2017年は音声アシスタントデバイス元年に! 普及・定着なるか

2017年は音声アシスタントデバイス元年に! 普及・定着なるか

2017.05.18

米グーグルは現地時間の5月17日に開催された「Google I/O 2017」において、音声アシスタントスピーカー「Google Home」を日本国内で販売すると発表した。国内では今夏にもLINEが同様のデバイスの発売を予定しているなど、2017年を音声アシスタントスピーカー元年と見る向きも多いが、果たして目論見通りにいくのだろうか。

ライバルに先んじてGoogle Homeが日本登場

今回日本での発売が発表された「Google Home」は、もともと2016年のGoogle I/Oで発表され、10月から米国で発売中のデバイスだ。本体は上を斜めに切り落とした円錐に近い形状で、直径が9.6cm、高さは14.3cm。室内用の芳香剤などに似たサイズと形状だと言えば伝わりやすいだろうか。

Google Home(画像:Google Home紹介ページより)

内部には広域型のスピーカーを内蔵しており、単独で、またはスマートフォンと連動しての音楽再生デバイスとして室内にBGMを流すのにも使えるが、これはあくまで仮の姿だ。主にして最大の機能はやはり音声アシスタント機能ということになるだろう。Google HomeにはGoogle Assistantが内蔵されており、「OK, Google」というキーワードのあとに音声で命令すると、そのタスクをこなしてくれる。これはAndroidスマートフォンで現在利用できるGoogle Assistantと同等の機能だ(なお、Google I/OではiOS版のGoogle Assistantも発表されている)。

スマートフォンとはデバイスの性質も異なるため、できること・できないことに多少の差はあるが、たとえば「OK, Google.今日の天気は?」と聞けば「今日のxxの温度は○○度、晴れの予想です」などと音声で返してくれる。

音楽再生ではGoogle Musicのほか、Spotifyなどにも対応している。このほか、IFTTTと連動してタスクを処理させたり、スマートホームデバイスの制御なども音声で行える。どのくらいの認識度でどの程度のことができるのかは、現時点でAndroidスマートフォンを使えば体感できると考えていいだろう。

グーグルとしてはGoogle Homeを生活に組み込むことで、個人ではなく家族のデータを収集できるという目論見もあるのではないだろうか。それは会話であったり、生活サイクルであったり、食事や旅行の計画、よく見るテレビ番組といった情報かもしれない。こうしたデータの収集もまた、スマートスピーカーの隠れた機能であるとは指摘されている。

ライバルも市場参入目前か

スマートフォンやパソコン用OSの世界では、Google Assistantやアップルの「Siri」、マイクロソフトの「Cortana」といった音声アシスタントが標準技術となって普及しているが、各社ともこうした技術をさらに広め、生活に浸透させるため、新たなデバイス開発が進められてきた。家庭向けのスマートスピーカー製品として最初に登場したのが、アマゾンの「Amazon Echo」だ。

Amazon EchoとEcho Dot(画像:アマゾンプレスリリースより

Amazon EchoにはオリジナルのEchoに加え、スピーカー機能を外して外部スピーカーに接続することを前提とした小型の「Amazon Echo Dot」と、バッテリーを内蔵して外に持ち出すこともできる(代わりに常に待ち受け状態ではなく、名前のとおりタップして起動する)「Amazon Tap」の3モデルがある。

オリジナルとなるAmazon EchoはGoogle Homeを縦に2つ積み上げたくらいの大きさの円筒状のデバイスで、やはりスピーカーを内蔵しているほか、アマゾンの音声アシスタント「Alexa」を搭載している。

例えばiOSのSiriがパーソナルアシスタントであるのに対し、Alexaは搭載されているデバイスがスピーカーであることから、「一家に一台」という前提で開発されたと言われており、周囲のノイズが多い環境でも認識率が高いなど、Siriなどとは開発時点から方向性が異なっている。天気やニュース、Kindleの読み上げ、音楽やAudibleの再生といった機能はもちろんだが、Amazon.comでの注文・再注文などもこなせ、都市部では生鮮品をすぐに配達してくれる「Amazon Fresh」といったサービスと組み合わせることで、主婦などにも便利な製品となっているのだ。

また、Alexaに機能を追加する「Skill」(一種のアプリ。開発者が自由に開発可能)を使って家電の制御もできる。さらにサードパーティにも提供されており、米国で1月に開催された家電向けショー「CES」でも、Alexa搭載製品が自動車や家電を始め700以上も登場している。

発売以来大ヒットを収め、入手困難な状態が長く続いたEchoだが、肝心の音声アシスタント「Alexa」の日本語認識についてはまったくの未知数といったところだ。今回Google Homeが日本導入を発表したことから、アマゾンも年内には日本導入を発表するのではないかと見られているが、米国ほどの人気を収められるかはAlexaが日本語をどれだけスムーズに学習できたかにかなり大きく依存しそうだ。

日本市場向けという意味では、製品としてはまったくの未知数ながら、注目を集めているのが「LINE」が開発している「Clova」だ。これは今年3月にスペインで開催されたMWCで発表された人工知能プラットフォームで、LINEと韓国・Naverとの共同開発とされている。ClovaはLINEやNaverが扱ってきた大量の日本語コンテンツから学習することで、日本語の認識率がかなり高いことが期待される。特にLINEはコミュニケーションプラットフォームであるため、大量の会話データを保持している。これをもとに学習すれば、会話に非常に強い人工知能の誕生が期待できるだろう。

Clovaを搭載したスマートスピーカーの「WAVE」(画像:LINE2017年12月期第1四半期決算説明プレゼンテーション資料より)

具体的な製品としてはスマートスピーカー「WAVE」が夏に、スマートディスプレイ「FACE」が冬に登場する予定となっている。本記事的にGoogle HomeやAmazon Echoと比較するのは「WAVE」になるが、現時点では写真1点以外ほとんど情報がない。おそらく、LINEメッセージの到着や返信などを音声で行えるほか、LINE MUSICの再生などにも対応するであろうことは予想できる。

LINEとしては、本命はどちらかというと「FACE」のほうになりそうだ。これはスマートディスプレイとはいうものの、本質としては顔のあるコミュニケーションロボットといった様相の製品で、LINEのBot技術なども駆使することで、一人でもコミュニケーション相手になってくれるようなデバイスになるかもしれない。

個人的にもう一つ注目しているのはNTTドコモだ。NTTドコモはあまり目立っていないが、人工知能や音声認識を以前から研究しており、スマートフォン向けの「しゃべってコンシェル」などでその実力を垣間見ることができる。また、同社は技術デモとして音声操作による「コンシェルスピーカー」を報道陣に公開したことがあり、基礎技術としては同等のものを作ることができる。自社開発することは考えにくいが、ダークホースとして覚えておきたい。

アップルも虎視眈々と狙う?

iPhone、Macに加えてApple WatchやApple TVにもSiriを搭載しているアップルだが、同社製品の動向に詳しく、製品予想の的中率の高さで知られるKGI証券アナリストのミン・チー・クオ氏が、6月に開催されるWWDC 2017でアップルも家庭向けスマートスピーカーを発表する可能性があるといった予想を公開している。

製品の詳細は不明だが、デザイン面では定評のある同社だけに、リビング等においても違和感のない、高級感あるデザインになってくると予想される。また機能面ではスマートホーム対応デバイスの制御や、あるいはApple Watchとの連動で身体の異常などに対応したメッセージなどを提供できるようになるかもしれない。グーグルと並ぶプラットフォーマーだけに、幅広い製品群を持つ強みを生かした特徴を打ち出してくるだろう。

なお、スマートフォン市場ではいまいちパッとしないマイクロソフトだが、実はすでにスマートスピーカーにも着手済みで、同社のCortanaを搭載したスピーカー「Invoke」が、高級オーディオメーカーのHarman Kardonから発表されたばかりだ。

ハーマン・カードンが発表したCortana搭載の「Invoke」(画像:ハーマン・カードンプレスリリースより)

さらに米HPが同様の製品を開発する契約を締結したと発表したほか、米インテルもCortanaが動作するデバイスのリファレンスプラットフォームを設計すると発表している。また、Cortana向けのSkill(Amazon Echoと同様)開発用のフレームワークも公開している。

Surfaceでは自社製ハードウェアに打って出たマイクロソフトだが、CortanaではPCと同様にハードウェアの製造はパートナーに任せることになりそうだ。逆に言えば、高級オーディオメーカーなどから、音質にこだわったスマートスピーカーが登場する余地があるということになる。ユーザーとしては選択肢が広がることを歓迎できるだろう。

音声操作デバイス元年になるのか

グーグル、アマゾン、マイクロソフトといった巨人たちが出揃ったほか、LINE、アップルといった役者も揃い、いよいよ本格的な市場の立ち上げに向かうかに見えるスマートスピーカー市場だが、果たして日本では受け入れられるのだろうか。

Amazon Alexaなど実力が不明なものもあるが、おそらく音声認識の水準としては、各社ともに実用性が高い段階まで来ていると思われる。こうした技術は人工知能により学習を重ねてより認識度が高まっていくものなので、ユーザーが増えればどんどん改善されるだろう。その点は心配していない。どちらかといえば技術面よりも、文化的な要素のほうが気がかりだ。

もともと米国などは電話でもハンズフリー通話が広く受け入れられており、人前で通話したり、大きい声で会話することがさほど問題視されない文化がある。ところが日本では、家庭の中であっても大きな声で会話することはあまり行儀がいいこととはされておらず、電話でも他人に聞こえないように配慮する人が多い。

端的に言えば音声認識のキモとなる「大きな声ではっきりとしゃべる」こと自体が比較的難しい状況にあるわけで、一人暮らしならばともかく、日本の文化的に、リビングなどにスマートスピーカーを置いて使う、というのはあまり受け入れられないのではないかと思う。筆者も自室でSiriやGoogle Asssitantに命令していると、家人が「何か言ったー?」などと声をかけてくることが多く、あまり大きな声で入力できないのが実情だ。

また、スマートホーム製品の制御なども、現状でそういった製品がほとんど普及していないことを考えると、あまり目玉機能だとは言えない(アップル製品を専門とし、家中アップルだらけの筆者ですら、iPhoneで制御できる家電はほとんどないのだ)。単独で音楽再生サービスが利用できるというのも、対応したサブスクリプションサービスに加入している必要があるわけで、一般のユーザーには比較的敷居が高い気がする。家の中で常時スタンバイ状態の音声認識デバイスがいるというのは、プライバシーの観点からもあまり好ましくないという人も多いだろう。このままでは、ほとんどの人にとって「別になくても困らない」と思わせてしまうように思われる。

もっとも、Amazon Echoも、実は半数近くはリビングではなくキッチンに置かれているという調査結果もあるほどで、スマートスピーカーは「一家に一台」とは言いつつも、案外パーソナルな場所で使われるデバイスになるのかもしれない。そう考えると、ターゲットユーザーとしてはむしろ主婦や女性層を狙い、コンテンツにも料理ガイドなどを充実させるのが普及のカギになったりはしないだろうか。

また、会話していることが不自然でないインターフェースを与えることで、自然に音声通話が受け入れられる素地になるかもしれない。具体的にはロボットのような姿を与えることが日本人の心情的にも向いていると思われる。その点、LINE FACEなどは非常に大きく育つ可能性を秘めたデバイスだと言えるだろう。

いずれにせよ、Google Homeの導入で市場は動き出してしまった。前評判のわりにいまいちパッとしないスマートウォッチ市場の二の舞にならないように祈りつつ、各社の動向を注目したい。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。