V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

2017.05.29

2017年5月26日、大阪府堺市のシャープ本社で開催された中期経営計画の発表会見。シャープの戴正呉社長は、少しでも早く、この内容を発表したくて仕方がなかったようだ。

シャープ代表取締役社長 戴正呉氏

開始予定時刻は、午後3時10分。戴社長は開始時間よりも、かなり早く雛壇にあがることが多いが、今回は、開始10分前に、記者やアナリストに資料が配布された直後に雛壇に着席。司会者に向かって、「資料が配付されたのならば始めよう」と促す異例の状況となった。司会者とは、「まだ6分あります。みなさんには3時10分とお伝えしているので、まだ来られる方がいます。もう少しお待ちください」といったやりとりの一幕もあった。

警備が厳しいグリーンフロント堺の入口からは、徒歩で10分以上はかかる同社本社での会見。車で来場しても、ゲートを通過してから会場に入るまでには、2分以上の時間は必要だ。司会者はそれを見越したのか、予定時刻の1分半前には、戴社長の要望通り、前倒しにして会見をスタートした。中期経営計画の会見が予定時間から前倒しでスタートした例は、長年の記者経験でも初めてだ。

一方で、会見の質疑応答では、日本経済新聞の記者に噛みつくシーンも見られた。

「日経新聞には反論したい。シャープは人員削減とばかり報道しているが本当なのか。それは個人の意見。まずい報道ばかりだ。亀山工場は、1400人の社員数が4000人になっている。実際の状況をチェックして報道してほしい」と、質問に答える前に、それまでの雰囲気とは違う、強い口調で反論してみせた。

2016年4月に行われた鴻海によるシャープ買収の会見でも、鴻海流ともいえる同社が主導権を持った会見スタイルが注目されたが、今回の会見でも、そのスタイルが健在であることを示してみせた。

2017年度に最終利益の黒字化を目指す

シャープが、鴻海傘下で初めて発表した中期経営計画の内容は、2019年度に売上高で3兆2500億円、営業利益では1500億円を目指すというものだ。

また、これに伴い、2016年度通期業績発表時には公表を見送っていた2017年度の業績見通しについても発表。売上高は前年比22.4%増の2兆5100億円、営業利益は44.1%増の900億円、経常利益は215.1%増の790億円、当期純利益は前年度のマイナス248億円の赤字から590億円の黒字への転換を予想。さらに、2018年度の売上高予想も2兆8900億円であることを公表した。

シャープの戴正呉社長は、「シャープは、2014年度には2000億円以上の赤字だった。だが、2016年10月以降から営業利益が黒字になった。これは私の実績。私は、有言実現の人である」とし、「この計画は、今年2月以降、10回以上に渡って検討を行ったものであり、数字には自信がある。2017年度の最終黒字化を実現し、2019年度の目標も必ず達成する」と、計画達成には強い意思をみせる。

2016年8月から鴻海傘下での再生をスタート。その舵取りを担ってきた戴社長にとって、短期間にここまでの業績回復を達成してきた自信が、この発言につながっているといえよう。

「2016年度は構造改革に取り組んできた。だが、今回の中期経営計画では、2020年度以降の『次の100年における持続的成長』を確実なものにするために、『ビジネスモデルの変革』、『グローバルでの事業拡大』、『経営基盤の強化』の3つのトランスフォーメーションに取り組んでいく」とする。

8KとAIoTを軸に

その軸になるのが、「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」だ。戴社長は、「8KとAIoT(AIとIoT)で世界を変える」と、今後のシャープの基本方針を示してみせる。

これまでにも戴社長は、「シャープは家電メーカーから脱却する」といってきたが、言い換えれば、この2つの領域に、シャープは事業を集中させ、成長戦略を打ち出すことをより明確に示したともいえる。

たとえば、人に寄り添うIoTでは、「人々の生活を取り巻くAIoTに対応した機器が、変化に気づき、考えて、提案をしてくれる新たなパートナーになる。それによって、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティへ取り組みをシャープがリードする」と語る。

また、8Kエコシステムにおいては、「シャープの強みを軸にして、低価格の8Kカメラ、編集システムを実現することで8Kコンテンツを拡大すること、8K映像を配信するインフラ環境を整備し、8K表示機器および映像伝送のためのインターフェースで業界を先導するといった3つの重点領域に注力するとともに、他社とのアライアンスを推進することになる」とする。ここでは亀山工場で、8Kテレビの生産を行いたいとの意向を示し、それにあわせて亀山工場への投資を進めることも明らかにした。

この2つの事業は、シャープが新たな事業ドメインとして設定したスマートホーム、スマートビジネスソリューション、アドバンスディスプレイシステム、IoTエレクトロデバイスの4つの事業を横断する形で推進することになる。

そのため、全社に横串を刺すことを目的に、AIoT戦略推進室、8Kエコシステム戦略推進室をそれぞれ設置して、One SHARPとしての事業推進を図る。

注目しておきたいのが、この2つの戦略推進室の人事だ。

AIoT戦略推進室の室長には、社外取締役を務めていた元ソニーの石田佳久氏、そして、8Kエコシステム戦略推進室の室長には、元NHKの西山博一氏をそれぞれ起用する。

「石田氏は、ソニー時代には、テレビを担当していたが、それ以前にはパソコンのVAIOやソニーモバイルを担当していた。テレビは仕方なくやった。この分野は専門である。また、西山氏は、NHK出身。5月25日~28日まで、NHKと一緒に、大相撲夏場所の8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイングを東京で開催した。2018年にはNHKが8Kの実用放送をスタートする。8Kでは、テレビだけでなく、カメラも作りたいと考えている」などとし、それぞれの分野の専門家を登用した人事に自信をみせる。

ちなみに、経営層の人事では、2015年には取締役が15人、執行役員が24人いた体制を、取締役が9人、執行役員を12人に削減。シャーププロパーの取締役は、財務担当の野村勝明氏だけになる。その野村氏も、一度はシャープを出て、鴻海が出資したSDPで会長を務めてきた経験者。鴻海傘下での中期経営計画は、シャープの血を薄めて推進することになる。

一方で、4つの事業ドメインを細かく見てみると、この中期経営計画のゴール設定が意欲的であることがわかる。

たとえば、スマートホームは、2016年度実績では5506億円だった売上高を、2019年度には1兆円以上へと倍増する計画を打ち出している。また、IoTエレクトロデバイスは、2016年度実績の4136億円を、2019年度には8000億円以上に拡大。やはり倍増を目指す計画だ。2016年度実績の8420億円を、2019年度には1兆円以上に拡大するアドバンスディスプレイシステムとともに、1兆円規模の柱を3本創出する考えだ。そこに、収益性の高いスマートビジネスソリューションを、2016年度の実績の3177億円から、2019年度には4500億円以上と着実に成長させるというシナリオだ。

また、別の角度から見ると、2019年度の海外売上高は2016年度実績の1.8倍に拡大。とくに、テレビ市場への再参入を図る欧州では、この3年間で3.3倍にまで拡大。中国市場でもテレビにおける付加価値展開を軸に、2.5倍に拡大する計画だ。

「シャープはガラパゴスにならないように、国籍は関係なく、グローバル人材を登用。経営の現地化をしていく」とする。

さらに、デバイスという観点でみれば、IoTデバイスや8Kデバイス、車載デバイスなどの成長により、今後3年間で、1.6倍の事業拡大を目指すという。

鴻海とのシナジー効果をどこで発揮させるか

こうした高い成長計画のベースになっているのは、シャープの強みが発揮できるところを伸ばすという基本姿勢と、その成長において鴻海が持つ力をとことん利用しようという姿勢だ。

また、戴社長は、「シャープは、幅広い事業、独自技術、商品の独創性、革新的なデバイスという強みを持つ。だが、その一方で、商品ラインアップ、デバイス設備の世代更新、グローバル展開を支える人材・リソースといった点での課題がある。強みをさらに強化するとともに、マネジメント力の強化、鴻海グループとのシナジーにより、AIとIoT、8Kエコシステムといった『新技術』と、技術力とコスト力を生かした事業拡大による『グローバル市場』を、当社が狙う事業機会と位置づけている」と説明する。

言い換えれば、新技術での成長は、シャープの得意分野を生かしたものであり、グローバル市場での成長は鴻海とのシナジーによる成果ということになる。

「シャープでは、事業企画の強化やローカルフィット、コア技術開発の強化、工場のスマート化など、付加価値モデルの創出とビジネスモデルの転換に注力する。その一方、共同開発、共同調達、生産委託、物流において、鴻海とのシナジー効果を生かし、事業拡大のスピードを効率的に高めていくほか、OEMやOEMベンダーとの連携、サービス事業者との連携を図るなど、社内外のリソースを効果的に組み合わせることで、バリューチェーンを最適化し、事業拡大、ビジネスモデルの転換を加速する」と、戴社長は基本戦略を示す。

戴社長は、この9カ月間で、シャープの強みと弱みを熟知し、それを素直に中期経営計画に反映させたともいえる。

「過去の経営陣の失敗は、責任感の問題」と言い切る戴社長。経営陣を完全に刷新し、本当の意味での鴻海による再生が始まったといえる。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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