「ZenFone AR」はARとVRの普及にどこまで貢献できるか

「ZenFone AR」はARとVRの普及にどこまで貢献できるか

2017.04.24

エイスースが4月13日に発表した新しいスマートフォン「ZenFone AR」は、最近話題となっているグーグルの拡張現実(AR)技術「Tango」と、仮想現実(VR)プラットフォーム「Daydream」の2つに対応しているのが大きな特徴となっている。エイスースはこうしたスマートフォンを投入することで、立ち上がって間もないAR・VRの市場を活性化できるのだろうか。

実空間を正確に捉えるAR技術「Tango」に対応

「ZenFone」シリーズで人気を獲得し、SIMフリースマートフォンで大手の一角を示す台湾のエイスース。そのASUSが4月13日に、新機種「ZenFone AR」を発表した。

ZenFone ARは高い性能を備えるハイエンドモデルのスマートフォンだが、最大の特徴は「Tango」と「Daydream」に対応していること。これらはいずれも、グーグルが提供するスマートフォン向けの最新技術だ。

ASUSの新機種「ZenFone AR」。高い性能を誇るだけでなく、「Tango」と「Daydream」に対応しているのが大きな特徴だ

中でも、ZenFone ARがその特徴として強く打ち出しているのがTangoである。Tangoは、3つのカメラを用いて空間を正しく認識することにより、従来よりも高度なAR(拡張現実)を実現するというものだ。

実際ZenFone ARには、2300万画素の通常のカメラに加え、動きを検知するモーショントラッキングカメラ、そして物体の深度を測るカメラを搭載した「ASUS TriCam System」を採用。さらに赤外線を照射することで周囲の環境を測り、より正確に空間と物体を認識してCGによるオブジェクトなどを表示できるようになる。

ZenFone ARは背面に3つのカメラを搭載しており、それらを活用することで実空間の物体を正式に認識できる

ARといえば昨年ヒットしたスマートフォンゲーム「ポケモンGO」で注目を集めた技術だが、ポケモンGOの動作を見ても分かる通り、通常のスマートフォンでARを実現しようとすると周囲の物体の位置関係などを認識するのが難しく、遠くにいるはずのモンスターが目の前にある電柱よりも手前に表示されてしまうなど、どうしても違和感が出てしまう。

だがTangoを用いれば、物体の前後関係や距離なども認識できることから、設置したCGのオブジェクトが壁を突き抜けたり、前後関係を無視して表示されたりすることもなく、より違和感のないARを実現できるわけだ。

床やテーブルなどの位置を正確に把握できるので、CGのオブジェクトを現実に近い形で配置できる

Tangoは既にレノボのスマートフォン「Phab2 Pro」に搭載されており、ZenFone ARは国内で2機種目のTango対応機種となる。対応機種の増加はARの市場拡大にもつながるだけに、注目度が高いのは確かだろう。

「Daydream」対応も実現、MRの可能性は?

そしてもう1つ、グーグルの最新技術としてZenFone ARに搭載されているのが「Daydream」である。これはAndroid 7.0の新機能で、スマートフォンをゴーグルに装着することで、本格的なVR(仮想現実)コンテンツが利用できるというものだ。国内で発売済みのモデルでいうと、モトローラの「Moto Z」やZTEの「AXON 7」などが、既にDaydream対応をうたっている。

Tangoだけでなく、VR技術の「Daydream」に対応することも大きな特徴の1つとなっている

快適なVRの実現には高いハード性能が要求されるため、DaydreamはAndroid 7.0対応端末の中でも、一定のスペック条件を満たしたもののみが対応できる。

それだけにZenFone ARの性能は非常に高く、チップセットにはクアルコム製のハイエンドモデル向け「Snapdragon 821」を採用するほか、スマートフォンでは初だという8GBのメモリも搭載(ZS571KL-BK128S8のみ)。さらにVRを快適に視聴できるよう、WQHD(2560×1440ピクセル)という高い解像度を誇る、5.7インチの有機ELディスプレイも備えている。

しかしながらグーグルは、まだ日本でDaydreamの提供を開始していない。そのためZenFone ARも発売当初からDaydreamのコンテンツを利用できるわけではないとのこと。当面は汎用のVRコンテンツなどを利用する形となるようで、VRの本領を発揮するにはやや時間がかかるようだ。そうした影響もあってか、ZenFone ARはパッケージがゴーグルになる仕組みこそ用意されているものの、専用のゴーグルなどの提供予定はまだないとのことである。

パッケージをVRゴーグルとして活用できる仕組みなども用意されているが、Daydream自体が提供されていないことから、現在は独自のVRコンテンツなどの利用にとどまる

ZenFone VRにVRとARの機能が同時に搭載されているとなると、現実の空間に仮想の物体があたかも存在しているかのような体験ができる、MR(Mixed Reality、複合現実)が実現できるのではないかという期待を持つ人もいるかもしれない。MRの分野ではマイクロソフトのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」が先行しており、既に建設や医療など、法人向けでの活用が進められている。

だが現在のところ、TangoとDaydreamはあくまで別々に動作する仕組みであることから、ZenFone ARでMRがすぐ実現できるわけではないようだ。とはいえ、これだけ高い性能を持ち、ARとVRの機能を同時に兼ね備えた端末が出てきたとなると、スマートフォンによるMRの実現もそう遠くないように感じる。さまざまな条件がそろう必要があるので今すぐにというわけにはいかないだろうが、将来的なMRの実現にも期待したいところだ。

コンテンツが少ない今は法人向けの販売拡大に注力

ARとVRの機能を兼ね備えた先進性が大きな特徴となっているZenFone ARだが、性能が高いだけに価格も決して安くはない。8GBのメモリと128GBのストレージを備えた上位モデル「ZS571KL-BK128S8」の価格は99,800円、6GBのメモリと64GBのストレージを備えた「ZS571KL-BK64S6」は82,800円となっている。

ちなみにZenFone ARに匹敵する高い性能を備える「ZenFone 3 Deluxe」の5.7インチモデルの価格を見ると、89,800円となっていることから、性能を考えれば価格相応ではある。とはいえ、一般ユーザーが手軽に購入できる価格ではないこともまた事実だろう。

しかもARに関しては、Tangoのコンテンツが30種類程度とまだ充実しているとは言い難く、ARに対する興味関心がよほど高いのでなければ、物珍しさだけですぐ関心が薄れてしまう可能性がある。またVRに関しては、先に触れた通りDaydream自体日本で利用できないことから、その本領を発揮できないという弱点もある。現状、一般ユーザーが満足できる環境を実現できるわけではないことも確かだ。

もちろん、そうした現状をエイスース側も十分承知しているようで、ZenFone ARは一般消費者だけでなく、法人向けにも積極販売する方針を示している。例えば家具やインテリアを扱う企業などであれば、実際の部屋にバーチャルな家具を配置して見せるなどしてARの強みを生かせることから、法人向けのアプリを開発するベンダーなどと組むことによって、インテリア販売事業者などにZenFone ARの販売拡大を進めたい考えが、エイスース側にはあるようだ。

ARで仮想的に家具などを配置できるリビングスタイル社のルームコーディネートアプリ「RoomCo AR」。こうしたアプリを活用し、法人向けの販売も拡大していく考えのようだ

ARのような新しい技術や概念を手掛けるには、端末がそろわなければコンテンツが広まらない、コンテンツがなければ端末が売れない……という「鶏が先か、卵が先か」の議論になりがちだ。それゆえ対応する端末を販売するには、相応のリスクがある。エイスースはそうしたリスクを、法人向けという安定した販路開拓を進めることで和らげることにより、新しい分野へのチャレンジを進めたといえそうだ。

だがARやVRを普及させるには、端末だけでなくキラーとなるコンテンツの登場が求められるだろうし、そうでなければかつてのAR・VRのように、一過性のブームで終わってしまう可能性もある。エイスースが本気でこの市場に取り組んでいくならば、アプリ開発者の関心を高め、盛り上げていくためのための取り組みも同時に求められるところだ。

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

関連記事
大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

関連記事