なぜ文具メーカーが? 災害時の支援セットを出すキングジムの目のつけどころ

なぜ文具メーカーが? 災害時の支援セットを出すキングジムの目のつけどころ

2017.04.06

A4ファイルやテプラでおなじみ、文具メーカーのキングジムは、災害時にオフィスなどに留まって一夜を過ごす際に必要になるものをセットにした「災害備蓄セット」と、帰宅する人に向けた「災害帰宅セット」を作った。なぜ文具メーカーが……。同社の広報に話を聞いた。

防災関連商品を展開

「災害備蓄セット」には、長期間保存ができる水、非常用の簡易トイレ、水なしで食べられるご飯など、オフィスなどの滞在に必要になるもの6アイテムが詰め合わせされている。

「災害備蓄セット」アレルギーのある方にも配慮した食品を使用している

「災害帰宅セット」には、交通機関がストップした際などに自力で家まで帰ることを想定、帰宅途中に必要になりそうなもの、保存水はもちろんのこと、非常用のライトや笛などがセットされている。

「災害帰宅セット」歩く際に必要になりそうなもの

両方とも、入っている箱を組み立て直すと簡易まくらになる。人の目が気にならないように、まくらの両端は目隠しできるようになっているほか、まくらの中には貴重品をしまえるようなっている。いずれも東日本大震災の時の教訓を生かして開発された。

簡易的な枕になる。一夜を過ごせるように

文具メーカーのキングジムがどうして、畑違いの食品を売るのだろうか? 実は、同社が、このような防災関連商品を出すのは初めてのことではないのだ。

最初に出したのが、今回のセットの前身になった「帰宅支援キット」。さらに、2014年には、災害時の防寒対策になる着る布団を出している。「東日本大震災の時に実際に会社に泊まりましたが、そのとき会社に泊まるのは至難の業なのだと分かったのです。そこから発案した商品です」。そう話すのは、同社広報の宮崎千恵さん。「着る布団&エアーマットは、すそを折りたたむことで、サイズ調整が可能で、余震が起きた際にはこのまま逃げることができるようになっている。エアマットは、冷たい床の上で寝ることになっても温度が体に伝わらないようにするためだ。

エアーマットの端を丸めると枕にもなるし、約2メートルあるので、男性でも結構大丈夫なサイズだ

「発売当時、“社蓄セット”とネット上で、話題にしていただいたこともあって、売り上げは好評でした」。(宮崎さん)フリーサイズで大人ならだれでも着用できるが、学校などが避難所なっている場合も多いため、子ども用も出した。食品だけでなく衣服まで売っていたのだ。

“オフィスに足りないもの”を補う商品を展開

東京都では震災後、東京都帰宅困難者対策の条例を定めている。その中で、事業者に対し、従業員向けの3日分の水、食料等の備蓄を推奨している。

「今、備蓄を持っている企業が多ですが、保管場所がないから増やせないということもあるでしょう。そういう時に、足りない部分を補うという発想です。」発災時に倉庫まで取りに行くことが困難なこともあるだろう。そういう時でも、キングジムの防災関連商品はいずれも、A4ファイル大のケースに入っているのでオフィスの棚に書類と一緒に置くことができる。追加のスペースを作る必要性が低いのが利点だという。

オフィスに追加のスペースを作る必要がなく、A4 ファイルと一緒に収納できるし、誰のものなのか記入できるので、管理もしやすいお道具箱感覚だ

なぜこのような、文具とは程遠い防災関連商品を出しているのか。

A4サイズがポイント

「うちは元々、オフィス環境を改善するための用品というジャンルでエアコンの風を拡散する装置や、デスク周りの商品も開発していました。オフィスで足りていないものはなんだろうと。そういった発想から今回の防災関連商品は、生まれたのです。」と宮崎さん。

防災関連の商品が、A4サイズのケースに入っている訳。それは、同社の主力商品であり、国内シェア1位の「キングファイル」シリーズの売れ筋がA4サイズ。棚をA4サイズに合わせているオフィスが多いであろうことからなのだという。

とはいえ、同社が持っている自社工場は、ファイルを製造する工場のみ。それ以外の商品については、その商品についての技術、知見などを持った企業に協力してもらい、製造を依頼。今回のセットでは、A4の箱のみ自社製造で、中身の食品などは協力企業から買い集めたものだという。「うちの開発部署は、商品企画という趣きが強いです。アイデアを出して、ディレクションする人というイメージ。工場がないからこそ、幅広い商品が出せるのです」と宮崎さん。“A4”“オフィス”というキーワードで防災関連の商品に行き着いたのだ。企業の防災意識の高まりもあり、売れ行きは好評だという。

今後の同ジャンルの商品の展開はまだわからないというが、A4サイズの災害時の支援セットや、ポメラなど、全く思いもつかない、商品を出し続けるキングジム。まだ見ぬ“オフィスに足りないもの”は世に出るのか。今後の商品展開がますます注目される。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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