここで気になるのは、VR事業において印刷2強がいかに差別化を図っていくかだ。

両社の強みは

VRコンテンツ+紙製ゴーグル事業で一日の長がある凸版印刷の強みは、やはりVRコンテンツに関する実績の豊富さだろう。VRscopeの導入事例としては、キリンビール岡山工場向けに工場見学ツールとして提供した実績などが挙げられる。

キリンビール向けにプリントを施したゴーグル(画像提供:キリンビール株式会社/凸版印刷株式会社)
「キリン一番搾り生ビール」の視点で工場のラインを流れていくVR動画を凸版印刷が制作した(画像提供:キリンビール株式会社/凸版印刷株式会社)

大日本印刷の強みとして見逃せないのは、VRコンテンツの展開先となる書店をグループ内に持っている点だ。例えば出版社と組んで、紙製スコープとVR動画を用いた出版物の販促イベントを仕掛ける場合、大日本印刷はコンテンツを実際に見せる場所(書店)を考慮に入れたうえで、企画段階から出版社と策を練ることができる。凸版印刷も企画から配信までの「ワンストップサービス」を展開しているが、コンテンツの出口となる書店に影響力を行使できるのは大日本印刷ならではの特徴だ。

VR事業の成長余地は未知数

印刷2強がVRに取り組む背景には、印刷市場の縮小を受けて、事業の多角化を図りたいという両社共通の思いがある。

ゴーグル+VRコンテンツ事業の売上目標として、大日本印刷は2018年度に20億円、凸版印刷は2017年度に10億円という金額を打ち出している。連結売上高で1.5兆円規模(2014年度実績)の両社にとっては取るに足りない規模に見えるが、VR市場は2025年までに800億ドル規模まで拡大するとの見方もあり、将来的な成長余地は未知数だ。大日本印刷の参入について凸版印刷の鈴木氏は、「市場が活性化するのはいいこと」と歓迎の意を示す。

問われるのはコンテンツ制作の力

VR市場の拡大を見越して参入した両社だが、VRが一般化するシナリオを考えた場合、両社の事業で気がかりなのは紙製ゴーグルの売れ行きだろう。お手軽な紙製ゴーグルはVRの入門用として最適だが、ハイエンドなVR用HMDが社会に行き渡ってしまえば、紙製ゴーグルの展開先はおのずと限定的になり、需要も縮小しそうだからだ。

そこで問われるのが、VRコンテンツの制作者としての両社の力だ。紙製ゴーグルが売れなくなったとしても、コンテンツの制作能力が際立っていれば両社はVR市場で存在感を発揮できる。そもそも印刷会社の取引先は、何らかの形で自社の製品やサービスを世の中に打ち出したい企業が多いはず。VRという新たな表現手段を獲得したことで、既存の取引先から新たな仕事が舞い込む可能性もある。

印刷会社と関わりが深く、VRを用いた販促に適していそうなのが出版社だ。VRの導入モデルとして分かりやすいのは、雑誌の付録として紙製ゴーグルを展開する方法。例えばファッション雑誌の付録に紙製ゴーグルを付けて、そのゴーグルでファッションショーのVR動画を見せるといったような企画が考えられる。漫画雑誌のプロモーションでもVRは選択肢の1つとなりそうだ。

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2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。