ドイツ車が席巻する輸入車市場で輝く方法は? GMジャパン社長に聞く

ドイツ車が席巻する輸入車市場で輝く方法は? GMジャパン社長に聞く

2017.05.22

米フォードが日本から撤退した同じ年に、ゼネラルモーターズ・ジャパン(以下、GMジャパン)の社長に就任した若松格(わかまつ・ただし)氏。2016年8月の就任から在任期間は1年に満たないが、インタビューの機会を得たので、この間の成果と手応え、そして将来の展望を尋ねた。ドイツ車が席巻する日本の輸入車市場で存在感を高めるのは容易ではないが、若松社長はこれからのGMジャパンについて何を思うのか。

GMインターナショナルで東南アジア12カ国のディストリビューター事業の統括責任者を務めた後、2016年8月にGMジャパンの社長に就任した若松格氏。「存在感を高めたい」と抱負を語った同氏は今、何を思うのか

日本市場をどう見ているのか

日本自動車輸入組合(JAIA)の統計によれば、フォードは撤退の前年となった2015年に4477台を日本で販売している。一方、GMジャパンの同じ年の販売台数は、キャデラックとシボレーを合わせても1508台だ。

つまり、フォードはGMジャパンの3倍近くもクルマを販売していたことになる。にも関わらず、「日本における事業には今後、収益性に向けた合理的な道筋が立たず、また我々の投資に対して十分なリターンは見込めないと判断」し、日本から撤退した。では、GMジャパンはなぜ、日本に残る道を選べたのだろうか。ここからは、若松社長の言葉も織り込みつつ話を進めていきたい。

まず日本の自動車市場は、GMの目にどう映るのか。世界1位の中国は2016年に2800万台、2位の米国は1755万台で、EUは1464万台の大きな市場である。これに対し、日本市場は年間500万台規模でしかない。

「前職のGMインターナショナルで俯瞰して見た場合、日本は500万台市場と言われ、その中で何台売るかということに目を奪われがちでした。しかし、今の私は目指すべきところが明確に見えています」。若松社長は言葉を続ける。

日本市場について語る若松社長

「500万台の中身を見ると軽自動車があり、販売価格が300万円以下のクルマが多い。その中でハイブリッド車や5ナンバーミニバンが気になり、日本市場のコモディティ化(差別化が困難な一般化)が心配になりました。それから、クルマを持たず、たまにレンタカーを借りればいいというクルマ離れも気掛かりでした」

「そうした全体像に対し、ラグジュアリー車は25万台くらいの販売で、少しずつですが伸びています。また帰国してから、正規ディーラーネットワーク(特約契約を結ぶ販売業者)や、ACデルコ(ACDelco、自動車部品ブランド)の取扱店を回り、あるいは週末のクルマイベントを訪ねてみると、日本の自動車社会が成熟している様子に気づかされたのです」

「GMインターナショナルでの仕事は、発展途上の市場で販売台数を伸ばすことでしたが、成熟した日本では、コア層(中核となる顧客)にもっと接触し、GMが強みとしている商品を選び、届けたいと考えるようになりました。同時に、ご購入いただいたあとのサービスの質をもっと高めていきたい」

若松社長はこう分析し、日本における戦略を打ち立て、収益を上げて成長することができると判断し、市場に残る意味を見出した。

商品戦略を明確に

まず、明確な商品戦略である。若松社長も述べているように、成熟した自動車社会の日本市場には、強みを備えたラグジュアリーなクルマで勝負する余地が残されているということだ。

日本市場にはラグジュアリーなクルマが勝負する余地が残されている(画像はキャデラック「エスカレード」。以下、画像提供はGMジャパン)

振り返ればフォードには、このように日本市場を検証し、練られた商品展開が欠落していた。米国的なスポーティクーペの「マスタング」があり、大型SUVの「エクスプローラー」があり、同時に欧州から小型の「フォーカス」や「フィエスタ」といった大衆的な車種を導入するなど、米国と欧州という自動車文化の区別なしに、単一のフォードの名で販売してきた。若松社長の言うような強み、あるいは、あえて選ぶべき魅力が、フォードのどこにあるかが見えにくかった。

なおかつ、欧米の交通事情と異なり、道路に必ずしも名前がなく、道案内の表示板も統一性に欠ける日本の交通事情に不可欠なカーナビゲーションへの対応も、フォードは大幅に遅れていた。クルマの良し悪しや好き嫌い以前に、選択肢から外れる装備内容であった。

新生GMが示した方向性

では具体的に、GMジャパンは、自らの強みをどう示そうとしているのか。若松社長は、ブランド全体の価値をより高め、魅力を増していくことだと話す。

米国では、連邦倒産法第11章(チャプター11)の適用後、GMは新たに、グローバルキャデラックの本社をデトロイトからニューヨークへと移した。

「キャデラックが、単なる自動車メーカーであるというより、ラグジュアリーブランドとして価値を高め、“そのブランドが提供する商品がクルマ”という方向転換をしました」

それを象徴する1つが、本社が入るビルの1階に開かれたキャデラックハウスだ。ここにはニューヨークを拠点とする「ジョー・コーヒー」と提携したカフェや、新進気鋭の若手デザイナーの活動を後押しするポップアップストア「リテールラボ」などがある。アートやカルチャーの展示スペースである「ギャラリー」では先日まで、工場で実際に使われている製造ロボットが来場者の似顔絵を描くというパフォーマンスが行われていた。

キャデラックハウスの様子

ブランド価値を日本に浸透させることが重要

「日本国内で25万台ほどのラグジュアリー車市場の、さらに2~3万台が左ハンドルのお客様であることを考えると、すごくはっきりとしたコミュニケーションが図れると思うのです。何台という販売台数は公言しませんが、新車を次々に投入し、今よりはるかに多くの台数を販売して存在感を出し、日本での地位を確立したいと考えています」

「そのなかで、既納客が多いキャデラックは、海外経験の豊富なお客様も多いので、日本だけでなく、ニューヨークやドバイ、上海などでのキャデラックの活動を情報としてお伝えしたり、110年を超えるキャデラックの歴史や、今後の方向性についても示したりしていきたいと思います」

「新しいキャデラックが掲げる『Dare Greatly』という言葉はなかなか日本語にしにくいのですが、第26代合衆国大統領セオドア・ルーズベルトが残したこの言葉は、米国に息づく不変の精神で、現状にとどまることなく、大胆に行動する人。また、何かの模倣ではなく、独自性を探求し、未知の世界への挑戦に胸を躍らせる人を言います。それはまさに、今のキャデラックを体現しています。同じ精神を持つお客様に、先進技術を詰め込んだキャデラックを伝えていきたいと考えています」

先進技術を詰め込んだキャデラックの存在感を高めたいと若松社長は語る(画像はキャデラックのセダン。右から2台目が最新の「CT6」だ)

2003年に初代が誕生した「キャデラックCTS」は、アート&サイエンスというデザイン言語で新しいキャデラック像を打ち出し、それが今日まで各キャデラック車に展開され、進化を続けている。

キャデラックという名前だけでなく、それがどのようなクルマであったり存在であったりするのか、そこを知ってもらうことがブランドの浸透の始まりになる。

新型「カマロ」に予想を上回る予約

同時にシボレーについても、情報発信や顧客との接点づくりにこの1年を費やしてきたと若松社長は話す。

例えば、この秋の発売を予定する新型「カマロ」では、1年近く前倒しで昨年12月に発表会を行い、今年2月には先行予約限定カスタムオーダーキャンペーンを実施した。また、カマロに関心のある人に対し、歴史や各世代の発売当時の市場導入ビデオを見せるなど、カマロの世界を体験してもらう「カマロ・ガレージデイズ」の催しを東京、大阪、名古屋で展開した。

「カマロ・ガレージデイズ」の様子

「カマロ・ガレージデイズをやる時が不安の頂点でした。果たしてお客様は来てくださるのか、ディーラーは見込み客の方に声をかけているか…。心配が山ほどあって、直前まで議論を重ねた上で、まずは東京で開催しました。さらにそのノウハウを反映させ改善すべく、大阪・名古屋での開催に臨みました」

「その結果、昨年12月の発表会以降の流れが予約注文に結びつき、予想以上のご注文をいただき、我々だけでなくディーラーも自信を持ち、掛け算するように自信が湧いてきています。予約をいただいているお客様に、この秋から年内の納車を目指し、米国本社と生産台数の折衝をしています。ディーラーでは、登録や納車に人手が掛かり、営業活動に支障が出ないかと心配するほどの予約台数で、そのうえさらに在庫を持ちたいとの要望も我々に届いています」

「コルベット」はスポーティーな魅力を訴求

同じシボレーの「コルベット」については、昨年11月に富士スピードウェイでドライビングアカデミーを催し、プロドライバーを招いて本コースとショートコースの走行やジムカーナ(舗装された路面でタイムを競うモータースポーツの1種)などを実施し、コルベットの潜在能力を存分に味わう機会を設けた。

イベントには「コルベット」のオーナーが集まった

「これほど数多くのコルベットが一堂に会する様子は、我々も見たことのないことでしたし、コースインの際、一斉にエンジン音がサーキットに轟いたときは独特の雰囲気がありました。平日イベントであったにもかかわらず、参加された方から、こういう催しにはいつでも来るとおっしゃっていただきました」と、若松社長は感動の面持ちで語る。

こうした活動は、若松社長の言うコア層と直接接点を持つことであり、既納客への継続的で丁寧な対応につながる。

若松社長が語る、日本市場におけるGMの強みは、キャデラックが見せる新しい時代のラグジュアリーさと、カマロやコルベットに見られる伝統的スポーツカーの醍醐味である。しかもその両車は、かつてのアメリカ車のような力任せの豪華さや豪快さでなく、例えば、ドイツのニュルブルクリンクで走り込むといった高度な速さや、洗練された快適さを両立させた先進性を備えている。

キャデラック「ATS」と「ATS-V」。インテリアにもデザインコンセプトが息づく

本社も支持するGMジャパンの姿勢

米国のGM本社による投資先を見ても、コネクティビティや自動運転、次世代動力源など、将来へ向けた手が打たれており、フォードがかつて打ち出した、今の欧米市場の交通環境にこだわった商品展開とは明らかに異なる。昨年、若松社長が語った「日本市場での存在感を高めたい」との抱負は、そうしたGM本社の将来戦略に裏付けられたものでもあると言える。

「日本市場での戦略について、10年先の目標を私が示したことに対し、グローバルキャデラックとGMインターナショナルから全面的な支援を得ています」と語った若松社長は、「今日、明日の販売台数も大切ですが、やみくもに数を追うのではなく、この先10年で責任をもって積み上げていく台数の実現へ向け、毎日活動しています」と締め括った。

乗れば分かる魅力がある

我々の身の回りには、クルマ以外の商品でいえば、iPhoneやGoogleを利用し、ラルフローレンやブルックス・ブラザーズ、カルバンクラインといったファッションを身に付け、ナイキやニューバランスなどのシューズを履き、バーニーズ・ニューヨークで買い物をし、スターバックスで一休みするといったように、米国を起点とするブランドが当たり前に存在する。

それであるのに、なぜ日本の輸入車市場は、ドイツ車一辺倒であるのか。

そのあたりを考えてみると、必ずしも国柄を前面に意識させなくても、憧れる魅力を備えたブランドが市場に浸透していく様子が見えてくる。ドイツ車の人気も、必ずしもドイツという国への憧れではなく、それぞれの銘柄が持つ印象や魅力が、消費者を惹き付けているのではないだろうか。ただし、その国の文化や風土がまったく無色透明でいいというわけでもない。そのブランドが生まれた背景は、確かに存在する。

日本市場を的確に分析し、ラインナップを絞り、そして歴史に裏付けられつつも、最新の変革をもってブランドの魅力を高めているキャデラックとシボレーを、消費者に直接訴えかける若松社長の戦略は、まだはじまったばかり。だが、国内の輸入車全体の魅力を拡げる挑戦は、非常に興味深い。“アメ車”と揶揄する言葉で語られた時代はとうの昔に過ぎ去り、ドイツ車一辺倒ともいえる国内輸入車市場に、GMが風穴を開けるときがくるのではないだろうか。

古きよきアメリカ車の魅力も捨てがたいが、GMには“アメ車”のイメージチェンジにもトライしてもらいたい(画像はキャデラックATSクーペ)

まずは、食わず嫌いせず、最新のキャデラックやシボレーに乗ってみることだ。目から鱗が落ちるに違いない。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

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一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。