299万円の「Q2」にアウディらしさはあるか

299万円の「Q2」にアウディらしさはあるか

2017.05.27

5月に発売されたドイツ車、アウディ「Q2」がクルマに興味のある若い人の間で注目されているらしい。理由は299万円からという価格にあるようだ。アウディとしては安い。では中身はアウディらしいのだろうか。試乗しながらチェックしてみると、単純には答えられない構造があった。

アウディ「Q2」の発売記念限定車「1stエディション」

トヨタ「C-HR」と似たサイズ感、価格差は50万円以下

アウディと言えばメルセデス・ベンツ、BMWと並ぶドイツのプレミアムブランド御三家。クルマに興味のある人の多くが一度は所有してみたいと思っているだろう。そのアウディが送り出した新型車、しかも人気のSUVが299万円。ということでQ2が注目を集めている。

アウディには現在、「A1」と「A3」というハッチバックの車種がある(A3にはセダンもある)。さらにA3と同格のSUVとして「Q3」もある。となれば、Q2がA1とA3の中間のボディサイズを持つSUVであることが想像できる。

ボディサイズは全長4205mm、全幅1795mm、全高1520mm。長さについては確かにA1より長く、A3やQ3よりは短い。さらに幅を1800mm以内、高さを1550mm以下に抑えてあるので、日本の多くのタワーパーキングに収まる。

日本のタワーパーキングに収まるサイズ感

この全幅と全高は、今年4月に軽自動車を除く国内新車販売台数No.1に輝いたトヨタのSUV「C-HR」とほぼ同じだ。一方、値段で比べると、C-HRのガソリン車は、アウディをはじめとする欧州車が多用する、ダウンサイジングターボエンジンに4WDを組み合わせるというコストの掛かるメカニズムを採用していることもあり、価格が250万円以上となる。Q2との価格差は50万円に満たない。

似たようなサイズのトヨタ「C-HR」

新世代プラットフォームMQBを採用

ちなみに299万円のQ2は、A1にも積まれている1リッター直列3気筒ターボエンジンを採用している。このことから、プラットフォームもA1と共通と予想した人がいたようだ。しかしアウディジャパンの説明では、Q2のプラットフォームは、アウディでは現行A3で初採用された、MQBと呼ばれる新世代プラットフォームを用いているという。

MQBはアウディも属するフォルクスワーゲン・グループの横置きエンジン用プラットフォームとして新開発され、現行「ゴルフ」に使われていることで知られている。噂では次期「ポロ」にもこのMQBが使われるそうなので、Q2の車格がこのプラットフォームを使うのは予定どおりなのだが、Q3は一世代前のプラットフォーム。この点でもQ2には価値がある。

エンジンは1リッター直列3気筒ターボと1.4リッター直列4気筒ターボを設定する。1リッターはA1、1.4リッターはA3でおなじみのパワーユニットだ。アウディジャパンが主力と考えているのは1リッター。筆者も1リッターでどの程度走るのか興味があった。しかし、静岡県で行われた報道関係者向け試乗会に用意されていたのは、1.4リッターをベースとした280台の発売記念限定車「1stエディション」だけだった。

ポリゴンがテーマ、グリルは力強さを演出

Q2はスタイリングも特徴的だ。ポリゴン(多角形)をモチーフにしたことで、従来のアウディとはひと味違うイメージを打ち出している。特に目立つのは、ボディサイドのキャラクターラインが上下に分かれて六角形をなす造形だ。SUVらしいフェンダーの張り出しを都会的に演出した、うまい手法だと思った。

六角形をなすキャラクターライン

フロントグリルが八角形をなしており、他のアウディより高い位置に置かれ、内部のバーにも多角形的な処理を施されたことも違いだ。Q2のサイズからすると主張が大きすぎるような気もするけれど、SUVらしい力強さの演出には効いている。

フロントグリルも特徴的だ

デザインの工夫が必須なコンパクトSUV

C-HRを見れば分かるように、今のコンパクトSUVマーケットはとにかくデザインコンシャスだ。正常進化型の造形を続けてきたアウディも、このままではライバルに埋もれてしまうと考えたのかもしれない。ちなみにこのデザイン、今後は他のSUVにも導入することで、セダンやハッチバックとの差別化を図っていくそうだ。

それに比べるとインテリアは、センターパネル周辺にポリゴンを取り入れていることを除けば、A3に似ている。ただしシートは前後とも高めに座る。特に後席は足を下に伸ばすような着座姿勢だ。おかげで一回り大きなQ3と同等の広さが得られた。

Q2のインテリアと後部座席

アウディジャパンではこのQ2について、1台ですべての用途をこなせると説明している。たしかに405リッターの容量を誇る荷室を含めて、ファミリーカーとしても使えるキャビンを備えていた。ボディサイズもフォルクスワーゲンのゴルフに近いパッケージングだと感じた。

装備を詳細にチェックしてみると…

Q2の車両重量は1340kgと、Q3より100kg以上も軽い。おかげで1.4リッターターボエンジンによる加速は元気いっぱいだ。これなら1リッターターボでも問題なく走ってくれるのではないだろうか。しかも静か。時速100キロのクルージングは安定した直進性のためもあり、リラックスして過ごせた。山道で試したハンドリングは自然で、SUVでありながら背の高さを感じさせない自然な感触だった。

元気な加速を見せた1.4リッターターボエンジン

気になったのは乗り心地だ。1stエディションのホイールは18インチで、タイヤサイズは215/50R18と太め。さらに全高と最低地上高は他のグレードより10mm低い。そのためか、常に揺すられるようなフィーリングで、スプリングもタイヤも硬いという印象だった。

その点、1リッターターボはスポーツグレードでも17インチ、スタンダードでは16インチになるから、快適性では上を行くだろう。しかも1stエディションは、1リッターのスタンダードグレードより約200万円も高い490万円なのだ。

それなら俄然、ベーシックな1リッターが良いと多くの人が思うだろう。ところが装備をチェックしていくと、エアコンはオートではなく、LEDライトやナビ、運転支援システムは付かないことを発見する。

1つ上のスポーツグレードではオートエアコンやLEDは装備されるものの、ナビや運転支援システムはオプションだ。364万円のスポーツグレードにこれらを追加すると、1.4リッターターボのベースモデル(405万円)と同等になる。しかもアウディと言えばクワトロ、つまり4WDのイメージが強いのに、日本仕様のQ2は全車前輪駆動となっていることも特筆すべき点だろう。

でも逆に言えば、東京や大阪などの温暖地域では4WDでなくても十分だし、ナビはスマートフォンで代用できると考える人も、特に若い人には多いだろう。Q2はそんな価値基準を持つ人たちに向けて、プレミアムブランドでは当然となってきた「全部乗せ」状態を見直すことで、お求めやすい価格を実現した車種ではないかという気がした。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。