【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

2017.03.07

【日立物流】M&Aで「親離れ」加速 物流子会社を次々買収 佐川急便との統合も視野

 日立物流<9086>がM&Aを駆使してグローバルな総合物流会社へと変身を遂げている。日立製作所の物流子会社というのは、もはや過去の話。企業の物流業務を包括的に受託する3PL事業を伸ばし、大手企業の物流子会社を次々と買収しつつ、クロスボーダーのM&Aにも取り組む。2016年3月には佐川急便との資本業務提携を発表し、将来の経営統合も視野に入れる。実現すれば売り上げ規模で国内2位の物流グループが誕生することになる。

【企業概要】物流業務の包括受託サービス

 日立物流グループは、日立物流と連結子会社108社、持分法適用関連会社9社で構成され、顧客に対して、陸、海、空を網羅した総合的な物流サービスを提供している。1950年に日立製作所の輸送部門を請け負う物流子会社として創業、日立製作所の工場構内作業の一括受注、国内外における超重量物の輸送を引き受けるなどして業容を拡大した。また、物流情報システムの構築に早期に取り組み、企業の物流業務を包括的に受託するサービス(サード・パーティー・ロジスティクス 以下「3PL」という)を充実させ、日立グループ以外の顧客からの実績を拡大させている。

 2016年3月期の売上収益は6803億円。国内物流会社としては、日本郵便、日本郵船、日本通運、商船三井、ヤマトホールディングス、川崎汽船、SGホールディングスに次ぐ8位の売上高である。物流会社の中でも陸運・倉庫業者に絞ると5位の売上高である。

 日立物流のセグメントは、国内物流、国際物流、その他に分類され、2016年3月期の売上高では、国内物流4050億円、国際物流が2531億円、その他が221億円となっている。

 なお、2016年3月期の日立製作所からの運送、作業受託取引は83億円となっており、全体に占める割合は1.2%と大幅に低下している。

【経営陣】生え抜き人材が経営を支える

 日立物流は、経営監督機能と業務執行機能を分離する指名委員会等設置会社形態を採用している。執行役及び執行役会が業務執行を、取締役及び取締役会が経営監督機能を担う。

 代表執行役の中谷康夫氏は、1978年入社で取締役を兼任している。執行役専務の神宮司孝氏は79年入社で同じく取締役を兼任している。両名とも日立物流生え抜きの人材で日立物流を支えている。一方で、執行役専務の飯田氏をはじめ、執行役、取締役の一部は日立製作所出身者であり、日立製作所との関係性が伺える。

【株主構成】日立製作所、SGHDが3割弱保有

日立物流の上位株主
株主名称 保有株式数(千株) 持ち株比率(%)
日立製作所 33,472 29.95
SGホールディングス 32,350 28.94
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 5,630 5.04
全国共済農業協同組合連合会 2,794 2.5
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 2,489 2.23
ジェーピーモルガンチェースバンク380684 1,907 1.71
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口9) 1,736 1.55
日立物流社員持株会 1,445 1.29
CBNY GOVERNMENT OF NORWAY 1,321 1.18
ジェーピーモルガンチェースバンク385166 1,048 0.94
84,190 75.33
2016年9月末時点、四半期報告書に基づき作成

 日立製作所の物流子会社として設立され、1989年に東証二部に、1990年に東証一部に上場した後も、日立製作所の子会社として企業統治がなされていた。

 流れが大きく変わったのが2016年。2016年3月に日立物流は、SGホールディングス及びグループの佐川急便との資本業務提携契約を締結。この提携により、日立製作所が所有する日立物流の株式59.02%のうち29.01%をSGホールディングスに譲渡している。2016年9月末時点で第1位の株主は29.95%で変わらず日立製作所であるが、SGホールディングスが28.94%を所有し第2位の株主となった。現在、両社の持分法適用会社となっている。

 「" ロジスティクス事業 "と" デリバリー事業 "の融合」をテーマに掲げ、双方の3PL事業における強み、豊富なノウハウや顧客基盤、佐川急便の輸配送能力、日立物流のロジスティクス・テクノロジーを最大限に活用していく。これらにより、3PLとデリバリーがシームレスにつながる総合物流の提供が可能となり、「世界に挑戦する物流企業」として、企業価値の最大化を図ることのみならず、物流業界が担う社会的な使命に応えていけるとした。

 これにより両社を合算した売上規模ではヤマトホールディングスを抜き、首位の日本通運に続く2位グループが誕生することとなる。経営陣が統合に向けた意気込みがあると公言しており、今後、いつ具体的な取り組みが開始されるのか注目したい。

【M&A戦略】国内外の物流会社を次々と買収

日立物流の主なM&A
発表年月       内容
2005年7月 カーオーディオ大手クラリオンの子会社であるクラリオン・エム・アンド・エルの物流部門事業を譲受ける。
2006年12月 資生堂から物流子会社である資生堂物流サービス(売上高183億円)を28億円で譲受ける(90%)。
2007年10月 東欧チェコの物流会社であるESA s.r.o(売上高130億円)に資本参加することで合意(51%)。
2007年12月 東北地区を中心に物流事業を展開しているセンコン物流(売上高126億円)と業務提携し、資本参加(8.8%)。
2008年11月 中国における物流事業を一層強化するため、中国内陸部の中心都市である河南省鄭州市において河南省豫鑫物流股份有限公司と鄭州新和華科貿有限公司の3社で合弁会社を設立する(51%)。社名は河南新鑫日立物流有限公司、資本金は1000万元。
2008年12月 トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行うスミダロジネットの事業を譲受ける。
2009年5月 オフィス家具什器大手の内田洋行の東日本エリアの物流子会社であるオリエント・ロジの株式を一部譲受ける(86%)。
2009年10月 米国インディアナ州の物流会社である J.P.Holding Company,Inc.(売上高100億円)の株式を譲受することで合意(51%)。
2010年5月 インドの大手フォワーディング会社である Flyjac logistics Pvt. Ltd. (売上高73億円)
の全株式を譲受することで基本合意
2010年10月 インキ等の化学業界大手のDICと、その物流子会社であるDICロジテック(売上高177億円)の株式を譲り受けることで合意(90%)。
2010年11月 DCMホールディングスの連結子会社でホームセンター事業を展開しているホーマックの物流子会社であるダイレックスの株式を譲り受ける(90%)。
2010年11月 上海航空股份有限公司、香港正大企業船務有限公司との合弁会社である大航国際貨運有限公司(売上高64億円)について、上航航空が保有する 55%の株式を日立物流が取得し、日立物流の子会社とする(30%→85%)。
2011年4月 バンテック(売上高1136億円)の普通株式及び新株予約権を公開買付けにより取得(84.75%)。取得価額は489億円。
2011年4月 子会社である Hitachi Transport System (Asia)Pte.Ltd. と Hitachi Transport System (Thailand),Ltd. が、タイの証券取引所に上場している Eternity Grand Logistics Public Company Limited(売上高27億円)の株式を、大株主との相対取引及びタイ証券取引所での公開買付けにより取得する(100%)。
2011年8月 麺類メーカー大手のシマダヤの連結子会社であるシマダヤ運輸(売上高3億円)の全株式を譲り受け。
2011年11月 印刷インキ、有機顔料、合成樹脂等の化学業界大手の DIC の連結子会社で物流業を行っている DIC 通運有限公司(売上高1.5億円)の株式 41.86%を、日立物流の連結子会社である日立物流ファインネクストが譲り受け、90%保有することで合意。
2012年8月 日立電線の物流業務を行う連結子会社である日立電線ロジテック(売上高141億円)の全株式を譲り受けることで合意(100%)。
2013年5月 米国の物流会社である James J.Boyle & Co.(売上高100億円)の株式を 87%譲受けること、子会社である JJB Link Logistics Co.Limitedの株式を約 23%譲受けることについて合意。
2013年6月 香港の物流会社である CDS FREIGHT HOLDING LTD(売上高140億円)の株式を 85%譲受けることについて合意
2013年7月 トルコの物流会社である Mars Logistics Group (売上高200億円)の株式 51%を譲受ける
2016年3月 SGホールディングス及び佐川急便と戦略的資本業務提携を行う。日立物流が佐川急便の20%の株式を663億円で取得、SGホールディングスが日立物流の29%の株式を日立製作所より875億円で取得。これにより、日立製作所の所有割合は59.02%から30.01%となっている。

 日立物流が過去に実施した主なM&Aの特徴は、①国内における物流子会社の買収と②クロスボーダーM&Aである。

①国内物流子会社買収 顧客と人材を確保

 日立製作所の物流子会社として、日立製作所から安定した業務収入があるものの、日立製作所の業績に左右されることや、業績の拡大や経営改革が進まないといった課題もあった。この課題を解決するために、日立製作所の物流業務の一括受注で培った3PLのノウハウを活かして、日立製作所以外の業務の受注を進めていく。その拡大方針に沿った形でM&Aも位置付けられた。特に、日立物流と同じ境遇、すなわち物流子会社のM&Aを重ねていく。

 物流子会社のM&Aは、日立物流のノウハウが最も活かせるM&Aである。外部の仕事を競合他社から奪い取るには時間と労力が必要となる。既に業務を行っている競合他社は、蓄積された顧客情報や独自のノウハウに基づきサービスを提供することで顧客から信頼を得ており、競合他社を上回るソリューションを提案するのは容易ではない。この点、M&Aを行う事で、顧客とともに、その顧客にフィットしたノウハウや人材を確保することができ、スピード感をもって業績の拡大を行う事が可能となる。

 国内における物流子会社の買収の中では、2011年4月のバンテックの買収が特徴的である。バンテックは、自動車部品輸送を中心としたロジスティクスと航空・海上フォワーディングの二つを事業の柱とする総合物流会社である。1954年に日産自動車の物流子会社として設立され、2001年にMBOにより日産自動車から独立した経緯のある会社と、1976年東京急行の子会社として設立され、2004年に同じくMBOで独立した経緯のある会社が2005年に統合した誕生した。2007年9月に東証1部に上場しており、2010年3月期の売上高が1,131億円であった。買収は公開買い付けにより行われ、84.75%を取得、買収価額は489億円となった。

 日立物流の2011年3月期の売上高が3687億円であったのに対して、当時の経営目標は2012年度に連結売上高5000億円、バンテックの買収がなければ、達成はまず難しかったであろう。2010年9月頃より、交渉が進められていたようであるが、日立物流としては必ず成約させなければいけない案件であったに違いない。

 その後、バンテックは完全子会社化されるとともに、日立物流グループ内においてフォワーディング事業を分割により統合するなどの変遷を経て、現在においても、日立物流グループにおける重要な子会社として位置づけられている。

 バンテックの買収以外では、2005年にカーオーディオ大手クラリオンのグループの物流部門、2006年に資生堂の物流子会社(売上高183億円)、トークツ・グループの物流子会社でシューズ配送を中心に事業運営を行う物流子会社、2009年オフィス家具什器大手の株式会社内田洋行の東日本エリアの物流子会社、2010年インキ等の化学業界大手のDIC株式会社の物流子会社(売上高177億円)、2011年に麺類メーカー大手のシマダヤの物流子会社 (売上高3億円)、2012年日立電線の物流子会社(売上高141億円)と次々と買収を進めている。これらの親会社の業務が獲得できている事は容易に想像できる。日立物流の3PLのノウハウを活かしシナジー効果を発揮できる案件をターゲットにする姿勢が明確だ。

②クロスボーダーM&A 売上高770億円上積み

 日立物流のM&Aのもう一つの特徴は、クロスボーダーM&Aである。海外の物流業務は、それぞれの国の法令や商慣習、顧客の要求が国内と相違しており、また、現地の物流会社や国際大手物流会社との競争環境があり、国内の物流業務と比較して更に業容の拡大が難しい。

 ただ一方で、少子高齢化や競争環境、ドライバー不足等、国内における物流業界は課題が山積しており、物流業界の将来性には疑問が残るといわざるをえない。国内の物流会社は、持続的成長のために海外に目を向ける必要がある。また、国内の顧客企業においても、持続的成長のために海外展開を加速させており、国内顧客の期待に応えるサービスを提供するためにも、海外物流網を構築することが重要課題である。この点、日立物流は、M&Aを効果的に活用し、海外の業容を拡大させている。

 また、各案件は、それぞれバンテックの買収ほど、売上高へのインパクトはないものの、国内における物流子会社の買収と同じように、クロスボーダーM&Aもコンスタントに実施しており、全体としては売上高の増加に大きく貢献している。

 2007年にチェコの物流会社(売上高130億円)の買収、2008年には中国で合弁企業の設立(のちに子会社化)、2009年に米国の物流会社(売上高100億円)の買収、2010年にインドの大手フォワーディング会社(売上高73億円)の買収、2011年にタイの物流会社(売上高27億円)の買収、2013年5月に米国の物流会社(売上高100億円)、2013年6月に香港の物流会社(売上高140億円)、2013年7月にトルコの物流会社(売上高200億円)と手を打ち続けている。これらの会社のM&A実施時の売上高を単純に合計すると770億円となり、日立物流の売上高の成長に寄与している。

【財務分析】バンテック買収で売り上げ伸長

 日立物流のセグメントは前述のとおり、国内物流、国際物流、その他に分類される。図1が、現在のセグメントとなった2003年3月期以降のセグメント別売上推移である。全体の売上高は、2003年3月期で2489億円、2016年3月期で6520億円と2.6倍となっている。

図1

 初めに着目すべきは、バンテックを買収した影響が大きい2012年3月期である。国内物流セグメントで売上高が2568億円から3864億円と50%増加、国際物流セグメントで売上高が931億円から1486億円に60%増加している。国内物流セグメント、国際物流セグメントとも重要なターニングポイントとなったM&Aである。

 また、もう一つ着目すべきは、国際物流セグメントである。2003年3月期で517億円であった売上高は2016年3月期で2531億円と約5倍に成長している。これも、バンテックの買収とその他のクロスボーダーM&Aの影響が強い。

図2

 図2は、日立物流の「のれん」を含む無形資産と総資産、純資産との割合の推移である。数値の入手できる2008年3月期以降を抽出している。日立物流の「のれん」は2016年3月期で295億円、その他の無形資産が390億円で合計685億円となっている。総資産4643億円、純資産2022億円と比較すると、総資産に対して14.8%、純資産に対して33.9%の水準だ。

 M&Aを積極的に展開している会社の特徴は、総資産や純資産に対して「のれん」を含む無形資産の割合が高いことである。日立物流においては、2011年3月期まで低水準であった割合が、バンテックの買収により、高まっている。2011年3月期の「のれん」を含む無形(固定)資産は186億円であったが、2012年3月期には627億円と3.3倍に増加した。総資産、純資産に対する割合も、2011年3月期に総資産に対して7.5%、純資産に対して12.3%であった数値が2012年3月期には総資産に対して17.2%、純資産に対して38.1%に上昇している。

 また、2015年3月期より会計基準を日本基準より国際会計基準に変更している。国際会計基準は、日本基準と違い「のれん」を償却しない。M&Aにより計上された「のれん」の償却負担が生じないことから、M&A直後から利益を計上しやすくなる。M&Aを積極的に展開している日本企業が採用する傾向にある。過年度より積極的にM&Aを展開してきた日立物流であったが、今後も、M&Aに積極的な姿勢であることが想定される。

【株価】日立の株売却をこなし上昇

 株価はアップダウンを繰り返しながらも上昇基調で推移している。2016年3月の佐川急便との資本業務提携で、長らく親会社だった日立製作所が株式を一部譲渡するとあって、当初は先行きを不安視する売りが出たもよう。しかし、その後は中長期的な物流需要の拡大や提携効果の実現への期待感が高まり、株価は2016年末に2400円台まで上昇している。

 今期の予想PER(株価収益率)は約14倍。同業の日本通運<9062>の約16倍と比べて株価には割安感もある。今後も堅調な値動きが期待される。

【まとめ】明確な戦略、M&Aで持続的成長 

 日立物流は、日立製作所以外の業務の受注を目指してM&Aを積極的に行ってきた。結果として、現在、日立製作所に対する受注の割合は低下し、日立製作所以外の受注の増加により売上が大幅に増加、企業の持続的成長を果たしている。M&A戦略が成功しているといえる。特に、日立物流としてシナジー効果を発揮できる物流子会社のM&Aを数多くターゲットとしており、明確な戦略に基づきM&Aを実施している会社といえる。

 また、将来的に国内市場が縮小されると予想される物流業界において、海外展開の手段としてクロスボーダーM&Aを積極的に展開する日立物流に見習う点は多い。

 また、2016年3月期のSGホールディングス、佐川急便との資本業務提携は、現状、期待通りで、良いスタートが切れてきているようだ。プロジェクトメンバーが活発で、現場でのコミュニケーションが進んでいる。「日中一貫サービス」や「物流施設の相互活用」等の協創の具体的な案件が現場レベルから提案されている。日立物流としての当面の増収目標は500億円としているが、当然、将来的な統合に向けた具体的な取り組みにも期待したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

ポルシェの次に買うクルマ? 安東弘樹、ルノー「メガーヌ R.S.」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第18回

ポルシェの次に買うクルマ? 安東弘樹、ルノー「メガーヌ R.S.」に乗る!

2019.03.27

ルノーの5ドアハッチバック「メガーヌ R.S.」に試乗

やっぱりMT車が好き! 高性能モデルの登場に高まる期待

もしも(好きなように)クルマが買えたなら…安東さんの人生設計

安東弘樹さんに同行した日本自動車輸入組合(JAIA)試乗会も、いよいよ最後の1台となった。残すはルノーの「メガーヌ R.S.」だ。愛車のポルシェ「911 カレラ 4S」から乗り換える候補の1台として、「ある程度は本気で」購入を検討しているというこのクルマを、安東さんはどう評価するのか。

MT車の日本導入を待って購入を検討?

「メガーヌ R.S.」は5ドアハッチバック「メガーヌ」の高性能モデル。「R.S.」はルノーのモータースポーツ活動を担う「ルノー・スポール」の頭文字だ。このクルマについては以前、モータージャーナリストの塩見智さんに試乗してもらったので、詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい。

「メガーヌ R.S.」に乗り込んだ安東さん

安東さん(以下、安):(乗り込んですぐ)ドアヒンジは多くの日本車と同じでプレスですね、開ける時に軽い感じがします()。(しばらく走って、高速道路に入りつつ)さすがはFF(前輪駆動車)、急加速すると暴れますね(笑)。

【編集部注】ドアヒンジとはドアとクルマをくっつけている部品のこと。ここの作りによってドア開閉時の重厚感、ひいてはクルマの上質感に差が出ると安東さんは語る。細かいポイントのようだが、ドアヒンジについてはマツダミニの取材でも話題になった。

編集部(以下、編):今回、メガーヌ R.S.に試乗してみたいと思ったのはなぜですか?

:すごく気になっていたクルマなのですが、まだ乗ったことがなかったので、どうしても今回、運転してみたかったんです。今回のクルマはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)ですが、MT(マニュアルトランスミッション)車を今、待っている状態です。ただ、急加速した時の“暴れん坊感”を体験してみて、いくら電子的に制御しても、FFには限界があるなとも感じました。じゃじゃ馬を乗りこなす、というところにカタルシスを感じる人もいるとは思いますけど。

「メガーヌ R.S.」のボディサイズは全長4,410mm、全幅1,875mm、全高1,435mm。価格は440万円だ

:MTだったら欲しいクルマですか?

:はい。もうすぐ、MTが日本に導入されるらしいのですが、欲をいえば、「メガーヌ R.S. トロフィー」というグレードを待ちたいです。R.S.は279馬力ですが、トロフィーは300馬力なんで。

:「待ちたい」っていうのは、真剣に購入を検討していて、待ち構えているという感じですか?

:うーん、ある程度は本気で考えているっていう感じでしょうか(笑)。次もポルシェ「911 カレラ 4S」に乗るのが理想ではあるんですけど、それこそ、私の稼ぎ次第というか、買えない可能性もあるので……。今の911は、乗り始めてから10年になりますし、乗り換えたいタイミングではあります。

:その乗り換え候補の1つが、「メガーヌ R.S. トロフィー」だというわけですね。ただ、素人なので分からないんですけど、最近の安東さんの露出ぶりを見ている限り、次もポルシェで大丈夫なんじゃないですか?

:どうでしょうねー、想像もできません(笑)。今回の確定申告で、どのくらいの税金を払わなきゃいけないのかにもよりますし。フリーになって初めての確定申告なので、正直、怖いです。

:この間の「バラいろダンディ」(TOKYO MXで放送中のテレビ番組、安東さんは火曜レギュラー)で、「これから、税理士さんと話をする」っておっしゃってましたもんね(笑)

:いくらくらいの税金になるのか、それによっても変わってきます。ただ、フリーランスになってもうすぐ1年経ちますが、この収入では、新しい911には手が届きません(笑)

:本当ですか?

:今の911と同じように長期ローンを組めば、あるいは……。とは思いたいですが、新しい「911 カレラ 4S」を自分が乗りたい仕様で買うと、税金なども含めた乗り出し価格が2,200万円弱になってしまいます。日々忙しいのですが、薄利多売でやっているので、くどいようですが、本当に現状、購入は難しいです(苦笑)

1台はスポーツカーを所有しておきたいという安東さんだが、次に何を買うのかは将来の収入次第だそう。「メガーヌ R.S.」もMT車が気に入れば候補に入るようだ

:(メガーヌの走行モードを変更して)「レースモード」に設定すると、ESC(横滑り防止装置)がカットになるんだ……。自動ブレーキもオフになりますが、それは当然ですよね。サーキットを走っていて、前走車に近付くたびにブレーキが掛かったら、たまったものではないですから(笑)。このモードに入れても、そんなに乗り心地が硬くならないというか、不快感はないです。

法定速度で走っている限り、レースモードにする意味はあまりないでしょうけど、腕と環境が許せば、滑らせながら走ってみたいですね! MTだったら楽しいだろうなー。あと、パドルシフトは下まで伸びていて欲しいです。乗り始めてから、5~6回は空振りしてますから。

パドルシフトとは、指による操作でクルマのギアを上げ下げできる装置のこと。画像では分かりにくいかもしれないが、ステアリングの後ろに付いている
一般的にパドルシフトの操作部分は縦に長いが、「メガーヌ R.S.」のパドル(赤い十字マークが付いているところ)は上方向に長く、下方向に短い造形になっている。そのため、パドルの下の方を指で操作しようとして、何度か空振りしてしまったと安東さんは話しているのだ

:パドルシフトがステアリング連動式なので、コーナーを曲がっているときの操作も、少しやりにくいですね()。

【編集部注】パドルシフトには、ステアリングに連動して動くものと、ステアリングコラムに固定されているものがある。

:ステアリングと一緒にパドルシフトが動くのと、固定してあるのだと、どちらがいいんですか?

:メルセデスもそうですけど、ドイツ車はステアリングに連動して動く方が主流ですよね。ただ、ステアリングを切って(左右が)逆さまになっている時、パドルシフトの位置も逆になるので、どちらがプラス(ギアを上げる方)だか分からなくなることがあるんですよ。そこが難しいところで、だから「GT-R」(日産自動車)とかも固定式ですし、基本的にラリー用のクルマもコラム固定式ですね。

:ステアリングを切りまくるからですか?

:そうです。だけど、F1などのフォーミュラカーだと、ステアリングにシフトパドルが付いていて連動しますね。なぜなら、ステアリングを切っても最大で半回転ですから、左右の手を持ち替えないので、当然、その方が好都合です。

だから、このクルマ(試乗中のメガーヌ)は、ステアリングを大きく切っている時でも、シフト操作に迷わない事を優先させたんでしょうね。

:山道でヘアピンを抜ける時とかですか?

:そうですね。これ、好みは分かれると思います。

「メガーヌ R.S.」は1.8L直列4気筒16バルブ直噴ターボエンジンに電子制御6速ATのトランスミッションを組み合わせる

:このクルマ、小さいように見えて、幅が1,875mmもあるんですね。

:そう、結構あるんですよ。「Eクラス」(メルセデス・ベンツ)より幅が広い。

:メガーヌって、前のモデルまで3ドア(ハッチバック)が中心だったみたいですね。5ドアになって、見た目とかどうでしょう?

:このデザイン、僕は好きですね。先代よりも好きです。絶妙な“カタマリ感”があって、色もいい。シンプルなのに存在感があるという嬉しいデザインです。

:歴代のメガーヌ R.S.は、ニュルブルクリンクで素晴らしいタイムをたたき出してきたそうですが、そのあたりには惹かれますか?

:そこは、そんなに重視しません。ただ、メーカー同士が競い合ってくれる分にはいいんですけどね。ましてやFFですし、ちゃんと手なずけて走って、技術の革新というか、そういうところでメーカー同士が競い合ってくれているのは悪いことではないと思います。

:ただ、安東さんとしては、走りについては自分で確かめたい?

:そうですね。だから、こっちの方が数字が上だから買う、という感覚はありません。

:安東さんの頭の中にはクルマのスペックがたくさん入っていますけど、数字で比べて買おうというのではなく、ただ、好きだから頭に入っているだけなんですか?

:覚えようとしているんじゃなくて、スペック(諸元)表を見てると、自然に覚えちゃうんですよ。これ(試乗中のメガーヌ)だと、最大出力が279馬力ですよね?

:合ってます。

:それで、205kWじゃなかったでしたっけ?

:ごめんなさい、手元の資料にキロワットまでは書いてきてないです。

:206kWだと、280馬力になるんですけどね。

:……。

「メガーヌ R.S.」の最大出力は279ps(205kW)、最大トルクは390Nmだ。車両重量は1,480キロ

:数字的には見劣りしても、自分がいいと思えば買うというのが、安東さんのクルマ選びということですね。もし、次の911が何らかの理由で買えなかった場合は、メガーヌもアリだと思いましたか?

:MT車に乗ってみないと、何とも言えませんねー。急加速した時の暴れぶりを体験して、FFの限界は感じましたけど、MTなら、もう少し自分で制御できるかもしません。ただ、やっぱり楽しいクルマだなとは思いましたね!

:今回、たくさんの輸入車に乗っていただきましたけど、総評として、心に残ったのは?

:やっぱり、あの加速感も含め、テスラですね。何でも電気で動くので、後席のファルコンドアなんかが壊れたら目も当てられないとは思うんですけど、ただ、インパクトとしては「モデルX」になりますね。

もしも収入が激増したらどんなクルマに乗りたい?

購入を決めたメルセデス・ベンツ「E220d 4MATIC オールテレイン」には、何年乗る予定ですか?

:今の「F-PACE」よりも早いペースで走行距離が伸びる可能性があるので、2年で7万キロあたりが見えてくると、乗り換えを考えるかもしれません(※)。まあ、2年後に私の収入がどのくらいになっているかにもよりますけど……。

【編集部注】ジャガーのSUV「F-PACE」とポルシェ「911 カレラ 4S」の2台を所有している安東さんだが、通勤に使っているF-PACEは走行距離が伸びてきている上、大柄なサイズの問題で駐車場を見つけるのが大変なので、これをメルセデス・ベンツ「E220d 4MATIC オールテレイン」に乗り換える。サイズ的に駐車場が見つけやすい分、オールテレインの稼働率はF-PACEよりも高くなることが予想されるので、代替サイクルは早まるかもしれない。オールテレインが納車されるのは2019年5月の予定。その時点で、F-PACEには2年8カ月乗ったことになる。

:もし、収入がものすごく増えたら、所有するクルマの構成はどうしたいんですか?

:やっぱり「911」と、あとは「ヴェラール」(レンジローバー)のディーゼルエンジン車を買って、もう1台は小さいディーゼルエンジンのクルマで、それは「デミオ」(マツダ)なのか「ミニ」なのか分からないんですけど、そんな感じですかね。それか、プジョーの「308 アリュール」か……。

「308 アリュール」って、今までは税制的に中途半端な1.6リッターのディーゼルエンジンを搭載してたんですけど、それが1.5リッターになって、しかも、パワーアップしたんですよ。それに、何が嬉しいって、パドルシフトが付いたんですよ! 今までは上級グレードにしか付いてなかったんですけど。

プジョー「308 Allure」(アリュール)

:なるほど、収入が大幅に増えたら、クルマを2台にしておく必要もないですもんね。駐車場を借りて、3台持ってもいいわけで……。

:駐車場を借りるというか、3台のクルマを入れられる車庫が付いた家に建て替えるのが夢ですね。

:その可能性も、フリーになった今だと、高まってますよね。会社員でいるより、大きく稼げるチャンスがあるわけですから。

:そうですね、可能性は“ゼロ”ではないですね(笑)

:これも「バラいろダンディ」で聞いたような気がするんですけど、ある程度の金額を稼いだら、お仕事はやめるっておっしゃってましたよね? 好きなクルマに乗り続けられて、ご家族も安泰というような金額が貯まったとしたら。

:そうですね(笑)。3億円ほど貯まったら、やめると思います。家族を養えて、子供たちを学校に行かせられて、あとはクルマも、「ヴェイロン」とか「シロン」()が欲しいとは思わないので……。ポルシェのMTと、ヴェラールと、ミニか何かを所有して、スポーツ走行する時はポルシェ。長距離移動の時はヴェラール。そして、都内での仕事や移動の時は、コンパクトなディーゼルモデルか、電気自動車(EV)でもいいかもしれません。

【編集部注】どちらもブガッティのクルマ。1台で何億円もする。

:私の人生として、あと20年は責任があると思うんですよね。ただ、テレビ関係の仕事が続けられるとは思っていません。やっぱり、テレビの仕事って緊張するし、疲れますから(笑)。何より、ずっと私への需要があるとは思えません。

立て続けにクルマに乗った今回の取材も、かなりお疲れになったはずだと思っていたのだが……

他媒体が用意したクルマも含め、計11台の輸入車に立て続けに乗り、JAIA試乗会の取材を終えた安東さん。「仕事は疲れる」と言いつつも、メガーヌから降りるとすぐ、「ばらいろダンディ」の生放送に出演するため、試乗会の拠点となった大磯プリンスホテル(神奈川県)を愛車「F-PACE」で飛び出していった。

安東さんのコラムによれば、今回の取材はさすがにくたびれたものの、愛車を運転して帰ったおかげ(?)で、半蔵門(正確には東京都千代田区麹町)にあるTOKYO MXに到着する頃には、すっかり疲労感がなくなっていたというから驚きだ。

とにかく、多くのクルマに限られた時間で乗ってもらったので、時間配分がうまくいかず、弊紙では紹介しきれなかったクルマもある。具体的にはポルシェ「パナメーラ 4 E ハイブリッド」とBMW「X3 M40d」の2台なのだが、これらも安東さんが試乗を希望したクルマだったことに変わりはない。特に「X3 M40d」については、短時間の試乗ではあったものの、「もっと乗ってみたくなるいいクルマだった」とのコメントがあったことは、ここでお伝えしておきたい。

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メルセデス・ベンツ初の市販電気自動車「EQC」とはどんなクルマか

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2019.03.27

メルセデス・ベンツの電動化戦略、「EQC」で本格化

エンジン車にも通じるクルマづくりの作法

加速はスポーツカー並み! 航続距離は450キロ

メルセデス・ベンツ初の市販電気自動車(EV)「EQC」が今年、いよいよ登場する。2019年半ば頃の日本導入が噂されているが、一体、どんなクルマに仕上がっているのか。モータージャーナリストの清水和夫さんは以下のように解説する。

メルセデス・ベンツのEV「EQC」

メルセデスの電動化を包括する「EQ」ブランド

メルセデス・ベンツは2018年9月、スウェーデンのストックホルムにおいて、バッテリーだけで走る電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)「EQC」を正式に発表した。それまでも、各国の国際的なイベントでは、同社の電動モビリティを包括する「EQ」(イーキュー)というサブ・ブランドを発信してはいたが、いよいよ、本格的なメルセデスの電動車両がEQCから始まるのだ。

ここでは混乱を避けるため、電動車両の定義とメルセデスが採用する「EQ」というサブ・ブランドについて説明しておく。

「EQ」とは「電動化」にフォーカスしたメルセデスのサブ・ブランドであり、バッテリーだけで走るBEVを「EQ」、バッテリーとエンジンを組み合わせるプラグイン・ハイブリッドを「EQ Power」、48Vのサブ電源を使うシステムを「EQ Boost」と呼ぶ。

このように、電動車両といっても、バッテリーとモーターだけで走るBEV、エンジン/バッテリー/モーターを組み合わせるプラグイン・ハイブリッド(PHVあるいはPHEVと略す)、あるいは、48Vを使う車両に見られるマイルド・ハイブリッドなど、クルマの在り方は多様化している。「〇〇社は20XX年までに全てのクルマを電動化する」というヘッドラインのニュースが世界中を駆け巡っているが、電動化の中身をきちっと理解する必要があるだろう。メルセデスの場合は「EQ」「EQ Power」「EQ Boost」の名前で整理している。

「EQ」ブランドのクルマたち

EQCは「GLC」相当のSUVをベースとするクルマだ。「Aクラス」相当のセグメントでBEVが登場すれば、「EQA」と呼ぶことになるだろう。

内燃機関はベンツの代名詞、EVはどう作る?

EQCの日本初公開となったイベントは、桜が咲く前の3月初め、メルセデス・ベンツのブランド発信拠点「Mercedes me」(東京・六本木)にて開催された。注目すべきは、メルセデス・ベンツ日本(MBJ)がEQCと家の電気をつなげる「EQハウス」という斬新なコンセプトで同車を発表したこと。EQCは自宅でも充電できるので、家との相性がよい。そこでMBJは、竹中工務店と組んで「EQハウス」という新しいアイディアを提案したのだ。クルマと家が電気でつながることを「V2H」(Vehicle to Home)と呼ぶ。日本では以前から取り組んできたシステムだ。

MBJと竹中工務店は、モビリティとリビングの未来の姿を具現化すべく、六本木の「Mercedes me」に体験施設「EQハウス」を設置した。ちなみに、「EQC」の展示はすでに終了している

ところで、EQCのカットモデルを見た時、面白いことに気がついた。EQCは「Cクラス」ベースのSUV「GLC」をベースとするが、BEVなのでエンジンとギアボックスが存在しない。そのスペースには、パイプ製のケージが設置されているのだ。パイプの内側にはフロントモーターとデフ(デファレンシャルギア)が置かれ、上部にはインバーターが配置されている。リアも同様にモーターとデフでリアアクスルが構成される。

エンジンがなくなる代わりに、「EQC」にはモーターとデフを納めたパイプ製のケージが入っている

バッテリーは床下のフロア内に格納することで重心を低く設定できる。と、ここまでは常識的なパッケージなのだが、衝突安全の剛体として、このパイプ製ケージにはエンジンと同じ強度を持たせてある。つまり、エンジン車と同じく、モジュールでデザインできるモデルベース開発(MBD)を取り入れているのだ。自動車業界で流行の手法は、EQCにも採用されていた。

EQCのボディサイズは全長4,761mm、全幅1,884mm、全高1,624mm、ホイールベース2,873mmとGLCに近いから、シミュレーションしやすい。性能を見ると、前後2つのモーターは合計で最大出力408PS、最大トルク765Nmを発生する。加速性能はV8ターボのエンジン車並みで、停止状態から時速100キロまでの加速は5.1秒と俊足だ。リチウムイオン・バッテリーの容量は80kWh。気になる航続距離は450キロとのアナウンスがあった。

「EQC」のボディサイズは「GLC」に近い。加速はV8ターボエンジン並みだ

EQCの試乗会は2019年5月に開催されるので、それまでは詳細なインプレッションをお届けできないが、スポーツカー並みの加速性能を誇るEQCは単なるBEVではなさそうだ。何か、もっとすごい仕掛けがありそうに思える。試乗会が楽しみになってきた。

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