"2年縛り"緩和策から見えてくるドコモのしたたかさ

2016.04.15

携帯電話料金のいわゆる“2年縛り”問題に関して、NTTドコモは4月14日、これを緩和するための新たな施策を発表した。2年契約後に従来と同じ「ずっとドコモ割コース」と、解除料がかからない「フリーコース」が選べる仕組みだが、その内容からはNTTドコモのしたたかな戦略も見えてくる。

2年縛りの問題にドコモが出した答えとは

端末の“実質0円”販売の是非や、ライトユーザー向けの料金プランなど、総務省からの要請に対するキャリアの動きが慌ただしい昨今。最近ではそれらに加え、これまで総務省で議論がなされてきた“2年縛り”に関しても、キャリア側が何らかの対応を迫られるようになってきている。

改めて2年縛りについて確認すると、これは2年間の契約を前提として、携帯電話の料金を毎月大幅に割り引くという仕組みである。2年縛りは割引という大きなメリットが受けられるが、一方で2年間の契約期間中に解約すると高額な違約金がかかるうえ、2年経過後に無料で解除できる期間が1カ月と短く、解約しづらいことから、結果的にユーザーの契約を長期的に縛ってしまうことなどが問題視されており、総務省の「ICTサービス安心・安全研究会」によってその改善の方向性が議論されてきた。

そうした議論の結果を受けてか、今年に入ってキャリア側が、2年縛りに関する制約を緩める動きを見せている。NTTドコモが1月の決算発表で、無料で解除できる期間を2カ月に伸ばすことを公表。これに他社が追随する形で、解除期間の延長が進められていった。

さらに3月にはソフトバンクが「2年契約プラン」、auが「新2年契約」と、毎月の基本料に加えて月額300円を追加で支払う代わりに、2年経過後の縛りがない料金プランを相次いで発表した。これらのプランは、よく見るとユーザーメリットがほとんどなく、実効性に疑問の声が上げられているが、2年経過後に縛りがない料金プランの選択肢をキャリアが提供してきたこと自体、大きな変化であることは確かだ。

そして去る4月14日、残るNTTドコモも、契約から2年経過後の“縛り”を選べる仕組みを提供すると発表した。それが「フリーコース」と「ずっとドコモ割コース」の2つである。

NTTドコモは2年縛りの問題に関して、「フリーコース」と「ずっとドコモ割コース」という2つの選択肢を用意した

「フリーコース」提供の一方で長期割引も強化

NTTドコモの新たな施策を具体的に説明すると、「カケホーダイ」「カケホーダイライト」「データプラン」などを「定期契約」ありで契約した場合、月額料金が割り引かれる代わりに、最初の2年間は従来通り、中途解約で9,500円支払う必要がある“縛り”がつく。だが2年経過した後は、2年間の縛りは継続するものの、長期契約割引の「ずっとドコモ割」が適用される「ずっとドコモ割コース」と、ずっとドコモ割が適用されない代わりに縛りがなく、いつでも解約できる「フリーコース」のいずれかを選ぶことができる。

大きなポイントとなるのは、ずっとドコモ割コース、フリーコースのどちらを選んだ場合でも基本料は変わらず、カケホーダイであれば月額2,700円、カケホーダイライトであれば月額1,700円で利用できること。そしてフリーコースであっても、毎月端末価格を割り引く「月々サポート」の対象外にはならないことだ。先行する2社のように、解除しやすくなっても料金が上乗せされるなど不利な条件が付くわけではなく、基本料は同じだというのが大きな違いといえるだろう。ちなみにフリーコースからずっとドコモ割コースにはいつでも変更可能であり、変更時に長期契約の年数がリセットされることもない。

「フリーコース」と「ずっとドコモ割コース」の仕組み。契約から2年を迎えた時、いずれかのコースに切り替えられるようになる

その一方で、NTTドコモはずっとドコモ割の強化も実施している。具体的には、これまで契約5年目以降に割引が適用されていたのが、4年目からと早められたほか、データ通信容量が最も多く、高額な「シェアパック30」で、割引額が2,000円から2,500円に拡大。さらに従来、契約10年目以降でないと割引が適用されなかった「シェアパック5」「データLパック」「データMパック」に対しても、4年目から割引が適用されるようになっている。

今回の施策に合わせて「ずっとドコモ割」も強化され、契約4年目から適用されるようになったほか、プランと年数によっては割引額も大幅に向上している

さらに、ずっとドコモ割コースで2年契約を更新することで、3000ポイントがもらえる特典「更新ありがとうポイント」も用意。このポイントは毎月の携帯電話料金の支払いには適用できないが、端末の購入やdマーケットなどでの利用、さらにはdポイント加盟店での利用は可能だという。

総務省での議論の影響からフリーコースを用意する必要があったとはいえ、NTTドコモとしてはずっとドコモ割コースを選んでほしいのが本音である。それだけに、割引やポイントなどでメリットを打ち出すことで、ずっとドコモ割コースの選択率を高めたい狙いがあるといえよう。

実際、NTTドコモの取締役常務執行役員 経営企画部長の阿佐美弘恭氏は、「ユーザーの要望に応えるべくフリーコースを作った。フリーコースを選ぶ人が1~2割いると想定してはいるが、半々(の比率)になるとは思っていない。我々としてはずっとドコモ割を選んでほしいのが本音」と話しており、NTTドコモにとってメリットが大きい、ずっとドコモ割コースに注力していることを明確に示している。

高価格帯ユーザーを優遇、低価格帯はMVNOでカバー

NTTドコモは日本で最も多くの契約者を抱えているだけに、ユーザーが他のキャリアに逃げなければ“勝ち”となる。それだけに、長期利用者に向けた割引などの施策を手厚くしたこと自体は理解できる。だが一方で、割引率を見ると、「シェアパック30」などの高額なプランの割引率が大きく高められる一方、最も安価な「データSパック」に関しては長期割引の拡大がなされておらず、そうしたユーザーに対する継続利用のメリットは少ない。

「ずっとドコモ割」の具体的な拡充内容。大容量・高額なプランほど割引額が上がっている一方、最も安価な「データSパック」に関しては強化が全くなされていない

こうした割引に対する対応からは、NTTドコモが多くのサービスを利用し、高額な料金を継続的に支払ってくれる、ロイヤルカスタマーを優遇する方向へと舵を切っている様子を見て取ることができる。大容量のシェアパックを契約してくれるユーザーは他社に移らないよう優遇を高め、継続利用へとつなげる一方、一昨年に「データSプラン」の契約者が想定を超えて減収を余儀なくされたこともあり、小容量で安価な料金プランを選ぶユーザーを、無理に獲得したくはないと考えるようになったと見られる。

一方でNTTドコモは最近、そうした低価格を求めるユーザーの受け皿に、MVNOを活用しようとしている様子も見せている。というのも、ここ最近NTTドコモは、スマートフォンをかざして決済できる「iD」を、MVNOのSIMとFeliCa搭載SIMフリー端末の組み合わせでも利用できるようにしたり、「dTV」「dマガジン」など、同社が運営する「dマーケット」の主要サービスを、MVNO経由で提供したりするなどの施策を打ち出しているからだ。

こうした取り組みは、NTTドコモがMVNOを敵ではなく味方として捉え、価格に敏感なユーザーの獲得に活用するようになったと解釈できる。MVNOの多くは、接続料が安いNTTドコモの回線を利用している。それだけに、NTTドコモのネットワークを用いたMVNOにコンテンツなどを提供するなどしてサービスを強化してもらい、低価格を求める層をauやソフトバンクに逃がさず、なおかつ自社の収益に影響を与えない形で獲得することで、売り上げにつなげたいわけだ。

一見すると2年縛りの問題に応える施策に見えて、実は長期契約の強化で高価格帯の利用者を囲い込みつつ、フリーコースとMVNOの活用で低価格帯の利用者も獲得し続けるというのが、今回の施策におけるNTTドコモの真の狙いであろう。実質0円の自粛などで番号ポータビリティによる“攻め”の戦略をとるのが難しくなったことから、NTTドコモが総合力を生かして守りを固める、したたかな戦略に出てきたといえそうだ。

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ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。