うどん県の米「おいでまい」はなぜ誕生? - 乱立するブランド米の現状

うどん県の米「おいでまい」はなぜ誕生? - 乱立するブランド米の現状

2016.04.22

米どころといえばやっぱり新潟。なかでも、魚沼産コシヒカリは有名だ。しかし、近年は北海道や九州から続々と新銘柄が世に送り出され、今や「ブランド米戦国時代」とでもいうべき様相を呈している。

なぜこのような事態になっているのだろうか。米の国内需要減が叫ばれて久しいうえ、安い外国産の米が流入してきている。さらに、TPPの大筋合意による米の輸入拡大など米農家にとっての不安要素は尽きない。

そこで、ブランディングによって外国産のものと差別化するという考えが生まれる。高い値段でも売れるくらい高品質な米を提供することで、農家の所得アップにつながるからだ。そのほか、高いものでは10万円もする「高級炊飯器」が各家電メーカーから発売され、「おいしいご飯」需要が開拓されたのも忘れてはならない。米の需要減と矛盾するようにも思われそうだが、食に関する感度が高い層は銘柄による食味のちがいを楽しむため、ブランド米へたどり着く。

本記事では、このような背景のもと訪れた"戦国時代"に挑む新銘柄を追う。

ブランド米乱立の時代、「西の米どころ」香川はどうする?

「うどん県」のイメージが強烈な香川県だが、県内作付延べ面積のトップは稲。「コシヒカリ」や「ヒノヒカリ」といった有名な銘柄のほかに、香川県独自の「おいでまい」という銘柄を栽培している。おいでまいは2013年にデビューしたばかりで、日本穀物検定協会が実施する「平成25年産米の食味ランキング」で最高評価の「特A」を獲得。四国の米で特Aを獲得したのはおいでまいが初となる。

「おいでまい」は讃岐弁で「いらっしゃい」の意味。おいしいご飯を香川へ食べに来てほしいという願いを込めて付けられた。写真左は東京都港区にあるアンテナショップ「香川・愛媛 せとうち旬彩館」にて撮影。うどんコーナー(写真右)の充実ぶりと比べると少々さみしい気もするが……

讃岐の国は古事記で「飯依比古」(いいよりひこ)とされているくらい、古くから米づくりと密接にかかわっている地。江戸時代の大坂では、米取引場の標準となる「建物米」に讃岐の米が選ばれるなど評判も高かったのだ。そんな歴史を持つ香川だが、今はうどんの印象が圧倒的で、米のイメージは薄い。

なぜ、香川の米はかつての名声を失ってしまったのか。

理由のひとつとして温暖化が挙げられる。香川県内の水田は平野部に多く、温暖化が進むにつれて気温が上がり、稲の栽培が難しくなっていった。県内の水稲栽培面積は奨励品種でもあるヒノヒカリが40%(2015年産)。温暖化によって、このヒノヒカリも白く濁った粒が出やすくなり、見た目の良し悪しを評価する一等米比率が下がってしまった。味は良くても、見た目が悪いと価格が上がりにくい。そこで、香川県の気候に最適化され、温暖化に負けないような品種を作ろうという気運が高まったのである。

日本穀物検定協会審査員の評価コメントは残念ながら非公開だが、おいでまいには「甘みと旨みのバランスが良い」「食べ飽きない」「やわらかいが食感が良い」といった感想が寄せられるとのこと(写真:「おいでまい」委員会提供)

2002年から県農業試験場で新品種の開発をスタート。「あわみのり」と「ほほえみ」から生まれたのが香川県のオリジナル銘柄「おいでまい」だ。2012年に県の奨励品種に採用、2013年から本格栽培し、四国の米として初めて「特A」の評価を受けたのは先ほど説明したとおり。栽培しやすく、粒ぞろいも良く、食感と味のバランスがとれている。栽培者にも消費者にもうれしい米だ。品質を保つため、現在は一定の審査を通過した生産者のみが栽培している。

デビューした2013年と翌2014年には2年連続で特A評価を受けたものの、気温低下、日照時間不足など気候不順による影響で2015年には残念ながら「A」評価となってしまった。とはいっても、おいでまい特A獲得後は生産者はもちろん、販売店や県内の消費者からも期待の声が寄せられたという。香川県の「おいでまい」委員会担当者によれば、2016年の栽培面積(目標)は1,600ha。本格栽培を開始した2013年が650haだったことを考えると、2倍以上となる。

稲作所得が上がりにくいという課題

日本の47都道府県でもっとも面積が広いのは北海道。逆にもっとも面積が狭いのが香川県だ。当然、面積が狭いので耕地も狭い。そのため、米についても大規模栽培が難しいという現状がある。香川県では、5ha以上の農地を所有する層も増えつつあるが、依然として1ha未満の層が8割を占める(香川県農政水産部「統計で見る香川の農業・水産業 平成27年度版」を参照)。一般的に、規模が小さいと生産効率は上がりにくく、稲作所得も低いまま。その解決策のひとつとして有効だと考えられているのが米のブランド化なのだ。

栽培者の一人、「おいでまい」マイスターの川染常男氏は、「おいでまいは、とにかく透明感があってきれいなお米。高い評価を得ているし、農業経営基盤において楽しみな品種」と語る。川染氏はおいでまいと、さぬきうどん用に開発された小麦「さぬきの夢」を二毛作で栽培。そのような米麦農家にとって、おいでまいは重要な品種だ。適期作業を厳守する以外、特に栽培管理で難しいと感じることはないという。

田植えと収穫の様子。地元の子どもたちが収穫体験をするなど、教育の現場からも普及活動をしている(写真:「おいでまい」委員会提供)

今後も香川県では積極的に新品種の開発を推進。おいでまいは中生(なかて)の品種で、今後は消費者からのニーズに応えるべく、早生(わせ)かつ香川の気候に適した品種開発に積極的に取り組んでいる。

加工用途も視野に入れた今後の広がり

とにかく今はおいでまいの認知度を拡大するのが急務と、香川県「おいでまい」委員会は考える。耕地面積が狭いため、県外の人にとってはどうしても「希少米」という扱いになってしまうが、用途を拡大することでさらに多くの人に知ってもらえるとにらむ。

たとえば米粉にして団子やロールケーキ、バウムクーヘン、パンといった和洋菓子を作るほか、酒米として利用し日本酒を醸造するなど、加工品への展開を進めている。特においでまいの米粉は吸水性が低く、適度な粘りを持つことから食味も好評価。米粉パン専用の品種が開発されるなど日本で米粉への注目が高まるなか、米粉加工品についてはさらなる需要拡大がねらえそうだ。

加工品の例。「おいでまいアイスクリーム」なる逸品もあるそうだ(写真:「おいでまい」委員会提供)
せとうち旬彩館で開催されたおいでまいフェアの様子。試食は好評だったそう(写真:「おいでまい」委員会提供)

「おいでまい」委員会の担当者によれば「おいでまい加工品が登場することで、ますます地元での知名度も上がっています」と好調なようだ。東京都港区にあるアンテナショップ「香川・愛媛 せとうち旬彩館」で3月に開催されたおいでまいフェアでは、試食したうえで購入していく来場者が多く、2kgパック、5kgパック、無洗米、ご飯パックを用意したが、いずれも完売。なかでも、重くて敬遠されそうな5kgパックが意外と人気だったそう。味は東京の消費者にも受け入れられると自信を持てたものの、やはり「香川で米作りをしている」と知らない人が多かったのは今後の課題。ブランド化のために"認知度"は欠かせない条件だ。

うどん"以外"をPR

香川県は2011年に「うどん県。それだけじゃない香川県」プロジェクトをスタート。うどんの突出した知名度を生かせないか、と考えたことがこのプロジェクトのキッカケだった。うどんを引き合いに、オリーブやそうめんなどの食、現代アートなど、それ以外の香川の魅力を知ってもらおうとする動きだ。

もちろん、おいでまいも"それ以外"としてアピールしていく対象。水不足のイメージが強く、米作りをして大丈夫かと思われがちな香川県だが、水不足対策としてため池が点在しているのが香川の農業の特徴だ。ため池を中心に網の目のように張り巡らされた水路はまさに先人の努力の賜物であり、米作りへの情熱のあらわれ。このため池こそ、讃岐平野に独特な田園風景をもたらしている。

農業用のため池としては日本一の広さを誇る満濃池(写真:PIXTA)

おいでまい定着への課題

現在、おいでまいの流通は県内と県外で半々といったところ(2015年実績)。ブランドが定着するには、もっと多くの人に食べてもらうことが必要であり、販路の拡充も欠かせない。安定的な生産量を確保し、品質を絶えず向上させる努力も求められるだろう。

ブランド米がここまで"乱立"してしまうと、なかなか差別化は難しい。幸い、香川県は「うどん県」という強烈なブランディングが成功しているため、「実は米どころであること」「おいでまいという特A獲得銘柄があること」といったギャップが強みになるのではないだろうか。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu