【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

2017.03.14

【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

 今年1月1日に開かれた第96回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝で鹿島アントラーズに破れ、悲願の初タイトルを逃した川崎フロンターレ。その株主に名を連ねる富士通<6702>は国内最大手のシステムインテグレーターである。富士通は技術革新に合わせてM&Aも活用し、様々な事業に進出してきた。過去には海外企業買収で巨額損失を抱えたが、虎の子の優良子会社売却でなんとか体力を温存。技術力を磨いて再び世界に挑戦しようとしている。

【企業概要】富士電機の電話部門が設立母体に

 富士通は、富士電機製造株式会社(現・富士電機株式会社)から電話部所管業務(交換、伝送)を分離し設立された。元々、富士電機製造株式会社自体は川崎市でもかなり海沿いにあり、海の近くでは、湿気、さびの問題で、通信事業が難しいことや東京電機(後の東芝)との業務提携契約に起因し少し内陸の川崎市中原区に会社を新設した。

 以来、有線電話、無線、自動計算器、汎用機(企業向けの基幹PC)、コンピュータ、携帯電話、と、いわゆるシステムインテグレーターとして、常に時代の技術革新と共に歩み、また国内の最大手として、業界をリードし続けている。

 その生い立ちから、富士電機グループとして存在していたものの、富士電機が業績の悪化などの理由から徐々に株式売却を行い、1965年に保有率が50%を切り、グループ会社から事実上の独立を果たした。

 一方で、現在に至るまで筆頭株主は常に富士電機の為、関係性が途切れた、というわけではない。

 現在、富士通は国内関係会社97社、海外関係会社217社でグループ構成している。国内のみ取り上げたが、関係性は以下の通り。

富士通の主な国内関係会社
関 係      コード 関係会社名 株式保有比率(%) 売上高(百万円) 事業内容
連結子会社 - 富士通セミコンダクター 100 219,024 LSIの設計・開発・製造・販売
連結子会社 - 富士通テン 55 213,536 カーナビ,AV機器等の製造・販売
連結子会社 6967 新光電気工業 50.06 133,898 半導体パッケージの製造・販売
連結子会社 - 富士通周辺機 100 104,580 コンピュータ周辺機器の開発・製造
連結子会社 6945 富士通フロンテック 53.61 88,882 ATM,各種端末装置の製造・販売
連結子会社 3828 ニフティ 66.59 60,669 インターネット接続サービスの提供他
連結子会社 6955 FDK 72.58 49,044 電子材料,電子応用製品の製造・販売
連結子会社 6719 富士通コンポーネント 56.96 38,496 電子部品の製造・販売(持株会社)
連結子会社 4793 富士通ビー・エス・シー 56.45 31,264 ソフトウエアの開発・販売他
連結子会社 - 富士通九州ネットワークテクノロジーズ 100 16,078 ネットワークシステム機器等の開発他
連結子会社 - 富士通CIT 100 12,883 SCMシステムの開発・運用・保守
連結子会社 - 富士通総研 100 6,807 経済・経営等に関わる調査・研究他
連結子会社 - 富士通鹿児島インフォネット 65 5,807 ソフトウエアの開発他
連結子会社 - 富士通パブリックソリューションズ 100 4,637 ソフトウエアの開発・販売
連結子会社 - 富士通システムズウェブテクノロジー 100 2,422 Webシステムの開発他
連結子会社 - 富士通マーケティング・エージェント 100 1,452 IT教育の運営,人材派遣サービス他
持分法適用会社 6755 富士通ゼネラル 44.26 223,666 電気・電子機械等の製造・販売

 富士通はこの業界地位を、買収、合弁会社設立、持株の売却など様々なM&Aを積極的活用し、確立してきたと評価することができる。また、自社部門が独立したファナックや富士通テンなどの上場も、大きな資金調達の要因となったことに相違ない。

 富士通は現状、3つのセグメントで成り立っている。それぞれ、テクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションという枠組みになっており、現状の売上比率は以下のとおりである。

 メインのテクノロジーソリューションは、企業・官公庁向けのシステムインテグレーションなど、ユビキタスソリューションはPCやスマートフォン向けの製造販売、デバイスソリューションは、LSIや電子部品等を取り扱っている。

 なお連結子会社のニフティについては、2017年4月1日付でニフティが持つインターネット接続サービスなどのコンシューマ向け事業会社とクラウドを中心とするエンタープライズ事業会社向け事業会社に再編し、コンシューマ向け事業会社の全株式を家電量販店のノジマに譲渡することを決定している。

【経営陣】田中社長、2015年に就任

 現在の田中達也社長は1980年に富士通入社。2015年6月に現会長の山本正巳氏からバトンタッチで社長に就任した。60歳。山本氏と田中氏が代表取締役となっている。

【株主構成】富士電機が11%を所有

富士通の主要株主
株主名称 保有株式数(千株) 持ち株比率(%)
富士電機 228,391 11.03
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 93,628 4.52
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 77,763 3.76
富士通従業員持株会 58,221 2.81
みずほ銀行 36,963 1.79
朝日生命保険相互会社 35,180 1.70
The Bank of New York Mellon SA/NV 10 32,993 1.59
ステートストリートバンクアンドトラストカンパニー505225 32,111 1.55
CBNY GOVERNMENT OF NORWAY 29,594 1.43
STATE STREET BANK WEST CLIENT TREATY 505234 26,862 1.30
合計 651,706 31.48
2016年9月末時点、四半期報告書に基づき作成

 富士電機が今も11%を持つ筆頭株主である。ほかは信託銀行など株主が分散している。

【M&A戦略】ITサービス、クラウドを強化

 富士通の行ってきたM&Aは以下の通りである。

年 月       内容
2003年 2月 システム向けプリンター事業を富士ゼロックスに譲渡
2003年 7月 フラッシュメモリ製造事業を米のAdvanced Micro Devices, Inc.に譲渡し、持分法適用会社化 (所有割合:60%→40%)
2003年 9月 富士通リースの株式を東京リース㈱(現:東京センチュリーリース㈱)に譲渡し、持分法適用会社化 (所有割合:60%→20%)
2005年 3月 Fujitsu Consulting*がアメリカのITサービス企業「Cendera Technologies」を買収
2005年 3月 Fujitsu Consulting がカナダのヘルスケアシステム企業「MOXXI Medical」に出資
2005年 4月 富士通日立プラズマディスプレイの株式を日立製作所に譲渡
2005年 4月 液晶デバイス事業をシャープに譲渡
2005年 6月 Fujitsu Consulting がアメリカのITコンサルティング企業「BORN Information Services」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がアメリカのITサービス企業「Greenbrier & Russel」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「GIM Risk Management」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がアメリカのITコンサルティング企業「Rapidigm」を買収
2006年 5月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「M3K」を買収
2006年 12月 Fujitsu ServicesがドイツのITサービス企業「TDS」を買収
2007年 4月 ジャパンケーブルネットホールディングスの株式をKDDI㈱に譲渡
2007年 9月 Fujitsu Consulting がアメリカのITサービス企業「OKERE」を買収
2007年 10月 Fujitsu New Zealand Limited がニュージーランドのITサービス企業「Infinity Solutions」を買収
2007年 10月 Fujitsu Services がスウェーデンのITサービス企業「Mandator」を買収
2007年 10月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「Promaintech Novaxa」を買収
2008年 2月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「Intelec Geomatics」を買収
2008年 3月 LSI事業を分社化し、富士通マイクロエレクトロニクス(現:富士通セミコンダクター㈱)を設立
2008年 12月 富士通オートメーションの株式をミヤチテクノスに譲渡
2009年 3月 Fujitsu Australia Limited がオーストラリアのITサービス企業「KAZ」を買収
2009年 3月 HDD用ヘッド事業を終息
2009年 4月 富士通が「Fujitsu Siemens Computers」(現:Fujitsu Technology Solutions)を完全子会社化 (所有割合:50%→100%)
2009年 4月 Fujitsu Consulting、Fujitsu Computer SystemsおよびFujitsu Transaction Solutionsの北米3社を統合し、 Fujitsu America, Inc.を設立 2009年 4月 Fujitsu Australia Limited がオ
2009年 4月 Fujitsu Australia Limited がオーストラリアのITコンサルティング企業「Supply Chain Consulting」を買収
2009年 4月 ユーディナデバイスの株式を住友電工に譲渡
2009年 4月 富士通メディアデバイスのコンデンサ事業をニチコンに譲渡
2009年 7月 山形富士通のHDDメディア事業を昭和電工に譲渡
2009年 8月 富士通ビジネスシステム(現:富士通マーケティング)を完全子会社化
2009年 10月 HDDドライブ事業を東芝に譲渡
2010年 1月 FDKが三洋エナジートワイセルおよび三洋エナジー鳥取の全株式を取得
2010年 3月 富士通メディアデバイスの通信デバイス事業を太陽誘電に譲渡
2010年 4月 PFUを完全子会社化
2010年 10月 東芝の携帯電話事業を取得
2012年 2月 Fujitsu Canada, Inc.がカナダのITサービス企業「Technology Management Corporation」を買収
2012年 4月 地域SE会社を統合・再編し、富士通システムズ・イーストと㈱富士通システムズ・ウエストを設立
2012年 8月 通信プラットフォーム事業を分社化し、アクセスネットワークテクノロジを設立
2012年 10月 富士通セミコンダクターの岩手工場をデンソーに譲渡
2012年 12月 富士通セミコンダクターのLSI後工程製造拠点を㈱ジェイデバイスに譲渡
2013年 4月 富士通がフランスのクラウドサービス企業「RunMyProcess」を買収
2013年 8月 富士通セミコンダクターのマイコン・アナログ事業をSpansion Inc.へ譲渡
2013年 10月 社会インフラ系SE会社を再編・統合し、富士通ミッションクリティカルシステムズを設立
2014年 4月 富士通モバイルフォンプロダクツを富士通周辺機㈱に統合
2014年 5月 Fujitsu ServicesがアメリカのITサービス企業「Globe Ranger」を買収
2014年 7月 パナソニックITソリューションズの株式を譲受し、富士通ITマネジメントパートナーに商号変更
2014年 7月 富士通セミコンダクターとオン・セミコンダクターが戦略的パートナーシップを締結
2014年 8月 横河医療ソリューションズに少数株主として資本参加
2014年 12月 富士通セミコンダクターのファウンドリ新会社(会津若松地区の200mm製造ライン)にオン・セミコンダ クターが少数株主として資本参加
2015年 3月 富士通セミコンダクターのファウンドリ新会社(三重地区の300mm製造ライン)にUMCが少数株主として 資本参加
2015年 3月 富士通セミコンダクターとパナソニックのシステムLSI事業の統合が完了し、ソシオネクストとして事業を 開始
2015年 8月 Fujitsu ServicesがイギリスのITサービス企業「Applied Card Technologies」を買収
2015年 10月 富士通テレコムネットワークス、富士通ワイヤレスシステムズを富士通に吸収合併 新設する富士通テレコムネットワークスにネットワーク製品全般の製造を集約
2015年 10月 富士通がフランスのソフトウェア開発企業「UShare Soft」を買収
2016年 2月 ノートPC、デスクトップPC事業を分社化し、富士通クライアントコンピューティングを設立
2016年 2月 携帯端末事業を分社化し、富士通コネクテッドテクノロジーズを設立
2016年7月 連結子会社のニフティを完全子会社化
2017年4月 ニフティのISP事業をノジマに譲渡(予定)
出所)富士通データブック2016年7月

 国内外を問わず、次々とM&Aを仕掛けている。買収だけでなく、売却も同時に進めているのが大きな特徴だ。

 2009年にコンデンサ事業をニチコンに、HDDドライブ事業を東芝に譲渡するなど、ハードウエアの部品関連事業は縮小傾向にある。2012年には半導体事業の工場、製造拠点の譲渡も行っている。ただ、携帯端末事業、パソコン事業は分社化をしながらも事業を継続しており、ハードのなかでも消費者寄りの事業を重要視している姿勢がうかがえる。

 一貫して強化しているのはソフトウエアや通信、クラウドコンピューティングの分野である。 2000年代半ばから後半にかけて欧米のITコンサルティング、ITサービス会社を矢継ぎ早に買収している。最近では、コンピュータ通信業界にいち早くから乗り出し、事業の屋台骨としていたニフティを2016年7月に100%子会社とし、その再編を行った。

 富士通はニフティのクラウド事業に着目し、自社の範囲外のISP事業は2017年4月にノジマへ売却という形で再編を行う予定である。

 また2015年のリリースではM&Aに1000億円の投資を示唆するなど、非常に積極的な姿勢が見て取れる。この積極的な姿勢を支えるのは既存の財務体質と、ファナックという自社子会社の中のメガヒットの隠し玉があったからこそである。

 ファナックは、富士通の計算制御部から独立した子会社で、山梨県忍野村に約50万坪の本社工場を持つ電気機器メーカーである。工作機械用NC装置において、世界で約50%、国内で70%にも達するシェア率を誇り、産業用多関節ロボットにおいても世界首位である。

【財務分析】ファナック株売却で損失吸収

 富士通の自己資本比率の推移を見るに、高い水準とはいいがたいもののある程度安定しているように見受けられる。大幅な赤字を計上することもちらちら見受けられるが、そのたび、ファナック株式を小出しに売却していき、有利子負債の圧縮要因、並びに業績の化粧としていた。

 具体的には、ファナックの株式につき度々に渡る売却を行っている。2003年9月発行済株式数の約4.59%を約554億円で売却、2003年12月には発行済株式数の約14.6%を1621億円で売却している。

 さらに、富士通においては、M&Aに伴う大きな失敗事例がある。1990年に行った、以前からの業務提携関係にあった英国ICLの案件である。

 当時、激化するコンピュータ業界の販売競争の中で、富士通として欧州エリアの営業を優位展開していくためには、拠点の確保が不可欠であった。当時、ICLは資金調達面で苦境を強いられており、競争に勝てるだけの研究開発費の調達が難しいとの判断に至った。

 結果として富士通は、欧州地域の展開加速の足掛かりとすべく、1890億円にてICL株式の80%を取得した。富士通は事実上、電算機分野で世界2位となり、IBMを追撃する体制を整えた。その後98年には完全子会社化。その後も富士通の欧州の拠点としてドイツ企業を買収するなどして累計投資額が3500億円を超えたが、業績は悪化していた。結局、07年3月期個別決算で2900億円の評価損を計上した。この際にも、ファナック株式を売却し、約700億円の調達をしている。しかし、その虎の子はこの2009年の売却で全て尽きることとなった。

【株価】業績改善で持ち直し

 株価は一時400円を割り込んだが、2016年夏ごろから持ち直ししている。国内ネットワークの増収効果やパソコンや携帯電話のコストダウン効果で業績が改善していることが背景にある。ニフティの完全子会社などの事業再編に積極的に取り組んでいることも株価の下支えになっているとみられる。

【まとめ】M&Aで戦うべきエリア明確に

 総じていうと、富士通は非常に積極的にM&Aに取り組んでいると評価できる。同社の事業領域は広く、あらゆる箇所でシナジー効果が見込める一方、先述のニフティにおいてのISP事業の売却を決定するなど、自社が戦うべきエリアというものが明確化されている。

 しかし、かつて5兆円あった売上高は現状は4兆円程度まで減っている。自社再編などの様々な施策をうっているものの、業績を成長軌道に回復させるには至っていない。

 一方で、かつて話題となったスーパーコンピューター「京」が再び世界一位に返り咲いたり、新たな分野である人工知能「zinrai」の研究開発を行ったりと、今後成長の見込まれる新規市場にも積極的に参戦している。同分野では、米IBMなどの存在感が大きいが、日本のシステムインテグレーターの雄として今後のさらなる発展に期待したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。