豊田章男体制が9年目突入、“等身大”の減益決算はトヨタを変えるか

豊田章男体制が9年目突入、“等身大”の減益決算はトヨタを変えるか

2017.05.19

「現在の実力が素直に表れた」。トヨタ自動車の豊田章男社長は、営業利益で前期比3割減となった2017年3月期決算をこう評した。今期も減益の予想だが、研究開発に過去最高規模となる1兆500億円を投じる計画とするなど、トヨタからは、自動車業界が大転換期を迎える中での危機感が強くにじむ。もうすぐ9年目を迎える章男社長体制のトヨタは変わるのか。

決算説明会に登壇したトヨタの豊田章男社長

自動車産業は未知の領域に?

「クルマそのものはもちろん、未来の自動車産業も従来とは全く違った世界になるかも知れない」。章男社長が2017年3月期決算発表の場で語ったのは、自動車産業全体がパラダイムシフトを迎える中で、トヨタが変わろうとする決意だった。

また、「今回の決算は、目先の利益確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくというトヨタの意思が表れたもの」として、今期の研究開発費を前期比1%増の1兆500億円と過去最高水準を継続すると説明した。

研究開発投資は4年連続で1兆円を超えることになる。2017年3月期(前期)連結決算の純利益が前期比20.8%減の1兆8311億円であったのに対し、2018年3月期(今期)の業績予想では純利益がさらに18%減って1兆5000億円となる見通しと、2年連続の減益となる予想だが、研究費は積み増す格好だ。

2年連続の減益予想には、トヨタが為替レートを1ドル=105円と保守的に見積もったことが影響している。トヨタの場合、為替が1円振れると損益に400億円の動きが出るからだ。

それでも、今期は1兆500億円を研究開発費に、1兆3000億円を設備投資をつぎ込むというトヨタの姿勢を見ると、2017年6月で就任後9年目を迎える章男社長は、自動車業界の大転換期に危機感をもって臨む決意を強くにじませたものといえる。

賢いクルマのつくり方を追求

決算発表で章男社長は、トヨタの“もっといいクルマづくり”の原点が「コンパクトカー」にあると断言。2016年に導入したカンパニー制の中でも、トヨタコンパクトカーカンパニーにおいて、ダイハツ工業も巻き込み、良品廉価と安全・快適の追求を進めることで、トヨタのクルマづくりを変えることも強調した。

トヨタのカンパニー制は、2017年4月に製品軸で7カンパニーから9カンパニーに整備されたが、コンパクトカーをベースに、「もっといいクルマづくり」に「賢いつくり方」を加えて、カンパニー同士が競争・切磋琢磨していく方向をとることになる。「大きい会社になり過ぎたトヨタ」が変わる試金石ともなろう。

営業利益2兆円がトヨタの実力?

今回の決算発表会見は、異例ともいえるものだった。それというのも、円高トレンドにあった豊田章男社長体制8年目の節目において、本業の儲けを示す営業利益で1兆9943億円を確保したことについて、「今回の決算は、為替の追い風も向かい風もない中で、まさに現在の等身大の実力が素直に表れたものだと感じている」と章男社長が述べたからだ。

2009年6月にトヨタ社長に就任した豊田章男氏は、言わずもがなのトヨタ創業家の嫡流。2008年秋のリーマンショックによる赤字転落、米国でのリコール対応など「嵐の中での船出」だったが、これを乗り越えて、従来でいう4期8年を経過したことになる。

もうすぐ社長就任から9年目を迎える章男社長は、自信をもって長期政権に臨むと同時に、自動車大転換期へのトヨタ特有の危機感を強め、グループ全体の競争力を磨いていく方針だ。

2017年4月からの経営陣の刷新にも、章男社長の意思が込められる。取締役を9名に絞り、各カンパニーの執行責任と権限を明確化したことには、それぞれのカンパニーにスピード感を求めたいという社長の意思が表れている。

章男社長の変身か

決算発表会見の冒頭で、トヨタが変わろうとする決意を表明した章男社長。会見の席上、社長の両隣に並んだのは、永田理新副社長(CFO)と村上晃彦新専務(渉外・広報本部長)という、決算会見に初めて臨む顔ぶれだった。

左から村上晃彦新専務、豊田社長、永田理新副社長

注目されたのは、決算説明後の質疑応答で主体的に応えたのが、章男社長ではなく永田新副社長だったこと。永田副社長は、米国駐在から日本本社に帰任しての副社長昇格で、CFOとして財務・経理を統括する。かつては渉外・広報副本部長も務めたが、これまでのように経理・財務畑からCFOに就任したわけではなく、章男社長による抜擢といわれる。決算会見の質疑応答でも、記者側の質問に対し、社長を差し置いて「僭越ながら」と主体的に応えていたのが印象的だった。

これは、章男社長による意図的な段取りだったかのようにも受け止められた。つまり、トヨタといえば社長の発言がすべてというイメージを変えて、これからのトヨタを支える経営人材を育成するという方向を表に出してきたように見える。

また、2017年4月に副会長に昇格し、経団連副会長に就任する予定の早川茂渉外・広報本部長の後任となった村上専務は、資本提携先のスバルの役員として3年間転出し、スバルの経営を経験して4月に帰任したばかりだ。つまり、豊田章男体制を支える新たな人材の登用というわけなのだ。

圧倒的な研究開発費

1兆500億円というトヨタの研究開発費は、ホンダの7500億円、日産自動車の5250億円から見ても圧倒的な額だ。ちなみに、他の乗用車各社ではスズキ1500億円、マツダ1400億円、スバル1340億円に、三菱自動車が日産傘下での再建で1070億円と1000億円台に乗せるが、トヨタに比べると彼我の差は大きい。

トヨタは未来への投資を安定的・継続的に進めていくことを今回の決算でも強調した。「現在の自動車産業はパラダイムシフトが求められており、とくにAI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しい領域が重要なカギを握る」(章男社長)とし、「10年先、20年先を見据えた種まきを続ける」ことで、未来を創造する技術力と志をもった企業を目指す方向を打ち出している。

AI子会社からライドシェア、半導体大手との提携も

トヨタはAI研究の権威であるギル・ブラット氏を招聘し、2016年1月にAI技術の研究・開発を行なう子会社Toyota Research Institute, Inc.(TRI)を米国に設立して注目を浴びた。また、ライドシェアでグローバル展開しているウーバーとの提携に加えて、2017年5月10日には米国の画像処理半導体大手であり自動運転プラットフォーム事業を進めるエヌビディアとの提携を発表している。

トヨタは、これまで磨き上げてきたハードウェアとソフトウェアの革新を組み合わせることで、競争力強化への全方位策を打ち出しているのだ。

「もっといいクルマづくり」に向けて、TNGAという新たなプラットフォームによるクルマづくりへのチャレンジを進め、「プリウスPHV」と小型SUV「C-HR」の市場投入につなげたトヨタ。C-HRは2017年4月の国内ベストセラーカーに躍り出るなど話題を呼んでいる。それでもトヨタは、これにコンパクトカーをベースとしたより軽く、より低コストで安全なクルマづくり、すなわち「賢いクルマづくり」を推進する。

TNGAを採用した「プリウスPHV」(左)と「C-HR」

これと同時に、未来を創造するための種まきへの投資を加速することで、グループ企業と提携先メーカーを含めた国際競争力を磨き込む。これこそ、トヨタが変わる、持続的成長への道のりに結びつくことになるのだろう。

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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2019.05.20

トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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