人口流出は食い止められるか? 夕張市と映画祭の挑戦

人口流出は食い止められるか? 夕張市と映画祭の挑戦

2017.04.19

北海道の夕張市が財政破綻してから10年。国への借金返済のためにと、高い市民税や、ままならない公共サービスなどが住民の生活に影響を与えている。止まらぬ人口流出。危機感は“ゆうばりの再生”の象徴である映画祭にも。次世代にどう繋いでいくか。夕張市と映画祭の挑戦を追った。

監督としての初長編作品を上映した俳優の斎藤工©ゆうばり国際ファンタスティック映画祭実行委員会

世界で一番、楽しい映画祭

2017年3月2日から6日まで、北海道・夕張市で行われたゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017。

人気俳優、斎藤工の監督作品『blank13』や國村隼主演の韓国映画『哭声/コクソン』(ナ・ホンジン監督)といった招待作品の上映。自主制作映画の中からグランプリを決定し、次回作支援をするオフシアター・コンペティションなどが行われた。授賞式終了時に発表された今年の観客動員数は、1万1718人となった。(最終動員数1万2516人)

2016年からメイン会場は「合宿の宿ひまわり」の体育館に

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の魅力は映画上映だけにはとどまらない。黄色いハンカチを持った地元市民がゲストをお出迎えする歓迎セレモニーに始まり、いくら飲み食いしてもお代は“気持ち”でOKなストーブパーティ、監督や俳優、観客が一緒に卓を囲む屋台村での映画談義———そこで生まれた関係性が、新作制作へとつながるのも本映画祭でよく見る光景だ。ゲストと市民の距離が近く、気軽に交流できるアットホームな雰囲気が多くのリピーターたちを生んでいる。

様々な交流が生まれるストーブパーティ

同映画祭のコンセプトは、「世界で一番、楽しい映画祭」。だがそこに至るまでには道のりがあった。

炭鉱から観光へ 映画を目玉の一つにしようとするも……

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭が立ち上がったのは1990年のことだ。

当時、石炭業が衰退する中、「炭鉱から観光へ」をスローガンに観光都市への大胆な変革へと大きく舵を切った夕張市。スキー場やホテル、温泉などのレジャー施設が整備される一方、炭鉱最盛期には17館もの映画館があった“映画の街”の伝統を受け継ぐべく、まちおこしの一環として故・中田鉄治前市長が発案したのが同映画祭だった。

2000年からは「ゆうばりキネマ街道事業」として、『ローマの休日』や『燃えよドラゴン』、『太陽がいっぱい』、『男はつらいよ』といった往年の名画の絵看板を市内の至るところに掲示。白銀の街に突如現れる昭和レトロな絵看板は、映画祭の観客を楽しませる絶好の撮影ポイントになっている。

都心ではなかなかお目にかかれない絵看板

だが2007年、夕張市に353億円もの財政赤字が発覚し、市は国内唯一の“財政再建団体”となってしまう。財政破綻の煽りを受け、映画祭も開催補助金の打ち切りが決定し、一時休止に追い込まれた。なお、同年は映画ファンや映画配給会社の協力により「ゆうばり応援映画祭」として開催されている。

破綻から10年、人口は1万人以下…財政再生計画見直しへ

翌2008年、運営を民間に移して映画祭が再スタート。ゆうばり市民会館がメイン会場となり(現在は閉館)、市民主導の映画祭は“ゆうばり再生”の象徴として話題となった。

そして再出発から10年目となる今年2017年。映画祭開催前の2月に、映画祭名誉会長も兼任する鈴木直道市長が、財政再生計画の抜本的な見直し案を市議会行政常任委員会に提示し、“地域再生”に向けて再スタートを切ることを発表した。

市の大きな変化が決まった直後の映画祭開催について、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭事務局長、千石慎弥さんは「夕張市の再スタートは、地方創成を政策とする国にとっても他の自治体にとっても重要なことだと思う」と語る。

「現在、軒並み人口が減っている自治体にとって、ここ10年の夕張の活動は、地域再生に向けた良いモデルケースになっていると思っています。夕張が奮起すれば全国の方々の希望になる」(千石さん)

そう、夕張市最大の課題は人口流出だ。現在、市の人口は1万人を割り込んでおり、子育て支援や若者の定住を促す施策など、新規事業が検討されている。

こういった次世代への投資については、実は、映画祭周辺でも動きがあったのだ。

「今年から北海道では初の学生ボランティア(北海学園、札幌大学)の単位認定も始まり、学生ボランティア100人が映画祭を手伝ってくれました。僕らの活動を次の世代へ繋ぎ、ゆうばり映画祭での活躍の場を増やしていきたいですね」(千石さん)

実際、映画祭期間中、会場のあちこちで学生ボランティアが大活躍。前出の『blank13』に出演した俳優の村上淳は、舞台挨拶で開口一番、学生ボランティアに向かって「今後の日本映画界を支えるのは君たちです」と語りかけ、会場からも温かな拍手が送られていた。

夕張市と映画祭の変革は日本中の自治体の希望となるか

資金集めから運営処理までを取り仕切る千石さん。「正直、満足のいく資金調達はできていません。以前は華々しく行っていた映画祭も、外部からお金をもらっている以上、“かっこつけ”が効かなくなりました。運営も大部分は地元有志者はじめ外からのボランティア有志者で補われています。また、映画祭活動を通して夕張のような人里離れた閉鎖的な空間でしか生まれない人と人とのつながりこそが財政破綻後民間運営で10年続けられた秘訣。夕張は、もともと炭鉱の街。長屋暮らしで助け合ってきた名残があるのですよね」。

こうした独特のアットホーム感に支えられた映画祭を企業も応援している。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営するトラストバンクは、2016年12月より夕張市を支援するプロジェクトを発足。映画祭期間中にもブースを設置し、夕張市へのふるさと納税をPRした。

「映画祭会場はもちろん、弊社が運営する東京・有楽町の『ふるさとチョイスCafé』に来てくださったお客様に夕張市への応援メッセージを書いていただき、まとめた後で夕張市に寄贈する予定です」(トラストバンク伊藤健作さん)。

こうした取組みが功を奏し、ふるさと納税額も増えているそう。「寄附に対するお礼の品の拡充も図り、今年は一昨年の3倍となる6億円を目指しています」(伊藤さん)

黄色いハンカチには様々なメッセージが

2018年以降は、アニメーション映画部門の新設など、さらなる改革が行われることも発表されたゆうばり国際ファンタスティック映画祭。財政再建と地方創生の両立を目指す夕張市の象徴とも言うべき同映画祭の変革に、日本中の自治体の視線が注がれている。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。