もうすぐ始まる4K、8K実用放送 - 今必要なことは?

もうすぐ始まる4K、8K実用放送 - 今必要なことは?

2017.04.14

2018年12月に、4Kおよび8Kの実用放送が開始されることになる。

つまり、約20カ月後には、4Kおよび8K放送を、家庭で普通に楽しむことができる時代が訪れるのだ。

総務省が2015年7月に発表した「4K・8K推進のためのロードマップ~第二次中間報告」では、2020年の目指す姿として、「2020年の東京オリンピック/パラリンピックにおいて数多くの中継で4K/8Kが放送されている」、「全国各地におけるパブリックビューイングにより、東京オリンピック/パラリンピックの感動が会場のみならず、全国で共有されている」、「4K/8K放送が普及し、多くの視聴者が市販のテレビで4K/8K番組を楽しんでいる」といった環境の実現を目指しており、それに向けて、放送設備の整備や、テレビなどの受信機器の開発、販売が進められることになる。

2020年に向けていろいろ進んでいるのですね

つまり、2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは、4Kおよび8K放送が一般化したものになるという姿を政府は描いているわけだ。

こうしたロードマップの進展にあわせて、4Kおよび8Kを取り巻く環境も賑やかになってきた。

今ある4Kテレビでは対応しきれない

一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、2017年4月1日から、110度CSを利用した日本初の「左旋円偏波4K試験放送」を開始した。さらに、4Kテレビの累計出荷台数も2017年中には約400万台に達すると見られるほか、シャープが8Kモニターのラインアップを拡大し、6月から新たに70型の製品を追加発売するととともに、8K試験放送対応受信を発売するといった動きも出ている。そして、今年度中には、BS左旋放送用の衛星の打ち上げも予定されている。

だが、その一方で、衛星から伝送される4K放送は、既存の4Kテレビのままでは視聴できず、新たにチューナーを利用する必要があるものの、それを理解していないユーザーも多いのも事実。4Kおよび8K放送の実用化を前に、認知度を高め、様々な誤解を払拭するための周知活動を今後加速させる必要にも迫られている。

既存の4Kテレビのままでは新しい4K、8Kは見れないのです

2018年12月にはBSが4Kに

現在、4K放送は、ケーブルテレビおよびIPTV、124/128度CSで実用放送が開始されている。

ケーブルテレビでは、4K専門チャンネル「ケーブル4K」が2015年12月からスタート。全国のCATV事業者79局で、4Kの実用放送が行われているほか、IPTVでは、NTTぷららが2014年10月から日本初のビデオ・オン・デマンド方式での4K実用放送を開始。2015年11月から、4KによるIP放送を開始している。現在、ネットフリックスやアクトビラ、dTV、YouTube、Amazonビデオでも4Kコンテンツの配信を行っており、4Kテレビでこれらの4Kコンテンツを楽しむことができる。

また、衛星を使った4K放送では、124/128度CSで、スカパーJSATが、スカパー!4Kの実用放送を2015年3月から開始しており、同放送は光回線を通じた視聴も可能となっている。

さらに、2016年8月からは、NHKにより、BS右旋による試験放送が開始されており、このほど、2017年4月から110度CS左旋による試験放送が開始。2018年にはこれらの衛星放送波でも実用放送が開始されることになっている。

BS右旋では、2018年12月1日から、BS朝日、BSジャパン、BS日テレ、NHK SHV 4K、BS-TBS 4K、BSフジが4K実用放送を開始。BS/110度CS左旋では、ショップチャンネル、映画エンタテインメントチャンネル、WOWOWのほか、スカチャン4Kの8番組が同じく2018年12月1日から4K実用放送を開始。さらに、QVCが2018年12月31日から4K実用放送を開始し、NHK SHV 8Kが2018年12月1日から8K実用放送を開始することになる。

これにより、衛星放送波では、4K放送で18チャンネル、8K放送で1チャンネルの合計19チャンネルが新たにスタートすることになる。

ちなみに、地上波による4Kおよび8Kの実用放送の具体的な計画はない。

右旋・左旋とはなにか

ところで、右旋および左旋という言葉が急に聞かれるようになってきたが、これは果たしてなんなのだろうか。

これは、その名の通り、衛星から見て、時計回りに回転するものを右旋、反時計回りに回転するものを左旋と呼ぶ。いわば周波数の効率的利用を行うもので、BS・110度CSにおいて、同じような周波数帯を、右旋と左旋によって切り分けて利用することで、大幅なチャネル増を実現することができる。左旋での放送は日本では初めての取り組みになり、世界的に見ても珍しい。

A-PABでは、「すでに右旋には新規チャネル割り当ての余裕がなく、新たに左旋を開拓する必要があった。基幹放送普及計画では、超高精度テレビジョン放送においては、左旋円偏波の電波の周波数を使用して放送を行うことを基本としており、左旋は4Kおよび8K放送の基本的な伝送路になる」と説明する。

右旋はすでにNHKと民放のBSで割り当てが埋まっているんですね

左旋による放送波を受信するには、BS・110度CS右旋左旋用アンテナ(右左旋共用アンテナ)を使用する必要があるが、1本の同軸ケーブルで右旋と左旋を同時配信できるように、右旋IF(中間周波数)の上側に左旋IFを配置。アンテナ受信時に、伝送上、右旋と混信しないように、コンバータで変換。右旋では、1032.23MHz~2070.25MHzを使用し、左旋では2224.41MHz~3223.25MHzを使用することになる。

このほどA-PABが実施する左旋による4K試験放送は、中間周波数帯で一番高い、3224MHzの周波数を利用し、受信チューナーの開発、試験、検証を行うことで、2018年12月の実用放送の開始までに、新たな4Kおよび8K放送の受信環境を整備する狙いがある。

毎日午前11時~午後5時までの6時間、スカパーJSATから提供される4Kコンテンツを放送するが、この受信機が、現時点では日本に3台しかないため、一般視聴者が試験放送を受信することはできない。

茶の間のテレビ……大画面の主流はすでに4K

では、現時点での4Kテレビの普及はどうなっているのだろうか。

量販店のPOSデータなどを集計しているBCNによると、2017年3月の集計で、4Kテレビの構成比は25.9%と、4台に1台の割合になっている。しかも、40型以上の大画面テレビで見た場合には、64.3%にまで上昇し、3台に2台が4Kテレビとなっている。1台目のテレビとしてリビングに設置される大画面テレビの主流は、すでに4Kテレビになっているといっていい。

一般社団法人電子情報技術産業協会の予測によると、2018年には4Kテレビが年間450万台、2Kテレビが年間410万台と出荷台数が逆転。2020年には4K化率が約70%に達すると予測し、年間740万台の4Kテレビが出荷されると見ている。

シャープの4K HDR対応液晶テレビ『AQUOS U45』

ところで、現在販売されている4Kテレビでは、2018年12月から開始されるBS・110度CSの右旋、左旋による4K放送は受信できないことを知っているだろうか。

既存のテレビには、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送向けのチューナー搭載されておらず

現在、発売されている4Kテレビは、スカパーの4K放送に対応したチューナーを搭載し、インターネット接続によって、ネットフリックスなどの4K配信サービスなどに対応している。それによって、4Kコンテンツの視聴が可能となっている。だが、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送向けのチューナーは搭載されていないため、今後、実用放送が開始されたときには、新たにチューナーを追加するか、チューナー機能を搭載したレコーダーなどを接続する必要がある。

もちろん、実用放送が始まるタイミングでは、BS・110度CS対応チューナーが内蔵された4Kテレビが発売されるのは明らかであり、さらに、CATV事業者のサービスを通じて、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送のコンテンツが再配信される可能性は高い。だが、いま販売されている4Kテレビは、すべて衛星での4K放送を受信するためのチューナーが搭載されていないことは知っておくべきだ。

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)では、同協会のサイトや協会加盟メーカーなどを連携して、「現在メーカー各社から販売されている4K対応テレビや4Kテレビには、BS・110度CSによる4K・8K放送を受信する機能は搭載されておりません。実用放送に向けて商品化が期待されるBS・110度CSによる4K・8K放送の受信機能を搭載した外部機器と接続することで、新たな4K放送を視聴できるよう準備が進められています」といった内容で告知を行っている。だが、この仕組みに対する認知度が低いのは事実だ。

A-PABが2016年9月に行った調査では、現在販売されている4Kテレビでは、衛星による4K実用放送が見られないことを知っていた人は6.5%。つまり、93.5%の人がそれを知らないということもできる。

アンテナの追加購入が必要

BS・110度CSでは、新たに左旋が加わったことで、これまでの右旋専用アンテナでは、左旋による放送が受信できない。現在のフルHDによるBS放送では右旋を使用しており、BS右旋での4K放送は視聴できるが、左旋による4K放送を視聴するには、右左旋共用アンテナを使用する必要があるのだ。

右旋右左旋共用アンテナは、すでにアンテナメーカー各社から発売されているため、買い換えなどの予定がある場合は、右左旋共用アンテナにしておいた方がいいだろう。

JEITAでは、BS・110度CSによる右左旋用受信機のうち、一定以上の性能を満たしたアンテナやブースター、分配器、壁面端子、混合器、直列ユニット、分波器に「SH(スーパーハイビジョン受信)マーク」を付与。すでに認定製品が300以上に達しており、同マークが付与された機器を利用することを推奨している。

また、A-PABでは、周知広報ワーキンググループのなかに、左旋準備タスクフォースを設置。受信システムの普及活動を行う考えを示している。また、テレビ受信向上委員会では、全国の電気店や電気工事店を対象にした新技術セミナーに講師を派遣。さらには、分譲マンションの管理会社を対象にした全国支部でのセミナーを開催し、集合住宅における改修のポイントを解説。日本CATV技術協会との連携により、受信システム施工会社などに左旋試験放送を利用した伝送試験なども行っていくという。

A-PABでは、「設備によっては、ケーブルの張り替えなどの改修が必要になる場合もある。また、アンテナ交換だけではなく、ブースターや混合器、テレビ端子も左旋に交換する必要がある」とする。

こうした業界内に向けた告知を進める一方で、今後は、エンドユーザーに対して、4Kおよび8Kに関する正しい知識の周知、普及活動が進められることになる。

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に「あ、BMWだ!」と感じてしまうクルマになっているとしたら、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。