シマノ参戦でパイオニア自転車事業に訪れた危機 - パワーメーターの話

シマノ参戦でパイオニア自転車事業に訪れた危機 - パワーメーターの話

2017.05.13

自転車の動力を計測するパワーメーターで存在感を放つパイオニア。今夏、業界最大手のシマノが同じくパワーメーターを発売する。パイオニアを脅かす存在となるかもしれない。ここまで3回に渡ってお届けしてきたパワーメーターの話、最終回となる第4回は巨人シマノにどう立ち向かうのかを分析する。

話を伺ったサイクルスポーツ事業推進部 藤田隆二郎氏(左)とサイクルスポーツ事業推進部 碓井純一課長(右)

パイオニア、危機のシナリオ

パワーメーターひと筋のパイオニアのサイクル事業にとっては危機かもしれない。業界最大手のシマノがパワーメーターを開発し、今夏に発売するからだ。価格、機能、ブランド力を比較すると、悲観的なシナリオも描けてしまう。

パイオニアが開発したパワーメーター(センサー部分)。パワーメーターは自転車をこいだときの動力を計測する機材。シマノが同様の製品を今夏に発売する

価格面(センサー部分)から見ていこう。シマノが税別127,398円であり、パイオニアは同129,600円とほぼ同額。シマノがパイオニアを意識したのでは? と思わせるような価格だ。

次にブランド力だ。パワーメーター市場におけるパイオニアのブランド力は高いが、それを凌駕する可能性があるのがシマノだ。パワーメーターは、競技志向の高い人にとって欠かせない高価な機材である。こう考えると、トッププロが実戦で使用し、信頼度の高いものほど間違いのないものとなる。つまり、おのずと選択されやすい。

パイオニアも世界に18チームしかないワールドチームに供給するが、ワールドチームへのパイプはシマノのほうが圧倒的に強い。仮にシマノのパワーメーターを使った選手がビッグレースで活躍すれば、シマノが注目される。「シマノ製品なら勝てる」と思わせる機会に恵まれたのがシマノというわけだ。

最後は機能だ。ここではパイオニアに軍配が上がる。現段階でわかっている限り、シマノの製品には、パイオニアが開発したフォースベクトルはなく、計測・表示する情報量はパイオニアのほうが多いからだ。

ペダリングモニターシステムの特徴となるフォースベクトル。ペダルをこいでいない状態(左)とこいだ状態(右)。どの方向にどれだけの力がかかっているかを把握でき、ペダルを踏んだときのパワーが有効に働いているかを知る手がかりとなる

総合すると、価格は同じ、機能ではパイオニアが勝るが、プロモーションの潜在能力を見たときのシマノの存在は脅威になると考えられるのだ。

シマノ参入は歓迎

当のパイオニアはシマノ参入をどう思っているのか。パイオニアの碓井氏に聞くと意外な答えが返ってきた。

「シマノさんの参入は歓迎したいです」

碓井氏の考えは次のようなものだ。シマノがパワーメーターを出すのは、業界最大手の会社がその価値を認めたということであり、パワーメーターをまだ取り付けていない人への訴えかけになる。市場開拓の強力な後押しになるとし、歓迎しているのだ。

技術面でも、自信があるという。微弱な電気信号をアルゴリズムで解析する、そのアルゴリズム作りがパワーメーターの一番の技術であり、様々な実験を重ね開発を続けてきた。これらのことから、少なくとも直近はネガティブな見方をしていない。

しかし、長期的に見ればどうか。シマノの存在はやはり大きい。長期的にはお客が取られてしまうのではないか。

そう投げかけても、碓井氏はたじろがない。パイオニアには先行者メリットが多分にあるという。碓井氏の話を聞けば、パイオニアの牙城は簡単には落とせそうにないと思えてくるのだ。

負けないパイオニア

パワーメーターは自転車をこいだ力を測定する機材だ。しかし、重要なのは計測したデータ。計測データを分析し、有効活用していくことが必要となる。そこで求められるのが知識を得るための情報だ。近年、パイオニアはここを充実させている。

パワーメーターは競技志向の高い人向けの製品と書いたが、今、最も普及しているのは、トップアスリートではなく、その下のレベルの人たち。レースイベントのユーザーデータを統合して分析すると、イメージ的には、少しでも短い時間で遠くまで走れる、速くなることに楽しみを見出しているような人たちが最も多く、この層が有望な見込み客になるという。

つまり、メインターゲットはプロのようにトレーニングコーチがいるような人たちではない。しかし、そうした人たちから求められ、必要とされるのはトレーニングコーチなのだ。であれば、ペダリングモニターシステムがトレーニングコーチになればいい。

そうした考えをもとにパイオニアは、データ解析ウェブサービスのシクロスフィアを定期的にアップデートし、レースコースに応じたトレーニングアシスト機能を充実させている。この機能を活用することで、ユーザーのレベルに合わせたトレーニングメニューが実行でき、ステップを経ながらレベルアップが行えるのだ。

パイオニアは近年「トレーニングアシスト」機能を充実させ、有効活用の難しいパワーメーターの利用推進を図っている(パイオニア資料より)

ほかにも、ユーザーデータをもとにしたランキング表示機能を追加するなどして、トレーニングの質やモチベーションの向上を図っている。

さらには、トッププロチームへの機材供給も行っているため、選手がある峠を上ったときに、どのようなパワーベクトルをもってして、ペダリングをしていたのかをデータとして公開することも可能だし、実際にそうした取り組みは過去に行っている。

こうした機能は、データそのもの、データの蓄積がなければ提供できない。データ量が豊富であるほど、魅力的なサービスにつなげることが可能なのだ。そう考えると、実現してほしいサービスがいくつか頭に浮かんでくる。

仮にシマノが同様のことに取り組み始めても、ゼロからの取り組みとなる。現在のパイオニアがアクセスできる情報量に到達するまでは、かなりの時間がかかってしまうだろう。 詰まるところ、力の計測だけならシマノ製でもいいが、目的をもって、有意義に活用するにはパイオニアを選ぶべき、となるのだ。

パワーメーターの先

仮にシマノの脅威が予想以上だった場合はどうするのか。もちろん、パイオニアとて未来永劫、パワーメーターだけでサイクル事業を拡大していこうとしているわけではない。

2016年9月、米国で開催された自転車展示会のインターバイク。そこで披露された参考展示品からパイオニアの未来が少し見えてくる。

それはステム、シートポスト、シューズ、ヘルメットにセンサーデバイスを取り付け、センシングデータを解析するというもの。これらは自転車をこぐという動作がいかに難しいものであり、技術の塊であるかを教えてくれるものである。

自転車を効率よく前に進めるには、体幹を使って上体のブレを減らし、適切なタイミングで、ペダルへ体重を十分にかけることが必要だ。脚に力を入れてこぐと誤解されがちだが、体全体を使う全身運動だ。パイオニアが参考展示したものも、これらをチェックするためのセンサーデバイスである。

ステムからは、ハンドルにかかる力を検出し、必要以上にハンドルに荷重がかかりすぎていないかをチェックする(シートポストではサドル部分にどれだけの荷重がかかっているかを検出)。両足のシューズのつま先部分では、ペダリングの角度を検出し、必要以上に足首の角度が曲がりすぎていないかを検出する。ヘルメットからは頭部の揺れにより、体幹がきちんと使えているかを確認できる。すべてを適切な状態にすることで、プロ選手のような姿勢で自転車をこげるようになるのだ。

インターバイクでのパイオニアの参考展示

これらは、あくまで参考展示品に過ぎない。しかし、パイオニアが次の一手に向けたアクションを起こし始めていることを意味するものだ。

先ほど、自転車は全身運動だと書いた。最適な体の使い方は、パワーメーターでの計測値のアップにつながる。その人のそのときにおけるパワーの最大値は変わらないが、体全体を使うことでパワーロスを防げるというわけだ。いわば、参考展示品はパワーメーターとは不可分の関係にあり、ペダリングモニターシステムの魅力を引き上げる効果を持つものだ。

すでに保有する豊富なデータ量に加え、新製品がでれば、さらなる多様なデータの収集が可能になる。これらは、新たなサービスの創出につながるものだ。この循環が崩れない限り、パイオニアの魅力は薄れそうにない。巨人シマノが参入しても対抗できる力は十分にあると言えるのではなかろうか。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu