長期政権のゴーン日産、ここで社長交代する真意

長期政権のゴーン日産、ここで社長交代する真意

2017.03.07

日産自動車のカルロス・ゴーン社長が2017年4月1日付で同社の社長兼CEO(最高経営責任者)を退任する。同氏は日産がルノーと資本提携し、ルノー/日産連合をスタートさせた1999年に、ルノーが日産COOとして派遣した人物。実に18年も日産の経営を担ってきた。ここでようやくの社長交代となる。

長きにわたり日産を率いてきたゴーン氏が、ついに社長の座を譲ろうとしている

カルロス・ゴーンといえば、自動車産業界を知らない人にも「名経営者」としてその名を轟かせているほどである。1990年代後半の日産経営破綻のなかで、最後に助けを求めたルノーと日産が資本提携したのが1999年3月。実質的にルノー傘下となった日産に再建の旗手として送り込まれてきたのがゴーン氏だった。日産COOとしてゴーン氏が中心となってまとめ、1999年10月に発表した中期3カ年経営計画(中計)「日産リバイバルプラン(NRP)」が日産復活の原点だ。

そこで注目を集めたのが「コミットメント(目標必達)経営」だった。

日本企業にも影響を与えたゴーン流経営

その日産再建計画では、2000年度の黒字化、2002年度の利益率4.5%以上を数値目標として掲げたのだが、一気に目標をクリアした姿は日産のV字回復として話題になり、ゴーン流コミットメント経営は世間に広まった。ゴーン経営はクロスファンクショナルチーム(CFT)の活用やダイバーシティの積極採用など、日本の企業経営や組織のあり方、人材活用などにも大きな影響を与えた。

ゴーン氏が日産に来てから18年が経過したが、同氏はこの間、ルノーの社長・CEOにも就任してルノー/日産連合を確固たるものとした。一方で、その後の日産中計におけるコミットメントはやや色あせてきた感も出てきている。

これを打ち消すだけのインパクトを与えたのが、昨年、三菱自動車を傘下に収めた一件だ。三菱自の再建が前提ではあるが、ルノー/日産連合全体のグローバル販売は世界のトップに伍する1,000万台規模となり、ゴーン氏の世界覇権への野望が現実視されたのだ。

ゴーン氏は、日産の社長・CEOは譲るが日産を退任するわけではない。代表権を持つ会長として、ルノー、三菱自、提携拡大を狙う独ダイムラーなど、アライアンス全体を統括する役割りを強める。いわばグローバル連合のまとめ役に軸足を移すということなのである。

日産の潜在力を引き出した経営手法

筆者は、ゴーン氏が2001年に日産の社長兼CEOの座に就き、日産V字回復を確実にさせた時期にインタビューしたことがあるが、最初に立って握手をした際、筆者より小柄だったのは意外だった。その頃はテレビでもよく見かけたが、映像を通して見ていたのは、大柄で自信満々な外国人だったからだ。限られたインタビュー時間では、大きな身振りを伴う早口でまくしたてたゴーン氏。厳しい質問は上手くそらすな、という印象も受けた。

ゴーン日産の功罪の功は、何よりも日産を早期に再建させたことだ。ゴーン氏は当初「コストカッター」と呼ばれ、工場閉鎖を実施し、サプライヤーの「系列」を一掃した。旧日産には、組合問題など古いしがらみにとらわれ、経営問題にまでつながった体質があった。ゴーン流は欧米での厳しい経営を実践。剛腕とも見られるドライな経営手法が、日産の潜在力を引き出したともいえる。

また、ゴーン氏自身がレバノンからブラジルに渡った祖父の民族性を持つ。つまり、ブラジルで生まれてレバノンで育ち、大学はフランスのエリート校で学び、生まれながらにしてグローバルで生き抜く感覚を植え付けられていたのだ。それがミシュランで若くして頭角を現し、ブラジルと米国でトップ経営者としての力を磨き、ルノーにヘッドハンティングされ、更には日産再建の旗手として脚光をあびることになったのだ。

いずれにせよ、ルノー/日産とダイムラーとの提携を実現させ、三菱自を傘下に収めるなど、世界の自動車業界におけるアライアンス(提携)の成功例を作ったのはゴーン氏の手腕である。

窮地に陥っていた三菱自動車に手を差し伸べた日産

日本市場では苦戦

ただし、ゴーン日産の時代が長くなるにつれて、「そろそろ日本人に社長を譲ってもいいんじゃないか」とか、「ゴーン日産も賞味期限切れだな」といった声が、ちらほら聞こえるようになってきた。

そういった声が聞こえだしたのはなぜか。日本国内市場における日産の販売が低下し、シェアダウンの傾向にあったことも理由の1つだろう。かつて日産の国内販売は、トヨタ自動車をライバルとし、ともに国内市場を引っ張ってきたのだが、最近の日産は、国内販売において第5位の座に甘んじている。

セレナに続きノートを投入、日本市場で巻き返しへ

2016年8月に日産は新型「セレナ」を発売。自動運転レベル2の「プロパイロット」を搭載するなど、新技術を多く採用した新型車は好評を博した。だが、このクルマは日産として国内では2年半ぶりの新車だったのだ。

ゴーン体制がグローバル戦略において、日本市場を軽視していたことは否めない。実に2年半も国内で新型車投入がなかったことで、新型セレナ投入直前の第1四半期(4~6月)の日産の国内シェアは8.3%と一桁台にまで落ち込んだ。他社の販売店からは、「日産ディーラーさんは良く耐え忍んできたね。ゴーン社長は日本市場を軽視しているんじゃないの」との声が聞かれたほどだった。

ゴーン日産がマーケットの大きい米国や中国などを重視しているのは明らかであり、収益性の面からも、日本の比重が小さくなっていたことは確かだ。もっとも、セレナに続き「ノートe-POWER」を投入するなど、商品力を強化し、巻き返しを図る動きも出てきている。

発売から好調を維持し、2017年2月末までに累計6万5,000台を売った新型「セレナ」(左側)。電気自動車の乗り味を実現するパワートレインが話題を呼んだ「ノートe-POWER」もよく売れている

ゴーン氏は電気自動車(EV)で世界覇権を狙うと豪語していたが、そのEV戦略も販売目標とずれて伸び悩んだ。EVでは、むしろ米テスラが世界で話題を集め、日産のお株を奪う動きを示している。

また、ゴーン氏の高額報酬に批判が集まったこともある。日産で10億円、ルノーで9億4,000万円、さらに三菱自の会長報酬も加わるわけで、ルノーの筆頭株主であるフランス政府から注文がついて減額となったのも頷ける。

特徴的なパフォーマンスもゴーン流だが、攻めている状況では強いが、弱い面があると上手く逃げるようなところがあるのは、インタビューでも感じたところだ。

後任の西川氏はコストダウンで力を発揮

ゴーン日産社長の後任は、西川(さいかわ)廣人共同CEOだ。2017年4月に就任する。ゴーン氏62歳、西川氏63歳と同年代の後継となるが、西川氏は購買畑でルノー/日産連合における共同調達によるコストダウンに力を発揮し、頭角を現した人だ。ゴーン氏の信頼も厚く、日産代表として日本自動車工業会会長に送り込んだ時の肩書きは副会長兼CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)だった。

ゴーン氏からの信頼も厚い次期社長の西川氏

また2015年秋には、ルノー・日産へのフランス政府の干渉が強まる中で交渉役も務めた。同年暮れに西川氏がパリからテレビ記者会見し、「日産、ルノー、フランス政府が日産の経営の自主性を担保し、アライアンスの将来を守ることで合意した」ことを発表した。

当時の西川氏は、これを受けて「ルノーと日産の信頼関係は、ゴーンCEOの力強いリーダーシップで築き上げられたことは言うまでもありませんが、さらに将来に向けて一歩前進したとも言えるでしょう」との声明を発表した。さらにこの合意の意義について、「ゴーンCEOが退任しても十分仕事ができる関係を築いた」と語っている。この頃からゴーン氏は、西川氏に社長を譲る覚悟を決めていたのだろう。

ルノー/日産連合が、1990年代末から2000年代初頭に起きた世界の自動車メーカー間の合従連衡において、アライアンスの成果を上げたモデルケースとなったことは確かだ。瀕死の状態にあった日産がルノーの援助(カネ、ヒト)によって再生し、一方で再生後の日産は、ルノーの持ち分法適用会社としてルノーに持ち分利益を上納することで、ルノーの業績を支えているという関係にある。

ただ、現在のルノーと日産は株式を持ち合う関係にあるものの、ルノーの日産への出資比率が43.4%であるのに対し、日産のルノーへの出資比率は15%で、かつ日産の持つルノー株には議決権がない。日産はルノーの了解なしにルノー株の売買ができないなど、資本面では不平等な提携関係にあったのだ。

アライアンスの成功例となったルノー/日産連合だが、互いの出資比率には大きな差がある

新中計で問われる日産の真価

日産が進める中期経営計画「日産パワー88」は2017年3月末で終了する。世界販売の市場占有率(シェア)と営業利益率の双方で8%を目指したのだが、ともに届かないことになりそうだ。そういった意味で、ゴーン経営の妙味であったコミットメントは、ここへきて微妙なものとなっているのだ。

ゴーン氏は、三菱自を加えた世界1,000万台規模のトータルアライアンス統括やルノーの経営強化に軸足を移すことになる。三菱自がV字回復を達成すれば、次のステップに進むことも考えられる。つまり、経営者としての実績と栄誉に多額な報酬を得た後は、第二の故郷であるブラジルで大統領となり、経済再建に取り組むという話が、ジョークだとばかりも言っていられない状況なのだ。

日産としては、西川新社長のもとでスタートする新中計の方向性で同社の真価が問われる。ゴーン日産18年からの大きな転機となるのも間違いない。三菱自を加え、ダイムラーとの提携の拡がりも求めるルノー/日産連合。その中核企業として、日産は立ち位置を確保していくことができるか、ということになろう。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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