【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

2017.03.07

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

 日立物流<9086>がM&Aを駆使してグローバルな総合物流会社へと変身を遂げている。日立製作所の物流子会社というのは、もはや過去の話。企業の物流業務を包括的に受託する3PL事業を伸ばし、大手企業の物流子会社を次々と買収しつつ、クロスボーダーのM&Aにも取り組む。2016年3月には佐川急便との資本業務提携を発表し、将来の経営統合も視野に入れる。実現すれば売り上げ規模で国内2位の物流グループが誕生することになる。

【企業概要】物流業務の包括受託サービス

 日立物流グループは、日立物流と連結子会社108社、持分法適用関連会社9社で構成され、顧客に対して、陸、海、空を網羅した総合的な物流サービスを提供している。1950年に日立製作所の輸送部門を請け負う物流子会社として創業、日立製作所の工場構内作業の一括受注、国内外における超重量物の輸送を引き受けるなどして業容を拡大した。また、物流情報システムの構築に早期に取り組み、企業の物流業務を包括的に受託するサービス(サード・パーティー・ロジスティクス 以下「3PL」という)を充実させ、日立グループ以外の顧客からの実績を拡大させている。

 2016年3月期の売上収益は6803億円。国内物流会社としては、日本郵便、日本郵船、日本通運、商船三井、ヤマトホールディングス、川崎汽船、SGホールディングスに次ぐ8位の売上高である。物流会社の中でも陸運・倉庫業者に絞ると5位の売上高である。

 日立物流のセグメントは、国内物流、国際物流、その他に分類され、2016年3月期の売上高では、国内物流4050億円、国際物流が2531億円、その他が221億円となっている。

 なお、2016年3月期の日立製作所からの運送、作業受託取引は83億円となっており、全体に占める割合は1.2%と大幅に低下している。

【経営陣】生え抜き人材が経営を支える

 日立物流は、経営監督機能と業務執行機能を分離する指名委員会等設置会社形態を採用している。執行役及び執行役会が業務執行を、取締役及び取締役会が経営監督機能を担う。

 代表執行役の中谷康夫氏は、1978年入社で取締役を兼任している。執行役専務の神宮司孝氏は79年入社で同じく取締役を兼任している。両名とも日立物流生え抜きの人材で日立物流を支えている。一方で、執行役専務の飯田氏をはじめ、執行役、取締役の一部は日立製作所出身者であり、日立製作所との関係性が伺える。

【株主構成】日立製作所、SGHDが3割弱保有

日立物流の上位株主
株主名称 保有株式数(千株) 持ち株比率(%)
日立製作所 33,472 29.95
SGホールディングス 32,350 28.94
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 5,630 5.04
全国共済農業協同組合連合会 2,794 2.5
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 2,489 2.23
ジェーピーモルガンチェースバンク380684 1,907 1.71
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口9) 1,736 1.55
日立物流社員持株会 1,445 1.29
CBNY GOVERNMENT OF NORWAY 1,321 1.18
ジェーピーモルガンチェースバンク385166 1,048 0.94
84,190 75.33
2016年9月末時点、四半期報告書に基づき作成

 日立製作所の物流子会社として設立され、1989年に東証二部に、1990年に東証一部に上場した後も、日立製作所の子会社として企業統治がなされていた。

 流れが大きく変わったのが2016年。2016年3月に日立物流は、SGホールディングス及びグループの佐川急便との資本業務提携契約を締結。この提携により、日立製作所が所有する日立物流の株式59.02%のうち29.01%をSGホールディングスに譲渡している。2016年9月末時点で第1位の株主は29.95%で変わらず日立製作所であるが、SGホールディングスが28.94%を所有し第2位の株主となった。現在、両社の持分法適用会社となっている。

 「" ロジスティクス事業 "と" デリバリー事業 "の融合」をテーマに掲げ、双方の3PL事業における強み、豊富なノウハウや顧客基盤、佐川急便の輸配送能力、日立物流のロジスティクス・テクノロジーを最大限に活用していく。これらにより、3PLとデリバリーがシームレスにつながる総合物流の提供が可能となり、「世界に挑戦する物流企業」として、企業価値の最大化を図ることのみならず、物流業界が担う社会的な使命に応えていけるとした。

 これにより両社を合算した売上規模ではヤマトホールディングスを抜き、首位の日本通運に続く2位グループが誕生することとなる。経営陣が統合に向けた意気込みがあると公言しており、今後、いつ具体的な取り組みが開始されるのか注目したい。

【M&A戦略】国内外の物流会社を次々と買収

日立物流の主なM&A
発表年月       内容
2005年7月 カーオーディオ大手クラリオンの子会社であるクラリオン・エム・アンド・エルの物流部門事業を譲受ける。
2006年12月 資生堂から物流子会社である資生堂物流サービス(売上高183億円)を28億円で譲受ける(90%)。
2007年10月 東欧チェコの物流会社であるESA s.r.o(売上高130億円)に資本参加することで合意(51%)。
2007年12月 東北地区を中心に物流事業を展開しているセンコン物流(売上高126億円)と業務提携し、資本参加(8.8%)。
2008年11月 中国における物流事業を一層強化するため、中国内陸部の中心都市である河南省鄭州市において河南省豫鑫物流股份有限公司と鄭州新和華科貿有限公司の3社で合弁会社を設立する(51%)。社名は河南新鑫日立物流有限公司、資本金は1000万元。
2008年12月 トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行うスミダロジネットの事業を譲受ける。
2009年5月 オフィス家具什器大手の内田洋行の東日本エリアの物流子会社であるオリエント・ロジの株式を一部譲受ける(86%)。
2009年10月 米国インディアナ州の物流会社である J.P.Holding Company,Inc.(売上高100億円)の株式を譲受することで合意(51%)。
2010年5月 インドの大手フォワーディング会社である Flyjac logistics Pvt. Ltd. (売上高73億円)
の全株式を譲受することで基本合意
2010年10月 インキ等の化学業界大手のDICと、その物流子会社であるDICロジテック(売上高177億円)の株式を譲り受けることで合意(90%)。
2010年11月 DCMホールディングスの連結子会社でホームセンター事業を展開しているホーマックの物流子会社であるダイレックスの株式を譲り受ける(90%)。
2010年11月 上海航空股份有限公司、香港正大企業船務有限公司との合弁会社である大航国際貨運有限公司(売上高64億円)について、上航航空が保有する 55%の株式を日立物流が取得し、日立物流の子会社とする(30%→85%)。
2011年4月 バンテック(売上高1136億円)の普通株式及び新株予約権を公開買付けにより取得(84.75%)。取得価額は489億円。
2011年4月 子会社である Hitachi Transport System (Asia)Pte.Ltd. と Hitachi Transport System (Thailand),Ltd. が、タイの証券取引所に上場している Eternity Grand Logistics Public Company Limited(売上高27億円)の株式を、大株主との相対取引及びタイ証券取引所での公開買付けにより取得する(100%)。
2011年8月 麺類メーカー大手のシマダヤの連結子会社であるシマダヤ運輸(売上高3億円)の全株式を譲り受け。
2011年11月 印刷インキ、有機顔料、合成樹脂等の化学業界大手の DIC の連結子会社で物流業を行っている DIC 通運有限公司(売上高1.5億円)の株式 41.86%を、日立物流の連結子会社である日立物流ファインネクストが譲り受け、90%保有することで合意。
2012年8月 日立電線の物流業務を行う連結子会社である日立電線ロジテック(売上高141億円)の全株式を譲り受けることで合意(100%)。
2013年5月 米国の物流会社である James J.Boyle & Co.(売上高100億円)の株式を 87%譲受けること、子会社である JJB Link Logistics Co.Limitedの株式を約 23%譲受けることについて合意。
2013年6月 香港の物流会社である CDS FREIGHT HOLDING LTD(売上高140億円)の株式を 85%譲受けることについて合意
2013年7月 トルコの物流会社である Mars Logistics Group (売上高200億円)の株式 51%を譲受ける
2016年3月 SGホールディングス及び佐川急便と戦略的資本業務提携を行う。日立物流が佐川急便の20%の株式を663億円で取得、SGホールディングスが日立物流の29%の株式を日立製作所より875億円で取得。これにより、日立製作所の所有割合は59.02%から30.01%となっている。

 日立物流が過去に実施した主なM&Aの特徴は、①国内における物流子会社の買収と②クロスボーダーM&Aである。

①国内物流子会社買収 顧客と人材を確保

 日立製作所の物流子会社として、日立製作所から安定した業務収入があるものの、日立製作所の業績に左右されることや、業績の拡大や経営改革が進まないといった課題もあった。この課題を解決するために、日立製作所の物流業務の一括受注で培った3PLのノウハウを活かして、日立製作所以外の業務の受注を進めていく。その拡大方針に沿った形でM&Aも位置付けられた。特に、日立物流と同じ境遇、すなわち物流子会社のM&Aを重ねていく。

 物流子会社のM&Aは、日立物流のノウハウが最も活かせるM&Aである。外部の仕事を競合他社から奪い取るには時間と労力が必要となる。既に業務を行っている競合他社は、蓄積された顧客情報や独自のノウハウに基づきサービスを提供することで顧客から信頼を得ており、競合他社を上回るソリューションを提案するのは容易ではない。この点、M&Aを行う事で、顧客とともに、その顧客にフィットしたノウハウや人材を確保することができ、スピード感をもって業績の拡大を行う事が可能となる。

 国内における物流子会社の買収の中では、2011年4月のバンテックの買収が特徴的である。バンテックは、自動車部品輸送を中心としたロジスティクスと航空・海上フォワーディングの二つを事業の柱とする総合物流会社である。1954年に日産自動車の物流子会社として設立され、2001年にMBOにより日産自動車から独立した経緯のある会社と、1976年東京急行の子会社として設立され、2004年に同じくMBOで独立した経緯のある会社が2005年に統合した誕生した。2007年9月に東証1部に上場しており、2010年3月期の売上高が1,131億円であった。買収は公開買い付けにより行われ、84.75%を取得、買収価額は489億円となった。

 日立物流の2011年3月期の売上高が3687億円であったのに対して、当時の経営目標は2012年度に連結売上高5000億円、バンテックの買収がなければ、達成はまず難しかったであろう。2010年9月頃より、交渉が進められていたようであるが、日立物流としては必ず成約させなければいけない案件であったに違いない。

 その後、バンテックは完全子会社化されるとともに、日立物流グループ内においてフォワーディング事業を分割により統合するなどの変遷を経て、現在においても、日立物流グループにおける重要な子会社として位置づけられている。

 バンテックの買収以外では、2005年にカーオーディオ大手クラリオンのグループの物流部門、2006年に資生堂の物流子会社(売上高183億円)、トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行う物流子会社、2009年オフィス家具什器大手の株式会社内田洋行の東日本エリアの物流子会社、2010年インキ等の化学業界大手のDIC株式会社の物流子会社(売上高177億円)、2011年に麺類メーカー大手のシマダヤの物流子会社 (売上高3億円)、2012年日立電線の物流子会社(売上高141億円)と次々と買収を進めている。これらの親会社の業務が獲得できている事は容易に想像できる。日立物流の3PLのノウハウを活かしシナジー効果を発揮できる案件をターゲットにする姿勢が明確だ。

②クロスボーダーM&A 売上高770億円上積み

 日立物流のM&Aのもう一つの特徴は、クロスボーダーM&Aである。海外の物流業務は、それぞれの国の法令や商慣習、顧客の要求が国内と相違しており、また、現地の物流会社や国際大手物流会社との競争環境があり、国内の物流業務と比較して更に業容の拡大が難しい。

 ただ一方で、少子高齢化や競争環境、ドライバー不足等、国内における物流業界は課題が山積しており、物流業界の将来性には疑問が残るといわざるをえない。国内の物流会社は、持続的成長のために海外に目を向ける必要がある。また、国内の顧客企業においても、持続的成長のために海外展開を加速させており、国内顧客の期待に応えるサービスを提供するためにも、海外物流網を構築することが重要課題である。この点、日立物流は、M&Aを効果的に活用し、海外の業容を拡大させている。

 また、各案件は、それぞれバンテックの買収ほど、売上高へのインパクトはないものの、国内における物流子会社の買収と同じように、クロスボーダーM&Aもコンスタントに実施しており、全体としては売上高の増加に大きく貢献している。

 2007年にチェコの物流会社(売上高130億円)の買収、2008年には中国で合弁企業の設立(のちに子会社化)、2009年に米国の物流会社(売上高100億円)の買収、2010年にインドの大手フォワーディング会社(売上高73億円)の買収、2011年にタイの物流会社(売上高27億円)の買収、2013年5月に米国の物流会社(売上高100億円)、2013年6月に香港の物流会社(売上高140億円)、2013年7月にトルコの物流会社(売上高200億円)と手を打ち続けている。これらの会社のM&A実施時の売上高を単純に合計すると770億円となり、日立物流の売上高の成長に寄与している。

【財務分析】バンテック買収で売り上げ伸長

 日立物流のセグメントは前述のとおり、国内物流、国際物流、その他に分類される。図1が、現在のセグメントとなった2003年3月期以降のセグメント別売上推移である。全体の売上高は、2003年3月期で2489億円、2016年3月期で6520億円と2.6倍となっている。

図1

 初めに着目すべきは、バンテックを買収した影響が大きい2012年3月期である。国内物流セグメントで売上高が2568億円から3864億円と50%増加、国際物流セグメントで売上高が931億円から1486億円に60%増加している。国内物流セグメント、国際物流セグメントとも重要なターニングポイントとなったM&Aである。

 また、もう一つ着目すべきは、国際物流セグメントである。2003年3月期で517億円であった売上高は2016年3月期で2531億円と約5倍に成長している。これも、バンテックの買収とその他のクロスボーダーM&Aの影響が強い。

図2

 図2は、日立物流の「のれん」を含む無形資産と総資産、純資産との割合の推移である。数値の入手できる2008年3月期以降を抽出している。日立物流の「のれん」は2016年3月期で295億円、その他の無形資産が390億円で合計685億円となっている。総資産4643億円、純資産2022億円と比較すると、総資産に対して14.8%、純資産に対して33.9%の水準だ。

 M&Aを積極的に展開している会社の特徴は、総資産や純資産に対して「のれん」を含む無形資産の割合が高いことである。日立物流においては、2011年3月期まで低水準であった割合が、バンテックの買収により、高まっている。2011年3月期の「のれん」を含む無形(固定)資産は186億円であったが、2012年3月期には627億円と3.3倍に増加した。総資産、純資産に対する割合も、2011年3月期に総資産に対して7.5%、純資産に対して12.3%であった数値が2012年3月期には総資産に対して17.2%、純資産に対して38.1%に上昇している。

 また、2015年3月期より会計基準を日本基準より国際会計基準に変更している。国際会計基準は、日本基準と違い「のれん」を償却しない。M&Aにより計上された「のれん」の償却負担が生じないことから、M&A直後から利益を計上しやすくなる。M&Aを積極的に展開している日本企業が採用する傾向にある。過年度より積極的にM&Aを展開してきた日立物流であったが、今後も、M&Aに積極的な姿勢であることが想定される。

【株価】日立の株売却をこなし上昇

 株価はアップダウンを繰り返しながらも上昇基調で推移している。2016年3月の佐川急便との資本業務提携で、長らく親会社だった日立製作所が株式を一部譲渡するとあって、当初は先行きを不安視する売りが出たもよう。しかし、その後は中長期的な物流需要の拡大や提携効果の実現への期待感が高まり、株価は2016年末に2400円台まで上昇している。

 今期の予想PER(株価収益率)は約14倍。同業の日本通運<9062>の約16倍と比べて株価には割安感もある。今後も堅調な値動きが期待される。

【まとめ】明確な戦略、M&Aで持続的成長 

 日立物流は、日立製作所以外の業務の受注を目指してM&Aを積極的に行ってきた。結果として、現在、日立製作所に対する受注の割合は低下し、日立製作所以外の受注の増加により売上が大幅に増加、企業の持続的成長を果たしている。M&A戦略が成功しているといえる。特に、日立物流としてシナジー効果を発揮できる物流子会社のM&Aを数多くターゲットとしており、明確な戦略に基づきM&Aを実施している会社といえる。

 また、将来的に国内市場が縮小されると予想される物流業界において、海外展開の手段としてクロスボーダーM&Aを積極的に展開する日立物流に見習う点は多い。

 また、2016年3月期のSGホールディングス、佐川急便との資本業務提携は、現状、期待通りで、良いスタートが切れてきているようだ。プロジェクトメンバーが活発で、現場でのコミュニケーションが進んでいる。「日中一貫サービス」や「物流施設の相互活用」等の協創の具体的な案件が現場レベルから提案されている。日立物流としての当面の増収目標は500億円としているが、当然、将来的な統合に向けた具体的な取り組みにも期待したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。