【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

2017.03.14

【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

 今年1月1日に開かれた第96回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝で鹿島アントラーズに破れ、悲願の初タイトルを逃した川崎フロンターレ。その株主に名を連ねる富士通<6702>は国内最大手のシステムインテグレーターである。富士通は技術革新に合わせてM&Aも活用し、様々な事業に進出してきた。過去には海外企業買収で巨額損失を抱えたが、虎の子の優良子会社売却でなんとか体力を温存。技術力を磨いて再び世界に挑戦しようとしている。

【企業概要】富士電機の電話部門が設立母体に

 富士通は、富士電機製造株式会社(現・富士電機株式会社)から電話部所管業務(交換、伝送)を分離し設立された。元々、富士電機製造株式会社自体は川崎市でもかなり海沿いにあり、海の近くでは、湿気、さびの問題で、通信事業が難しいことや東京電機(後の東芝)との業務提携契約に起因し少し内陸の川崎市中原区に会社を新設した。

 以来、有線電話、無線、自動計算器、汎用機(企業向けの基幹PC)、コンピュータ、携帯電話、と、いわゆるシステムインテグレーターとして、常に時代の技術革新と共に歩み、また国内の最大手として、業界をリードし続けている。

 その生い立ちから、富士電機グループとして存在していたものの、富士電機が業績の悪化などの理由から徐々に株式売却を行い、1965年に保有率が50%を切り、グループ会社から事実上の独立を果たした。

 一方で、現在に至るまで筆頭株主は常に富士電機の為、関係性が途切れた、というわけではない。

 現在、富士通は国内関係会社97社、海外関係会社217社でグループ構成している。国内のみ取り上げたが、関係性は以下の通り。

富士通の主な国内関係会社
関 係      コード 関係会社名 株式保有比率(%) 売上高(百万円) 事業内容
連結子会社 - 富士通セミコンダクター 100 219,024 LSIの設計・開発・製造・販売
連結子会社 - 富士通テン 55 213,536 カーナビ,AV機器等の製造・販売
連結子会社 6967 新光電気工業 50.06 133,898 半導体パッケージの製造・販売
連結子会社 - 富士通周辺機 100 104,580 コンピュータ周辺機器の開発・製造
連結子会社 6945 富士通フロンテック 53.61 88,882 ATM,各種端末装置の製造・販売
連結子会社 3828 ニフティ 66.59 60,669 インターネット接続サービスの提供他
連結子会社 6955 FDK 72.58 49,044 電子材料,電子応用製品の製造・販売
連結子会社 6719 富士通コンポーネント 56.96 38,496 電子部品の製造・販売(持株会社)
連結子会社 4793 富士通ビー・エス・シー 56.45 31,264 ソフトウエアの開発・販売他
連結子会社 - 富士通九州ネットワークテクノロジーズ 100 16,078 ネットワークシステム機器等の開発他
連結子会社 - 富士通CIT 100 12,883 SCMシステムの開発・運用・保守
連結子会社 - 富士通総研 100 6,807 経済・経営等に関わる調査・研究他
連結子会社 - 富士通鹿児島インフォネット 65 5,807 ソフトウエアの開発他
連結子会社 - 富士通パブリックソリューションズ 100 4,637 ソフトウエアの開発・販売
連結子会社 - 富士通システムズウェブテクノロジー 100 2,422 Webシステムの開発他
連結子会社 - 富士通マーケティング・エージェント 100 1,452 IT教育の運営,人材派遣サービス他
持分法適用会社 6755 富士通ゼネラル 44.26 223,666 電気・電子機械等の製造・販売

 富士通はこの業界地位を、買収、合弁会社設立、持株の売却など様々なM&Aを積極的活用し、確立してきたと評価することができる。また、自社部門が独立したファナックや富士通テンなどの上場も、大きな資金調達の要因となったことに相違ない。

 富士通は現状、3つのセグメントで成り立っている。それぞれ、テクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションという枠組みになっており、現状の売上比率は以下のとおりである。

 メインのテクノロジーソリューションは、企業・官公庁向けのシステムインテグレーションなど、ユビキタスソリューションはPCやスマートフォン向けの製造販売、デバイスソリューションは、LSIや電子部品等を取り扱っている。

 なお連結子会社のニフティについては、2017年4月1日付でニフティが持つインターネット接続サービスなどのコンシューマ向け事業会社とクラウドを中心とするエンタープライズ事業会社向け事業会社に再編し、コンシューマ向け事業会社の全株式を家電量販店のノジマに譲渡することを決定している。

【経営陣】田中社長、2015年に就任

 現在の田中達也社長は1980年に富士通入社。2015年6月に現会長の山本正巳氏からバトンタッチで社長に就任した。60歳。山本氏と田中氏が代表取締役となっている。

【株主構成】富士電機が11%を所有

富士通の主要株主
株主名称 保有株式数(千株) 持ち株比率(%)
富士電機 228,391 11.03
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 93,628 4.52
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 77,763 3.76
富士通従業員持株会 58,221 2.81
みずほ銀行 36,963 1.79
朝日生命保険相互会社 35,180 1.70
The Bank of New York Mellon SA/NV 10 32,993 1.59
ステートストリートバンクアンドトラストカンパニー505225 32,111 1.55
CBNY GOVERNMENT OF NORWAY 29,594 1.43
STATE STREET BANK WEST CLIENT TREATY 505234 26,862 1.30
合計 651,706 31.48
2016年9月末時点、四半期報告書に基づき作成

 富士電機が今も11%を持つ筆頭株主である。ほかは信託銀行など株主が分散している。

【M&A戦略】ITサービス、クラウドを強化

 富士通の行ってきたM&Aは以下の通りである。

年 月       内容
2003年 2月 システム向けプリンター事業を富士ゼロックスに譲渡
2003年 7月 フラッシュメモリ製造事業を米のAdvanced Micro Devices, Inc.に譲渡し、持分法適用会社化 (所有割合:60%→40%)
2003年 9月 富士通リースの株式を東京リース㈱(現:東京センチュリーリース㈱)に譲渡し、持分法適用会社化 (所有割合:60%→20%)
2005年 3月 Fujitsu Consulting*がアメリカのITサービス企業「Cendera Technologies」を買収
2005年 3月 Fujitsu Consulting がカナダのヘルスケアシステム企業「MOXXI Medical」に出資
2005年 4月 富士通日立プラズマディスプレイの株式を日立製作所に譲渡
2005年 4月 液晶デバイス事業をシャープに譲渡
2005年 6月 Fujitsu Consulting がアメリカのITコンサルティング企業「BORN Information Services」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がアメリカのITサービス企業「Greenbrier & Russel」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「GIM Risk Management」を買収
2006年 2月 Fujitsu Consulting がアメリカのITコンサルティング企業「Rapidigm」を買収
2006年 5月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「M3K」を買収
2006年 12月 Fujitsu ServicesがドイツのITサービス企業「TDS」を買収
2007年 4月 ジャパンケーブルネットホールディングスの株式をKDDI㈱に譲渡
2007年 9月 Fujitsu Consulting がアメリカのITサービス企業「OKERE」を買収
2007年 10月 Fujitsu New Zealand Limited がニュージーランドのITサービス企業「Infinity Solutions」を買収
2007年 10月 Fujitsu Services がスウェーデンのITサービス企業「Mandator」を買収
2007年 10月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「Promaintech Novaxa」を買収
2008年 2月 Fujitsu Consulting がカナダのITコンサルティング企業「Intelec Geomatics」を買収
2008年 3月 LSI事業を分社化し、富士通マイクロエレクトロニクス(現:富士通セミコンダクター㈱)を設立
2008年 12月 富士通オートメーションの株式をミヤチテクノスに譲渡
2009年 3月 Fujitsu Australia Limited がオーストラリアのITサービス企業「KAZ」を買収
2009年 3月 HDD用ヘッド事業を終息
2009年 4月 富士通が「Fujitsu Siemens Computers」(現:Fujitsu Technology Solutions)を完全子会社化 (所有割合:50%→100%)
2009年 4月 Fujitsu Consulting、Fujitsu Computer SystemsおよびFujitsu Transaction Solutionsの北米3社を統合し、 Fujitsu America, Inc.を設立 2009年 4月 Fujitsu Australia Limited がオ
2009年 4月 Fujitsu Australia Limited がオーストラリアのITコンサルティング企業「Supply Chain Consulting」を買収
2009年 4月 ユーディナデバイスの株式を住友電工に譲渡
2009年 4月 富士通メディアデバイスのコンデンサ事業をニチコンに譲渡
2009年 7月 山形富士通のHDDメディア事業を昭和電工に譲渡
2009年 8月 富士通ビジネスシステム(現:富士通マーケティング)を完全子会社化
2009年 10月 HDDドライブ事業を東芝に譲渡
2010年 1月 FDKが三洋エナジートワイセルおよび三洋エナジー鳥取の全株式を取得
2010年 3月 富士通メディアデバイスの通信デバイス事業を太陽誘電に譲渡
2010年 4月 PFUを完全子会社化
2010年 10月 東芝の携帯電話事業を取得
2012年 2月 Fujitsu Canada, Inc.がカナダのITサービス企業「Technology Management Corporation」を買収
2012年 4月 地域SE会社を統合・再編し、富士通システムズ・イーストと㈱富士通システムズ・ウエストを設立
2012年 8月 通信プラットフォーム事業を分社化し、アクセスネットワークテクノロジを設立
2012年 10月 富士通セミコンダクターの岩手工場をデンソーに譲渡
2012年 12月 富士通セミコンダクターのLSI後工程製造拠点を㈱ジェイデバイスに譲渡
2013年 4月 富士通がフランスのクラウドサービス企業「RunMyProcess」を買収
2013年 8月 富士通セミコンダクターのマイコン・アナログ事業をSpansion Inc.へ譲渡
2013年 10月 社会インフラ系SE会社を再編・統合し、富士通ミッションクリティカルシステムズを設立
2014年 4月 富士通モバイルフォンプロダクツを富士通周辺機㈱に統合
2014年 5月 Fujitsu ServicesがアメリカのITサービス企業「Globe Ranger」を買収
2014年 7月 パナソニックITソリューションズの株式を譲受し、富士通ITマネジメントパートナーに商号変更
2014年 7月 富士通セミコンダクターとオン・セミコンダクターが戦略的パートナーシップを締結
2014年 8月 横河医療ソリューションズに少数株主として資本参加
2014年 12月 富士通セミコンダクターのファウンドリ新会社(会津若松地区の200mm製造ライン)にオン・セミコンダ クターが少数株主として資本参加
2015年 3月 富士通セミコンダクターのファウンドリ新会社(三重地区の300mm製造ライン)にUMCが少数株主として 資本参加
2015年 3月 富士通セミコンダクターとパナソニックのシステムLSI事業の統合が完了し、ソシオネクストとして事業を 開始
2015年 8月 Fujitsu ServicesがイギリスのITサービス企業「Applied Card Technologies」を買収
2015年 10月 富士通テレコムネットワークス、富士通ワイヤレスシステムズを富士通に吸収合併 新設する富士通テレコムネットワークスにネットワーク製品全般の製造を集約
2015年 10月 富士通がフランスのソフトウェア開発企業「UShare Soft」を買収
2016年 2月 ノートPC、デスクトップPC事業を分社化し、富士通クライアントコンピューティングを設立
2016年 2月 携帯端末事業を分社化し、富士通コネクテッドテクノロジーズを設立
2016年7月 連結子会社のニフティを完全子会社化
2017年4月 ニフティのISP事業をノジマに譲渡(予定)
出所)富士通データブック2016年7月

 国内外を問わず、次々とM&Aを仕掛けている。買収だけでなく、売却も同時に進めているのが大きな特徴だ。

 2009年にコンデンサ事業をニチコンに、HDDドライブ事業を東芝に譲渡するなど、ハードウエアの部品関連事業は縮小傾向にある。2012年には半導体事業の工場、製造拠点の譲渡も行っている。ただ、携帯端末事業、パソコン事業は分社化をしながらも事業を継続しており、ハードのなかでも消費者寄りの事業を重要視している姿勢がうかがえる。

 一貫して強化しているのはソフトウエアや通信、クラウドコンピューティングの分野である。 2000年代半ばから後半にかけて欧米のITコンサルティング、ITサービス会社を矢継ぎ早に買収している。最近では、コンピュータ通信業界にいち早くから乗り出し、事業の屋台骨としていたニフティを2016年7月に100%子会社とし、その再編を行った。

 富士通はニフティのクラウド事業に着目し、自社の範囲外のISP事業は2017年4月にノジマへ売却という形で再編を行う予定である。

 また2015年のリリースではM&Aに1000億円の投資を示唆するなど、非常に積極的な姿勢が見て取れる。この積極的な姿勢を支えるのは既存の財務体質と、ファナックという自社子会社の中のメガヒットの隠し玉があったからこそである。

 ファナックは、富士通の計算制御部から独立した子会社で、山梨県忍野村に約50万坪の本社工場を持つ電気機器メーカーである。工作機械用NC装置において、世界で約50%、国内で70%にも達するシェア率を誇り、産業用多関節ロボットにおいても世界首位である。

【財務分析】ファナック株売却で損失吸収

 富士通の自己資本比率の推移を見るに、高い水準とはいいがたいもののある程度安定しているように見受けられる。大幅な赤字を計上することもちらちら見受けられるが、そのたび、ファナック株式を小出しに売却していき、有利子負債の圧縮要因、並びに業績の化粧としていた。

 具体的には、ファナックの株式につき度々に渡る売却を行っている。2003年9月発行済株式数の約4.59%を約554億円で売却、2003年12月には発行済株式数の約14.6%を1621億円で売却している。

 さらに、富士通においては、M&Aに伴う大きな失敗事例がある。1990年に行った、以前からの業務提携関係にあった英国ICLの案件である。

 当時、激化するコンピュータ業界の販売競争の中で、富士通として欧州エリアの営業を優位展開していくためには、拠点の確保が不可欠であった。当時、ICLは資金調達面で苦境を強いられており、競争に勝てるだけの研究開発費の調達が難しいとの判断に至った。

 結果として富士通は、欧州地域の展開加速の足掛かりとすべく、1890億円にてICL株式の80%を取得した。富士通は事実上、電算機分野で世界2位となり、IBMを追撃する体制を整えた。その後98年には完全子会社化。その後も富士通の欧州の拠点としてドイツ企業を買収するなどして累計投資額が3500億円を超えたが、業績は悪化していた。結局、07年3月期個別決算で2900億円の評価損を計上した。この際にも、ファナック株式を売却し、約700億円の調達をしている。しかし、その虎の子はこの2009年の売却で全て尽きることとなった。

【株価】業績改善で持ち直し

 株価は一時400円を割り込んだが、2016年夏ごろから持ち直ししている。国内ネットワークの増収効果やパソコンや携帯電話のコストダウン効果で業績が改善していることが背景にある。ニフティの完全子会社などの事業再編に積極的に取り組んでいることも株価の下支えになっているとみられる。

【まとめ】M&Aで戦うべきエリア明確に

 総じていうと、富士通は非常に積極的にM&Aに取り組んでいると評価できる。同社の事業領域は広く、あらゆる箇所でシナジー効果が見込める一方、先述のニフティにおいてのISP事業の売却を決定するなど、自社が戦うべきエリアというものが明確化されている。

 しかし、かつて5兆円あった売上高は現状は4兆円程度まで減っている。自社再編などの様々な施策をうっているものの、業績を成長軌道に回復させるには至っていない。

 一方で、かつて話題となったスーパーコンピューター「京」が再び世界一位に返り咲いたり、新たな分野である人工知能「zinrai」の研究開発を行ったりと、今後成長の見込まれる新規市場にも積極的に参戦している。同分野では、米IBMなどの存在感が大きいが、日本のシステムインテグレーターの雄として今後のさらなる発展に期待したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

2019.01.24

ソフトバンクの通信障害、総務省が行政指導へ

再発防止のためのさまざまな対策立案を支持

上場前後で「運がない」ソフトバンクに求められるもの

総務省は1月23日、昨年12月に大規模な通信障害を起こしたソフトバンクに対して行政指導を行った。

通信障害は、ソフトバンクのLTEに関する交換機の不具合が原因で起こったもの。それによって同社の4G LTE網に障害が発生し、音声・データ通信ともに圏外になる、もしくはつながりにくい状態が長時間続き、大きな話題になっていた。

通信障害は12月6日の13時39分頃発生し、その後同日18時4分頃まで、4時間25分に及び、約3060万人の利用者に影響を及ぼした (ソフトバンク ニュースリリース)

総務省は今回、同社の代表取締役取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏宛に「電気通信事故に関する適切な対応及び報告について」と題した文書を提出。

ソフトバンクの宮内謙代表

文書では、ソフトバンクが2018年中に同件を含めて3回の重大事故を発生させていることを挙げ、「このような事故の発生は利用者の利益を大きく阻害するもの」とし、社内外の連携体制の改善や利用者への周知内容・周知方法の改善、通信業界内での教訓の共有等の実施を勧告。さらに、それぞれの具体的措置の内容を2月末までにまとめ、報告するよう義務付けた。

携帯電話は、通話やメッセージのやり取りはもちろん、決済サービスや災害時の情報収集ツールとして、今や国民のライフラインになっている。

総務省は同文書で「事故における教訓を業界全体で共有することが重要である」ともしており、今後の再発防止策等の詳細について、ほかの携帯電話事業者に説明し、情報共有する機会を設けることも求めた。

昨年末に鳴り物入りで上場したが、なかなか株価が振るわないソフトバンク。その背景には、通信障害や「PayPay」のクレジットカードの不正利用、さらには同社が通信設備を使用している中国・ファーウェイの米中対立やCFOの逮捕などの問題などが影響していることだろう。

ソフトバンクグループは昨年11月に行われた2018年度第2四半期決算説明会で、「RPA(Robotic Process Automation)の導入により通信事業の人員を削減し、新規事業に力を入れていく」としていたが、新規事業の前に、まずは逆風吹く通信事業の早急な立て直しが求められている。