虎ノ門再開発にみる“創業地”に込めた森ビルの強い想い

虎ノ門再開発にみる“創業地”に込めた森ビルの強い想い

2016.04.18

江戸城を築いた名将・太田道灌が「虎は千里行って千里帰る」ということわざにあやかって、出陣の際に通った門を「虎ノ門」と名付けたという。これは東京・虎ノ門の由来の一説だが、これほど雄々しい地名は都心部ではあまり見かけない。道灌が通ったとされる門はすでに撤去されているが、地名としてかの名将の偉業を今に伝えているといえよう。そして現在、地名に劣らない雄々しさで、この地に「虎ノ門ヒルズ」がそびえている。

2019年の竣工を目指し急ピッチで計画

プレゼンテーションを行う森ビル 代表取締役社長 辻慎吾氏

この虎ノ門ヒルズのデベロッパーである森ビルが、この地区の再開発についての発表会を開催した。プレゼンテーションを行った同社代表取締役社長 辻慎吾氏によると、2016年中に「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」「虎ノ門ヒルズ レジデンスタワー」を着工、両ビルとも2019年の竣工を目指すとしている。さらに2022年度を目標に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」を竣工させるとした。つまり、現在営業している虎ノ門ヒルズに加え、3棟のタワーがこの地に新たに生まれることになり、都内でも有数の高層ビル群地になる(発表されたビル名はすべて仮称)。

それぞれの概要は以下のとおり。ビジネスタワーは36階建てで約94,000㎡(約28,000坪)のオフィススペースと、約6,300㎡(約1,900坪)の商業施設からなる。レジデンスタワーは地上56階建てで約600戸の住宅を提供する予定。ステーションタワーは、虎ノ門ヒルズと同等規模となる予定で、東京メトロが約20年ぶりに開業する新駅「日比谷線虎ノ門新駅」(仮称)の上に建ち、オフィスや商業施設、ホテルなどが入居する複合ビルとして利用される。

会場で展示されていた2種類の模型。左の写真は北側から眺めた想定。左のビルからビジネスタワー、虎ノ門ヒルズ、レジデンスタワー、ステーションタワーと並ぶ。右の写真は南側から眺めた想定。この場合、一番左のビルがステーションタワーだ
オフィス、住宅、ホテルなどからなる虎ノ門ヒルズ

これほど大規模な再開発に対して需要があるのかどうかという疑問が生じるが、森ビルには勝算がある。それは現在開業している虎ノ門ヒルズの営業状況がきわめて良好だからだ。 虎ノ門ヒルズはオフィス、住宅、ホテル、カンファレンスからなる複合施設だが、約100,000㎡(約30,000坪)のオフィスエリアはほぼ満室稼働、住宅エリアの分譲は竣工時に完売、賃貸の稼働率は90%以上、ホテルは宿泊単価が高いのにもかかわらず約85%の稼働率、カンファレンスは開業以来2年で800のイベントが開催され、のべ23.5万人の来場があった。つまり、虎ノ門ヒルズ1棟では、さばききれない状態といえるのだ。

東京オリンピックによる需要増に期待

加えて東京オリンピック開催によるグローバル需要の取り込みを見込んでいる。事実、辻社長は「ビジネスタワーとレジデンスタワーを2019年に竣工するのは、東京オリンピック・パラリンピック開催に間に合わせたいため」と、その野望を隠さない。オリンピック開催までの期間は海外からの需要を取り込む好機であるうえ、虎ノ門が東京・港区という好立地にあることも拍車をかける。というのも、日本には約3,100社の外資系企業が進出しているが、そのうちの788社が港区に拠点をかまえ、外国人居住者が18,000人以上も集まっているからだ。千代田区で約2,600人、中央区で約5,600人であることを考えると、港区にいかに外国人居住者が集まっているのかがわかるだろう。

日本資本の重厚長大な巨大企業は大手町や丸の内に集中しており、そうした企業が簡単に本社機能を虎ノ門に移すとは考えにくいが、海外からの進出企業やベンチャーに対し、オフィスを提供しやすい条件にあるのは確かだ。

今回発表された再開発のなかでも注目なのが、日比谷線に新駅が開設されることだろう。新駅の建設事業は東京メトロとUR都市開発機構によるもので、やはり東京オリンピック開催に間に合わせて2020年に供用開始、最終的な完成は2022年を目指す。新駅に関して森ビルは事業主体ではないが、相当な期待を寄せていると考えてよい。というのも、虎ノ門ヒルズは銀座線・虎ノ門駅から若干離れた位置にあり、“陸の孤島”感が否めない状況にあったからだ。

だが、新駅が完成すれば地下鉄直結となり、ビルとしての利便性が増す。さらに野村不動産が進める再開発とも連携し、銀座線・虎ノ門駅から虎ノ門ヒルズへの地下通路も計画されている。“駅直結”は一級のオフィスビルを満たす絶対条件。これまで外を歩かなければアクセスできなかった虎ノ門ヒルズにとって、駅直結はノドから手が出るほどほしかった“機能”だったにちがいない。

加えて大型のバスターミナルも設置する。地下鉄直結と合わせ、アクセスのしやすさを大幅に向上させる予定だ。

左:ビジネスタワーに開設されるバスターミナルのイメージ。右:低層部は緑地を生かした遊歩道になる(写真提供:ともに森ビル)

六本木・虎ノ門、両ヒルズが同一路線上に!

日比谷線の新駅開設は駅直結というメリットを生むだけではない。森ビルの象徴的な存在である六本木ヒルズと虎ノ門ヒルズが、1本の路線上で結ばれることになるのが最大の利点といえよう。両ヒルズが有機的に連携するのにこれほどの好条件はない。さらに、新駅と六本木駅のあいだにある神谷町駅周辺の価値がグンと上がってくることが予想できる。

解体作業が進む「虎ノ門10森ビル」。ここにビジネスタワーが着工される。奥に見えるのが虎ノ門ヒルズ

森ビルは1960年代から「ナンバービル」と呼ばれる戦略を採ってきた。これは創業者の森泰吉郎氏による施策で、数多くのオフィスビルを特定の地域に集中させ、高度経済成長によるオフィス需要に応えてきた。「虎ノ門00森ビル」などと名称をつけたため、ナンバービルというわけだ。

実はこのナンバービルが虎ノ門から神谷町にかけて数多く存在している。両ヒルズに挟まれたこの地域の価値が上がれば、高度経済成長を支えたこれらのナンバービルの再開発に着手しやすくなる。事実、今回発表されたタワーは、ナンバービルを解体した跡地に建設されるものだ。

ヒルズ開業で存在感を高める虎ノ門

虎ノ門は、北側の“行政の街”霞が関と南東側の“サラリーマンの街”新橋に挟まれ、いまいちその存在感を示せなかったイメージが強い。だが、2年前の虎ノ門ヒルズ開業以来、その注目度が一気に増している。辻社長は虎ノ門を指して「ここから、いつか東京が必ず世界一の都市になる」と強い想いを込めるが、これは、この地域が森ビルの“創業地”であるからにちがいない。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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