【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

2017.03.07

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

 日立物流<9086>がM&Aを駆使してグローバルな総合物流会社へと変身を遂げている。日立製作所の物流子会社というのは、もはや過去の話。企業の物流業務を包括的に受託する3PL事業を伸ばし、大手企業の物流子会社を次々と買収しつつ、クロスボーダーのM&Aにも取り組む。2016年3月には佐川急便との資本業務提携を発表し、将来の経営統合も視野に入れる。実現すれば売り上げ規模で国内2位の物流グループが誕生することになる。

【企業概要】物流業務の包括受託サービス

 日立物流グループは、日立物流と連結子会社108社、持分法適用関連会社9社で構成され、顧客に対して、陸、海、空を網羅した総合的な物流サービスを提供している。1950年に日立製作所の輸送部門を請け負う物流子会社として創業、日立製作所の工場構内作業の一括受注、国内外における超重量物の輸送を引き受けるなどして業容を拡大した。また、物流情報システムの構築に早期に取り組み、企業の物流業務を包括的に受託するサービス(サード・パーティー・ロジスティクス 以下「3PL」という)を充実させ、日立グループ以外の顧客からの実績を拡大させている。

 2016年3月期の売上収益は6803億円。国内物流会社としては、日本郵便、日本郵船、日本通運、商船三井、ヤマトホールディングス、川崎汽船、SGホールディングスに次ぐ8位の売上高である。物流会社の中でも陸運・倉庫業者に絞ると5位の売上高である。

 日立物流のセグメントは、国内物流、国際物流、その他に分類され、2016年3月期の売上高では、国内物流4050億円、国際物流が2531億円、その他が221億円となっている。

 なお、2016年3月期の日立製作所からの運送、作業受託取引は83億円となっており、全体に占める割合は1.2%と大幅に低下している。

【経営陣】生え抜き人材が経営を支える

 日立物流は、経営監督機能と業務執行機能を分離する指名委員会等設置会社形態を採用している。執行役及び執行役会が業務執行を、取締役及び取締役会が経営監督機能を担う。

 代表執行役の中谷康夫氏は、1978年入社で取締役を兼任している。執行役専務の神宮司孝氏は79年入社で同じく取締役を兼任している。両名とも日立物流生え抜きの人材で日立物流を支えている。一方で、執行役専務の飯田氏をはじめ、執行役、取締役の一部は日立製作所出身者であり、日立製作所との関係性が伺える。

【株主構成】日立製作所、SGHDが3割弱保有

日立物流の上位株主
株主名称 保有株式数(千株) 持ち株比率(%)
日立製作所 33,472 29.95
SGホールディングス 32,350 28.94
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 5,630 5.04
全国共済農業協同組合連合会 2,794 2.5
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 2,489 2.23
ジェーピーモルガンチェースバンク380684 1,907 1.71
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口9) 1,736 1.55
日立物流社員持株会 1,445 1.29
CBNY GOVERNMENT OF NORWAY 1,321 1.18
ジェーピーモルガンチェースバンク385166 1,048 0.94
84,190 75.33
2016年9月末時点、四半期報告書に基づき作成

 日立製作所の物流子会社として設立され、1989年に東証二部に、1990年に東証一部に上場した後も、日立製作所の子会社として企業統治がなされていた。

 流れが大きく変わったのが2016年。2016年3月に日立物流は、SGホールディングス及びグループの佐川急便との資本業務提携契約を締結。この提携により、日立製作所が所有する日立物流の株式59.02%のうち29.01%をSGホールディングスに譲渡している。2016年9月末時点で第1位の株主は29.95%で変わらず日立製作所であるが、SGホールディングスが28.94%を所有し第2位の株主となった。現在、両社の持分法適用会社となっている。

 「" ロジスティクス事業 "と" デリバリー事業 "の融合」をテーマに掲げ、双方の3PL事業における強み、豊富なノウハウや顧客基盤、佐川急便の輸配送能力、日立物流のロジスティクス・テクノロジーを最大限に活用していく。これらにより、3PLとデリバリーがシームレスにつながる総合物流の提供が可能となり、「世界に挑戦する物流企業」として、企業価値の最大化を図ることのみならず、物流業界が担う社会的な使命に応えていけるとした。

 これにより両社を合算した売上規模ではヤマトホールディングスを抜き、首位の日本通運に続く2位グループが誕生することとなる。経営陣が統合に向けた意気込みがあると公言しており、今後、いつ具体的な取り組みが開始されるのか注目したい。

【M&A戦略】国内外の物流会社を次々と買収

日立物流の主なM&A
発表年月       内容
2005年7月 カーオーディオ大手クラリオンの子会社であるクラリオン・エム・アンド・エルの物流部門事業を譲受ける。
2006年12月 資生堂から物流子会社である資生堂物流サービス(売上高183億円)を28億円で譲受ける(90%)。
2007年10月 東欧チェコの物流会社であるESA s.r.o(売上高130億円)に資本参加することで合意(51%)。
2007年12月 東北地区を中心に物流事業を展開しているセンコン物流(売上高126億円)と業務提携し、資本参加(8.8%)。
2008年11月 中国における物流事業を一層強化するため、中国内陸部の中心都市である河南省鄭州市において河南省豫鑫物流股份有限公司と鄭州新和華科貿有限公司の3社で合弁会社を設立する(51%)。社名は河南新鑫日立物流有限公司、資本金は1000万元。
2008年12月 トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行うスミダロジネットの事業を譲受ける。
2009年5月 オフィス家具什器大手の内田洋行の東日本エリアの物流子会社であるオリエント・ロジの株式を一部譲受ける(86%)。
2009年10月 米国インディアナ州の物流会社である J.P.Holding Company,Inc.(売上高100億円)の株式を譲受することで合意(51%)。
2010年5月 インドの大手フォワーディング会社である Flyjac logistics Pvt. Ltd. (売上高73億円)
の全株式を譲受することで基本合意
2010年10月 インキ等の化学業界大手のDICと、その物流子会社であるDICロジテック(売上高177億円)の株式を譲り受けることで合意(90%)。
2010年11月 DCMホールディングスの連結子会社でホームセンター事業を展開しているホーマックの物流子会社であるダイレックスの株式を譲り受ける(90%)。
2010年11月 上海航空股份有限公司、香港正大企業船務有限公司との合弁会社である大航国際貨運有限公司(売上高64億円)について、上航航空が保有する 55%の株式を日立物流が取得し、日立物流の子会社とする(30%→85%)。
2011年4月 バンテック(売上高1136億円)の普通株式及び新株予約権を公開買付けにより取得(84.75%)。取得価額は489億円。
2011年4月 子会社である Hitachi Transport System (Asia)Pte.Ltd. と Hitachi Transport System (Thailand),Ltd. が、タイの証券取引所に上場している Eternity Grand Logistics Public Company Limited(売上高27億円)の株式を、大株主との相対取引及びタイ証券取引所での公開買付けにより取得する(100%)。
2011年8月 麺類メーカー大手のシマダヤの連結子会社であるシマダヤ運輸(売上高3億円)の全株式を譲り受け。
2011年11月 印刷インキ、有機顔料、合成樹脂等の化学業界大手の DIC の連結子会社で物流業を行っている DIC 通運有限公司(売上高1.5億円)の株式 41.86%を、日立物流の連結子会社である日立物流ファインネクストが譲り受け、90%保有することで合意。
2012年8月 日立電線の物流業務を行う連結子会社である日立電線ロジテック(売上高141億円)の全株式を譲り受けることで合意(100%)。
2013年5月 米国の物流会社である James J.Boyle & Co.(売上高100億円)の株式を 87%譲受けること、子会社である JJB Link Logistics Co.Limitedの株式を約 23%譲受けることについて合意。
2013年6月 香港の物流会社である CDS FREIGHT HOLDING LTD(売上高140億円)の株式を 85%譲受けることについて合意
2013年7月 トルコの物流会社である Mars Logistics Group (売上高200億円)の株式 51%を譲受ける
2016年3月 SGホールディングス及び佐川急便と戦略的資本業務提携を行う。日立物流が佐川急便の20%の株式を663億円で取得、SGホールディングスが日立物流の29%の株式を日立製作所より875億円で取得。これにより、日立製作所の所有割合は59.02%から30.01%となっている。

 日立物流が過去に実施した主なM&Aの特徴は、①国内における物流子会社の買収と②クロスボーダーM&Aである。

①国内物流子会社買収 顧客と人材を確保

 日立製作所の物流子会社として、日立製作所から安定した業務収入があるものの、日立製作所の業績に左右されることや、業績の拡大や経営改革が進まないといった課題もあった。この課題を解決するために、日立製作所の物流業務の一括受注で培った3PLのノウハウを活かして、日立製作所以外の業務の受注を進めていく。その拡大方針に沿った形でM&Aも位置付けられた。特に、日立物流と同じ境遇、すなわち物流子会社のM&Aを重ねていく。

 物流子会社のM&Aは、日立物流のノウハウが最も活かせるM&Aである。外部の仕事を競合他社から奪い取るには時間と労力が必要となる。既に業務を行っている競合他社は、蓄積された顧客情報や独自のノウハウに基づきサービスを提供することで顧客から信頼を得ており、競合他社を上回るソリューションを提案するのは容易ではない。この点、M&Aを行う事で、顧客とともに、その顧客にフィットしたノウハウや人材を確保することができ、スピード感をもって業績の拡大を行う事が可能となる。

 国内における物流子会社の買収の中では、2011年4月のバンテックの買収が特徴的である。バンテックは、自動車部品輸送を中心としたロジスティクスと航空・海上フォワーディングの二つを事業の柱とする総合物流会社である。1954年に日産自動車の物流子会社として設立され、2001年にMBOにより日産自動車から独立した経緯のある会社と、1976年東京急行の子会社として設立され、2004年に同じくMBOで独立した経緯のある会社が2005年に統合した誕生した。2007年9月に東証1部に上場しており、2010年3月期の売上高が1,131億円であった。買収は公開買い付けにより行われ、84.75%を取得、買収価額は489億円となった。

 日立物流の2011年3月期の売上高が3687億円であったのに対して、当時の経営目標は2012年度に連結売上高5000億円、バンテックの買収がなければ、達成はまず難しかったであろう。2010年9月頃より、交渉が進められていたようであるが、日立物流としては必ず成約させなければいけない案件であったに違いない。

 その後、バンテックは完全子会社化されるとともに、日立物流グループ内においてフォワーディング事業を分割により統合するなどの変遷を経て、現在においても、日立物流グループにおける重要な子会社として位置づけられている。

 バンテックの買収以外では、2005年にカーオーディオ大手クラリオンのグループの物流部門、2006年に資生堂の物流子会社(売上高183億円)、トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行う物流子会社、2009年オフィス家具什器大手の株式会社内田洋行の東日本エリアの物流子会社、2010年インキ等の化学業界大手のDIC株式会社の物流子会社(売上高177億円)、2011年に麺類メーカー大手のシマダヤの物流子会社 (売上高3億円)、2012年日立電線の物流子会社(売上高141億円)と次々と買収を進めている。これらの親会社の業務が獲得できている事は容易に想像できる。日立物流の3PLのノウハウを活かしシナジー効果を発揮できる案件をターゲットにする姿勢が明確だ。

②クロスボーダーM&A 売上高770億円上積み

 日立物流のM&Aのもう一つの特徴は、クロスボーダーM&Aである。海外の物流業務は、それぞれの国の法令や商慣習、顧客の要求が国内と相違しており、また、現地の物流会社や国際大手物流会社との競争環境があり、国内の物流業務と比較して更に業容の拡大が難しい。

 ただ一方で、少子高齢化や競争環境、ドライバー不足等、国内における物流業界は課題が山積しており、物流業界の将来性には疑問が残るといわざるをえない。国内の物流会社は、持続的成長のために海外に目を向ける必要がある。また、国内の顧客企業においても、持続的成長のために海外展開を加速させており、国内顧客の期待に応えるサービスを提供するためにも、海外物流網を構築することが重要課題である。この点、日立物流は、M&Aを効果的に活用し、海外の業容を拡大させている。

 また、各案件は、それぞれバンテックの買収ほど、売上高へのインパクトはないものの、国内における物流子会社の買収と同じように、クロスボーダーM&Aもコンスタントに実施しており、全体としては売上高の増加に大きく貢献している。

 2007年にチェコの物流会社(売上高130億円)の買収、2008年には中国で合弁企業の設立(のちに子会社化)、2009年に米国の物流会社(売上高100億円)の買収、2010年にインドの大手フォワーディング会社(売上高73億円)の買収、2011年にタイの物流会社(売上高27億円)の買収、2013年5月に米国の物流会社(売上高100億円)、2013年6月に香港の物流会社(売上高140億円)、2013年7月にトルコの物流会社(売上高200億円)と手を打ち続けている。これらの会社のM&A実施時の売上高を単純に合計すると770億円となり、日立物流の売上高の成長に寄与している。

【財務分析】バンテック買収で売り上げ伸長

 日立物流のセグメントは前述のとおり、国内物流、国際物流、その他に分類される。図1が、現在のセグメントとなった2003年3月期以降のセグメント別売上推移である。全体の売上高は、2003年3月期で2489億円、2016年3月期で6520億円と2.6倍となっている。

図1

 初めに着目すべきは、バンテックを買収した影響が大きい2012年3月期である。国内物流セグメントで売上高が2568億円から3864億円と50%増加、国際物流セグメントで売上高が931億円から1486億円に60%増加している。国内物流セグメント、国際物流セグメントとも重要なターニングポイントとなったM&Aである。

 また、もう一つ着目すべきは、国際物流セグメントである。2003年3月期で517億円であった売上高は2016年3月期で2531億円と約5倍に成長している。これも、バンテックの買収とその他のクロスボーダーM&Aの影響が強い。

図2

 図2は、日立物流の「のれん」を含む無形資産と総資産、純資産との割合の推移である。数値の入手できる2008年3月期以降を抽出している。日立物流の「のれん」は2016年3月期で295億円、その他の無形資産が390億円で合計685億円となっている。総資産4643億円、純資産2022億円と比較すると、総資産に対して14.8%、純資産に対して33.9%の水準だ。

 M&Aを積極的に展開している会社の特徴は、総資産や純資産に対して「のれん」を含む無形資産の割合が高いことである。日立物流においては、2011年3月期まで低水準であった割合が、バンテックの買収により、高まっている。2011年3月期の「のれん」を含む無形(固定)資産は186億円であったが、2012年3月期には627億円と3.3倍に増加した。総資産、純資産に対する割合も、2011年3月期に総資産に対して7.5%、純資産に対して12.3%であった数値が2012年3月期には総資産に対して17.2%、純資産に対して38.1%に上昇している。

 また、2015年3月期より会計基準を日本基準より国際会計基準に変更している。国際会計基準は、日本基準と違い「のれん」を償却しない。M&Aにより計上された「のれん」の償却負担が生じないことから、M&A直後から利益を計上しやすくなる。M&Aを積極的に展開している日本企業が採用する傾向にある。過年度より積極的にM&Aを展開してきた日立物流であったが、今後も、M&Aに積極的な姿勢であることが想定される。

【株価】日立の株売却をこなし上昇

 株価はアップダウンを繰り返しながらも上昇基調で推移している。2016年3月の佐川急便との資本業務提携で、長らく親会社だった日立製作所が株式を一部譲渡するとあって、当初は先行きを不安視する売りが出たもよう。しかし、その後は中長期的な物流需要の拡大や提携効果の実現への期待感が高まり、株価は2016年末に2400円台まで上昇している。

 今期の予想PER(株価収益率)は約14倍。同業の日本通運<9062>の約16倍と比べて株価には割安感もある。今後も堅調な値動きが期待される。

【まとめ】明確な戦略、M&Aで持続的成長 

 日立物流は、日立製作所以外の業務の受注を目指してM&Aを積極的に行ってきた。結果として、現在、日立製作所に対する受注の割合は低下し、日立製作所以外の受注の増加により売上が大幅に増加、企業の持続的成長を果たしている。M&A戦略が成功しているといえる。特に、日立物流としてシナジー効果を発揮できる物流子会社のM&Aを数多くターゲットとしており、明確な戦略に基づきM&Aを実施している会社といえる。

 また、将来的に国内市場が縮小されると予想される物流業界において、海外展開の手段としてクロスボーダーM&Aを積極的に展開する日立物流に見習う点は多い。

 また、2016年3月期のSGホールディングス、佐川急便との資本業務提携は、現状、期待通りで、良いスタートが切れてきているようだ。プロジェクトメンバーが活発で、現場でのコミュニケーションが進んでいる。「日中一貫サービス」や「物流施設の相互活用」等の協創の具体的な案件が現場レベルから提案されている。日立物流としての当面の増収目標は500億円としているが、当然、将来的な統合に向けた具体的な取り組みにも期待したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

2019.01.24

ソフトバンクの通信障害、総務省が行政指導へ

再発防止のためのさまざまな対策立案を支持

上場前後で「運がない」ソフトバンクに求められるもの

総務省は1月23日、昨年12月に大規模な通信障害を起こしたソフトバンクに対して行政指導を行った。

通信障害は、ソフトバンクのLTEに関する交換機の不具合が原因で起こったもの。それによって同社の4G LTE網に障害が発生し、音声・データ通信ともに圏外になる、もしくはつながりにくい状態が長時間続き、大きな話題になっていた。

通信障害は12月6日の13時39分頃発生し、その後同日18時4分頃まで、4時間25分に及び、約3060万人の利用者に影響を及ぼした (ソフトバンク ニュースリリース)

総務省は今回、同社の代表取締役取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏宛に「電気通信事故に関する適切な対応及び報告について」と題した文書を提出。

ソフトバンクの宮内謙代表

文書では、ソフトバンクが2018年中に同件を含めて3回の重大事故を発生させていることを挙げ、「このような事故の発生は利用者の利益を大きく阻害するもの」とし、社内外の連携体制の改善や利用者への周知内容・周知方法の改善、通信業界内での教訓の共有等の実施を勧告。さらに、それぞれの具体的措置の内容を2月末までにまとめ、報告するよう義務付けた。

携帯電話は、通話やメッセージのやり取りはもちろん、決済サービスや災害時の情報収集ツールとして、今や国民のライフラインになっている。

総務省は同文書で「事故における教訓を業界全体で共有することが重要である」ともしており、今後の再発防止策等の詳細について、ほかの携帯電話事業者に説明し、情報共有する機会を設けることも求めた。

昨年末に鳴り物入りで上場したが、なかなか株価が振るわないソフトバンク。その背景には、通信障害や「PayPay」のクレジットカードの不正利用、さらには同社が通信設備を使用している中国・ファーウェイの米中対立やCFOの逮捕などの問題などが影響していることだろう。

ソフトバンクグループは昨年11月に行われた2018年度第2四半期決算説明会で、「RPA(Robotic Process Automation)の導入により通信事業の人員を削減し、新規事業に力を入れていく」としていたが、新規事業の前に、まずは逆風吹く通信事業の早急な立て直しが求められている。