女性向けは頭打ち、男性スキンケア市場に勝機はあるか

女性向けは頭打ち、男性スキンケア市場に勝機はあるか

2016.04.14

矢野経済研究所によれば、2014年度の国内化粧品市場規模は前年度比100.5%の2兆3,305億円(ブランド・メーカー出荷金額ベース)。2010年度からの推移をみても、毎年2兆3,000億円前後と大きな動きはなく、頭打ち状態に思える。そんななか、伸びしろがある男性用化粧品、特にスキンケア商品に注目が集まっている。

2014年度の男性用化粧品(ヘアスタイリング剤なども含む)市場規模は全体の5%とまだまだ小さいが、金額にすると1,160億円に上る。今後、伸びが期待できるのだろうか。

左は「国内の化粧品市場規模推移と予測」、右は「2014年度製品分野別化粧品市場規模構成比」。いずれのグラフも矢野経済研究所「化粧品市場に関する調査結果2015」のデータをもとに作成

ECサイトではスキンケア商品が人気

男性向け化粧品に特化したオンラインショップの「m-cosme」は、2013年のサービス開始以来、毎年120%ペースで会員数が増えているという。スキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ボディケアなどさまざまなブランドの多彩な商品を揃えるが、スキンケア関連の商品が売れ筋。なかでも洗顔、続いて化粧水が人気とのことだ。

男性スキンケア市場の広がりは期待できるか否か、男性向けに多彩な化粧品を展開している資生堂はこの市場をどうみているのだろうか。

スキンケアは勝機かも?

資生堂が88の国と地域で展開するブランド「SHISEIDO」のメンズライン「SHISEIDO MEN」。男性特有の皮膚生理の研究を重ねてたどり着いた本格スキンケアラインだ。日本市場では2004年から導入し、スキンケアのほかにもヘアケア、ボディケア、フレグランスといった製品をラインナップする。

一般的に、男性はわざわざ時間をとって肌をケアするという習慣がないため、洗顔したら「これ1本」で済むスキンケア製品を求める傾向にある。SHISEIDO MENも、それを踏まえて洗顔と化粧水の2ステップで済むようなラインナップを展開。主力製品は洗顔料「クレンジングフォーム」と保湿成分が配合された化粧水「ハイドレーティングローション」だ。

SHISEIDO MENのアイテムたち。もちろんパッケージにもこだわりがある。本の背表紙のような形をしたボトルが並ぶ

そんなSHISEIDO MENの国内マーケティングを担当する、資生堂ジャパン プレステージブランド事業本部 マーケティング部 SHISEIDOグループ ブランドアソシエイト 田中理絵氏は「メンズスキンケアの市場は大きく伸びています」と教えてくれた。その背景として、意外なことに女性の社会進出が挙げられる。会社という身近な場所に女性がいることで、身だしなみに気をつかうようになるのがひとつの理由。田中氏によれば、ある調査では、社員のうち女性が少ない企業と多い企業を比べると、後者の男性のほうが美容への意識が「圧倒的に高い」(田中氏)という結果が出たそうだ。

拡大しつつあるメンズスキンケア市場に対して、SHISEIDO MENはどのように打って出るのか。その答えのひとつが、2016年5月21日発売の顔用保湿液「ハイドロ マスター ジェル」だ。これまではどちらかといえばミドル層のユーザーが多く、エイジングケア関連の製品が人気だったが、最近は20代のユーザーも多くなってきている。そういった状況をふまえて、20~30代男性の肌悩みに対応した商品設計となっている。使用性についても、彼らの趣向に合わせ、ベタつかず、サラッとしつつもうるおいと爽快感を感じられるジェル状のテクスチャーを採用したという。

グローバルでのブランド戦略などを担当する資生堂の岡村倫太郎氏(左)、国内マーケティングを担当する資生堂ジャパンの田中理絵氏(右)

ハイドロ マスター ジェルの投入は、今後のメンズスキンケア市場拡大をにらんでのこと。詳細は後述するが、20~30代をカバーするというのが大きな意味を持ってくる。

さらに市場を拡大するには何が必要か

左からハイドレーティングローション、クレンジングフォーム、ハイドロ マスター ジェル。ハイドロ マスター ジェルは主に20代後半から30代向け。一般的に、男性はベタつきを嫌うため、サラッとした使い心地にこだわった

SHISEIDO MENがメンズスキンケア市場を拡大していくにあたって重要なのは接点(入り口)を増やすこと。現在、SHISEIDO MENは百貨店をメインに販売している。百貨店のメンズスキンケア売り場に訪れるのは、概して美容への意識が高めの男性。しかし、実際には多くの男性がスキンケアに興味はあっても売り場へ足を運ぶのはハードルが高いと感じているだろう。

そういった男性が利用するのがECサイトだ。資生堂運営の「ワタシプラス」での売上も、田中氏いわく「ここ最近で急増」しているとのこと。接点を増やす方法は販路を拡充するだけではない。資生堂が全社的に取り組んでいることだが、他業界とのコラボレーションを積極的に展開し、さらなる認知度向上を図る。

たとえば、これまでにも吉田カバンの創業80周年を記念して「PORTER」とコラボレーションした特別キットを販売。PORTERのポーチと、SHISEIDO MENの洗顔料、化粧水、クリームそれぞれ10日分がセットになっている。この特別キットは「旅」をテーマにしたもので、持ち歩き用のコンパクトなサイズ。旅行やジムなどの"持ち歩きニーズ"も入り口としてとらえ、新たなユーザーに出会っていきたいとする。

接点を増やすことによって、若年層ユーザーを開拓していくのもねらいだ。先に説明したハイドロ マスター ジェルを入り口に、SHISEIDO MENへと引き込む。というのも、「一度使ったものを長く使う男性が多い」からだそう(田中氏)。たとえば、資生堂の「MG5」や「アウスレーゼ」といったロングセラーブランドも多くのリピーターに支えられている。20代後半~30代に、SHISEIDO MENを使ってもらい、継続して愛用してもらうという意味でも入り口作りは重要だ。

そういった戦略もあって、資生堂 グローバル事業本部 グローバルプレステージ事業本部 SHISEIDOブランドユニット 岡村倫太郎氏は「今後も世界中でより多くの方に愛用いただけるよう、積極的なブランディングを行っていきたい」と前向きな姿勢をみせる。

フィリップスが切り拓く、男性向け美容家電

化粧品だけでなく、男性向け美容家電も実は存在する。そのひとつが、フィリップス エレクトロニクス ジャパンが2015年2月に発売した電動洗顔ブラシ「メンズビザピュア MS5075/17」。女性向けに販売している洗顔ブラシ「ビザピュア」シリーズの男性向けモデルだ。マットなブラックで、なんとも"都会派"な見た目をしている。

メンズビザピュアは現在、韓国と日本、フランスで販売されている。日本では「男の五大肌悩みへ。」という売り文句で展開。「テカリ」や「毛穴の黒ズミ」といったピンポイントの悩みではなく、肌の悩みに幅広く対応できるイメージが受けているよう

メンズビザピュアの発売から1年ちょっと。「売上は堅調に推移しており、これまでにない新カテゴリの製品ながら立ち上がりは非常に好調です」と答えてくれたのは、フィリップス エレクトロニクス ジャパンのマーケティング メンズグルーミング マネージャー 藤井崇雅氏だ。

男性向け理美容家電というと真っ先にシェーバーが思い浮かぶが、メンズビザピュアはスキンケアの基本ともいえる洗顔専用の家電。「世界的にみてシェーバーは縮小している市場です。そのため、新しいエリアを開拓したいという思いもあって、スキンケアを新たな柱に据えています。男性の美容意識が高い韓国ではメイクアップ製品のニーズがありますが、日本ではそうでもない。しかし、洗顔ならばより幅広い地域で使ってもらえるのではとメンズビザピュアが誕生しました」(藤井氏)。

フィリップス エレクトロニクス ジャパンのマーケティング メンズグルーミング マネージャー 藤井崇雅氏

ちなみに、メンズスキンケア市場はアジア、特に韓国が市場をリード。フィリップスの調査では、メンズスキンケア市場は2014年に2,800億円規模、2020年までにはその倍以上となる5,600億円に拡大すると予測されている。

メンズビザピュアでは、スキンケアに関心がありそうな、20~35歳くらいの都市部に住む男性に狙いを定めた。主にWebでの広告に集中。バナー広告のクリエイティブなどは週単位で検証し、効果の高いものへ順次変更してきた。スピーディーに対応することで「こちらが届けたいと思っている人にきちんと届いたんだと思います。メンズビザピュアという製品と広告の出し方がうまくかみ合ったおかげで好調な滑り出しとなりました」と藤井氏は振り返る。

藤井氏はメンズビザピュアを「かなり期待の持てる製品」という。確かに、フィリップスがこれまで手がけてきた新カテゴリの製品とは一線を画する存在だ。たとえば、体毛を整えるためのボディグルーミング製品も男性向けとしては新カテゴリだったが、藤井氏いわく「製品が先に行き過ぎていて、ニーズが追いついていない状況」だったらしい。日本でボディグルーミングというジャンルが定着するまでに数年を要したというが、メンズビザピュアについては「ちょうど今のニーズに合っている」とのこと。フィリップスとしても本気で取り組んでいきたい市場だ。そのため、男性が求めている機能を提供できるよう、新製品についても「鋭意検討中」と積極的な姿勢をみせる。

ターゲットをピンポイントで定めていたため、発売当初は販路をオンラインに絞っていたが、2016年2月後半から3月にかけて店頭でも販売を開始。家電量販店などでも購入できるようになった。藤井氏は「現在は洗顔ブラシを広げていくフェーズ。いきなり巨大な市場を築き上げるというよりは、ゆっくりきちんと丁寧に広めていきたい」と語る。

メンズスキンケア市場の見通しは明るいのか

メンズスキンケア市場が拡大しつつあるというのは間違いなさそうだ。さらに普及していくカギは「購入のハードルをいかに下げるか」にあると思われる。それを解決するには、「男性用」と銘打つことも重要だが、スキンケアについて積極的に啓蒙していくのが結局は近道になるのではないだろうか。

テカりやすく乾燥しやすいのに、日々のシェービングでさらなるダメージを与えられる男性の肌。きちんとケアしている人が少なければ少ないほど潜在ニーズは大きい。メンズスキンケア市場は、まだまだこれからといったところだが、成長の兆しは十分に感じられる。

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に「あ、BMWだ!」と感じてしまうクルマになっているとしたら、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。