アンドロイドがアイドルに、Androidolは何をもたらすか

アンドロイドがアイドルに、Androidolは何をもたらすか

2017.03.06

大阪大学石黒研究室とドワンゴ、パルコは共同で、世界初となるアンドロイドをアイドルに育てる共同企画「アンドロイド『U』育成プロジェクト」を発表した。ロボットがビジネスシーンや生活の場に進出しつつある中、リアルな人型ロボットによる「アイドル」は果たして誕生するのだろうか。

ユーザーとともに育つアンドロイドアイドル

大阪大学の石黒浩教授は人間と関わる人型ロボットの研究者であり、特にリアルなアンドロイドの作成では世界的な研究者の一人だ。これまでにも自分自身を含めたさまざまなアンドロイドを開発・発表してきた。今回のプロジェクトにおけるアンドロイド「U」(ユー)もまた、石黒研究所の手による女性型アンドロイドだ。同プロジェクトではアンドロイドアイドルのことを「ANDROID」と「IDOL」という単語を合わせて「ANDROIDOL」という造語で読んでいる。

アイドルアンドロイドの「U」。設定では23歳くらいだという。製造は石黒研究室のスタッフで、好まれやすい要素を集めた顔であり、石黒教授の好みというわけではないそうだ

「U」はシリコン製の皮膚と精巧な表情メカニズムを持ち、実在の人間のように瞬きしたり、表情をわずかに変えながら静かに微笑んでいる。基本的に動きがあるのはトルソー部分だけで、実在のアイドルのように踊ることなどはできないが、パルコ店頭でのメージガールやファッションブランドとのコラボレーション、一日店長やインフォメーションスタッフとして働くことが計画されているという。

ユニークなのは知性にあたる人工知能(AI)の部分で、ここはドワンゴが運営する「ニコニコ動画」においてユーザーと交流させ、ユーザーのコメントを対話システムの学習素材として利用していくという。未熟な「U」のAIが自律型の対話システムとして成長していく様自体をエンターテインメントとして公開されることになる。いわばアイドルとしての成長をユーザーとともに楽しもうというわけだ。

発表会の会場では、中継を見ていた視聴者の「ぐぬぬ」という単語を妙に気に入って繰り返し呟いていた「U」だが、複数の視聴者からの発言のうち処理しやすいものを選択して学習できる余地があること、またフィルタリングもある程度されているということで、妙な言葉遣いばかりを学習して、デスメタルやパンクロックの似合うアイドルにはならないで済むようだ。

いずれにしても、アイドルとしての活動の場に即した言葉遣いなどを率先して学習することで、よりファンが親近感を感じやすい存在に仕上がっていく。こうした遊び心のような試みも、もともと「人に酷似したロボットが人間の心理に与える影響」を研究している石黒教授の社会実験的な側面に合致していると言っていいだろう。

人間はアンドロイドをアイドルと認められるのか?

芸能界において、アイドルというのはある種の生鮮品のような存在だ。毎年何十組ものアイドルが現れては消えていき、ごく一握りの成功例だけが生き延びる、極めて厳しい世界だ。そんな成功例であっても、アイドルのアイドルらしい側面、すなわち可愛さや初々しさ、清純さなどは時間とともに失われていき、女優や歌手として転身していく。中には恋愛問題など様々な事情で引退していくアイドルもいる。アイドルとしての寿命はせいぜい数年といったところだろう。

そういう観点からは、アンドロイドという「歳をとらず、恋愛もせず、劣化しない」存在は、アイドルとしては理想的だ。絶対にスキャンダル等でファンの期待を裏切らず、アイドルらしい側面だけを何年でも見せ続けてくれる。もちろん物理的な故障や劣化は起きうるが、まったく同じものを作って再現できるのだから、トータルコストとしては普通のアイドルを育成するよりも安上がりかもしれない。

一方、人間は「作り物」をアイドルとして受け入れることができるのか、という疑問も起きる。アイドルは一人の個性を持った人間であり、わずかな期間のみ輝く、その希少性こそがアイドル性を生み出すという考えだ。人工的な存在はそのようなアイドル性を持ち得ないならば、「U」のような実験は成立しないということになる。

ただし、こと日本においては、架空の存在を、それと承知しながら「アイドル的な存在」としてある程度受け入れる素地がある。たとえば「VOCALOID」の「初音ミク」などはバーチャルアイドルの先駆けのようなものだし、アイドルアニメが人気を博し、キャラクターに声を当てる声優たちのコンサートに数万人が集まる昨今だ。

アイドルではないが、漫画「あしたのジョー」の登場人物である力石徹の葬儀が行われた例すらある。架空の存在であっても通常の人間と同様の存在としてみなすことのできる、いわば一種の高度な「ごっこ遊び」とも言える感性が日本人には存在する。「U」についても、ニコニコ動画を中心に、一定の「お約束」を許容できるファンの間でアイドル的存在になることは十分可能だろう。

現実との境界線はどうなるのか

新規アイドルとして展開する予定の「U」だが、アンドロイド自体にはもう一つ、実在の人物の模倣という側面もある。たとえば石黒教授の過去の業績の中には落語家の故・三代目桂米朝師匠を模したアンドロイド「落語アンドロイド」も存在している。米朝師匠は2年前に亡くなったが、今も生前の米朝師匠から記録した高座を、アンドロイドを通じて楽しむことができる。米朝師匠はアンドロイドというフォーマットにアーカイブ(保存)されたことになる。つまり、ANDROIDOLには、アイドルの旬の姿を記録・保存し、将来に再現するためのアーカイブ的な側面を期待できるのだ。

桂米朝が88歳の時に作られた落語アンドロイド。ただし姿は88歳よりも若い頃を参考にしている
石黒教授自身がモデルとなった「ジェミノイド」。この姿のままリモート講義を行ったりもする
歴史上の人物を再現した「漱石ロイド」。生身の情報が残っていないものも現実化できてしまう

また、人工知能の発展と、それに伴って音声認識や会話、音声合成の技術も飛躍的に向上しているため、録音した歌だけでなく、かつてのアイドル自身の声を使って新しい歌や会話もできるようになるだろう。ハリウッドでもスターの姿をフルCG化し、合成音声と組み合わせることで役者が死んでもその姿を再び映画で利用できるような計画があるという。そうなればもはやアイドルは実在の人間か、そのアーカイブなのか、100%人工的なものなのか、その境界線は非常に曖昧になっていき、やがてはオリジナル自体が存在しない、純粋なアンドロイドとの区別はなくなっていくだろう。

かつて「アンドロイドや人工知能がアイドルになる」というアイデアは、その実現性の難しさや発想の意外性も込めて、アニメやSF作品の中のものだった。しかし今やそうしたアイデアが現実のものとなる時代が訪れている。ANDROIDOLは空想と現実の境界線を破壊する可能性をもたらす嚆矢となるかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu