カムバックした役員が語るシャープの現在とこれから

カムバックした役員が語るシャープの現在とこれから

2017.03.07

シャープは、液晶のイメージが強い。そして、ブランドイメージを形成するのは、液晶テレビ「AQUOS」や、ヘルシオなどの白物家電製品。最近では、「ロボホン」も、シャープを象徴する製品だといえる。だが、こうした表看板ともいえる事業のような派手さはないが、シャープには、BtoB領域において、45年の歴史を持ち、同社の「信頼」を支えてきた事業がある。それがビジネスソリューション事業である。

1972年にシャープ初の複写機「SF-201」を発売。以来、これまでに約1800万台の出荷実績を持ち、コンビニエンスストアに設置されている複合機では、約6割という高いシェアを誇る。そして、複写機を中核に、サイネージやPOSのほか、スマートオフィス製品などの展開を強化。ロボット市場への参入などにより、ビジネスソリューション事業としての継続的な成長を目指すという。シャープのビジネスソリューション事業にフォーカスしてみた。

複写機事業は45年の歴史を持つ。コンビニでは約6割のシェアを持つ

鴻海は液晶だけ手に入れたいわけではない

「シャープは大丈夫なのか」――。

ビジネスソリューション事業を統括するシャープ ビジネスソリューション事業本部長の中山藤一専務は、昨年来、顧客から何度もこの質問を投げかけられているという。

シャープ ビジネスソリューション事業本部長の中山藤一専務

鴻海傘下で再建を目指すシャープにおいて、報道などで何度か取り上げられたのが複写機事業の売却だ。その背景には、鴻海が手に入れたい事業は液晶事業だけであり、そのほかの事業には興味がないという見方がある。

というのも、鴻海によるシャープ買収のプロセスにおいて、なんらかの事情で鴻海による資本金払込が実行されなかった場合にも、鴻海はシャープの液晶事業だけを買収できるオプションを盛り込んでいたことがわかったからだ。つまり、買収戦略が不調に終わっても、鴻海は液晶事業だけは手に入れられる契約内容であり、この動きを見て、「鴻海はシャープの液晶事業だけを手に入れたいと思っている」との思惑があると、多くの関係者が感じたからだ。

一部には、買収後に、液晶事業以外を切り売りすれば、3888億円という買収金額を回収できるという見方すら出ていた。それだけにビジネスソリューションの継続性を不安視する声があとを絶たなかったのだ。 だが、中山専務は、その見方を完全に否定。その理由をいくつかあげた。

3つの理由

ひとつは、2016年8月の買収に伴い、シャープの社長に、鴻海グループのナンバー2である戴正呉氏を送り込んだことだ。

「シャープは解散せざるを得ない直前の状況まで落ち込んだ。その再建に、ナンバー2を送り込んできた。戴氏は、鴻海の社員がまだ200人体制のときから、創業者の郭台銘氏と二人三脚で企業を大きくし、120万人の会社に成長させた。液晶事業だけでなく、シャープ全体を再生させるという意気込みが感じられる」とする。

シャープ社長の戴正呉氏

2つめは、中山専務を再雇用した点だ。実は、中山専務は、2015年11月に一度シャープを退社している。だが、退職した中山専務のもとを戴社長が直接訪れて、シャープに戻ることを打診したという。

中山専務は、1977年のシャープ入社以来、技術者として、複写機事業一筋の経歴を持つ。そして、役員になってからもビジネスソリューションを担当してきた経緯がある。複写機事業の継続を前提としなければ、中山専務にシャープに戻るような説得はしないと判断できよう。

戴社長は、2016年7月にシャープに戻った中山専務に、「ビジネスソリューション事業を、しっかりと継続させてほしい」と、要望したという。

「シャープのどれかの事業を柱にして大きく育てる、というのではなく、個々の事業を伸ばしていくという姿勢が、鴻海の考え方である」と中山専務は指摘する。

そして、3つめが、シャープは新体制になってから、複写機事業拡大に向けた手を積極的に打ち始めている点だ。2月上旬に発表したスイスの複写機販売会社「フリッツ・シューマッハー」の買収は、複写機の販路拡大に向けた一手となる。今後も、必要に応じてビジネスソリューション事業拡大に向けたM&Aがあるかもしれない。

原点回帰が大事

中山専務は、2016年8月に戴社長が開催した経営トップを召集した会議を振り返る。

これは、夏休みの最終日から3日間に渡って行われた会議だ。夏休み中に、戴社長自らがまとめた約80ページの資料を使って、経営方針とともに、自身の思いを語ったという。

「最初に語ったのが、創業者である早川徳次氏のスピリッツを思い出し、原点に帰ることの大切さだった。そして、シャープをグローバルブランドにするために、自分はシャープにやってきたと語った。鴻海のためにシャープをどうするのかではなく、シャープのためにどうするかということを考えていることを示した。台湾から来た65歳の社長の話を聞いて、この人だったら、再生に向けて一緒にやっていけると全員が同じ思いをもった」と述懐する。

2月中旬、シャープは、2016年度の連結業績見通しを上方修正した。

売上高は据え置いたものの、営業利益、経常利益、当期純損益をそれぞれ101億円ずつ修正。最終赤字は残るが、営業黒字および経常黒字を達成することになる。

「シャープは確実に元気になっている。ここできっちり無駄をそぎ落として、強固な事業体としていく。シャープは大丈夫なのか、という問いには、これからも安心してお付き合いをしてもらえる会社であると答えられる」と、中山専務は断言する。

だが、中山専務は、冗談を交えながら、こんなエピソードも語る。

「最初の会議に出たときに、大変なところに戻ってしまったと感じた。こりゃ、えらいおっちゃんだ。香港映画の登場人物を見ているような、鋭い目つきで、ビシビシと攻めてくる」

シャープ再生に向けた経営トップの厳しさを、多くの社員が目の当たりにしているようだ。

シャープの信頼を支えるビジネス

シャープの第1号複写機が発売されたのは1972年だ。今年はちょうど45年目を迎えることになる。

「複写機は、化学、光学、メカ技術の刷り合わせによって生まれる製品。そのため、海外生産や水平分業が起きず、値崩れがしにくいという傾向がある。また、顧客のなかに入ってきっちりとサービスを行うというビジネスである。顧客との接点を大切にするのが複写機事業の根幹。長年の信頼がないと成り立たないビジネスである」と語る。

中山専務は、ビジネスソリューションのビジネスは、商材も大切だが、それと同じぐらいに大切なのは、商材を通じて顧客とつながっていける会社と会社の関係だとする。

「シャープに頼んでよかったといってもらえる信頼の繰り返しがいまにつながっている」と続ける。

シャープの複写機の累計出荷台数は約1800万台。オフィスでの利用のほか、コンビニエンスストアのコピーサービスとして利用されるケースも多い。実際、ローソン、ファミリーマート、サークルKサンクスなどに導入されており、この分野における市場シェアは約6割に達すると推測される。

「シャープのブランドイメージは、液晶であったり、家電であったりというのは確かだが、信頼のブランドイメージは、BtoBから生まれる。信頼度、人間関係の強さ、仕事の正確性、安心できるサービス体制などによって作り上げていくものである。地味で、地道なビジネスであるが、シャープのブランドづくりに貢献しているという自負がある」と語る。

競争が激化する複写機市場での戦い方

ビジネスソリューション事業は、45年間、安定した利益を出し続けている事業である。

ビジネスソリューション事業の売上高は、2015年度実績で3551億円。そのうち、複写機の売上高は1330億円と4割近くを占める。ストック型のビジネスモデルは、シャープの収益基盤を高めることに貢献している。

だが、2016年度は、企業の設備投資の競争が激化。「一昨年、昨年に比べて、利益が取りにくい商談が増加した」(複写機メーカー幹部)というように、複写機メーカー各社が共通して利益を落としている。

これはシャープも同じだ。2016年度第3四半期累計でのビジネスソリューション事業の営業利益率は6.6%と、前年同期の9.1%から減少している。だが、それでも1540億円の収益を稼ぎ出しており、これは、「リーマンショックでも影響を受けなかった」(同社幹部)といわれた同社白物家電事業で構成する健康・環境システムの2070億円に次ぐ、優良事業だ。

戴社長になってから、シャープの社内評価の尺度は、いかに正確な計画を作って、その通りやれる実行力があるかどうかを評価する「確度」と、前期との比較だけでなく、絶えず改革をしていくチャレンジ精神をもって、事業に取り組んでいるかを評価する「改善度」だという。その点で、営業利益率が減少しているビジネスソリューションが置かれたいまの立場は厳しいと言わざるを得ない。

複写機市場における競争激化は当面続くとの見方もあるが、中山専務は、「市場の回復を待つのではなく、新たな商材の提案で、ビジネスソリューション全体での底上げを図っていく。これまで、100しか買ってくれなかった企業に、200の商材を提案し、トータルで収益性を高めていくことになる」と、打開策を練る。

実際、その一手はすでに現実的な動きになっている。

新たな商材を追加しトータル提案

ビジネスソリューション事業本部は、オフィスソリューション事業部、ビジュアルソリューション事業部、システムソリューション事業部、マニファクチュアリングシステム事業部の4つの事業部で構成される。それらの事業部を通じて、複写機を中心とした「スマートオフィス」、POSを中心とした「リテールソリューション」、デジタルサイネージの提案を核とした「サイネージソリューション」、ロボットによる搬送の自動化やセキュリティロボットなどの「新規事業」の4つの切り口から事業展開していくことになる。

「独自技術とサービスによりお客様の業務の生産性向上を実現するのがビジネスソリューション事業本部のミッション。そして、ビジネスを行うお客様にとって、なくてはならない価値を提供する事業体を目指すのがビジョンである」とし、「ここに、各ビジネスユニットを超えた製品・サービスとの連携により、One Sharpとしての複合提案を行っていく」とする。

複写機を軸にしながら、これまで、複写機を販売していたルートに新たな商材を加えた提案を行うことで、収益拡大につなげるというわけだ。

たとえば、スマートオフィス、リテールソリューション、サイネージソリューションの3つの領域に展開できるのが、映像ソリューション製品群の展開。シャープが得意とする液晶ディスプレイを生かした新たな商材提案が相次いでおり、これを横展開していくことになる。

複写機で実績を持つオフィス分野に向けては、電子黒板の「BIG PAD」を提案。先頃発表したPN-L401Cは、オフィスのミーティングコーナーや小さな会議室のテーブルに手軽に設置して利用できる40V型サイズで、「これまでの製品では、7人以上が入る会議室を対象に提案してきた製品。だが、それでは会議室の半分しかターゲットにできなかった。しかし、新製品では残り半分を占める6人以下の会議室を対象にした提案ができる。サッと集まって、パッと散るハドルミーティングにも最適化した製品」と新たな需要創出に期待する。

オフィスのミーティングコーナーなどに設置できる「BIG PAD PN-L401C」

さらに、複写機をオフィスのハブとして、トータルのオフィスソリューションの展開を目指すことも視野に入れている。複写機同士の連携や、オフィス内の各種デバイスを結んで、クラウドを活用して情報共有。セキュリティソリューションを組み合わせた安全、安心で、効率的なオフィスソリューションの実現に取り組むという。

また、POSや複写機で実績を持つスーパーやコンビニなどに対するデジタルサイネージの提案や、教育分野への映像ソリューションの提案など、これまでの販路に+αの価値を提案していくことで、販売拡大を目指すほか、映像ソリューションにおいても、複写機同様に、コンルサティングからシステム構築、コンテンツ制作、設置工事、コンテンツ配信、保守・メンテナンスまでをトータルでサポートする体制を構築。ストック型のビジネスへと発展させることで、収益に貢献させる体制を構築する考えだ。

鴻海と共同開発した商材

もうひとつ、今後のビジネスソリューション事業において見逃すことができないのが、鴻海との連携だ。

シャープは、2017年2月21日、22日の2日間、東京・池袋のサンシャインシティにおいて、「シャープビジネスソリューションフェア 2017」を開催。そこで、鴻海精密工業と共同開発した超短焦点プロジェクターを参考展示した。

鴻海精密工業と共同開発した超短焦点プロジェクター

今年夏の販売を予定しており、価格は数10万円。シャープとしては、5年ぶりのプロジェクター製品。ビジネスプロジェクターとしては、7年ぶりの再参入となる。

オフィスの会議室での利用のほか、ショーウインドウなどの透明パネルに、後ろ側から映像を投影すれば、シースルーでの映像を投影できるという。

「これらの製品も、複写機やPOSを販売している顧客に提案できる製品。鴻海には、プロジェクターひとつをとっても、多くのラインアップがあり、これにシャープの商材や技術を組み合わせれば、新たな提案ができる。新たなビジネスチャンスが生まれる」とする。

同フェアでは、Windows 10 IoT Enterpriseを搭載したタッチPOSターミナルも参考展示したが、これも、鴻海との共同開発によるものだ。

鴻海精密工業と共同開発したタッチPOSターミナル

「鴻海には、これ以外にも、ネットワーク機器、PC、サーバー、NAS、車載機器、ATM、携帯デバイスなど様々な商材がある。そのなかから、日本に最適な製品を日本に持ってきたい」と中山専務は語る。NASに関しては、日本での取り扱いをすでに視野に入れているようだ。

シャープのビジネスソリューション事業は、104年の歴史を持つシャープのなかでも、45年という長い歴史を持つ事業だ。 商材の横展開とともに、ストック型ビジネスの拡大、そして、鴻海が持つ商材を活用することで、今後の成長戦略を描く考えだ。地味な事業ではあるが、シャープの経営再建を下支えする事業のひとつであることは間違いない。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。