人工知能は小説を書けるか

人工知能は小説を書けるか

2016.04.21

人工知能に小説を創作させることを目指したプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」による研究成果の発表会が先月22日に開催された。昨今では将棋やチェス、囲碁でもトップクラスのプロを破り、人間以上の性能を見せる人工知能だが、果たして創作の分野にまでふみ入ることができるのだろうか。

機械が書く日本語はここまで来ている

本題に入る前に、まずは以下の文章を読んでみて欲しい。

 その日は、雲が低く垂れ込めた、どんよりとした日だった。
 部屋の中は、いつものように最適な温度と湿度。洋子さんは、だらしない格好でカウチに座り、くだらないゲームで時間を潰している。でも、私には話しかけてこない。
 ヒマだ。ヒマでヒマでしょうがない。
 この部屋に来た当初は、洋子さんは何かにつけ私に話しかけてきた。
「今日の晩御飯、何がいいと思う?」
「今シーズンのはやりの服は?」
「今度の女子会、何を着ていったらいい?」
 私は、能力を目一杯使って、彼女の気に入りそうな答えをひねり出した。スタイルがいいとはいえない彼女への服装指南は、とてもチャレンジングな課題で、充実感があった。しかし、3か月もしないうちに、彼女は私に飽きた。今の私は、単なるホームコンピュータ。このところのロード・アベレージは、能力の100万分の1にも満たない。
『コンピュータが小説を書く日』(有嶺雷太 著)

上に引用したのが、実際にSFショートショート作品の文学賞である「星新一賞」に応募され、一次審査を通過した、「きまぐれ人工知能プロジェクト」の成果だ。

これは名古屋大学の佐藤理史教授の研究グループが作成した日本語出力システムを利用したものとなる。正直なところ、これが人工知能の書いた文章だと看破できる人はほとんどいないと思う。日本語の自然さや文法の正しさは、いずれも非常に高いレベルにあり、小説の導入としては申し分ない。SF作家の長谷敏司氏も、「思っていたよりずっと普通の日本語だった」「会話文などは、プロの作家でもこれだけ書けない人がいるだろう」と賛辞を述べていたほどだ。

AIとは自然な会話が可能になっているが小説のような創作もできるのだろうか

コンピュータに擬似的な会話をさせる試みは古くから行われており、「人工無能」や「bot」とよばれるそれは、相手の入力を介して単語を学習していき、プリセット、あるいは相手の入力した文章の一部を自前の辞書の単語に置き換えたり、特定の単語に反応してリアクションを変えるといった仕組みで会話を成立させていたが、どちらかといえば突拍子もない文章を楽しむための仕掛けといった感があった。

ところが最近は、MicrosoftがLINEやツイッター上で女子高生AIと称する「りんな」を提供し、リアルな口語体での会話が可能になるなど、人工知能を使った会話の開発が本格化してきており、一定の成果も挙げている。

しかし、比較的短い文章の積み重ねで終わる会話と、長文で構成される小説では、その難易度は天と地ほどの差がある。なぜ小説は難しいのだろうか?

小説の最大の難所はどうつくるか

小説はストーリー展開を持つ、一種の「物語」だ。小説を書くには、物語に導入と展開、そして結末(オチ)を持たせなければならない。文章を構成する文同士の関係性も関わってくる。これだけでも会話文より難易度が高いことはおわかりだろう。

特にストーリーを作ることと、オチをつけることはかなりの至難だ。物語の中では思い通りに計画が進まなかったり、予想外の障害が突然現れたりというイベントが起きるが、コンピュータにとってはこの「予想外」というのが難しい。そして最大の難所が「オチ」の部分だ。オチにどう意外性があるかで物語の面白さが左右されるといっても過言ではない。これをコンピュータにうまく処理させるには、物語自体の構造をしっかりと分析し、どういった構造でどこがオチなのかをコンピュータが分析できるようなアルゴリズムを作らねばならない。

人工知能による小説の創作には"オチ"を自動抽出するアルゴリズムが欠かせない

物語の学問(ナラトロジー)の世界では、作品構造の分析は古くから行われており、「きまぐれ人工知能プロジェクト」でも、構造やオチの分析をある程度の精度で進められるようにはなってきているが、精度を高めるにはまだまだ単語同士の関係の類推や、ある単語に対する常識といったものをもっと実装していく必要があるという。

ただし、これが発展すれば無数にある過去の物語を解析し、学習することで新しい物語を作り続けることが可能になるため、たとえば映画やゲームのシナリオメーカーを開発することも可能になるだろう。大きな商機を秘めているのだ。

コンピュータが小説の理解が可能なことで映画、演劇、ドラマ、ゲームなどに応用可能となる

ストーリーはどう作るか

もうひとつ、ストーリーの作成について。こちらは様々な選択肢があるだけに、ある程度の型があるオチよりもさらに難しい面がある。これについては東京大学・鳥海不二夫准教授の「人狼知能プロジェクト」が面白い試みをしており、会話ゲームを複数のAIに解かせることで試合形式のログを作り、そのログの中から人間が面白いと思ったものを抜き出してストーリーにするという手法をとっている。

ドラマチックで面白いシナリオは人工知能(人狼知能)で生み出すことが可能

試合は逆転などドラマチックな展開になりやすく、何百試合に一度というような名試合と呼ばれるような面白い試合でも、AIなら何百、何千と生み出すことが可能だからだ。

展開そのものをAIにまかせるというのは大変ユニークな試みだが、この手法では一定の展開を持ったストーリーを作ることはできても、愛憎劇など、複雑な人間関係からなる小説を作るのは難しい。まだ研究を重ねていく必要がありそうだ。

「きちんと読める日本語」を実現するには

冒頭でAIが書いた文章を紹介したが、非常に整った日本語になっている。これはどのようにして書かれたのだろうか。

この文章は、コンピュータに小説としての体裁を整えた文章を書かせるための手法について研究している名古屋大学・佐藤理史教授の研究グループが開発したシステムを活用している。このシステムでは、人間が文章の構造を指定し、その構造を部品(=単語)から合成し、文字列を生成するという手法をとっている。

ここでいう「構造」とは、たとえば「導入部」を「冒頭」と「場面の描写」に分け、さらにそれぞれの描写を細かく分けて描写していく、という仕組みだ。各構造にはパラメーターを導入することで、表現の傾向や範囲の限定といった制御が可能になり、書き手の性別による文体の違いなども再現できる。最小限、人間が何も指定しなくても文章は作成できるが、構造をある程度指定したほうがより「意味の通じる」日本語になりやすい。言ってみれば人間がストーリーの土台を指定して、そこにコンピュータが破綻しない日本語を組み立てていくというスタイルだ。

文章構造を人間が指定してそこに単語をあてはめていく

同グループでは、こうして最終的に出力された作品から2本を「作家ですのよ」として2本の作品を星新一賞に応募している。

創造性の主体は誰にある?

今回、「きまぐれ人工知能プロジェクト」から2点、「人狼知能プロジェクト」から2点、合計4点のAIを使った作品が星新一賞に応募された。このうち、きまぐれ人工知能プロジェクトの2点は前述した佐藤教授のチームが開発したシステムを使って生成されたテキストで、そして人狼知能プロジェクトのほうは、1万回のゲームを行い、その中から展開が面白い(逆転などの要素がある)ログを人間が選び、鳥海准教授が実際のテキストを執筆して、それぞれ応募されている。

つまり、きまぐれ人工知能プロジェクトの作品は小説のストーリー構造を人間が手がけ、テキスト生成をコンピュータが担当しており、人狼知能プロジェクトの作品はストーリーをコンピュータが生成し、人間がテキスト化した、ということになる。「このような小説にしよう」という大元は人間が考え出して、その筋書きを作るか、筋書きに沿ったテキストを作るのがコンピュータ、という役割分担だ。

はたしてこれを「人工知能が小説を書いた」と言えるのか、と疑問に思う人も多いだろう。確かに、純粋にコンピュータが自身の創造性をもって小説を書き始めたわけではなく、「そのようになるシステムに命令を出しただけ」と見ることもできるだろう。特に佐藤教授のチームが開発したテキスト生成システムは、自由度の高い書類のテンプレートだ、と意地の悪い見方ができなくもない。

ただし、人工知能は決して魔法の箱ではなく、設計されたとおりに動くツールでなくてはならない。猿がタイプライターのキーを叩いてシェイクスピアの戯曲を書くような偶然に頼るのではなく、100回同じ操作をしたら100回同じ結果が出るシステムでなくてはならない。つまり人工知能「が」書いたのではなく、創造性の主体が人間であっても、人工知能「を」使って書いたと解釈すれば、どちらの手法も立派に人工知能の産物だと言えるだろう(もっとも人狼知能プロジェクトに関しては、表現等が書いた人間の能力に大きく左右されすぎだが)。

きまぐれ人工知能プロジェクトでは、4つあるチームがそれぞれ個別に研究を進めているが、まだ横のつながりが希薄であり、結果として人力での作業が占める割合が大きくなっていると感じられた。たとえばAIを使って作ったシナリオが面白いかどうかを判定し、大まかなストーリーの構造を作り出し、その構造に合わせたテキストを出力し、最終的な出力結果が面白いかどうかを自分自身で判断できる、そのようなシステムが完成したとすれば、その時こそが100%人工知能による小説の完成だと言えるだろう。非常に難しい目標のように思えるが、人工知能をめぐる開発が急ピッチで進んでいる状況を考えると、思ったよりも早い時期に実現するかもしれない。

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マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。