女性向けは頭打ち、男性スキンケア市場に勝機はあるか

女性向けは頭打ち、男性スキンケア市場に勝機はあるか

2016.04.14

矢野経済研究所によれば、2014年度の国内化粧品市場規模は前年度比100.5%の2兆3,305億円(ブランド・メーカー出荷金額ベース)。2010年度からの推移をみても、毎年2兆3,000億円前後と大きな動きはなく、頭打ち状態に思える。そんななか、伸びしろがある男性用化粧品、特にスキンケア商品に注目が集まっている。

2014年度の男性用化粧品(ヘアスタイリング剤なども含む)市場規模は全体の5%とまだまだ小さいが、金額にすると1,160億円に上る。今後、伸びが期待できるのだろうか。

左は「国内の化粧品市場規模推移と予測」、右は「2014年度製品分野別化粧品市場規模構成比」。いずれのグラフも矢野経済研究所「化粧品市場に関する調査結果2015」のデータをもとに作成

ECサイトではスキンケア商品が人気

男性向け化粧品に特化したオンラインショップの「m-cosme」は、2013年のサービス開始以来、毎年120%ペースで会員数が増えているという。スキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ボディケアなどさまざまなブランドの多彩な商品を揃えるが、スキンケア関連の商品が売れ筋。なかでも洗顔、続いて化粧水が人気とのことだ。

男性スキンケア市場の広がりは期待できるか否か、男性向けに多彩な化粧品を展開している資生堂はこの市場をどうみているのだろうか。

スキンケアは勝機かも?

資生堂が88の国と地域で展開するブランド「SHISEIDO」のメンズライン「SHISEIDO MEN」。男性特有の皮膚生理の研究を重ねてたどり着いた本格スキンケアラインだ。日本市場では2004年から導入し、スキンケアのほかにもヘアケア、ボディケア、フレグランスといった製品をラインナップする。

一般的に、男性はわざわざ時間をとって肌をケアするという習慣がないため、洗顔したら「これ1本」で済むスキンケア製品を求める傾向にある。SHISEIDO MENも、それを踏まえて洗顔と化粧水の2ステップで済むようなラインナップを展開。主力製品は洗顔料「クレンジングフォーム」と保湿成分が配合された化粧水「ハイドレーティングローション」だ。

SHISEIDO MENのアイテムたち。もちろんパッケージにもこだわりがある。本の背表紙のような形をしたボトルが並ぶ

そんなSHISEIDO MENの国内マーケティングを担当する、資生堂ジャパン プレステージブランド事業本部 マーケティング部 SHISEIDOグループ ブランドアソシエイト 田中理絵氏は「メンズスキンケアの市場は大きく伸びています」と教えてくれた。その背景として、意外なことに女性の社会進出が挙げられる。会社という身近な場所に女性がいることで、身だしなみに気をつかうようになるのがひとつの理由。田中氏によれば、ある調査では、社員のうち女性が少ない企業と多い企業を比べると、後者の男性のほうが美容への意識が「圧倒的に高い」(田中氏)という結果が出たそうだ。

拡大しつつあるメンズスキンケア市場に対して、SHISEIDO MENはどのように打って出るのか。その答えのひとつが、2016年5月21日発売の顔用保湿液「ハイドロ マスター ジェル」だ。これまではどちらかといえばミドル層のユーザーが多く、エイジングケア関連の製品が人気だったが、最近は20代のユーザーも多くなってきている。そういった状況をふまえて、20~30代男性の肌悩みに対応した商品設計となっている。使用性についても、彼らの趣向に合わせ、ベタつかず、サラッとしつつもうるおいと爽快感を感じられるジェル状のテクスチャーを採用したという。

グローバルでのブランド戦略などを担当する資生堂の岡村倫太郎氏(左)、国内マーケティングを担当する資生堂ジャパンの田中理絵氏(右)

ハイドロ マスター ジェルの投入は、今後のメンズスキンケア市場拡大をにらんでのこと。詳細は後述するが、20~30代をカバーするというのが大きな意味を持ってくる。

さらに市場を拡大するには何が必要か

左からハイドレーティングローション、クレンジングフォーム、ハイドロ マスター ジェル。ハイドロ マスター ジェルは主に20代後半から30代向け。一般的に、男性はベタつきを嫌うため、サラッとした使い心地にこだわった

SHISEIDO MENがメンズスキンケア市場を拡大していくにあたって重要なのは接点(入り口)を増やすこと。現在、SHISEIDO MENは百貨店をメインに販売している。百貨店のメンズスキンケア売り場に訪れるのは、概して美容への意識が高めの男性。しかし、実際には多くの男性がスキンケアに興味はあっても売り場へ足を運ぶのはハードルが高いと感じているだろう。

そういった男性が利用するのがECサイトだ。資生堂運営の「ワタシプラス」での売上も、田中氏いわく「ここ最近で急増」しているとのこと。接点を増やす方法は販路を拡充するだけではない。資生堂が全社的に取り組んでいることだが、他業界とのコラボレーションを積極的に展開し、さらなる認知度向上を図る。

たとえば、これまでにも吉田カバンの創業80周年を記念して「PORTER」とコラボレーションした特別キットを販売。PORTERのポーチと、SHISEIDO MENの洗顔料、化粧水、クリームそれぞれ10日分がセットになっている。この特別キットは「旅」をテーマにしたもので、持ち歩き用のコンパクトなサイズ。旅行やジムなどの"持ち歩きニーズ"も入り口としてとらえ、新たなユーザーに出会っていきたいとする。

接点を増やすことによって、若年層ユーザーを開拓していくのもねらいだ。先に説明したハイドロ マスター ジェルを入り口に、SHISEIDO MENへと引き込む。というのも、「一度使ったものを長く使う男性が多い」からだそう(田中氏)。たとえば、資生堂の「MG5」や「アウスレーゼ」といったロングセラーブランドも多くのリピーターに支えられている。20代後半~30代に、SHISEIDO MENを使ってもらい、継続して愛用してもらうという意味でも入り口作りは重要だ。

そういった戦略もあって、資生堂 グローバル事業本部 グローバルプレステージ事業本部 SHISEIDOブランドユニット 岡村倫太郎氏は「今後も世界中でより多くの方に愛用いただけるよう、積極的なブランディングを行っていきたい」と前向きな姿勢をみせる。

フィリップスが切り拓く、男性向け美容家電

化粧品だけでなく、男性向け美容家電も実は存在する。そのひとつが、フィリップス エレクトロニクス ジャパンが2015年2月に発売した電動洗顔ブラシ「メンズビザピュア MS5075/17」。女性向けに販売している洗顔ブラシ「ビザピュア」シリーズの男性向けモデルだ。マットなブラックで、なんとも"都会派"な見た目をしている。

メンズビザピュアは現在、韓国と日本、フランスで販売されている。日本では「男の五大肌悩みへ。」という売り文句で展開。「テカリ」や「毛穴の黒ズミ」といったピンポイントの悩みではなく、肌の悩みに幅広く対応できるイメージが受けているよう

メンズビザピュアの発売から1年ちょっと。「売上は堅調に推移しており、これまでにない新カテゴリの製品ながら立ち上がりは非常に好調です」と答えてくれたのは、フィリップス エレクトロニクス ジャパンのマーケティング メンズグルーミング マネージャー 藤井崇雅氏だ。

男性向け理美容家電というと真っ先にシェーバーが思い浮かぶが、メンズビザピュアはスキンケアの基本ともいえる洗顔専用の家電。「世界的にみてシェーバーは縮小している市場です。そのため、新しいエリアを開拓したいという思いもあって、スキンケアを新たな柱に据えています。男性の美容意識が高い韓国ではメイクアップ製品のニーズがありますが、日本ではそうでもない。しかし、洗顔ならばより幅広い地域で使ってもらえるのではとメンズビザピュアが誕生しました」(藤井氏)。

フィリップス エレクトロニクス ジャパンのマーケティング メンズグルーミング マネージャー 藤井崇雅氏

ちなみに、メンズスキンケア市場はアジア、特に韓国が市場をリード。フィリップスの調査では、メンズスキンケア市場は2014年に2,800億円規模、2020年までにはその倍以上となる5,600億円に拡大すると予測されている。

メンズビザピュアでは、スキンケアに関心がありそうな、20~35歳くらいの都市部に住む男性に狙いを定めた。主にWebでの広告に集中。バナー広告のクリエイティブなどは週単位で検証し、効果の高いものへ順次変更してきた。スピーディーに対応することで「こちらが届けたいと思っている人にきちんと届いたんだと思います。メンズビザピュアという製品と広告の出し方がうまくかみ合ったおかげで好調な滑り出しとなりました」と藤井氏は振り返る。

藤井氏はメンズビザピュアを「かなり期待の持てる製品」という。確かに、フィリップスがこれまで手がけてきた新カテゴリの製品とは一線を画する存在だ。たとえば、体毛を整えるためのボディグルーミング製品も男性向けとしては新カテゴリだったが、藤井氏いわく「製品が先に行き過ぎていて、ニーズが追いついていない状況」だったらしい。日本でボディグルーミングというジャンルが定着するまでに数年を要したというが、メンズビザピュアについては「ちょうど今のニーズに合っている」とのこと。フィリップスとしても本気で取り組んでいきたい市場だ。そのため、男性が求めている機能を提供できるよう、新製品についても「鋭意検討中」と積極的な姿勢をみせる。

ターゲットをピンポイントで定めていたため、発売当初は販路をオンラインに絞っていたが、2016年2月後半から3月にかけて店頭でも販売を開始。家電量販店などでも購入できるようになった。藤井氏は「現在は洗顔ブラシを広げていくフェーズ。いきなり巨大な市場を築き上げるというよりは、ゆっくりきちんと丁寧に広めていきたい」と語る。

メンズスキンケア市場の見通しは明るいのか

メンズスキンケア市場が拡大しつつあるというのは間違いなさそうだ。さらに普及していくカギは「購入のハードルをいかに下げるか」にあると思われる。それを解決するには、「男性用」と銘打つことも重要だが、スキンケアについて積極的に啓蒙していくのが結局は近道になるのではないだろうか。

テカりやすく乾燥しやすいのに、日々のシェービングでさらなるダメージを与えられる男性の肌。きちんとケアしている人が少なければ少ないほど潜在ニーズは大きい。メンズスキンケア市場は、まだまだこれからといったところだが、成長の兆しは十分に感じられる。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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