ネクスト「この世界の片隅に」はこうやって作る! 成功のカギとは

ネクスト「この世界の片隅に」はこうやって作る! 成功のカギとは

2017.04.24

『シン・ゴジラ』や『君の名は。』など大ヒット作が次々に誕生した2016年の日本映画界。そんな中、異例のヒットとなったのが、片渕須直監督が漫画家こうの史代のコミックを原作としたアニメ『この世界の片隅に』だ。本作は、単館系作品ながらSNSなどでの口コミが広がり、異例のロングランヒット、興行収入は25億円を突破したという。社会現象にもなったこの大ヒットを支えたのが、クラウドファンディングである。

今までにないヒットの仕方に! セミナー参加者の席もいっぱいになり、関心の高さがうかがえます

クラウドファンディングとは、映画やアニメ、音楽、出版などのコンテンツ制作において、インターネットを使い、制作費や協力を募るサービスのこと。プラットフォーム数は国内外に大小多数存在しており、『この世界の片隅に』は、国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で7000万円もの資金調達に成功した。果たして出資を集める秘策とは?

先日、映像産業振興機構(VIPO)主催のセミナーにて、Makuake代表の中山亮太郎氏が講演を行った。

Makuake代表の中山亮太郎氏

お礼は他では得られないモノや体験

中山氏曰く「クラウドファンディングは先行予約販売型プラットフォーム。Amazonで先行予約をしている感覚に近い」。たとえ開始投資はニッチなプロジェクトでも、支援者それぞれの“熱”がどんどん拡散し、トップ・オブ・トップになっていく現象は日本特有のものなのだという。

クラウドファンディングには「購入型」「貸付型」「寄付型」「株式型」の4種類があり、『この世界の片隅に』は購入型にあたる。支援したい金額のコースを選び、その額に応じて設定されたお礼=リターンを受け取る仕組みだ。

リターンの種類も様々で、映画やアニメにおいては、エンドロールへの名前記載や監督、キャストのサイン入り台本、エキストラでの参加権、試写会への招待といった、他では得られないモノや体験を特典としているケースが主流だ。

お礼を何にするかも大事な戦略だそうです

『この世界の片隅に』はエンドロールへの名前記載、主人公から届く手紙などがリターンとして提供されたほか、劇場で販売するパンフレットへひとりひとり名前を掲載したことにより、公開時にはパンフレットが飛ぶように売れたのだとか。

エンドロールに名前が載ると自分も作品制作に携わったという特別な気持ちが芽生えますよね
主人公からの手紙はファン心をくすぐる

利用のタイミングによる目的を明確に

クラウドファンディングの利用タイミングと目的は大きく3つに分けられるという。

1つ目は「プリプロ」。制作費の一部調達はもちろん、企画段階において5~10分程度のパイロット版や短編制作のための費用集めといった目的がある。

2つ目は「クランクイン~公開前」。これには、作品のクオリティアップや宣伝費集めといったねらいがある。

3つ目は「公開中~公開後」。宣伝費や続編制作費に加え、海外展開のための費用を集める目的も。『この世界の片隅に』の場合、企画段階で3374人の支援者から3900万円以上が集まった。そして公開後、海外上映を盛り上げるためにクラウドファンディング第2弾プロジェクトが立ち上がり、初回と合わせて合計7000万円が集まったというわけだ。

ターゲットを明確に定める

プロジェクトの設計には作り手とキュレーターが携わり、クラウドファンディングの戦略とターゲット層が絞り込まれていく。「『この世界の片隅に』は、元々片渕監督がTwitterユーザーであり、自身が情報を拡散する情熱があった。加えて、監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』(2009)の評価がとても高く、新作を待ち望むファンの多さもひとつの判断基準になりました」(中山氏)。さらに本作が広島を舞台にしていたこともあり、キュレーターの人脈によって地元メディアへのリーチに成功。「原作も漫画賞を受賞していて、ファンも多い。さらにアニメーションの新しい可能性を応援したいという業界の方々の支援も受けられそうという見込みもあり、戦略を立てていった」(中山氏)。

逆に言えば、ターゲットが曖昧ではリターンの設定もできず、そのプロジェクトは失敗に終わる可能性が高いということ。中山氏は「インターネットは何にでもつながるツールであると同時に、誰にもつながらない“陸の孤島”でもある」と称していたが、クラウドファンディングに限らずネットはユーザーの顔がダイレクトに見えづらい。自分たちのコンテンツを求めるターゲットをしっかりと見定め、戦略を立てることが必要不可欠。

顧客の応援は最大の宣伝

そして「作り手の熱意が伝わらないのも、失敗することが多い」と中山氏は言う。現に『この世界の片隅に』のエンドロールでは「クラウドファンディングありがとう」の文字と共に多くの支援者の名前が載っていた。しかもエンドロールにただ流れるのではなく、名前を一時停止して見せるという心遣いに、作り手の“思い”を感じた。

さらに、顧客の“熱”を冷まさないことも『この世界の片隅に』のヒットにつながった要因。「資金のみならず、いかに“応援顧客”を作るか。初期のアンバサダー顧客の応援がヒットにつながった」(中山氏)。制作初期を支えたファンの熱量は途切れることなく拡散。第2弾プロジェクトでは、海外渡航のレポート冊子や報告イベント参加券などがリターンとして出資者に提供されたという。

最後に、中山氏はこう締めくくった。「資金や制作、意見出し、宣伝、すべてを満たすのがクラウドファンディング。どの部分の実現を応援者にゆだねるかがポイントになる。そして、ファンがもはや制作チームの一員となり、自分たちが関わったコンテンツをいかに“ドヤ顔”で紹介してくれるかがカギ。作り手にとって出資者は、一緒に船に乗る共犯者でありパートナーだ」と。

今やクラウドファンディングは、資金調達のプラットフォームであると同時に、最大の宣伝ツールにもなり得る。そして出資というダイレクトな支援により、自分は直接手を動かさずともモノ作りの一端を担い、完成までの一部始終を目撃することができる。モノづくりの新しいカタチが、ここにある。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu