ドイツ車が席巻する輸入車市場で輝く方法は? GMジャパン社長に聞く

ドイツ車が席巻する輸入車市場で輝く方法は? GMジャパン社長に聞く

2017.05.22

米フォードが日本から撤退した同じ年に、ゼネラルモーターズ・ジャパン(以下、GMジャパン)の社長に就任した若松格(わかまつ・ただし)氏。2016年8月の就任から在任期間は1年に満たないが、インタビューの機会を得たので、この間の成果と手応え、そして将来の展望を尋ねた。ドイツ車が席巻する日本の輸入車市場で存在感を高めるのは容易ではないが、若松社長はこれからのGMジャパンについて何を思うのか。

GMインターナショナルで東南アジア12カ国のディストリビューター事業の統括責任者を務めた後、2016年8月にGMジャパンの社長に就任した若松格氏。「存在感を高めたい」と抱負を語った同氏は今、何を思うのか

日本市場をどう見ているのか

日本自動車輸入組合(JAIA)の統計によれば、フォードは撤退の前年となった2015年に4477台を日本で販売している。一方、GMジャパンの同じ年の販売台数は、キャデラックとシボレーを合わせても1508台だ。

つまり、フォードはGMジャパンの3倍近くもクルマを販売していたことになる。にも関わらず、「日本における事業には今後、収益性に向けた合理的な道筋が立たず、また我々の投資に対して十分なリターンは見込めないと判断」し、日本から撤退した。では、GMジャパンはなぜ、日本に残る道を選べたのだろうか。ここからは、若松社長の言葉も織り込みつつ話を進めていきたい。

まず日本の自動車市場は、GMの目にどう映るのか。世界1位の中国は2016年に2800万台、2位の米国は1755万台で、EUは1464万台の大きな市場である。これに対し、日本市場は年間500万台規模でしかない。

「前職のGMインターナショナルで俯瞰して見た場合、日本は500万台市場と言われ、その中で何台売るかということに目を奪われがちでした。しかし、今の私は目指すべきところが明確に見えています」。若松社長は言葉を続ける。

日本市場について語る若松社長

「500万台の中身を見ると軽自動車があり、販売価格が300万円以下のクルマが多い。その中でハイブリッド車や5ナンバーミニバンが気になり、日本市場のコモディティ化(差別化が困難な一般化)が心配になりました。それから、クルマを持たず、たまにレンタカーを借りればいいというクルマ離れも気掛かりでした」

「そうした全体像に対し、ラグジュアリー車は25万台くらいの販売で、少しずつですが伸びています。また帰国してから、正規ディーラーネットワーク(特約契約を結ぶ販売業者)や、ACデルコ(ACDelco、自動車部品ブランド)の取扱店を回り、あるいは週末のクルマイベントを訪ねてみると、日本の自動車社会が成熟している様子に気づかされたのです」

「GMインターナショナルでの仕事は、発展途上の市場で販売台数を伸ばすことでしたが、成熟した日本では、コア層(中核となる顧客)にもっと接触し、GMが強みとしている商品を選び、届けたいと考えるようになりました。同時に、ご購入いただいたあとのサービスの質をもっと高めていきたい」

若松社長はこう分析し、日本における戦略を打ち立て、収益を上げて成長することができると判断し、市場に残る意味を見出した。

商品戦略を明確に

まず、明確な商品戦略である。若松社長も述べているように、成熟した自動車社会の日本市場には、強みを備えたラグジュアリーなクルマで勝負する余地が残されているということだ。

日本市場にはラグジュアリーなクルマが勝負する余地が残されている(画像はキャデラック「エスカレード」。以下、画像提供はGMジャパン)

振り返ればフォードには、このように日本市場を検証し、練られた商品展開が欠落していた。米国的なスポーティクーペの「マスタング」があり、大型SUVの「エクスプローラー」があり、同時に欧州から小型の「フォーカス」や「フィエスタ」といった大衆的な車種を導入するなど、米国と欧州という自動車文化の区別なしに、単一のフォードの名で販売してきた。若松社長の言うような強み、あるいは、あえて選ぶべき魅力が、フォードのどこにあるかが見えにくかった。

なおかつ、欧米の交通事情と異なり、道路に必ずしも名前がなく、道案内の表示板も統一性に欠ける日本の交通事情に不可欠なカーナビゲーションへの対応も、フォードは大幅に遅れていた。クルマの良し悪しや好き嫌い以前に、選択肢から外れる装備内容であった。

新生GMが示した方向性

では具体的に、GMジャパンは、自らの強みをどう示そうとしているのか。若松社長は、ブランド全体の価値をより高め、魅力を増していくことだと話す。

米国では、連邦倒産法第11章(チャプター11)の適用後、GMは新たに、グローバルキャデラックの本社をデトロイトからニューヨークへと移した。

「キャデラックが、単なる自動車メーカーであるというより、ラグジュアリーブランドとして価値を高め、“そのブランドが提供する商品がクルマ”という方向転換をしました」

それを象徴する1つが、本社が入るビルの1階に開かれたキャデラックハウスだ。ここにはニューヨークを拠点とする「ジョー・コーヒー」と提携したカフェや、新進気鋭の若手デザイナーの活動を後押しするポップアップストア「リテールラボ」などがある。アートやカルチャーの展示スペースである「ギャラリー」では先日まで、工場で実際に使われている製造ロボットが来場者の似顔絵を描くというパフォーマンスが行われていた。

キャデラックハウスの様子

ブランド価値を日本に浸透させることが重要

「日本国内で25万台ほどのラグジュアリー車市場の、さらに2~3万台が左ハンドルのお客様であることを考えると、すごくはっきりとしたコミュニケーションが図れると思うのです。何台という販売台数は公言しませんが、新車を次々に投入し、今よりはるかに多くの台数を販売して存在感を出し、日本での地位を確立したいと考えています」

「そのなかで、既納客が多いキャデラックは、海外経験の豊富なお客様も多いので、日本だけでなく、ニューヨークやドバイ、上海などでのキャデラックの活動を情報としてお伝えしたり、110年を超えるキャデラックの歴史や、今後の方向性についても示したりしていきたいと思います」

「新しいキャデラックが掲げる『Dare Greatly』という言葉はなかなか日本語にしにくいのですが、第26代合衆国大統領セオドア・ルーズベルトが残したこの言葉は、米国に息づく不変の精神で、現状にとどまることなく、大胆に行動する人。また、何かの模倣ではなく、独自性を探求し、未知の世界への挑戦に胸を躍らせる人を言います。それはまさに、今のキャデラックを体現しています。同じ精神を持つお客様に、先進技術を詰め込んだキャデラックを伝えていきたいと考えています」

先進技術を詰め込んだキャデラックの存在感を高めたいと若松社長は語る(画像はキャデラックのセダン。右から2台目が最新の「CT6」だ)

2003年に初代が誕生した「キャデラックCTS」は、アート&サイエンスというデザイン言語で新しいキャデラック像を打ち出し、それが今日まで各キャデラック車に展開され、進化を続けている。

キャデラックという名前だけでなく、それがどのようなクルマであったり存在であったりするのか、そこを知ってもらうことがブランドの浸透の始まりになる。

新型「カマロ」に予想を上回る予約

同時にシボレーについても、情報発信や顧客との接点づくりにこの1年を費やしてきたと若松社長は話す。

例えば、この秋の発売を予定する新型「カマロ」では、1年近く前倒しで昨年12月に発表会を行い、今年2月には先行予約限定カスタムオーダーキャンペーンを実施した。また、カマロに関心のある人に対し、歴史や各世代の発売当時の市場導入ビデオを見せるなど、カマロの世界を体験してもらう「カマロ・ガレージデイズ」の催しを東京、大阪、名古屋で展開した。

「カマロ・ガレージデイズ」の様子

「カマロ・ガレージデイズをやる時が不安の頂点でした。果たしてお客様は来てくださるのか、ディーラーは見込み客の方に声をかけているか…。心配が山ほどあって、直前まで議論を重ねた上で、まずは東京で開催しました。さらにそのノウハウを反映させ改善すべく、大阪・名古屋での開催に臨みました」

「その結果、昨年12月の発表会以降の流れが予約注文に結びつき、予想以上のご注文をいただき、我々だけでなくディーラーも自信を持ち、掛け算するように自信が湧いてきています。予約をいただいているお客様に、この秋から年内の納車を目指し、米国本社と生産台数の折衝をしています。ディーラーでは、登録や納車に人手が掛かり、営業活動に支障が出ないかと心配するほどの予約台数で、そのうえさらに在庫を持ちたいとの要望も我々に届いています」

「コルベット」はスポーティーな魅力を訴求

同じシボレーの「コルベット」については、昨年11月に富士スピードウェイでドライビングアカデミーを催し、プロドライバーを招いて本コースとショートコースの走行やジムカーナ(舗装された路面でタイムを競うモータースポーツの1種)などを実施し、コルベットの潜在能力を存分に味わう機会を設けた。

イベントには「コルベット」のオーナーが集まった

「これほど数多くのコルベットが一堂に会する様子は、我々も見たことのないことでしたし、コースインの際、一斉にエンジン音がサーキットに轟いたときは独特の雰囲気がありました。平日イベントであったにもかかわらず、参加された方から、こういう催しにはいつでも来るとおっしゃっていただきました」と、若松社長は感動の面持ちで語る。

こうした活動は、若松社長の言うコア層と直接接点を持つことであり、既納客への継続的で丁寧な対応につながる。

若松社長が語る、日本市場におけるGMの強みは、キャデラックが見せる新しい時代のラグジュアリーさと、カマロやコルベットに見られる伝統的スポーツカーの醍醐味である。しかもその両車は、かつてのアメリカ車のような力任せの豪華さや豪快さでなく、例えば、ドイツのニュルブルクリンクで走り込むといった高度な速さや、洗練された快適さを両立させた先進性を備えている。

キャデラック「ATS」と「ATS-V」。インテリアにもデザインコンセプトが息づく

本社も支持するGMジャパンの姿勢

米国のGM本社による投資先を見ても、コネクティビティや自動運転、次世代動力源など、将来へ向けた手が打たれており、フォードがかつて打ち出した、今の欧米市場の交通環境にこだわった商品展開とは明らかに異なる。昨年、若松社長が語った「日本市場での存在感を高めたい」との抱負は、そうしたGM本社の将来戦略に裏付けられたものでもあると言える。

「日本市場での戦略について、10年先の目標を私が示したことに対し、グローバルキャデラックとGMインターナショナルから全面的な支援を得ています」と語った若松社長は、「今日、明日の販売台数も大切ですが、やみくもに数を追うのではなく、この先10年で責任をもって積み上げていく台数の実現へ向け、毎日活動しています」と締め括った。

乗れば分かる魅力がある

我々の身の回りには、クルマ以外の商品でいえば、iPhoneやGoogleを利用し、ラルフローレンやブルックス・ブラザーズ、カルバンクラインといったファッションを身に付け、ナイキやニューバランスなどのシューズを履き、バーニーズ・ニューヨークで買い物をし、スターバックスで一休みするといったように、米国を起点とするブランドが当たり前に存在する。

それであるのに、なぜ日本の輸入車市場は、ドイツ車一辺倒であるのか。

そのあたりを考えてみると、必ずしも国柄を前面に意識させなくても、憧れる魅力を備えたブランドが市場に浸透していく様子が見えてくる。ドイツ車の人気も、必ずしもドイツという国への憧れではなく、それぞれの銘柄が持つ印象や魅力が、消費者を惹き付けているのではないだろうか。ただし、その国の文化や風土がまったく無色透明でいいというわけでもない。そのブランドが生まれた背景は、確かに存在する。

日本市場を的確に分析し、ラインナップを絞り、そして歴史に裏付けられつつも、最新の変革をもってブランドの魅力を高めているキャデラックとシボレーを、消費者に直接訴えかける若松社長の戦略は、まだはじまったばかり。だが、国内の輸入車全体の魅力を拡げる挑戦は、非常に興味深い。“アメ車”と揶揄する言葉で語られた時代はとうの昔に過ぎ去り、ドイツ車一辺倒ともいえる国内輸入車市場に、GMが風穴を開けるときがくるのではないだろうか。

古きよきアメリカ車の魅力も捨てがたいが、GMには“アメ車”のイメージチェンジにもトライしてもらいたい(画像はキャデラックATSクーペ)

まずは、食わず嫌いせず、最新のキャデラックやシボレーに乗ってみることだ。目から鱗が落ちるに違いない。

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。