日本市場はガラパゴス化?パーソナルモビリティに取り組む内外企業の思惑【後編】

日本市場はガラパゴス化?パーソナルモビリティに取り組む内外企業の思惑【後編】

2016.01.29

公道走行に関する規制緩和は遅々として進まないものの、日本の自動車メーカーも長年にわたり一人乗り移動機器(パーソナルモビリティ、以下:PM)の開発に取り組んでいる。トヨタ自動車と本田技研工業が目指すのは、人間が活動する空間に調和するPMの商品化。両社がロボット開発のノウハウをPMに活用している点にも注目だ。市場投入の時期について確たる方針は聞けなかったものの、2020年の東京オリンピックまでには、日本製PMを世界に向けて発信したいというのが両社に共通する思いのようだ。

パートナーロボット部でPMを開発するトヨタ

トヨタが開発しているPMの「ウィングレット」は、セグウェイと同じく倒立振子制御でバランスをとる。ウィングレットは移動支援ロボットという位置づけで、同社のパートナーロボット部が開発を担う。トヨタがウィングレットで狙うのは、歩行空間における人との調和だ。

ウィングレットにはベーシックなロングタイプ(写真右)とスポーティなショートタイプがある

ウィングレットの幅は肩幅サイズで、乗車時に足を置くボード部分の面積も人が立っている時と同じくらいに設計してある。タイヤが小さいためセグウェイのようなオフロード走行は難しいが、その分だけ乗る人の目線は低く抑えられる。展開先は大型施設の中や屋外などを想定。トヨタでは事故防止・渋滞緩和の観点から歩車分離が進んでいくとみており、歩行空間が広がればウィングレットの走行可能スペースも拡大していくものと考えているようだ。

■ウィングレットの仕様

  • 高さ:116.7cm
  • 幅:49.6cm
  • 巡航速度:時速6km
  • 航続距離:約4.5km

購入できないのが不思議なくらいの完成度

トヨタがウィングレットのコンセプトモデルを発表したのは2008年のこと。現在は開発段階の製品だが、愛知県の「豊田市パーソナルモビリティ実験特区」では通勤手段としての利用などを想定した実証実験を実施中。東京・江東区にあるトヨタのショールーム「メガウェブ」では一般向けに試乗の機会を提供している。

実際に乗ってみると、体重移動によるウィングレットの動作はスムーズで、ゲーム形式の試乗を終える頃には小刻みなターンもこなせるくらいに運転が上達していた。実機の完成度は高く、本来であれば市場に出回っていても不思議ではないレベルの乗り物だと感じたが、PMの公道走行が不可能な日本市場では需要が見通せず、トヨタとしても発売の決断を下すには至っていないようだ。

トヨタ パートナーロボット部 モビリティプロジェクト モビリティグループ 主幹の覚知氏(写真左)

発売の見通しが立たない製品をトヨタが開発し続けるのはなぜか。ウィングレットの開発を手掛けるトヨタの覚知誠氏は、ウィングレットが社会を豊かにする製品だという信念が開発を続ける理由だと説明した。トヨタではウィングレットを既存の乗り物に代わる存在と捉えず、まったく新しいモビリティと位置づけてさまざまな利用シーンを探っている。市場投入を決めた場合は、一般消費者向けと企業・団体向けの双方で販売が可能とみる。トヨタはウィングレットとロボットの融合も視野に入れている模様。覚知氏は「(パートナーロボット部で保有する)要素技術は豊富にあるので、何を落とし込んでいくか考えたい」と語った。ウィングレットの普及に向けては、シェアリングの活用も有効な手段と見ている。

メガウェブで見たシェアリングの事業モデル

トヨタは実際に、メガウェブでウィングレットのシェアリングを試している。ウィングレットに試乗し、インストラクターによる講習を受けた人にICカード(パス)を発行するシステムで、パスの保有者はメガウェブ内のステーションでウィングレットを借りることができる。取得時にテストを通過する必要があるため、パスはウィングレットの運転に慣れた人にしか出回らない仕組みとなっている。この方法でウィングレットのシェアリング事業を展開すれば、素人が運転することで起こりうる事故のリスクは低減できそうだ。

人との親和性を追求するホンダ

人がいる空間との親和性を徹底的に追求し、ホンダが世に問うPMが「ユニカブ」だ。ASIMOを手掛けるホンダは、ロボットのバランス制御技術を応用してPMを開発している。ユニカブは座って乗るのが特徴で、当然ながら乗車時の目線は椅子に座っているのと同じくらい低い。機体は肩幅に収まる寸法で、少しくらい込み合う場所でユニカブに乗っても、歩行者の足を踏む危険性はほとんどなさそうにみえる。歩行者にぶつかりそうになった場合は、足を着くことですぐに走行を止めることが可能だ。ハンドルを握る必要がないため、例えばユニカブに乗ったまま写真を撮るといったような場面も想像しやすい。

カブ(写真奥)の親しみやすさにあやかったネーミングのユニカブ。ペンギンに例えられるポップなデザインも特徴だ

ユニカブは前輪(主輪)にホンダ独自技術の全方位駆動車輪機構(Honda Omni Traction System)を搭載している。横方向の小さなタイヤを数珠繋ぎにし、縦方向の大きなタイヤを形づくるような技術で、この前輪と旋回用の後輪のレイアウトにより、ユニカブは前後、横、斜めのあらゆる方向に移動できる。

■ユニカブの仕様

  • 高さ:74.5cm
  • 幅:34.5cm
  • 最高速度:時速6km
  • 航続距離:6km

実際に乗ってみると、上体を傾けるか傾けないかの時点で思い通りの方向に動き出すユニカブの動作にまずは驚いた。直感的に走行できるため、狭い所も意のままに通り抜けられた。いつでも足を着いて止まることができるユニカブの安心感も特筆すべきで、乗車時に怖さは一切感じなかった。

屋外を含むさまざまな利用シーンを想定

ユニカブの原型となったのは、1989年のホンダ社内イベント(アイデアコンテスト)に登場したPM。このアイデアをきっかけにホンダは開発を進め、2011年にはユニカブのプロトタイプを公開した。2015年1月現在、ユニカブのステータスはテストマーケティング段階に入っている。ホンダではユニカブの利用シーンや需要を見極める一方で、さまざまな事業者から意見を募り、改善点の洗い出しや新機能の検討も同時に進めている。ユニカブの導入先としては、空港や大型ショッピングモールなどを想定。屋外での使用にも対応する方針だが、法規制の関係上、現時点ではユニカブも日本の公道を走行することができない。

ホンダ 四輪事業本部 事業企画統括部 スマートコミュニティ企画室 ビジネス開発ブロックの福里氏

ユニカブの市場投入の時期は決まっていないが、ホンダでユニカブに取り組む福里有陽氏は、2020年の東京オリンピックまでには日本製PMを世界に向けて発信したいとの考えを示した。販売先としては一般向けも含めて検討していく。ホンダがユニカブで狙うのは、自動車や二輪車といった既存の乗り物とは違う新たな市場の開拓だ。

燃料電池車を中心とするエコシステムの一部として提案

ユニカブを世界に提示する方法の1つとして、ホンダは燃料電池車を中心とするエコシステムにユニカブを組み込む道を探っている。燃料電池車が水素と酸素から作り出した電気をユニカブに給電し、ユニカブを「ラストワンマイルを埋める」(福里氏)乗り物として使うような考え方だ。ホンダは2015年12月、フランスのパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の関連行事でブースを出展。ユニカブを組み込んだエコシステムの展示を行ったところ、反応は上々だったという。ユニカブの海外展開についても、今後は積極的に検討していく方針だ。

ユニカブの使い方に様々なアイデア

ホンダはユニカブとITの連携を見越して、ネット接続で広がるユニカブの様々な利用シーンについて考えを巡らせている。例えば展示会や大型ショッピングモールでは、ユニカブに推奨ルートを送ることで乗り手の移動をサポートする案や、ユニカブの軌跡(動線)をビッグデータとして収集し、展示会の出展者やショッピングモールのテナントに情報を活用してもらうといった使い方を想定。空港での展開としては、あらかじめユニカブに搭乗時間をセットすることで、乗り手が飛行機に遅れないようサポートする仕組みも実装可能とみる。

ユニカブと自動運転の組み合わせにも多くの可能性がありそうだ。任意の場所でユニカブを呼び出すことができれば、最寄駅と自宅の往復などにユニカブを利用するユーザーが出てくるかもしれない。シェアリングで利用する場合も、乗り捨てたユニカブが自動運転でステーションに戻れば便利だ。

日本製PMの将来を左右する規制緩和の行方

ウィングレットもユニカブも完成度は高いが、公道走行解禁の見通しが立たない日本では、市場投入の是非を検討するのも難しいというのがメーカー側の実情だろう。日本企業が市場投入をためらっている間に、海外勢によるPM関連のイノベーションが急速に進んでしまえば、日本のPM市場がガラパゴス化したり、日本製PMが陳腐化してしまったりする危険性も高まる。日本でPMが流行るかどうかは未知数だが、メーカーには海外での先行販売も含めた事業展開を期待したいところだ。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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