大手キャリアの採用が相次ぐ「eSIM」、そのメリットと課題

大手キャリアの採用が相次ぐ「eSIM」、そのメリットと課題

2017.04.25

従来のSIMのように通信機器に挿入するのではなく、通信機器に内蔵する「eSIM」が、最近注目を高めている。eSIMはさまざまな利便性を備えるが、一方で情報を書き換えるだけでキャリアの"乗り換え"が可能なことから、キャリアにとっては諸刃の剣だ。にもかかわらず、eSIMの導入に前向きな取り組みが増えているのはなぜなのか。

SIMをあらかじめ組み込み、情報だけを書き換える

スマートフォンやタブレットなど、携帯電話のネットワークで通信する機器には通常、「SIM」(Subscriber Identity Module)と呼ばれるICチップが挿入されている。最近では低価格で利用できるモバイル通信サービスを“格安SIM”などと呼ぶこともあることから、その存在を知っている人も多くいることだろう。

SIMには、携帯電話番号など固有のIDが記録されている。そしてこのIDをネットワーク側が確認することで、このスマートフォンを使っている人はどのキャリアのどのサービスを契約しており、どのネットワークに接続するべきかなどを判断しているのである。それゆえSIMカードを挿入していないスマートフォンは携帯電話のネットワークに接続することはできず、Wi-Fiなどを利用するしかなくなってしまう。

スマートフォンなど携帯電話のネットワークを利用するデバイスには「SIM」を挿入するスロットが用意されており、ここにSIMを挿入してはじめて携帯電話網が利用できる

それくらい、携帯電話の世界にとってSIMは非常に重要な役割を占めているものなのだが、実はこのSIMが、将来的には必要なくなる可能性がある。その理由は「eSIM」にある。

eSIM(embedded SIM)とは、要するに「組み込み用のSIM」のこと。つまり通信機器にSIMを内蔵してしまおうというのが、eSIMなのである。eSIMを搭載した機器にはあらかじめSIMが搭載されていることから、SIMを挿入することなく通信が可能になるだ。

だが、国内であればNTTドコモ、au、ソフトバンクと各キャリアが独自のSIMを提供しており、それをデバイスに抜き差しすることで、“乗り換え”ができる仕組みとなっている。では機器に組み込まれてしまっているeSIMで、どのようにして現在のSIMのように、キャリアの乗り換えを担保するのかというと、eSIMに記録された情報を、通信網を経由して書き換えるのである。

例えばNTTドコモで契約していたeSIM搭載機器をauで使いたいという場合は、当初NTTドコモの契約情報が書き込まれていたeSIMに、auの契約情報を上書きすることにより、auのネットワークで使えるようになるわけだ。

昨年、自身でSIMを発行できる「フルMVNO」になることを打ち出したインターネットイニシアティブは、IoT向けとして組み込み機器用eSIMの提供に積極的な姿勢を示している

ちなみに現在、eSIMを搭載したデバイスとしてよく知られているものとしては、アップルの9.7インチ版「iPad Pro」が挙げられる。このiPad Proには、さまざまな国でデータ通信の利用ができる「Apple SIM」がeSIMとして本体に内蔵されていることから、SIMを入れ替える手間なく、海外でも手軽にデータ通信の利用が可能となっている。

eSIMが必要された背景にあるIoTの広まり

そもそも、なぜ従来のICカードタイプのSIMではなく、組み込み型のSIMが必要となったのだろうか。そこに影響しているのはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の広まりである。

さまざまな機器がインターネットに接続するIoTでは、機器そのものに通信機能を持つモジュールが組み込まれることが多いと考えられる。だがそうしたデバイスを販売する国が多岐にわたる場合、あらかじめそれぞれの国に応じたSIMを組み込んで製造しておく必要がある。

だがあらかじめSIMを組み込んでしまうと利用できるキャリアが固定されてしまうため、他の国に向けて販売することはできなくなってしまう。またそもそもSIMを国によって変えるとなると、同じデバイスにもかかわらずSIMの種類の数だけ別のデバイスという扱いをしなければならず、在庫管理が大変になるといった問題を抱えていた。

しかも遠隔操作が可能な建設機械などであれば、通常より過酷な環境で動作することも想定される。そのためプラスティックタイプのSIMでは温度や振動、衝撃などで容易に壊れてしまう可能性があることも、問題とされてきた。

だがeSIMであれば国によって契約情報をネットワーク経由で書き換えるだけで済むことから、管理や変更にかかる手間が大幅に軽減される。しかもあらかじめ組み込んでおけることから、eSIM自体の耐温度・耐衝撃性能も高めやすいなどのメリットがある。IoTに適したSIMの形として、eSIMは大きな注目を集めてきたのである。

NTTドコモが現在展開している、M2M(機械間通信)向けeSIMの概要。従来は輸出する国毎にSIMを組み込んで開発する必要があったが、eSIMではそうした手間が不要になる(プレスリリースより)

eSIM搭載スマートフォンの投入はまだ先か

だがキャリアの視点に立つと、eSIMには大きな弱みもある。eSIM内の情報を書き換えるだけでキャリアを変えられるので、ユーザーが容易にキャリアの乗り換えをしてしまうのではないか? という懸念があるのだ。

実はeSIMは需要が高い法人向けのM2M(機械間通信)用の標準化は早期に進められており、NTTドコモは2014年より車両や建設機械等のM2M機器向けeSIMを提供している。だがキャリア側の懸念などもあってか、コンシューマー向け機器に関するeSIMの標準化はそれよりも進展が遅く、2016年10月に標準化団体のGSMAにおいて、遠隔でSIMカードに書き込みができる「Remote SIM Provisioning Version2.0」の仕様が確定したことで、ようやく大規模に展開できるようになったのである。

実際、今年の2月にはNTTドコモが、この仕様を用いてコンシューマー機器向けのeSIMプラットフォームを開発し、対応する製品を2017年中に発売する予定であることを明らかにしている。またソフトバンクも3月に、IoT推進の一環としてeSIMプラットフォームを開発することを発表。こちらも発表内容を見るとM2M向けだけでなく、コンシューマー向けの展開を意識した内容となっている。

とはいえ、各社のeSIMを用いたサービスイメージ図を見ると、そこに描かれているのはタブレットやウェアラブルデバイスなどであり、スマートフォンの姿はない。それゆえ当面、コンシューマー向けに提供されるeSIM搭載デバイスは、データ通信用の端末に限られるのではないかと考えられる。

NTTドコモのコンシューマー向けeSIMプラットフォームのイメージ図(プレスリリースより)
ソフトバンクのコンシューマー向けeSIMプラットフォームのイメージ図(プレスリリースより)

主力のスマートフォンでは各キャリアやMVNOが激しい競争を繰り広げているが、それ以外のデバイスは普及の限界が見えてきたタブレット、普及がなかなか進まないウェアラブルデバイス、といったように、競争よりも普及の方が大きな課題となっている。そうしたことから、キャリアは普及を進めたいデバイスにeSIMを先行して導入することにより、契約しやすい環境を提供する狙いがあるといえそうだ。

将来的にはスマートフォンにもeSIMの利用が広まり、その際にはモバイルデバイスのあり方も大きく変わってくるかもしれない。だがそこに行きつくまでには、契約面からサービス面など、さまざまな部分で業界全体での合意を進める必要があり、まだしばらく時間がかかるといえそうだ。

関連記事
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu