ぐるなびと鉄道会社が探るインバウンド需要の本当の在りか

ぐるなびと鉄道会社が探るインバウンド需要の本当の在りか

2016.04.19

ぐるなび、東京急行電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)の3社が、他の鉄道会社や航空会社などを巻き込んで仕掛ける訪日外国人向け観光情報サービス「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE TOKYO」(以下、LIVE JAPAN)。名所や飲食店などの詳細情報を多言語で提供するウェブサイトで、参画企業は「ぐるなび」のように有料加盟店を主な収入源とするが、狙いは情報掲載料収入だけではないようだ。

多言語変換システムによるリアルタイムな情報発信

LIVE JAPANは「観光」、「食事」、「買い物」、「宿泊」の4ジャンルの情報をワンストップで提供するウェブサイト。トップページと情報コンテンツ(日本のマナー解説など)は8言語、施設ガイドサービスと便利機能サービス(交通案内など)は5言語で表示できる。参画企業は鉄道会社、航空会社、運輸会社などの計21社で、ぐるなび、東急電鉄、東京メトロの3社が事務局の役割を担う。まずは東京の情報をまとめたサイトとしてスタートするが、軌道に乗れば対象エリアを拡大する可能性もあるという。

飲食店であれば、料理の画像、材料、調理法、調味料といった情報を載せることで、ユーザーに来店の判断を促す。そのレストランに行きたいユーザーは、今日の混雑状況、現在地からの経路、クーポンなどの情報をワンストップで取得できる。店舗の予約機能は実装されていないが、ニーズがあれば検討するとのこと

LIVE JAPANの特色となるのは、掲載店舗によるリアルタイムな情報発信。それを可能にするのが独特の多言語変換システムだ。同サイトでは訪日外国人向けに発信されている情報を分析し、掲載店舗が必要とするであろう単語を日本語であらかじめ用意している。

「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE TOKYO」グランドオープン記者発表会に登壇したぐるなびの滝会長

セール情報など、直近のイベントを外国人旅行客に知らせたい事業者は、使用する単語を選んで組み合わせるだけで、5カ国語による情報発信を行うことができる。この仕組みを飲食店が使う場合、例えば「今日の何時に新鮮な鯛が入荷します」というような情報を即時に発信することが可能だ。

「(インターネットが普及した現代では)今日の情報でなければ情報の価値はゼロに近い。常にリアルタイムな情報を出し続けられる仕組みが必要だ」と語るのは、ぐるなび創業者で同社代表取締役会長の滝久雄氏。東京の事業者が情報発信の主役となるのが理想と語る同氏が、LIVE JAPANで目指すのは「プラットフォーム型」の観光情報サービスだという。

事業性を左右する登録店舗数

LIVE JAPANには4月13日のグランドオープン時点で約2,500店の有料掲載店が登録を済ませている。掲載料には1万円から30万円までの幅広いプランがあるという。サービス開始時点の登録店舗数にLIVE JAPAN事務局は一定の手応えを得ているようだが、同サービスの事業性を高めるためには更なる加盟店舗の積み増しが必要だろう。ちなみに、1996年に事業を開始した「ぐるなび」の有料掲載店は2015年末時点で5万6,000店弱だ。

有料加盟店が順調に増えていけば、LIVE JAPANが「ぐるなび」のようなウェブサイトに成長し、参画企業に大きな収益をもたらす可能性がある。しかし、このサービスに参画する企業には、別の狙いもある。そう思う理由は、このサイトが持つ情報収集能力の高さにある。LIVE JAPANには、ユーザーがどの言語を使用し、どんなことを、どのスポットで調べたかという情報を解析する仕組みが実装されているのだ。

トレンドの早期発見がインバウンド市場攻略の近道

インバウンド市場を攻略するには、外国人旅行客のトレンドを掴むのが重要。外国人旅行客が欲しがっているモノや、行きたがっている場所に関する情報を早期に把握すれば、企業は需要取り込みに向け万全の体制を敷くことができる。しかし、日本人の思いもよらないスポットに集まったり、日本人が見過ごしていたモノに価値を見出したりしがちな外国人旅行客、特にFIT(個人旅行)の観光客が、次に注目する場所やモノを予想するのは容易ではない。

そこで注目したいのが、LIVE JAPANが持つトレンド情報の収集機能だ。どこの国から来た観光客が、何に興味を持っているかを掴むことにより、LIVE JAPANはサイトの内容を常に最適化していくことができる。LIVE JAPANの参画企業にしてみれば、同サイトで吸い上げた情報を本業に活用できるのは大きな利点。参画企業に同サイトの運営収入以外の狙いがあるとすれば、こういった情報にアクセス可能な立場を得られるという部分だろう。

ユーザーの国籍については、端末の設定言語からある程度の予測が可能。どんな人が、どんなことを、どこで調べているかが分かるため、トレンドの発生場所や外国人旅行客が目をつけている事象・商品に当たりをつけられる

鉄道事業者に集まる情報も貴重なヒントに

LIVE JAPANという枠組み全体を見た場合、鉄道事業者が多く参画している点もトレンド情報の収集には重要な要素となる。

鉄道事業者は飲食店や商業施設といった沿線の事業者と関係が深い。沿線の事業者から上がってくる生の声には、外国人旅行客が集まっている意外なスポットや、外国人旅行客に人気がある意外なモノに関する情報も含まれている。鉄道事業者自身が持つ情報も貴重で、たとえば何駅の駅員に外国人旅行客からの問い合わせが何件あり、その内容が何だったかといったようなことが分かれば、外国人が不便に思っていることを把握することができる。不便な点が分かれば、それを解消する新たなサービスの誕生につながる可能性もあるわけだ。

東京の主要な鉄道事業者のほか、航空会社、空港運営会社、運輸会社などが参加するLIVE JAPAN。参加者のなかには、独自の観光情報サイト設立を検討していた企業もいたようだが、結果としてLIVE JAPANとして一本化した。タクシー会社など、参画企業は今後も増えていく可能性が高い

トレンド情報の集積サイトになりうるLIVE JAPAN

拡大を続けるインバウンド市場の攻略を狙う企業は、外国人旅行客のトレンドに敏感である必要がある。LIVE JAPANの参画企業のなかには、サイトからの掲載料収入と同じくらいに、同サイトの運営によって取得できる外国人旅行客のトレンド情報に価値を見出している企業もいるだろう。

LIVE JAPANに登録する有料加盟店も、同サイトに集まる外国人旅行客のトレンド情報を活用できるかもしれない。注目したいのは、ぐるなびが実施している「ぐるなび大学」という取り組みだ。これは「ぐるなび」の登録企業に対し、ぐるなびが集客対策などのノウハウを提供する講義形式のセミナー。LIVE JAPANに「ぐるなび大学」のような仕組みを導入すれば、参画企業と有料加盟店が同サイトに集まる情報を共有することが可能となる。

「ぐるなび外国語版」のユーザーは200万人を超えているというが、ぐるなびの滝会長は、LIVE JAPANのユーザー目標を「ぐるなび外国語版」よりも上に置く。多くのユーザーが利用するようになれば、LIVE JAPANに集まる外国人旅行客に関するビッグデータの精度は向上する。その情報にアクセスしたいと考える企業が増えれば、LIVE JAPANの参画企業と有料加盟店が拡大するという好循環が生まれるだろう。

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なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。