ソニー、今期の営業利益5000億円に強気なワケ

ソニー、今期の営業利益5000億円に強気なワケ

2017.05.24

平井一夫社長体制として2回目の中期経営計画となる「第二次中期経営計画」では、最終年度となる2017年度の経営数値目標として、ROE10%以上、営業利益5000億円以上を掲げている。

平井社長は、「2017年度は結果にこだわる重要な年である」と宣言し、中期経営計画の経営数値目標の達成を最重点テーマに位置づける。

先頃発表した2016年度の連結業績では、営業利益が前年比1.9%減の2887億円。2017年度の営業利益5000億円に到達するには、前年比73.2%増という高い成長率を達成しなくてはならない。2000億円以上の上乗せが必要だ。

平井社長は、ソニーが営業利益5000億円を突破したのは、1997年度に5257億円を計上したときの一度だけであることを示しながら、「これは、20年ぶりの利益水準であり、経営陣や社員にとっては大きな挑戦である」とコメントする一方で、「この5年間の取り組みにより、この目標を十分に狙えるだけの力がついてきた」と自信をみせる。そして、「社員が目を輝かせ、未来に向けて、新たなことに挑戦する自信と元気に満ちたソニーが戻ってきた実感がある」と付け加えてみせた。

営業利益5000億円達成に向けては、全部門での黒字化を前提とするのはもちろん、それぞれの事業において、力強く成長戦略を達成する必要がある。

それは、主に5つの事業分野における成長戦略の実行に集約されよう。

PSのネットワークビジネス 有料会員サービスの強化の成長がカギ

ひとつめは、「利益成長を牽引する最大のドライバー」と平井社長が位置づける「ゲーム&ネットワークサービス分野」で、前年比25.4%増の1700億円を見込んでいる点だ。

平井社長は、「プレイステーションビジネスは、引き続き好調であり、PS4 Pro、PS VRの導入にも成功した。2017年度はPS4で1800万台の販売を予定し、2017年度末には7800万台の累計販売台数に達することになる」と語り、「1993年に生まれたこの事業が2兆円の売上げ規模となり、収益でもグループの柱に成長したことは、ソニーグループの大きなマイルストーンである」と自信をみせる。

PS4は、2014年2月の発売以来、3年を経過し、「プラットフォームが収穫期を迎えている」(平井社長)なかで、従来のプラットフォームと異なるのは、ソフトウェアタイトルによる収穫だけでなく、ネットワークサービスによる収穫が加わっている点だ。

平井社長が明らかにしたプレイステーションネットワークの月間アクティブユーザー数は7000万人。PS4だけでみると、プラットフォーム上での全アクティブユーザーの1週間の合計滞在時間は6億時間以上になるという。

平井社長は、「ネットワークビジネスの収益拡大が、事業全体の安定した収益創出に貢献することになる。その大きな鍵となるのが、有料会員サービスのPS Plusになる。この会員数を伸ばすために、サービス内容を強化する。ロイヤルカスタマーの拡大を中心としたエンゲージメントを強め、PS4のエコシステムを拡充することで、収益に貢献することを期待している」と語る。

また、PS VRは、2016年10月の発売直後は、全世界で品薄が続いていたが、2017年2月から増産を開始。対応ゲームは100を超えており、ノンゲームコンテンツの開発も積極的に推進しているという。

「The Chainsmokersの最新ヒット曲であるParisのミュージックビデオは、VRの技術を生かしたもので、PS VR専用のコンテンツとしてダウンロードできる。従来のプレイステーションのユーザーのみならず、アーティストのファンからも好評を博している」とし、ゲームユーザー以外を取り込んで動きにもつながっていることも示した。

収益領域の拡大は、ゲーム&ネットワークサービス分野の成長を支えているのは明らかだ。

安定成長目指す金融

2つめが、「長年に渡り、グループ最大の収益貢献をしてきた」と位置づける金融分野だ。2017年度には、ゲーム&ネットワークサービス分野と同じ1700億円の営業利益を目指す。対前年成長率は2.2%増と安定成長を目指す。

「金融分野は、顧客とのラストワンインチの接点を有するソニーブランドを生かしたリカーリング型サービス事業であり、安定的な高収益を堅持している。既存業界にソニーが参画することで変革をもたらす、イノベーションのDNAをもった事業でもある。ソニーが中長期戦略で重視しているポイントを複数備えている重要な事業だと捉えている」と語る。

ここも安定事業として、収益貢献に寄与するのは明らかだ。

半導体、市場環境の変化への対応・集中領域の見極め重要

手放しで評価できるこの2つの事業と比較し、課題が見え隠れするのが、このあとに触れる3つの事業だ。

最初が半導体事業である。ここでの大幅な収益改善は、5000億円達成に向けた重要な鍵になる。2017年度の営業利益見通しは、前年度の78億円の赤字から、1200億円の黒字へと大幅な改善を見込む。

平井社長は、「熊本テックが熊本地震により、デジタルカメラ、監視カメラ向けのイメージセンサーを中心に生産活動ができない苦しい時期があった。また、2015年度後半にはハイエンドを中心としたスマホの成長鈍化の影響から、販売が低迷し、業績が急速に悪化した」と、これまでの低迷について説明。

「だが、大きな損失を計上したカメラモジュール事業では、2016年度に抜本的な構造改革に取り組み、熊本テックの外販向け高機能カメラモジュール事業の開発、製造の中止、中国・広州の工場売却を実施した。中国系スマホメーカーとともに拡販活動に取り組み、2016年度後半から業績に効果として表れている。スマホを取り巻く環境をみると、複眼化の加速、フロントカメラの高画質化、動画性能の重視といったトレンドがある。これはソニーの強みが発揮できる高性能な製品領域が拡大していることを意味しており、今期は大幅な収益改善を見込み、グループ全体への収益貢献も見込んでいる」とする。

熊本地震の影響がなくなること、複眼化の加速がプラス要素になること、さらには、カメラモジュール事業の中国工場の売却益で270億円も加わるといった要素も増益に寄与する。

さらに、平井社長は、「性能、歩留まり、品質では世界一の評価を得ている。しかし、生産リードタイムや製造コストではまだ改善すべき点がある。車載向けを含めて将来に必要な投資を行っていく。さらなる高収益事業を目指す」と語る。

半導体部門への設備投資は、同部門全体で2017年度に1300億円を見込んでいるが、そのうちイメージセンサーで1100億円を計画。300ミリウェハー換算で、月産8万8000枚の体制を、2017年度中に、10万枚まで増加させる計画を打ち出している。

「デバイス領域では、環境変化への対応スピードと、強みのある事業へのフォーカスが必要である」と平井社長も指摘するように、この分野は市場環境の変化が激しい。この数年は、その変化に対応できず、業績を悪化。そこに熊本地震の影響が追い打ちをかけた。だが、2017年度には、これらの課題が解決できたと、平井社長は判断しているようだ。それが目論見通りにいくかどうかが注目点といえる。高い利益成長を見込む半導体事業が、営業利益5000億円達成の重要な鍵を握ることは間違いない。

映画事業、収益体質の確立に向け1からのスタート

4つめは、「喫緊の課題として認識している」と平井社長が語る映画分野だ。

2016年度に1121億円の営業権の減損を計上し、805億円の赤字を計上したが、2017年度はこれが無くなることもあり、390億円の黒字を目指す。

「映画分野はソニーにとって重要な事業だと位置づけており、映画制作事業の収益改善に向けた施策の遂行に優先度をあげて取り組んでいる。ネットワークが進化し、映像コンテンツの楽しみ方が多様化するなかで、魅力的なコンテンツに対する需要はかつてないほどに高まっている。コンテンツクリエイターと強固な関係を築き、質の高いコンテンツを作り出す」とする。

説明会に臨むソニー平井社長

だが、「2017年度の利益見通しは、中期経営計画の立案当初の水準を大きく下回るものであり、この問題を大きく受け止めている」と、平井社長は語る。

ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの会長兼CEOにアンソニー・ヴィンシクエラ氏を招へい。「米国のエンタテインメント業界において素晴らしい実績をあげてきた人物であり、技術のトレンドやグローバルな市場環境の変化についても高い見識を持っている。また、チームビルディングを重んじており、彼ならソニー・ピクチャーズのマネジメントや社員のベクトルをひとつにして、この事業の再生を実現してくれる」と期待する。平井社長自らが人選したヴィンシクエラ氏による再生が、この6月からスタートすることになる。

「事業モデルの性質から、結果を出すには一定の時間を要するが、腰を据えて、変革に取り組み、高い収益を創出する事業へと転換させていく」と、平井社長は意気込む。

映画事業は収益体質の確立に1から取り組むという段階にあり、長期的視点での体質改善に挑むことになる。

そして、最後が、収益性が悪化しているモバイル・コミュニケーションである。

スマホは最新技術で差別化、収益を高める

エレクトロニクス事業は、2016年度第4四半期連結業績で、6セグメントの合計で黒字化。これは、1997年度以来、19年振りのことであり、回復基調にあることを裏付けている。

「長年苦戦をしてきたコンシューマエレクトロニクスが再生し、安定的な収益貢献が期待できる事業になってきた」と、平井社長は期待を寄せる。

だが、その一方で、「コンシューマエレクトロニクス事業全体を見渡した時に、スマートフォン事業の収益性にはまだ課題が残っている」と、平井社長は指摘する。

モバイル・コミュニケーション分野の2016年度の業績は102億円の営業黒字。2017年度は50億円の黒字を見込む。

「徹底した構造改革と、商品および販売地域の絞り込みにより、2016年度の黒字化を達成。商品力、オペレーション力を着実に向上していると実感している。最も顧客接点が多い『ラストワンインチ』の商品であり、カメラ技術を中心に、ソニーの最新技術を詰め込むことで、違いが出しうる事業だと考えている」とする。そして、「2017年度は、IoTなどの新規領域の開拓と合わせて、急速な環境変化にも迅速に対応できるような慎重な事業運営を行っていく」とした。

継続的成長のため必要 リカーリング型ビジネスの拡大

一方で、平井社長は、「2017年度は、通過点に過ぎず、今後も持続的に発展していく必要がある。持続的に高収益を創出し、新たな価値を提供し続ける企業を目指す」と述べ、営業利益5000億円は通過点であることを強調する。

これは、2017年度が第二次中期経営計画の最終年度であるとともに、2018年度以降の第三次中期経営計画を策定する年であることを意識した発言だともいえる。

「2017年度の連結営業利益5000億円は、20年ぶりの利益水準だが、この利益レベルを複数年に渡って継続できたことは、ソニーの71年の歴史のなかで一度もない。2017年度は大きな節目となる重要な年であり、各事業において、今年度やるべきことを着実に実行し、目標の達成を目指すが、この目標を達成したのちも、ソニーは、持続的に高収益を創出できる企業でなくてはならない。高収益を創出しつづけるためには、ソニーグループとしても、各事業の現状維持ではなく、新たな事業への取り組みを強化していくことが不可欠である。高収益を持続的に確保し、新たな価値を作るために、具体的な方針、計画に落とし込む必要がある」と語る。

平井社長が、持続的な成長を強く訴える背景には、リカーリング型ビジネスの拡大がある。

リカーリング型ビジネスとは、特定の顧客と継続的で安定したビジネスを行うもので、第二次中期経営計画の柱のひとつに据えている。リカーリング型ビジネスは、保険などの金融ビジネスのほか、ネットワークサービスやテレビチャンネル運営などによる「サブスクリプションモデル」、デジタル一眼カメラのレンズやゲームソフトなどの「追加購入モデル」、音楽制作やテレビ番組制作などの「コンテンツ事業」の3つに大別できるという。

平井社長によると、「2015年度には約35%だったリカーリング型ビジネスは、2017年度には約40%に拡大する見込みである。今後は、サブスクリプションモデルをはじめとする顧客と直接つながるサービス領域の将来性がとくに高いと考えている」とする。

安定した高収益拡大のために、顧客との持続した付き合いを前提としたリカーリング型ビジネスが拡大しているからこそ、持続的に成長できる基盤が完成するというのが平井社長の考え方だ。

ソニーの完全復活と言い切るには、まだ道半ばであるのは確かだろう。2017年度の営業利益5000億円の達成にも、外部環境の変化を受けやすい事業については、まだ不安要素もある。

しかし、その一方で、次の成長に向けた地盤づくりは着実に進んでいるのも確かだといえる。その代表がリカーリング型ビジネスの拡大だ。

2014年度までの第一次中期経営計画は、ソニーの変革を中心とした施策が相次いだ。それに対して、2015年度からスタートした第二次中期経営計画では、「利益創出と成長への投資フェーズ」と位置づけている。その道筋は着実に歩んでいるともいえる。

2017年度の営業利益5000億円が目論見どおりに達成されれば、ソニーの復活は本物だといっていいだろう。そして、その時には、継続的な成長基盤が整うという要素も付加されることになるだろう。

大盤振る舞いのPayPay、「200億円還元」が導いたビジネスの勝機とは

大盤振る舞いのPayPay、「200億円還元」が導いたビジネスの勝機とは

2019.05.18

PayPayの100億円キャンペーンが終了

「〇〇ペイ」が乱立する中、PayPayの立ち位置は?

6月には新キャンペーンを実施、「決済No.1」への道筋とは

前代未聞の「20%還元」で話題を呼んだPayPayが、第2弾の100億円キャンペーンを5月13日に終了した。だが6月以降には新たなキャンペーンが始まり、まだまだその熱は冷めそうにない。

ソフトバンクグループの資本参加など、PayPayを取り巻く環境は急速に変化している

派手な還元策が注目されるPayPay。今後のビジョンとして打ち出したのは「決済No.1プラットフォーム」を目指すことだ。最近のPayPayを取り巻く状況を振り返りながら、次の展開を予想してみたい。

PayPayは「認知No.1の維持が重要」

4月25日のヤフーによる決算説明会では、PayPayに関する最新の数字として、登録者数は600万人、加盟店は50万店、決済回数は累計2,500万回を突破したことが明らかになった。さらに登録者数は10連休後には700万人に達するなど、順調にその数を伸ばし続けている。

PayPayの累計登録者数が700万人を突破(5月8日のソフトバンク決算説明会にて)

現状、名称認知やサービス理解ではPayPayがNo.1を維持している(PayPay調べ)。これから先、スマホ決済がマジョリティ層に広がっていくにつれ、まずはNo.1のサービスから始めようと考えるユーザーは増えていく。とにかく、認知度No.1を維持していくことが重要というわけだ。

PayPayによる調査では認知度No.1をキープ

100億円キャンペーンの第2弾は終了したが、同社は新たに「次の20%還元」として、6月からはドラッグストアで最大20%を還元するなど、月ごとにジャンルを限定して実施するという。またキャンペーンとは別に、通常の還元率も最大3%に引き上げている。

まだまだPayPayの大盤振る舞いは続きそうだが、店舗側が払う決済手数料は場合によっては0%であるほか、売上金の入金手数料も無料期間を延長している。こうした間にもユーザーへの還元は続いており、PayPayが使われるたびに損失は膨らむ計算になる。

そこで改めて注目されるのが、「どうやって儲けにつなげていくのか?」というビジネスモデルの視点だ。ヤフーやソフトバンクの決算説明会からは、その将来像が明らかになってきた。

PayPayが「プラットフォーム」として本格始動?

ヤフーが決算説明会で示したPayPayのビジネスモデルとは、決済データやPayPay残高の活用だ。蓄積された決済データから個人の消費行動を分析すれば、店舗への送客や広告に利用できる。PayPay残高を利用すればさまざまな金融商品の販売が可能だ。

PayPayのビジネスモデル(4月25日のヤフーの決算説明会資料より)

近未来を描いたイメージビデオでは、PayPay残高が足りないときに利用できる「後払い」、近隣店舗の商品在庫の表示や送客、PayPay残高による投資信託や保険の購入、デリバリーやレンタカーといったサービスを利用する様子が描かれていた。

最近では、楽天やLINEに続き、KDDIもアプリを入り口としてコード払いや資産運用、ショッピングやサービス利用にポイントを循環させていく構想を打ち出している。PayPayが目指すビジネスモデルは、そこに真っ向勝負を挑むものとみて間違いなさそうだ。

続々と強化されるPayPayアプリ。今後は金融サービス連携も?

ヤフーはPayPayのオンライン対応を進めており、6月以降にYahoo!ショッピングとヤフオクに対応する予定だ。特にヤフオクの売上金をPayPayで受け取れるようになる機能は、メルカリの売上金を利用できるメルペイに対抗する動きといえる。

また、ソフトバンクはガラケーからの移行にPayPayを活用する。ガラケー利用者向けの「スマホデビュープラン」では合計6,000円相当のPayPayボーナスを付与すると発表している。PayPayに関心を持ち始めたガラケー利用者に向けて、スマホに移行させつつPayPayユーザーとして取り込む、一石二鳥のアプローチだ。

PayPayを取り巻く体制も変化している。ソフトバンクグループはPayPayに460億円を出資する一方、ソフトバンクはヤフーを子会社化することで効率化を図るなど、グループ全体でのシナジーを追求していく構えだ。

PayPayを中心にソフトバンクグループ全体とのシナジーを追求

スマホ決済の中でも飛び抜けて勢いのあるPayPayだが、アプリ起動やコード読み取りの手間を嫌う声は多い。還元キャンペーンの間だけ盛り上がる一過性のものと考えていた人も少なくないだろう。だがここに来て、ソフトバンクとヤフーはPayPayを本気で「No.1」にする戦略に着手したといえそうだ。

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2019.05.17

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界

選手や大会だけでなく「eスポーツチーム」にも影響を及ぼした

eスポーツチーム運営に携わる4人に集まっていただき座談会を実施

チームに起きた変化や現在の環境について話し合ってもらった

2018年に大きく飛躍したeスポーツ業界。選手や大会運営だけでなく、プロ選手の所属する「eスポーツチーム」にも影響があったようだ。そこで、eスポーツチームを運営する4名に、チームの変化やeスポーツの現状、これからの展望について語ってもらった。

今回、集まっていただいたのは「よしもとゲーミング」「SCARZ」「SunSister」「DetonatioN Gaming」の4チームの代表者だ。

流入する資本。eスポーツのマネーゲーム化を懸念

――昨年からeスポーツを取り巻く環境が大きく変わったと思います。みなさんのチームにはどのような変化がありましたか? 昨年その波に飛び込んだよしもとクリエイティブエージェンシーさんは、eスポーツへの参入意図について教えてください。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏(以下、星):巷で言われているのと同様に、弊社にとっても2018年は“eスポーツ元年”でした。よしもとクリエイティブエージェンシーはエンターテインメントの総合商社として、タレントに仕事を持ってくることがメインの会社です。内容は時代によって変化しますが、eスポーツはまさにこれからタレントの活躍の場の1つとなると考えたため、参入することにしました。

ただ、「よしもとゲーミング」として、eスポーツ事業に乗り出したはいいものの、右も左もわからない状態だったので、まずはすでにeスポーツチームを運営しているところにパートナーとして参加しました。プロeスポーツチームの「よしもとLibalent」がそうですね。

また、よしもとはイベント運営も行っている会社なので、興行としてのeスポーツにも注目しています。2019年からは『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の国内リーグの「League of Legends Japan League(LJL)」の運営に参加しています。

よしもとスポーツ 代表取締役社長 星久幸氏

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏(以下、友利):これまでは、チームのスポンサーを探しに行った際、いつも「eスポーツとは」という説明からスタートしていましたが、昨年あたりからその説明が不要になりました。

また、認知度が高まっているので、プロゲーマーを目指す人も確実に増えてきていますね。ちょっと前だとYouTuberの影響などもあり、ゲームで稼ぐというとストリーマーを目指す人が多かったのですが、最近は選手志望の人が増えている印象です。20歳以下の選手も増えてきたのではないでしょうか。なので、チームとしては、資金も選手も厚みが出てきました。

XENOZ 代表取締役CEO・SCARZ オーナー 友利洋一氏

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏(以下、太田):チーム設立当初は、ゲーム好きが集まる、いわばコミュニティの延長のようなものでした。なので、ゲームで日本一になりたい、世界に行きたいという気持ちは強かったのですが、「お金を稼ごう」とはあまり考えていませんでしたね。しかし、次第に企業から協賛の話をいただくようになり、「ビジネスとしてしっかりやっていかなければならない」と思うようになりました。

企業側も、資金提供されるようになってからは、eスポーツについて勉強されるので、選手やチームの状態なども細かく見られます。そのため、いまは「スポンサーされるチーム」と「されないチーム」がふるいにかけられているでしょう。協賛の数も増え、ご提供いただく資金も増えるなかで、昔ほど緩い感じではなくなりました。業態としても、これまでのようなPCメーカーやPC周辺機器メーカーだけでなく、PC関連以外の企業の参入も増えています。

あと、eスポーツが普及して感じる変化ではもう1つ、ファンの存在が挙げられると思います。最近では、試合後に選手を出待ちするファンを見かけるようになりました。プロゲーマーがアイドル化してきたなと思いますね。

SST-GAMES 代表社員CEO・SunSister オーナー 太田桂氏

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏(以下、梅崎):最近は、Twitterのアカウントをスポンサーさんに見張られている気がします(笑)。打ち合わせのときに「梅崎さんこの前~していましたよね」と言われて、「どうして知っているんですか?」と聞いたら「Twitterで見ました」って。選手も私も下手な発言はできなくなったと感じましたね。

チームとしては、やはり2018年に大きく変わりました。以前の年と比較すると、グッズ販売などの売上が2倍以上も違うんです。数千万円クラスですね。イベントだと選手のサインがもらえることもあり、現場でグッズを購入する人が増えている印象です。

選手の給料も上がってますし、確実に市場価値は高まっているでしょう。ただ、主要タイトルではマネーゲームが始まっている感じがして、それがちょっと気がかりですね。

Sun-Gence 代表取締役社長 DetonatioN Gaming オーナー 梅崎伸幸氏

友利:大資本が入ってくるということですよね。それはまずいことなんですか?

梅崎:たとえば、中国資本が入ってきて、選手を多額の資金で集め出すと、市場はあっという間に吹き飛んでしまうでしょう。「選手1人に3000万円払います」「予算は10億あります」って言われたら、DetonatioNなんか消し飛んでしまいますよ。リアルスポーツのプロチームもeスポーツに参戦していますし、経営基盤がしっかりしているところと勝負して勝てるのかなという不安はありますね。

太田:ちょうどこの前、友利さんと話をしていたときに「数年後には、SunSisterないから」と言ったのを覚えています。「なんでそんなこと言うんですか」って言われましたけど、バックに銀行のような大資本が付いている企業と札束ゲームをしても絶対に勝てないじゃないですか。「SunSister、強くなったよね。君、いくらもらっているの? そう、じゃあ月100万出すよ」って言われたら、太刀打ちできません。

星:eスポーツの運営ノウハウがないところは、チームごと買うケースも出てくるでしょうね。

梅崎:そうですね。チーム売却まで行かず、資金力のあるところとパートナーを組んでいければいいのですが。

選手の意識は“ファンの存在”で変わる

――TwitterなどのSNSについて話が出ましたが、選手は特に注目されていると思います。そのような状況に慣れていない選手も多いと思いますが、チームとしてはどう対応していますか。また、ファン対応についてもお聞かせください。

星:うちはマネジメントの会社なので、コンプライアンスに関してはしっかりと時間をとって教育していますね。弁護士や警察OBの方に来ていただき、一人ひとりに説明します。

メディア対応についてもレクリエーションを実施しています。全員に行き渡っているとはまだ言えませんが、eスポーツ選手でも目立つ存在のジョビンには特にたたき込んでいますよ。

リーグ運営という側面からほかのチームを見ていると、そのようなことができているチームとできていないチームがはっきりとわかりますね。

友利:ファンサービスは力を入れていきたいと考えています。eスポーツの場合、会場に行けば選手に会えるという「身近さ」も魅力の1つでしょう。

実はSCARZには、「元アイドル」をしていた選手も在籍しているんですが、アイドル時代よりも、eスポーツ選手になった今のほうがファンとの距離感が近くなって、彼自身も喜んでいますね。最初はeスポーツに興味がなかった彼のファンにも、eスポーツを身近に感じてもらえるようになりました。

太田:選手の教育自体は、それこそチームの発足時からしっかり行っています。ただ、なかなか浸透するまでに時間がかかりますね。選手にコンプライアンスの大事さを説明すると、その場では素直に話を聞きますし、「わかりました」って言ってくれて。やんちゃなタイプの人は少ないのですが、それでも、トラブルを起こしてしまうことがあるんです。

そのときに「SunSister、ちゃんと教育しろよ」って言われるんですが、実際は丁寧にやっているんです。たぶん、どのチームも教育はしていると思いますが、やらかす人はやらかしてしまいますね。

ただ、ファンが増えて「自分が注目されている」と認識できれば、そこで態度が一変することが多いですね。「これは下手なことはできないな」と思うようです。コンプライアンスを説明するよりも、ファンに見られているという意識を持つほうが、大事なのかもしれません。

梅崎:チームのメンバーと焼き鳥屋さんに行ったとき、店員さんからうちのチームのファンだって声をかけていただいたことがありました。すぐに「下手なこと言うなよ」選手たちに伝えましたね(笑)。太田さんがおっしゃったように、「いつどこで誰が見ているかわからない」ことを実感しました。

DetonatioNは大所帯なので、教育自体はマネージャーに任せています。なので、その教育者、教育内容を間違ってしまうと、選手が勘違いしてしまうことはありますね。僕らの考えていることをマネージャーに伝え、それをマネージャーから選手たちにきっちり伝えられる座組を作っていかないといけないと考えています。

太田:ファン対応については、定期的にファンミーティングを実施しています。実施し始めた頃は「僕にファンなんていません」とか「そんなことやって意味あるんですか」とか、ファンとの触れ合いを怖がる選手もいましたが、実際にファンミーティングをやってみると、思いのほか人が集まって「いつも動画見ています」「試合に行きました」って言ってもらえるんです。そうすると、うれしくなるんでしょうね。ファンの存在を実感して、イベントへの参加も楽しくなってきて、ファンから見られていることに対してもポジティブに感じられるようになったはずです。

梅崎:DetonatioNでは以前、ファンが離れぎみになってしまったことがあったんです。そのときに私も含めて意識改革を行って、今まで以上にファンを大事にするようにしました。

選手も昨年の「Worlds」で、わざわざ韓国まで応援に来てくださったファンがいたことがすごくうれしかったようで、意識が変わったように思います。

友利:教育という意味でいうと、有名になって、成績も残せるようになると、選手が迷子になってしまうことがありますよね。チームではなく自分の力で勝っているとか、自分だけに人気が集中しているとか、イベントのオファーは自分に来ているとか。もちろん、選手個人の強さもあると思いますが、チームゲームの場合は1人では勝てません。目立つプレイの裏には支えてるチームメイトがいます。そうなるとチームを離れても、オファーがもらえるのではないかと思ってしまうんです。

梅崎:たしかにあります。でも実際は違うんですよね。よしもとさんは、特にそのあたり詳しいのではないでしょうか。多くの芸人さんが在籍していて、よしもとの看板で仕事がくることも多いわけですから。

星:永遠の課題ですね。オファーをいただくのは、「芸人の人気」か「よしもとの存在」か。私はどちらもあると思います。もし、芸人の力だったとしても、そこまで育てたのはよしもとですし、eスポーツであればチームなわけです。

友利:実際にチームを離れてから、チームの人気に支えられていたと気づくこともあるようです。もちろん、チームの人気は個々の選手の人気あってのこと。あと、チームは強いことで人気が出るのですが、強すぎてしまうのも弊害はありますね。

星:リアルスポーツでも一緒ですよね。1チームだけが強すぎてしまうと、試合にならないですし、実は集客もトータルでは減ってしまうんですよね。NBAなどのアメリカのスポーツリーグでは、各チームが選手に支払える給料の総額に上限を設けて、戦力のバランスを取っていますが、eスポーツでは、まだそういうレギュレーションがありません。勝つことで集客を見込めるようになったのに、勝ち続けてしまうことでお客さんが離れるというジレンマですね。「観に行かなくても、どうせ勝つんだから」って、なるんです。

梅崎:そうか! 負けるように言わなきゃ(笑)。

ドライな関係が増えた「選手」と「チーム」

――賞金やプロゲーマーという職業が話題になることも増えました。もともとゲームタイトルが好きでコミュニティからプロになった選手と、eスポーツが確立されてからプロになることを目的に始めた選手では、ゲームに対する向かい方は違うのでしょうか。

太田:特に違いはないと思います。チームのなかには、ゲームを楽しみたいと思っている人もいれば、トップを目指したいと取り組んでいる人もいます。それでも、ゲームや大会への熱量はそんなに変わらないでしょう。ただ、結果が出たときに、以前の選手は「よっしゃー、勝ったー」で終わっていたところ、今では「よっしゃー、勝ったー。結果出したからお金ください」ってなるだけだと思います。

梅崎:昔からいる人はお金を求めないことが多いですね。「強さ」や「世界での活躍」が先にきます。今の選手はお金をもらえるのが当たり前という印象です。もちろん、お金の話は重要なんですけど。面接のひと言めから「いくら出します?」はちょっと……。

友利:うちも似たような感じですね。強い選手は勝つことを最重要に考えています。「勝ちたい」「結果を出したい」と頑張っている人には、こちらからサポートしたいと思うもの。そこは情の部分になってしまいますけどね。

梅崎:情は大事です。なかなか結果を出せない選手がいると「うちと契約続けるのは難しいな」とならざるを得ないのですが、本人とその話をするときに「もう少しだけ頑張らせてください!」と懇願されてしまうと「そうかぁ」って判子を押してしまうんですよね。

太田:たぶん、梅崎さんも長いことやっていらっしゃるので、どうしても選手を切らなきゃならない場面に遭遇して、涙を流しながら契約解除した経験ってあるんじゃないですか?

梅崎:そりゃありますよ! 泣きましたね。

太田:そうですよね。私も経験があります。選手と泣きながらお別れしたことがありました。できることなら契約継続したかったですし、選手もSunSisterで続けたいって思いがあったわけですから。

もちろん、今もそのようなケースはゼロではないですけど、契約に関してはわりとドライな関係が多いですね。内容に不満があったら辞めますし、こちらから切らざるを得ない場合でもあっさりと辞めていきます。

ただ、プロとしてお金をもらえることが当たり前になった時代に生まれたので、対価を求めること自体は悪ではありません。

――今年LJLは大きくレギュレーションを変え、売上が5000万円必要であったり、資本金が1000万円以上であったりと、リーグに参加できるチームの条件も変わりました。また、2部リーグを廃止し、1部リーグのチーム数を8に増やすなど、さまざまな改革を行っています。ほかのタイトルでも一定数の資本金額や売上額を満たしていないと、リーグへの参加申請ができなくなっていますが、この状況についてどう感じますか。

梅崎:LJLに関して言えば、6チーム制から8チーム制にしたのは大賛成ですね。ただ、2部制をなくしたのは早すぎたと思います。現状でも地域密着のフランチャイズ体制がまともに機能していないなかで、2部制をなくしてしまうと、東京の一極集中になりますし、これからLJLを目指そうとする若者の活躍の場が少なくなってしまいます。

リーグとしても2部との入れ替え戦があるからこそ、成績下位チームも最後まで緊張感を持って試合できるわけです。今の状態だと優勝を見込めなくなったチーム同士の試合はただの消化試合になってしまいますから、観る方もつまらなくなるのではないでしょうか。

友利:うちのチームは1部と2部を行ったり来たりしていたので、落ちたときの悔しさ、昇格したときの感動が得られなくなったのは残念ですね。

梅崎:リーグ側からすれば、資金不足が原因でチームが解散してしまうリスクを懸念して、ある程度資金力、実力のあるチームを選定していると思います。なので、2部リーグに関しては、その売上や資本金の規定を1部よりも低く設定するなどの処置で継続していただければうれしいですね。

友利:チームの売上を求めるのであれば、エコシステムも同時に作ってほしいですね。放映権を作って、チームに分配するとか。もちろんチーム自体が考える必要もありますが、さまざまな面でリーグに協力していただけるとうれしいですね。

たとえば、海外から有力選手を招聘すると、入国管理局から「厳しい」と言われることがあるんです。なぜかというと、プロリーグとしてのシステムが確立していないケースが多いためです。LJLはそこをクリアしているので、ガンガン海外の選手が入ってきています。日本の『LoL』が飛躍的に伸びたのは、韓国人選手が入ってきたことが大きいんです。「実力がはるかに上の韓国人選手がこれだけ練習しているのに、日本人選手はそれでいいのか」という雰囲気になって、日本人選手の意識が変わってきました。

選手としての実力の高さが国内のリーグのレベルを引き上げてくれるだけでなく、海外の常識、特にeスポーツ先進国の韓国のやり方が入ると、国内の選手やチームの意識改革ができるんです。Jリーグの関係者も同じことを話していましたね。

星:LJLの2部廃止は我々の決定というわけではないのですが、まず1部リーグに注力してLJL自体を広めることが目的だと思います。もっと競技人口が増えてから、2部リーグの話が再び出てくるのではないでしょうか。

梅崎:若手発掘という位置づけであれば、参加希望者によるトライアウトの「スカウティング・グラウンズ」がありますけど、狭き門のうえ、参加するのは選手単位。即席チームでのプレイを数試合観ただけで選手の実力を判断することは無理ですよ。

友利:スカウティング・グラウンズで新しい選手を獲得したとき、現存の選手の誰かを切る必要が出てきます。2部があれば、そこでの活躍次第で1部への復帰も見込めますが、現状だと1度1部を離れてしまうと、復帰は難しいでしょうね。

2019年1月に開催された「LJL 2019 SPRING SPLIT」の様子。試合会場が中野の「Redbull Gaming Sphere Tokyo」から「よしもと∞ホール」に変更された

太田:主催者側の観点から考えると、チームが安定して運営されているかどうかの担保は必要だと思います。ただ、それをされるとうちは辛いかな。まあ、レギュレーションで出られないのであれば、それは仕方ないこと。こちらはあくまでも出させていただいている立場なので。

友利:大会自体もっと増やしてもらえればうれしいですね。せめて年間スケジュールは早めに出してほしい。スポンサーさんからスケジュールを聞かれるんですけど、決まってないから言えないんです。下手すると1カ月前にならないと出ないところもあって。

太田:IPホルダーが簡単に大会を主催させてくれない点も、なんとかしてほしいところです。権利を持っているところほど何もやらず、お金も出してくれない。それでいて、大会を開こうとしても許諾が降りないのでは、タイトルが盛り上がるわけがありません。

友利:そういう点で『カウンターストライク:GO』はすごいですね。さまざまなところが開催できるので、年間700回くらい大会がありますし。選手は休むヒマがないんですけど、今の日本のように「大会がない!」という状況よりはいいのではないでしょうか。

――今後eスポーツに求めることやチームとしての目標は何でしょうか。

星:リーグ運営はもっとしっかりしたいと思っています。選手に還元できるエコシステムの構築やスタッフの育成、また、セカンドキャリアの構築なども進めていきたいですね。よしもとクリエイティブエージェンシーはスポーツ選手のセカンドキャリアを支援しているので、eスポーツ選手にも対応できると思います。

友利:日本チームが世界を取るところを見てみたいですね。そのためにも、チームとして、選手はもちろん、スタッフの育成をしていくことが重要だと思っています。フィジカルやメンタルのケアができる環境も整えていきたいですね。ファンの方々にも選手を見て喜んでいただくためにも、大会で活躍できるだけでなく、人としてしっかりとした選手を輩出していきたいと思います。

太田:せっかく多くの人にファンになっていただいたので、もっと喜んでもらいたい。見ていて、「このチームおもしろいね」って言ってもらえるようなチーム作りをしたいと考えています。ファンが増えれば、それだけチームや選手にも還元されるわけですから。チームとしては、世界中から「SunSisterすげえな」と言われるようになりたい考えています。それが一番ファンも喜んでくれると思うので。選手の意識改革をし、ファン重視で運営していきたいですね。

梅崎:今、チームの主要タイトルは『LoL』なので、昨年以上の成績を残していきたい。また、実行するまでにしばらく時間がかかりそうですが、地方に根付いたチームにしていきたいと思っています。地盤を築き、その土地のファンや地元の企業と一緒に何かやっていければいいですね。選手中心での運営するスタンスは変わりませんが、ファンのための施策もいろいろ考えていきます。ファンクラブを作ったり、グッズを増やしていったり、そんな感じですね。

――ありがとうございました!

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