今年もル・マン参戦のトヨタ、レースの知見は本業にも活用可能か

今年もル・マン参戦のトヨタ、レースの知見は本業にも活用可能か

2017.05.26

6月14~18日の日程で、今年も「ル・マン24時間レース」がフランスのル・マン市で開催される。1923年に第1回が開催されたこのレースは、世界三大24時間レースと呼ばれるベルギーのスパ24時間、米国のデイトナ24時間と共に長い歴史を持つ耐久レースだ。中でも、ル・マンは最も古い歴史を誇る。そして第85回(1940~1948年の間は第二次世界大戦の影響で中止)を迎える今年も、トヨタ自動車はハイブリッドシステムを搭載するレーシングカーで参戦し、初優勝を目指す。その参戦の意図を探る。

2016年のル・マン。トヨタは1台が優勝目前で失格、もう1台は2位表彰台という結果だった

ル・マン制覇は一流ブランドの証

過去、ル・マン24時間レースには名だたる自動車メーカーが出場し、優勝を飾ってきた。ベントレー、アルファロメオ、ブガッティ、ジャガー、メルセデス・ベンツ、フェラーリ、アストンマーチン、フォード、ポルシェ、ルノー、プジョー、BMW、アウディなど、枚挙にいとまがない。

日本からも、トヨタ、日産自動車、ホンダ、マツダなどが出場してきたが、そのうち優勝したのはマツダだけだ。世界の自動車メーカーが栄冠をつかんできたル・マンの歴史に、勝者として名を刻むことはトヨタの悲願である。

自動車レースには他に「フォーミュラ1(F1)」もあって、日本ではホンダの活躍などにより、こちらのほうがなじみは深いかもしれない。しかし、本来の姿からすると、F1はドライバー選手権に重きが置かれ、自動車メーカーはドライバーを支援したことへの称賛を受けることになる一方、ル・マン24時間レースなどの耐久レースは自動車製造の戦いであり、こちらのほうが自動車メーカーにとっては栄誉となるのである。

ル・マン24時間レースが始まった頃は、エンジンやタイヤの性能はもちろん、ヘッドライトやワイパーなどの装備もまだ十分ではなく、クルマのあらゆる機能や装備が24時間走り続けることで鍛えられ、発展してきた。

また、ドライバーより自動車メーカーの技術競争に重きが置かれているため、参加するレーシングカーにも幅があり、数年前には同じハイブリッド車(HV)といっても、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンが戦うことすらあった。一方のF1は、ドライバーが腕を競うレースであるため、レーシングカーの技術にメーカーごとの多彩さはない。

まさに時代を反映し、次世代の技術を磨くことに重きが置かれるのが、ル・マン24時間レースなのである。

耐久レースではメーカーの技術力が試される(画像は2016年のル・マン)

電動化技術が進歩、HVでレースに参戦する意味とは

しかし、かつてより時代は早く展開し、今日の自動車市場において、HVはもはや当たり前の存在となった。これから注目され、発展が期待されるのはプラグインハイブリッド車(PHV)であり、電気自動車(EV)である。

自動車メーカーとして、ハイブリッドレーシングカーでル・マンに参加する意義は何か。名だたるメーカーと共に勝者として歴史に名を刻む以外に、どういう狙いがあるのだろうか。

急減速で回生エネルギーを得るレーシングカー

トヨタがル・マンに出場する際のハイブリッドレーシングカー「TS050」で使われるハイブリッドシステムは、厳密には市販車「プリウス」などで使われているものとは異なり、レース専用に開発されたものだ。

プリウスと並ぶトヨタの「TS050」

エンジンは、ガソリン筒内直噴のV型6気筒で、排気量は2.4リッター。これに2つのターボチャージャーが取り付けられている。ターボチャージャーとは、排ガスを利用して圧縮機を回し、エンジンに供給する空気密度を高めて馬力を上げる装置である。

2個のモーターを装備し、前後タイヤそれぞれに駆動力をもたらすところは、市販車にも「E-Four」と呼ばれる4輪駆動があり、前輪はエンジンとモーターの両方で駆動し、後輪はモーターのみの駆動で4輪駆動を実現している。レーシングカーのTS050では、前輪がモーターのみということで前後の違いはあるが、システム概要としては通じるところがある。

トヨタ・GR開発部長の村田久武氏

モーターは、減速する際に発生する回生エネルギーをリチウムイオンバッテリーに充電し、その電力をエンジンの出力と合わせて加速で使う。この電気の使い方は市販HVと同様だが、加減速の強さが、レーシングカーでは市販車と比較にならないほど激しい。開発に携わるトヨタ・GR開発部長兼ハイブリッドプロジェクトリーダーの村田久武氏は、「時速150キロの減速を5秒でしてしまうのがレーシングカー」だと語る。

スポーツカーの加速性能を表すのに、「発進から時速100キロまで3~4秒で到達する」などとよく表現されるが、村田氏の説明は、その猛烈な加速と逆のことを減速で行っているという話である。たとえ高速道路を運転していても、これほど強い減速は、急ブレーキをかけるときでもないかぎりは起こらない。それほど激しい減速を、レーシングカーは競技中に何度も行っているのだ。

急速充電技術を量産車に応用

この市販車では考えられない激しい減速での回生が、実は量産車にも役立つと村田氏は話す。

「大きな電力を短時間でバッテリーに充電できれば、現在、EVやPHVの急速充電に30分ほどかかっていますが、それを5分で済ますことができ、ガソリンスタンドで給油するのと変わらないことになります」

一例として、三菱自動車「アウトランダーPHEV」は従来、急速充電に30分掛かっていた時間を、マイナーチェンジで25分に縮めたとする。この改良について三菱広報は、「たった5分ですが、そこには大きな技術的な進歩があります」と説明している。

三菱自動車「アウトランダーPHEV」

バッテリーには内部抵抗というのがあって、その抵抗によって急速充電にも限界がある。だが、レースにおいて、たった5分で充電できてしまう技術が開発されれば、いずれ、市販車に応用できる可能性が生まれる。そのような技術的挑戦が、HVでル・マンに出場する意義に秘められてもいるのである。

商用車の生産性を向上させる可能性も

それは、革命的な開発であると言える。村田氏は「市販車に応用すると言っても、まずはレースで培われた技術として、スポーツカー用にいかしていく道を探るのが順当でしょう。とはいえ、これが量産市販車へ転用できるようになれば、乗用車だけでなく、長距離トラックのような商用車でも活用でき、時間の無駄を省き、物流の効率化の中でもいきる技術となっていくのではないでしょうか」と語るのである。

消費財の乗用車に対し、生産財であるトラックやバスは、運転者は交代しても、クルマは24時間365日稼働することで生産性が高まる。その際、充電に30分もかけていたのでは時間の無駄だ。だが5分で済めば、ディーゼルエンジンに軽油を給油するのと変わらなくなる。

TS050のようなレーシングカーで獲得した技術には、量販車に応用するという道がある

EVの将来性についてはまだ懐疑的な意見もあるが、例えば米国のテスラ「モデルS」は、4ドアセダンの乗用車でありながら、ポルシェのスポーツカー並みの加速を実現している。モーターで駆動するからこそ、乗用車とかスポーツカーといった車種の区別なく、最高の加速性能を獲得できるのである。

それだけの可能性をモーター駆動は秘めており、なおかつ、トヨタがレースで培っている充電性能が満たされれば、エンジン車を選ぶ理由は限定的になっていくだろう。F1ではなく、ル・マンを含む世界耐久選手権に自動車メーカーが参加する意義は、そこにある。

世界的ブランドに必要なものとは

FIA世界耐久選手権(WEC)においてトヨタは、2014年にすでに世界チャンピオンのタイトルを獲得している。だが、ル・マンだけは獲れずにいるのである。昨年は、ゴール3分前まで優勝を確信させる走行を見せながらも、故障で逃している。悲願へ向けた今年の意気込みはさらに増していることだろう。ル・マン優勝を果たしてはじめて、冒頭に紹介した名だたるメーカーと肩を並べることになるからである。

トヨタ・GR統括部長の北澤重久氏

さらに、GR統括部長の北澤重久氏は「伝統のレースに居続けることが大切だ」と語る。例えば今年、ル・マン優勝と世界選手権奪還が達成できたとしても、世界耐久選手権シリーズとル・マンへの挑戦は、来年以降も続けるというのだ。

なぜなら、トヨタ創業者の豊田喜一郎氏が「オートレースと国産自動車工業」という文章で残した言葉である、「日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレース(当時は自動車レースをこう呼んだ:筆者注)においてその自動車の性能をありったけ発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである」が、現・豊田章男社長の提唱する「もっといいクルマづくり」に直結するからであるという。

技術開発を進め、原価を下げ、いいクルマを売ってもうけるだけでは、世界に誇るブランドとは認められない。その業界、そして社会に、文化的貢献をする無形の活動を持続させてこそ、人々はそこに憧れのブランドの姿を見る。それには無駄とも思えるお金と時間を要するが、それを惜しんでいては、安くていいものを作る製造業者という評価からは脱却できないのである。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。