もうすぐ始まる4K、8K実用放送 - 今必要なことは?

もうすぐ始まる4K、8K実用放送 - 今必要なことは?

2017.04.14

2018年12月に、4Kおよび8Kの実用放送が開始されることになる。

つまり、約20カ月後には、4Kおよび8K放送を、家庭で普通に楽しむことができる時代が訪れるのだ。

総務省が2015年7月に発表した「4K・8K推進のためのロードマップ~第二次中間報告」では、2020年の目指す姿として、「2020年の東京オリンピック/パラリンピックにおいて数多くの中継で4K/8Kが放送されている」、「全国各地におけるパブリックビューイングにより、東京オリンピック/パラリンピックの感動が会場のみならず、全国で共有されている」、「4K/8K放送が普及し、多くの視聴者が市販のテレビで4K/8K番組を楽しんでいる」といった環境の実現を目指しており、それに向けて、放送設備の整備や、テレビなどの受信機器の開発、販売が進められることになる。

2020年に向けていろいろ進んでいるのですね

つまり、2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは、4Kおよび8K放送が一般化したものになるという姿を政府は描いているわけだ。

こうしたロードマップの進展にあわせて、4Kおよび8Kを取り巻く環境も賑やかになってきた。

今ある4Kテレビでは対応しきれない

一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、2017年4月1日から、110度CSを利用した日本初の「左旋円偏波4K試験放送」を開始した。さらに、4Kテレビの累計出荷台数も2017年中には約400万台に達すると見られるほか、シャープが8Kモニターのラインアップを拡大し、6月から新たに70型の製品を追加発売するととともに、8K試験放送対応受信を発売するといった動きも出ている。そして、今年度中には、BS左旋放送用の衛星の打ち上げも予定されている。

だが、その一方で、衛星から伝送される4K放送は、既存の4Kテレビのままでは視聴できず、新たにチューナーを利用する必要があるものの、それを理解していないユーザーも多いのも事実。4Kおよび8K放送の実用化を前に、認知度を高め、様々な誤解を払拭するための周知活動を今後加速させる必要にも迫られている。

既存の4Kテレビのままでは新しい4K、8Kは見れないのです

2018年12月にはBSが4Kに

現在、4K放送は、ケーブルテレビおよびIPTV、124/128度CSで実用放送が開始されている。

ケーブルテレビでは、4K専門チャンネル「ケーブル4K」が2015年12月からスタート。全国のCATV事業者79局で、4Kの実用放送が行われているほか、IPTVでは、NTTぷららが2014年10月から日本初のビデオ・オン・デマンド方式での4K実用放送を開始。2015年11月から、4KによるIP放送を開始している。現在、ネットフリックスやアクトビラ、dTV、YouTube、Amazonビデオでも4Kコンテンツの配信を行っており、4Kテレビでこれらの4Kコンテンツを楽しむことができる。

また、衛星を使った4K放送では、124/128度CSで、スカパーJSATが、スカパー!4Kの実用放送を2015年3月から開始しており、同放送は光回線を通じた視聴も可能となっている。

さらに、2016年8月からは、NHKにより、BS右旋による試験放送が開始されており、このほど、2017年4月から110度CS左旋による試験放送が開始。2018年にはこれらの衛星放送波でも実用放送が開始されることになっている。

BS右旋では、2018年12月1日から、BS朝日、BSジャパン、BS日テレ、NHK SHV 4K、BS-TBS 4K、BSフジが4K実用放送を開始。BS/110度CS左旋では、ショップチャンネル、映画エンタテインメントチャンネル、WOWOWのほか、スカチャン4Kの8番組が同じく2018年12月1日から4K実用放送を開始。さらに、QVCが2018年12月31日から4K実用放送を開始し、NHK SHV 8Kが2018年12月1日から8K実用放送を開始することになる。

これにより、衛星放送波では、4K放送で18チャンネル、8K放送で1チャンネルの合計19チャンネルが新たにスタートすることになる。

ちなみに、地上波による4Kおよび8Kの実用放送の具体的な計画はない。

右旋・左旋とはなにか

ところで、右旋および左旋という言葉が急に聞かれるようになってきたが、これは果たしてなんなのだろうか。

これは、その名の通り、衛星から見て、時計回りに回転するものを右旋、反時計回りに回転するものを左旋と呼ぶ。いわば周波数の効率的利用を行うもので、BS・110度CSにおいて、同じような周波数帯を、右旋と左旋によって切り分けて利用することで、大幅なチャネル増を実現することができる。左旋での放送は日本では初めての取り組みになり、世界的に見ても珍しい。

A-PABでは、「すでに右旋には新規チャネル割り当ての余裕がなく、新たに左旋を開拓する必要があった。基幹放送普及計画では、超高精度テレビジョン放送においては、左旋円偏波の電波の周波数を使用して放送を行うことを基本としており、左旋は4Kおよび8K放送の基本的な伝送路になる」と説明する。

右旋はすでにNHKと民放のBSで割り当てが埋まっているんですね

左旋による放送波を受信するには、BS・110度CS右旋左旋用アンテナ(右左旋共用アンテナ)を使用する必要があるが、1本の同軸ケーブルで右旋と左旋を同時配信できるように、右旋IF(中間周波数)の上側に左旋IFを配置。アンテナ受信時に、伝送上、右旋と混信しないように、コンバータで変換。右旋では、1032.23MHz~2070.25MHzを使用し、左旋では2224.41MHz~3223.25MHzを使用することになる。

このほどA-PABが実施する左旋による4K試験放送は、中間周波数帯で一番高い、3224MHzの周波数を利用し、受信チューナーの開発、試験、検証を行うことで、2018年12月の実用放送の開始までに、新たな4Kおよび8K放送の受信環境を整備する狙いがある。

毎日午前11時~午後5時までの6時間、スカパーJSATから提供される4Kコンテンツを放送するが、この受信機が、現時点では日本に3台しかないため、一般視聴者が試験放送を受信することはできない。

茶の間のテレビ……大画面の主流はすでに4K

では、現時点での4Kテレビの普及はどうなっているのだろうか。

量販店のPOSデータなどを集計しているBCNによると、2017年3月の集計で、4Kテレビの構成比は25.9%と、4台に1台の割合になっている。しかも、40型以上の大画面テレビで見た場合には、64.3%にまで上昇し、3台に2台が4Kテレビとなっている。1台目のテレビとしてリビングに設置される大画面テレビの主流は、すでに4Kテレビになっているといっていい。

一般社団法人電子情報技術産業協会の予測によると、2018年には4Kテレビが年間450万台、2Kテレビが年間410万台と出荷台数が逆転。2020年には4K化率が約70%に達すると予測し、年間740万台の4Kテレビが出荷されると見ている。

シャープの4K HDR対応液晶テレビ『AQUOS U45』

ところで、現在販売されている4Kテレビでは、2018年12月から開始されるBS・110度CSの右旋、左旋による4K放送は受信できないことを知っているだろうか。

既存のテレビには、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送向けのチューナー搭載されておらず

現在、発売されている4Kテレビは、スカパーの4K放送に対応したチューナーを搭載し、インターネット接続によって、ネットフリックスなどの4K配信サービスなどに対応している。それによって、4Kコンテンツの視聴が可能となっている。だが、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送向けのチューナーは搭載されていないため、今後、実用放送が開始されたときには、新たにチューナーを追加するか、チューナー機能を搭載したレコーダーなどを接続する必要がある。

もちろん、実用放送が始まるタイミングでは、BS・110度CS対応チューナーが内蔵された4Kテレビが発売されるのは明らかであり、さらに、CATV事業者のサービスを通じて、BS・110度CSの右旋、左旋による4K放送のコンテンツが再配信される可能性は高い。だが、いま販売されている4Kテレビは、すべて衛星での4K放送を受信するためのチューナーが搭載されていないことは知っておくべきだ。

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)では、同協会のサイトや協会加盟メーカーなどを連携して、「現在メーカー各社から販売されている4K対応テレビや4Kテレビには、BS・110度CSによる4K・8K放送を受信する機能は搭載されておりません。実用放送に向けて商品化が期待されるBS・110度CSによる4K・8K放送の受信機能を搭載した外部機器と接続することで、新たな4K放送を視聴できるよう準備が進められています」といった内容で告知を行っている。だが、この仕組みに対する認知度が低いのは事実だ。

A-PABが2016年9月に行った調査では、現在販売されている4Kテレビでは、衛星による4K実用放送が見られないことを知っていた人は6.5%。つまり、93.5%の人がそれを知らないということもできる。

アンテナの追加購入が必要

BS・110度CSでは、新たに左旋が加わったことで、これまでの右旋専用アンテナでは、左旋による放送が受信できない。現在のフルHDによるBS放送では右旋を使用しており、BS右旋での4K放送は視聴できるが、左旋による4K放送を視聴するには、右左旋共用アンテナを使用する必要があるのだ。

右旋右左旋共用アンテナは、すでにアンテナメーカー各社から発売されているため、買い換えなどの予定がある場合は、右左旋共用アンテナにしておいた方がいいだろう。

JEITAでは、BS・110度CSによる右左旋用受信機のうち、一定以上の性能を満たしたアンテナやブースター、分配器、壁面端子、混合器、直列ユニット、分波器に「SH(スーパーハイビジョン受信)マーク」を付与。すでに認定製品が300以上に達しており、同マークが付与された機器を利用することを推奨している。

また、A-PABでは、周知広報ワーキンググループのなかに、左旋準備タスクフォースを設置。受信システムの普及活動を行う考えを示している。また、テレビ受信向上委員会では、全国の電気店や電気工事店を対象にした新技術セミナーに講師を派遣。さらには、分譲マンションの管理会社を対象にした全国支部でのセミナーを開催し、集合住宅における改修のポイントを解説。日本CATV技術協会との連携により、受信システム施工会社などに左旋試験放送を利用した伝送試験なども行っていくという。

A-PABでは、「設備によっては、ケーブルの張り替えなどの改修が必要になる場合もある。また、アンテナ交換だけではなく、ブースターや混合器、テレビ端子も左旋に交換する必要がある」とする。

こうした業界内に向けた告知を進める一方で、今後は、エンドユーザーに対して、4Kおよび8Kに関する正しい知識の周知、普及活動が進められることになる。

ムダな会議は減るか? KDDIとシスコが働き方改革でタッグ

ムダな会議は減るか? KDDIとシスコが働き方改革でタッグ

2017.04.14

KDDIとシスコシステムズは共同で、シスコのビジネスコミュニケーション統合クラウドサービス「Cisco Spark」の販売について協業していくことを発表した。協業を通じて働き方改革を推進していくというが、両社が見据える働き方とはどのようなものだろうか。

シンプルで使い易いビデオ会議システムを提供

両社の協業は、具体的には7月からKDDIを通じて「Cisco Spark」および「Cisco Spark Board」の販売などを行なっていく。

「Cisco Spark」は2015年にスタートしたクラウドサービスで、「コーリング(通話)」「メッセージング」「ミーティング」の3つの機能を柱にしている。KDDIはSparkのクラウドPBX機能をKDDIの音声通話基盤と連携させる機能を提供する。

これによって企業は固定電話回線や宅内電話交換機(PBX)などの設備なしに、インターネット回線だけで内線電話や外部との通話環境が実現でき、その際に050で始まるIP電話ではなく、03などの市外局番で始まる現在の固定電話番号をそのまま利用できる。両社は主に中堅~中小企業市場をターゲットにこうしたシステムを提案していくという。

既存の固定回線用の電話番号がそのまま使えるというのは、こうしたIP電話的なサービスとしては大きなアドバンテージになる

「Cisco Spark Board」は今年1月に米国で発表された、オールインワン型の会議システム。55型と70型の4Kディスプレイに4Kカメラ、スピーカーフォン機能などを搭載し、ホワイトボード機能や無線プレゼンテーション機能、ビデオ会議機能などを提供する。従来のビデオ会議ではカメラやディスプレイ、マイクなどを個別に用意して複雑なセッティングが必要だったが、Spark Boardではシンプルな構成の機器に統一できる。

また参加者はスマートフォンやPC用のCisco Sparkアプリを使ってSpark Boardにアクセスし、ホワイトボードに書き込んだり、ファイルを共有することもできる。一度Spark Board上に登録されれば、Cisco Sparkアプリを使ってリモートアクセスすることも可能だ。

巨大なタブレット風スタイルのSpark Board。同時に二人が書き込めるタッチパネルを採用しており、Cisco Sparkアプリをインストールした各端末とは音波で自動的にリンクする仕組み
Cisco Sparkアプリ自体は無料で配信されており、外部の人間がSpark Boardを利用する場合も、アプリだけインストールしてあればいい

Spark Boardの価格は販売を担当するサービスプロバイダーにより異なるが、目安としては50万円台~で、一括買取とサブスクリプションモデルの支払い方法が用意される。利用にはCisco Sparkへの登録が必要となる。

このほか、大型テレビなどのディスプレイと組み合わせて利用するビデオ会議システム「Cisco Spark Room Kit」と「Cisco Spark Room Kit Plus」も提供開始される。これは5Kカメラとスピーカー、外部マイク、をセットにしたもので、顔認識と音声認識による自動フレーミングなどが利用できる。価格は50万円台から。

同時に5人前後の小規模なビデオ会議を前提とした「Spark Room Kit」。顔認識で常に適切なフレーミングが維持される。15人程度の大人数のビデオ会議もサポートする「Spark Room Kit Plus」もある

会議の時間を減らして労働効率をアップする

今回の協業では、ビデオ会議システムを中心として労働環境を改善し、政府が推進する働き方改革を実現することを目的としているという。発表会では日本企業において、会議などのコミュニケーションが労働時間の約37%をも占めており、各社とも会議時間の改善が労働時間の短縮や仕事効率の改善につながると認識していることが紹介された。

筆者も経験があるが、会議中に別な仕事をしている人の割合も大きい。会議そのものが大きな時間の無駄遣いともいえる

特に、会議の準備やまとめなどはデジタルな手段に落とし込めるのに、会議自体はアナログなまま開催されていることが多く、生産性も低い無駄な時間であると断じ、この部分をデジタル化して効率化を高めるのがCisco Sparkの目的であるとしている。

この点、Spark Boardは単体のホワイトボードとしても機能し、資料を配信するための共有ストレージが利用できたり、スマートフォンなどから簡単にアクセスできるなど、内部の会議に利用する上でも便利な機能が用意されており、確かに会議の効率を高める上で有効であるように思われた。

また支店や工場など遠隔地とのビデオ会議についても、Spark BoardおよびSpark Room Kitの手軽なセットアップと高品位な映像・音声は好ましいものに思われた。KDDIの東海林崇執行役員常務からは、Cisco Sparkというシステム自体の音声品質が回線環境に依存せず高い水準が保たれていることが指摘されていたが、聞き取りやすさというのはリモート会議の大きな弱点であるだけに、さすがはネット会議システムで業界をリードするシスコシステムズの製品だと思わせられる。

Cisco Sparkの音声品質は回線速度やレスポンスを問わず一定水準を保っており、Ciscoの長年のノウハウやチューニング技術の高さが伺える

価格と機能拡張に期待

早速日本でもこうしたシステムを導入して会議環境の刷新を、といきたいところだが、ターゲットとなる中小企業は、こうしたシステムを導入すれば効率が改善することはわかりつつも、約50万円~という導入費用がネックになりそうだ。たとえばSpark Boardに、もう一回り小さい40インチ程度で、解像度もフルHDに抑え、導入費用が20万円前後の低価格モデルがあれば、日本の中小企業にも導入しやすいのではないだろうか。

また、システム全体で見ると、外部サービスなどと組み合わせて機能を拡張する余地がほしい。特にビデオ会議については、音声認識で自動的に会議ログを残す機能(せめて録音する機能)や、外国語の自動翻訳機能(先日Skypeが実装しているが、Windows Azureの機能としても利用可能)などを組み込めるようになれば実用性が高い。こうした拡張機能についても将来的な対応を期待したい。

中小企業向けの営業基盤が強いKDDIとビデオ会議製品の雄・シスコシステムズがタッグを組んだことで、ともすれば民生品を流用していたような企業向けビデオ会議市場について、大きな転換期となる可能性がでてきた。目論見どおり日本企業の会議の時間を減らして生産性の向上・労働環境の改善へと繋げるられるか、両社の奮闘に期待したい。

燃費不正発覚から1年、三菱自動車の社内改革は真の再生につながるか

燃費不正発覚から1年、三菱自動車の社内改革は真の再生につながるか

2017.04.14

燃費不正発覚から1年が経過した三菱自動車工業。日産自動車の傘下に入ったことで社内改革が進み、V字回復を達成できるのではとの観測が浮上する一方で、プロパー社員のモチベーションなど、気になる部分もある。改革から真の再生へと進む道筋を、三菱自は見つけることができるのだろうか。

社内改革を進める三菱自は“生きる道”を見つけられるか

日産出身の副社長が指揮をとる社内改革

三菱自は4月13日、「燃費不正問題を受けた社内改革の進捗について」と題した山下光彦副社長による記者会見を行なった。

ちょうど1年前の4月に軽自動車燃費データ改ざんという不正が明るみに出たことで、三菱自の信用失墜は経営の屋台骨を揺るがす事態となった。苦境に陥った三菱自が提携先に求めたのが日産だった。昨年5月の連休明けに電撃的な両社の資本提携が発表され、日産が34%出資することで三菱自は日産傘下入りすることになった。

今回の社内改革の進捗についての記者会見で山下副社長は、淡々と再発防止への取組み、全員参加型のパフォーマンス・レボリューション活動の推進、プロダクト・エグゼクティブ(PX)制度の見直しなどの組織変更が具体化されてきていることを説明した。

山下副社長は、日産との資本提携発表により昨年6月に日産技術顧問から三菱自に送り込まれた人物。日産時代は約10年にわたってゴーン日産で開発責任の副社長を務めた。三菱自の開発部門を中心とする改革のリーダーとして、ゴーン氏が直々に任命したというわけだ。実際、2016年7月1日付けで山下副社長は、新たに発足した三菱自の「事業構造改革室」のリーダーとなり、社内改革の責任者を務めている。

開発・品質担当のチーフ・プランニング・オフィサー(CPLO)を務める山下副社長

業界初の測定データ処理自動化システム導入

三菱自の燃費不正問題について5項目でまとめると、(1)法規で定められた惰行法によらない走行抵抗の測定、(2)走行抵抗の恣意的な改ざんおよび机上計算、(3)eKワゴン/eK スペースに関する走行抵抗の恣意的な算出と引き下げ、(4)不正発覚後の走行抵抗再測定の際にも、測定方法の趣旨に反する取り扱い、(5)1~2に対して自浄作用が働かず、1991年から25年にわたり是正できず、という状況だ。三菱自の体質に起因する根深い問題だった。

このため、再発防止策がまず第一にあげられるが、これについては仕組み、組織、風土・人事、経営レベルの関与のあり方から、合わせて31項目の再発防止に取組んでいる。特に注目されたのは、走行抵抗の測定データ処理自動化システムの導入である。これは業界初の試みであり、自動化システムにより改ざんの余地がなくなるということである。

日産主導の改革、プロパー社員の気持ちは

昨年10月の日産による資本払い込みと臨時株主総会の後、ゴーン氏は自ら三菱自の会長に就任した。これにより、ゴーン氏は仏ルノー、日産、三菱自のトップとして3社連合を率いることになった。

ゴーン会長は「日産と三菱自は、パートナーシップでシナジー(相乗効果)を求める相手である」ことを強調し、2017年4月1日付けで日産社長に就任した西川廣人氏も「三菱自の自立再生を前提として日産はサポートしていく」とする。

しかし、一連の三菱自の社内改革は明らかに日産主導で進められており、三菱自社員のモチベーションにどのような作用を及ぼしているかは気になるところだ。過去2度のリコール隠しから、燃費データ問題も長きにわたって自浄作用が働かず、「たこつぼ文化」とも揶揄された三菱自の企業風土・文化・土壌を、三菱自プロパー社員が本質的に変えていくことができるか、ということが焦点になってくる。

山下副社長も会見で、三菱自の風土改革、意識改革について「1年そこらでそんなに変わるものではないが、仕組みが変わると(日産でも経験したが)5年、10年で変わってくる。改革の具体化、具体的な制度を踏まえていくことがカギだ」と指摘した。

風土を変えるのは簡単ではないだろうが、仕組みさえできてしまえば、時間が解決してくれる側面があるのかもしれない

日産と三菱商事が中核をなす三菱自の経営陣

ただ、三菱自のプロパーということでは、相川哲郎前社長がこの燃費不正問題で引責辞任している。社長を引き継いだのは、三菱商事出身で三菱自会長からの復帰となった益子修氏だ。筆頭株主となった日産からは、ゴーン氏が会長に就任し、トレバー・マンCOO(最高執行責任者)が送り込まれ、これに山下副社長ら2名の取締役(非常勤)が加わる。さらに副社長陣は、山下氏の他に三菱商事から白地浩三氏(グローバル事業)、三菱UFJ銀行から池谷光司氏(財務・経理)の体制である。

つまり、三菱自プロパーの星とも言われた相川前社長の引責辞任後は、日産と三菱商事が主導する経営体制へと移行した。こういった体制で進む社内改革が、三菱自プロパー社員にどう受け止められているかということだ。三菱自は「リコール隠しの自浄作用がなかった」「『たこつぼ文化』の土壌は変わっていなかった」と批判されるが、三菱自の社員の多くが、この10年間、再建の道に耐え忍んできたことを私も知っているだけに、「4回目の改革」を社員達がどう捉えているかという点に対しては憂慮を抱かざるをえない。

日産リバイバルプランの再現なるか

三菱自の2016年度決算発表は、5月の連休明けの9日に行なわれる予定だが、先頃の第3四半期業績発表時には通期上方修正の見通しを発表している。それによると、2016年度通期業績は売上高1兆8900億円、営業利益10億円だが、当期純利益は2020億円の損失となる見込みだ。これは営業利益段階で276億円の赤字から営業黒字への上方修正となっており、益子社長は「日産との提携を通じ、結果的に焦点を当てた規律あるコミットメント(目標必達)の文化が浸透してきている。この下期業績を来期につなげ、V字回復のシナリオを確かなものにしていきたい」とコメントしている。

三菱自の2016年度のグローバル販売は、前期比12%減の92万1000台と100万台を割ることになった。その内訳は、アジア31万6000台(2%減)、欧州17万7000台(14%減)、北米14万1000台(4%増)、日本7万5000台(26%減)、その他21万2000台(25%減)である。タイを中心にインドネシア、フィリピンなどアセアンのウエイトが高く、伸びているのは北米のみにとどまる。日本は燃費不正問題の影響で10万台を大きく割ったが、それでも下期に「販社のがんばりで想定以上に持ち直してきた」(服部俊彦専務)とする。

三菱自としては、かつての日産リバイバルプラン(NRP)によるV字回復の再現を狙って、前期で燃費不正問題の特別損失を吐き出し、来期からの黒字転換を図る構えだ。

市場・ユーザー・地域の信頼回復が最大のテーマ

かつての三菱自は、「ミラージュ」「ランサー」「ギャラン」「パジェロ」「デボネア」といった多くの登録車に加え、軽自動車からトラックまでを抱える総合自動車メーカーだったが、リコール隠し問題以降は「選択と集中」で車種を大幅に整理してきた。トラックは三菱ふそうとして独ダイムラー傘下で分離し、三菱自としても軽自動車、SUV、電動車(PHEV・EV)に集中する方向を強める。

軽自動車からトラックまで作っていた三菱自だが、近年はSUVなどに車種を絞っている

販売面では、かつて「ギャラン店」と「カープラザ店」という国内2チャネル体制をとり、軽自動車主体の業者販売網を根付かせていたのが三菱自だったが、ここ数年はワンチャネル化した三菱自販売店から、「日本国内で売れる商品が欲しい」とぼやきの声がよく聞かれていた。燃費不正の発覚や軽自動車生産の販売停止は大きな打撃だった。メーカーとしては、顧客への対応と共に販社へのフォローもしっかり対応していかないと、本当に三菱車離れにつながることになる。

1000万台連合軍の一員に

三菱自の生産面を見てみると、岡山県の水島製作所は、かつて戦闘機「紫電改」の製造で名を馳せた歴史のある国内最主力の軽自動車生産主体の工場であり、取引先サプライヤーも、倉敷地区の総社市に「協同組合ウイングバレイ」として集結し、岡山県の経済で大きなウエイトを占めている。ウイングバレイは三菱自の米国現地生産、タイの現地生産にも連動して現地進出するほど密接な関係にある。

筆者は、かつてこのウイングバレイの部品企業を取材したが、三菱自と共に生きる地場の強固な結束力を持ったサプライヤー軍団だった。こうした地場サプライヤー網を生かした低コスト・高効率な生産体制が水島工場の強みなのだ。

また、愛知県の岡崎製作所は開発拠点とも連動しており、「アウトランダー」および同PHEV、「RVR」に加え、かつての米国工場での生産機種「エクリプス」の車名復活で話題を呼んでいる「エクリプス・クロス」を本年度から生産開始する。これに伴い、RVRの水島への生産移管を検討するなど、国内生産体制の再編も進める。

いずれにせよ、三菱自がグローバル販売100万台を確立し、ルノー/日産連合の一翼を担うようになれば、このアライアンスは1000万台連合軍で世界トップに肩を並べることになる。三菱自としては、地域(東南アジア)と車種(SUV)をしっかり固めることが再生への指針ということだろう。