スプリントとクアルコムが5Gで提携、孫正義氏の本当のもくろみ

スプリントとクアルコムが5Gで提携、孫正義氏の本当のもくろみ

2017.05.22

ソフトバンクグループは5月10日、傘下の携帯電話事業者である米スプリントと、クアルコムとの3社により、2.5GHz帯における5Gの技術を共同開発することで合意したと発表。2019年にはこの規格に対応したサービスと端末を提供する予定であることを明らかにした。その裏にはソフトバンクグループが狙う、米携帯電話市場の再編が影響しているのではないか。

ARMがつないだ縁でクアルコムとの共同開発を実現

携帯電話業界ではここ最近、現在主流の通信方式である「4G」と呼ばれるLTE-Advancedの、次の通信方式となる「5G」に関する取り組みが大きく盛り上がってきている。そうした中、ソフトバンクグループは5Gに関して新たな取り組みを実施することを発表した。

といっても、それは日本国内で展開する同社傘下の通信会社、ソフトバンクに関してではない。同じくソフトバンクグループが傘下に持つ米スプリントに関してだ。ソフトバンクグループはスプリント、そして米半導体大手のクアルコムと提携し、スプリントが持つ2.5GHz帯における5Gの技術を共同開発することで合意したことを発表したのだ。さらに2019年には、2.5GHz帯を用いて5Gによるサービスと端末を提供するとしている。

ソフトバンクグループと傘下のスプリントは、クアルコムと2.5GHz帯の5G対応に関する技術の共同開発を進めることで合意。2019年のサービス開始を目指すとしている

確かにスプリントが保有する2.5GHz帯は、米国全土で平均120MHz幅もの帯域幅があることから、帯域幅の広さが求められる高速通信を実現する上では優位性がある。しかし一方で2.5GHz帯は、850MHz帯や1.9GHz帯など、現在米国で多く利用されている他の帯域と比べると周波数が高く、その分建物の裏に回り込みにくいなど扱いにくい帯域でもある。

だが5Gでは、通信速度向上のため6GHz、30GHzといったより高い周波数帯の活用が検討されており、それらと比べれば2.5GHz帯は低い帯域だともいえる。それだけに今回のクアルコムとの提携は、スプリントが豊富に持つ2.5GHz帯を有効活用し、5Gのサービス展開を優位に進める上で、重要な意味を持つことは確かであろう。

ちなみにソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏は、5月10日の決算会見において、クアルコムとの提携はARMを買収したからこそ実現できたと話している。クアルコムが提供している主力のチップセット「Snapdragon」シリーズはARMの技術を多く用いていることから、クアルコムにとってARMは重要な取引先でもある。それゆえソフトバンクグループがARMを買収したことでクアルコムとの交渉がしやすくなり、それがスプリントとの提携へと結びついているようだ。

今回の提携は、ソフトバンクグループがクアルコムの主要取引先であるARMを買収したことが大きく影響していると、孫氏は話している

なぜ共同開発は米国事業に限られているのか

だがよくよく考えてみると、2.5GHz帯はスプリントだけでなく、やはりソフトバンクグループ傘下で、国内で通信事業を展開しているWireless City Planningが保有しており、同社はこの帯域を使ってTD-LTE互換のAXGP方式によるサービスを提供している。そしてソフトバンクはWireless City Planningから回線を借り、「Softbank 4G」としてサービスを展開していることから、2.5GHz帯は日本の事業においても非常に縁のある存在でもあるのだ。

ソフトバンクが「Softbank 4G」として提供しているサービスには、Wireless City Planningが保有する2.5GHz帯のネットワークが用いられている

にもかかわらず、今回のクアルコムとの提携は、あくまでスプリントに限られるものとなり、日本のソフトバンクはこの枠組みの中に入っていない。将来的には共同開発によるノウハウが国内でも活用される可能性はあるかもしれないが、同じ周波数帯を持つグループ企業が参加していないというのは、やや不可思議な印象も受ける。

なぜ、2.5GHz帯に関するクアルコムとの提携が、スプリントだけに限られているのだろうか。そこにはソフトバンクグループが、スプリントを軸とした米携帯電話市場の再編を狙っていることが、大きく影響しているのではないかと筆者は見る。

孫氏は5月10日の決算説明会の場で、米国の政権が変わり規制緩和の機運が高まっていることを機として、一度断念した米国の携帯電話市場再編に、再び挑戦する意向を示している。その主軸となるのはもちろんスプリントだ。

孫氏は以前画策していたような、Tモバイルの米国法人など他社の買収だけでなく、スプリントの他社への売却など、相手や手段を限定することなく、スプリントを軸とした再編を実施したい考えのようだ。そしてソフトバンクグループは、再編に向けた交渉を優位に進めるためにも、以前は「誰も買ってくれなかった」ほど悪化していたスプリントの業績を回復させるとともに、将来性のある魅力的な企業であることをアピールし、企業価値を向上させる必要があるのだ。

2.5GHz帯の有用性アピールは米携帯市場再編に必須

前者に関しては、徹底したコストカットやネットワークの改善などによって、業績回復の道筋が見えてきている。だが一方で、スプリントが業績回復に時間を費やす間、ベライゾンやAT&Tなど他のキャリアはコンテンツ企業への投資を進めるなどして、将来の事業拡大に向けた布石を打ってきている。それだけに、スプリントの事業の将来性については、現在もなお疑問符が付けられている状況なのだ。

そこでスプリントが将来にわたって高い価値を持つ企業であることをアピールするためにも、クアルコムの提携による5Gへの取り組みを打ち出し、スプリントの貴重な財産でもある2.5GHz帯を活用した“進化”をアピールする必要があった。それがソフトバンクグループの本音といえるのではないだろうか。

実際孫氏は先の決算会見において、クアルコムとの提携以外にも、スプリントが持つ2.5GHz帯の有効活用を強く打ち出す様子が見られた。それはユーザーが利用する端末の電波出力を上げることで、電波環境を改善する「HPUE」(High Power User Equipment)という技術を、2.5GHz帯に導入したことである。

スプリントは端末の電波出力を上げ、電波環境を改善する「HPUE」を、2.5GHz帯に導入したことも明らかにしている

HPUEはTD-LTE方式を推進するGTI(Global TD-LTE Initiative)によって標準化がなされているもので、GTIに参加しているソフトバンクグループが、HPUEの標準化にとても力を入れてきた経緯がある。孫氏はHPUEを導入することで、2.5GHz帯のエリアカバーが、より低い帯域である1.9GHz帯の99%に達すると話していることから、HPUEの導入によって2.5GHz帯の価値を高め、それを多く保有するスプリントの企業価値高めたい狙いが、ソフトバンクグループにはあるといえよう。

もちろん、2.5GHz帯が魅力的であることを知らしめるためには、アピールだけでなく実績が求められる。スプリント、ひいてはソフトバンクグループには今後、2.5GHz帯の活用がネットワーク改善に大きく貢献するかという実績作りが必要になってくるだろう。もしそれができなければ、目指す米携帯電話市場の再編にも疑問符が付けられることになるかもしれない。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。