謎のビジネス、沖縄セルラーの

謎のビジネス、沖縄セルラーの"植物工場事業"とは何か

2017.04.07

家庭用水耕栽培キット「やさい物語」の発売、マンゴー栽培の実証実験――。沖縄セルラー電話が3月に発表した取り組みだ。沖縄セルラー電話といえば、れっきとした通信事業者である。その会社がなぜか農業に力を入れている。調べると「植物工場事業」なるものを展開しているのだ。

植物工場の概観。沖縄セルラー電話はなぜ野菜の栽培をするのか(写真:沖縄セルラー電話提供、以下同)

だが、調べてみても、わかることはごくわずか。水耕栽培で野菜を栽培・販売していることがわかる程度であり、詳細は不明だ。この事業は一体何なのか。沖縄セルラー電話のビジネス開発部 開発グループ 植物工場プロジェクトリーダー課長の加賀武史氏に話を聞くと、いろいろと広がっている面白いビジネスだった。

はじまりは社員教育の一環

植物工場事業は、沖縄セルラー電話の新規事業として2013年10月に始まったビジネスだ。

およそ5年ほど前のこと。社員の自主性、積極性を育む社員教育の一環として新規事業の募集が行われたという。沖縄経済の発展に結びつくものが条件で、計20ほどのテーマが集まった。そこから生まれたのが、観光事業、植物工場事業だった。

植物工場事業は主に高原野菜のレタスを栽培・販売(ほかにバジルも)する事業だが、これは、沖縄のある事情を汲んだものだ。実は沖縄はレタスの9割を県外から仕入れており、天候不順が続くと価格が高騰、夏場も沖縄に届く頃には鮮度が失われてしまうなどの問題を抱えていた。昨夏は過去最高値を記録し、県内の南大東島で販売された北海道産レタスは1玉およそ1,300円になったという。こうした問題を少しでも解消し、県内でのレタスの安定供給に一役買おうと始めたのが植物工場事業だった。

当然、通信技術の活用も視野に入れていたと思いきや、開始当初はそれほど意識していなかったという。当初は工場建設用地として、沖縄セルラー電話の所有地を活用したくらいで、純粋にレタスの安定供給を目指していたようだ。

ところが、これが変わっていく。事業開始からしばらくして、通信と絡めた生産体制の構築が経営幹部から求められるようになった。出来上がったのが、遠隔監視システムだ。これは工場内の温度、湿度、水温、二酸化炭素の濃度をセンサーで計測し、異常を検知すると、指定のアドレスにメールを送信する仕組みだ。

植物工場場内の様子

ありがちなトラブルが、二酸化炭素濃度の低下。レタスの育成には光合成が必要で、レタスの葉に二酸化炭素をかけることで、生育が早まるが、ボンベ内の二酸化炭素が切れてしまうと生産効率が落ちてしまう。工場は土日休業となっており、金曜の夜に二酸化炭素のボンベが切れると、月曜に出社した際に、レタスの育成スピードが通常よりも顕著に落ちているという。こうしたミスを防ぎ、異常を知らせることで、休日でも対処できるのだ。

2013年10月から始まった事業は、今や2工場体制となり、レタスの栽培は日産900株、重量にして60kgほどとなった。生産したレタスは、小売のリウボウストアとハンバーガーチェーンのA&Wに年間契約で販売している。いまや、県内では最大規模の生産者になっているとのことだ。

偶然が広がりを持たせる

植物工場事業で培った技術は、家庭用水耕栽培キット「やさい物語」、マンゴー栽培の実証実験にもつながっていく。面白いのは"偶然"によって結びついたことだ。

水耕栽培キットの製品化は、もともとミッションとして2年ほど前から存在していたが、悩みどころがあり、棚上げされた企画になりつつあったという。

急展開を迎えたのおよそ1年ほど前のこと。KDDI総合研究所が主催する農業に関する勉強会で、キットの構想を話したところ「KDDI総合研究所で同じことを考えている人がいて、意気投合して進めました」(加賀氏)。KDDI総合研究所がアプリケーションやサーバー回りを担当し、栽培に関わる"光"や水の管理などの植物工場事業のノウハウを活かして、やさい物語を完成させた。

やさい物語。スマートフォンアプリで気温、湿度などを確認できる

マンゴーの栽培については、新規事業の観光事業も少し関わってくる。沖縄セルラー電話の観光事業が沖縄の特産品を販売するECサイト事業を譲り受けた。その流れで、担当者が宮古島のマンゴーを仕入れに行ったところ、宮古島では日照不足により、マンゴーの収穫量が例年の半分以下になったことを聞きつける。

そこで植物工場事業の出番となった。日照不足が問題であれば、レタスの栽培で培ったLEDを使っての補光技術が活用できる。こうした流れから、KDDI、琉球大学、スカイディスクといったパートナーとともにマンゴー栽培の実証実験が始まったのだ。

沖縄を支える事業に

沖縄の役に立つ新規事業を――。そんな思いから始まった植物工場事業。県内最大級の生産者になったとはいえ、沖縄のレタス需要を賄いきれるものではなく、特に夏場は圧倒的に足りない状況にあるという。だからこそ、この先も第3工場、第4工場と事業を拡大していくのだろう。

そう思ったが、加賀氏に聞くと、どうやらそれは違うようだ。レタスだけではニッチな事業にしかならず、他の品目も検討しているという。そして、遠隔監視システムの販売やコンサルティングを通じて、植物工場を希望者をサポートする役割を担っていく。新たに工場を建設して生産量を高めるよりも、ノウハウ活用のほうが価値あるものと考えたのだろう。

さて、この植物工場事業であるが、情報量が極端に少ないのは、おそらくその規模にあると思われる。沖縄セルラー電話の2017年3月期の営業収益は約630億円と予想。対して、植物工場事業の規模は、主力のレタスの栽培量から計算しても1億円にも到達しそうにない。会社全体からみたら、ごく小さなものに過ぎないからだ。

だが、レタス、バジル、マンゴー、栽培キットと活躍の場は広がっている。目指す方向も沖縄の農業をサポートするという意義の高いものであり、存在自体は、利益の多寡では表現できそうにない。謎のビジネスは、沖縄を支える価値ある事業であり、これからも広がりが期待できる事業だったのだ。

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。