シャープ業績回復の原動力、鴻海流経営の中身

シャープ業績回復の原動力、鴻海流経営の中身

2017.03.22

シャープが2017年3月13日に大阪府堺市の同社本社で行った社長会見は、シャープの業績回復が順調に進んでいることを裏付けるとともに、鴻海流による改革が、その原動力となっていることを示すものになった。

シャープは、2016年度業績見通しが、営業利益および経常利益で黒字化する見通しを明らかにしている。通期の最終黒字化は来年度以降になるが、それでも第3四半期(2016年10~12月)は、最終黒字化し、着実に成果をあげている。

シャープの戴正呉社長

シャープの戴正呉社長は、「業績の数字は問題にはしていない。株価も気にしていない。内部統制と、構造改革の推進を重視している。構造改革においては、経営資源の最適化、責任ある事業推進体制、成果に報いる信賞必罰の人事制度の3点から取り組んだ」と、成果の要因を示すが、数字はしっかりとついてきている。

シャープは2015年度には、448億円の営業赤字と、2223億円の最終赤字を計上していた。そのシャープが、ここまで回復した理由はなにか。

それはひとことでいえば、鴻海流ともいえる経営手法が浸透してきたことに尽きるだろう。

鴻海流投資への考え方

鴻海流といえる手法のひとつは、投資に対する考え方の浸透だ。

戴社長は、「私は300万円以上のものはすべて決済する。この半年間に、2000件を決裁してきた」とする。

判断のポイントは、この投資が必要なのか、それに至るプロセスはどうなっているのかという点だという。「最初の2カ月の合格率は20%以下。いまでは、7~8割に合格率が高まっている」と戴社長。それまでの投資への提案内容が甘かったこと、そしてこの半年間で、投資に対する社員の意識が変化してきていることを示唆する。

「私は、かつての経営陣のように150億円もの減損が発生するような案件を、精査をせずに決済はしない。カンパニー長にも任せない。そこが以前の経営とは異なる」と語る。

今回の会見は、新たに設置した「集会室」を初めて外部に公開したが、これは、シャープの独立経営時代には、車寄せだった部分。戴社長は、「クルマが2台止まる車寄せだった部分を改装したものであり、そこにガラス窓とカーペットを張っただけで、大きなイベントを行えるスペースを、低コストで作ることができた。今後、記者会見や株主総会にも使える」などと、同じ話を数回繰り返した。これが鴻海流の考え方なのだろう。

会見が行われた「集会室」車寄せだったとは……

そして、こんな言い方もする。

「3月12日に、サウジアラビアの国王が来日したが、専用機から降りる際のタラップがエスカレータになっていた」と前置きし、「本社入口に2階に通じるエスカレータがある。ここにエスカレータが必要なのか。ここは、シャープであって、サウジアラビアではない。この場所に、エスカレータは必要ない」と、冗談混じりに不要な投資が多いことを指摘する。

投資に対する鴻海流ともいえる考え方は、こんなところからうかがい知れる。こうした考え方が全社に浸透しようとしているわけだ。

鴻海とのシナジー効果

2つめは、鴻海とのシナジー効果だ。これも鴻海傘下だからこその成果が生まれている。

すでに、鴻海の拠点を活用した、シャープブランド製品の生産はいくつか開始されている。たとえば、超軽量のスティック掃除機として国内で話題を集めているラクティブエアも鴻海の拠点で生産されたものだ。

さらに、物流面でも鴻海のグローバルネットワークを活用することでのコストダウン効果もある。今後、中国や欧州市場への販売拡大においても、シャープにとっては、メリットになるだろう。

それ以外にも、鴻海との連携によって、いくつかの成果があがっている。

たとえば、かつての経営体制下において、経営不振の打開策として、スロバキアのUMCに、シャープブランドをライセンス供与する契約を締結。欧州市場からは事実上撤退をしていたが、鴻海傘下に入ってから、UMCの株式を56.7%取得して、逆に子会社化するという大鉈を振るい、UMCを通じて、シャープ製品を直接販売できる体制を作り上げた。

「今後、欧州市場においては、テレビだけでなく、様々なシャープブランドの製品を出していきたい」とする。

さらに、ビジネスソリューション事業では、スイスの複写機販売会社「フリッツ・シューマッハー」を買収。欧州での複写機販売も弾みをつける考えだ。こうした買収戦略も、シャープの独立経営時代にはなかった、鴻海傘下ならではの成果である。

また、戴社長は、こんなことも指摘する。

「かつてのシャープには、資金がなかったため、取引先が心配して取引価格を値上げしていた。だが、それが解消したため、コストダウンが図れた。また、シャープは外部の情報が入りにくく、取引先に言われるままの価格で契約をしていたことがあった。こうした取引も改善できた」

シャープには、不平等な契約が数多く存在すると戴社長は語る。

なかでも、太陽光事業におけるポリシリコン材料調達の契約の不平等さを指摘する。「この契約によって、シャープの太陽光発電は赤字になっている。技術や製品のすばらしさや、社員のがんばりとは関係がないところで赤字になっている」とする。

鴻海の力をバックに、不平等な契約も見直しを迫っているのが現状であり、シャープの野村勝明代表取締役副社長は、「過去には不平等な契約もあり、体質として回収ができず、赤字となっていた部分もあった。この半年でしっかりと見直し、コストダウン効果が生まれており、これが収益改善に寄与している」と述べる。

中国市場で反転攻勢へ

戴社長は、太陽光事業におけるポリシリコンの調達などにおける契約を指しながら、「大規模な減損を出さなくてならないような契約を結んだ人たちには責任がないのはおかしい。サインはルールではなく、責任である。私は簡単には契約をしない」などと、過去の経営陣の責任について、厳しい口調で迫る。

戴社長は、いまから5年前に、鴻海がSDPに9%を出資した当時を振り返りながら、「そのときに、私たちは経営管理委員会を設置しようと提案した。これによって、シャープを改造できていれば、いまのようにはなっていなかった。その時からアドバイスができたはずだ」と悔やむ。そして、「過去7年の業績悪化の責任は社長にあった」と断言。過去の経営陣のやり方を強烈に批判してみせた。

堺工場のあるグリーンフロント堺

一方で、今後も中国市場などにおいて、鴻海の生産体制や販売網を生かして、事業拡大に乗り出す考えを示す。これも鴻海流ならではの仕掛けだ。

「昨年2月24日に、シャープは約3500億円の偶発債務が判明したことを発表したが、私がチェックをしたら、そのうちの半分の要因が中国であった。これは、リベートや税金、コストなどによるもの」とし、「日本と中国は文化が違う。だが、鴻海は中国市場に強い。中国市場は鴻海にサポートしてもらいたいと考えており、コンシューマ向け製品の製造、販売を鴻海に任せることができる」などと語った。

戴社長は、「昨年4月2日の記者会見では、2~4年で黒字化するという目標を掲げたが、9月13日までの1カ月間にチェックをした結果、いろいろと手を打てば、黒字化できると考えた」と、シャープの体質の甘さを指摘。これまでの経営革新によって、投資削減で300億円、鴻海とのシナジー効果を含む費用削減で370億円、和解金や事業譲渡などの一過性収益で183億円の効果があることをあげてみせた。

「信賞必罰」の人事制度の中身

そして、もうひとつ、鴻海流として見逃せないのが、戴社長が掲げる「信賞必罰」の人事制度だ。

戴社長が、「普遍な経営ポリシー」とするこの制度は、「成果をあげた人にしっかりと報いる」のが基本方針。さらに、「優秀な人材や若手人材の活躍を後押しする仕組みへと改革し、年齢構成を是正する」という考えを打ち出す。

新たに発表した信賞必罰をベースにした賞与改革では、2017年度の賞与として、年間4カ月分を原資に設定。業績貢献に応じて、最大8カ月から最低1カ月で分配。8倍の格差をつけたメリハリがある賞与を支給する。まさに、「成果をあげた人にしっかりと報いる」制度だ。

さらに、特別な貢献が認められる社員には、社長特別賞を支給。「1、2万円程度のレベルのものではない。もらってびっくりする額」(戴社長)とする。

3月24日には、2回目となる社長特別賞を支給する予定であり、「約500人が対象になる」という。つまり、500人の社員にびっくりするほどの金額が支払われることになる。

そして、「入社まもない新入社員にも、やりがいがある仕事に挑戦する機会を提供し、優秀者には入社半年後でも大幅な給与引き上げを行う」とし、能力と責任、貢献次第では、5万円も昇給する場合があるという。

成果をあげていない人、そして年齢を重ねた社員には、厳しい人事制度であるが、戴社長は、意に介さない。

「去っていく人はかまわない。いまの経営陣と一緒にやりたいと思う人が残ればいい。シャープには白髪まじりの人が多かったが、シャープの平均年齢を45~46歳程度に是正したい」と述べた。

さらに採用戦略として、通年採用や第2新卒の採用を拡大。2018年4月の採用者は、2017年4月に比べて倍増を計画しているという。加えて、「シャープは3年間に渡って、研修を行ってこなかった。これからは細かくやっていきたい」と述べた。

IoTの企業を目指す

一方で、シャープそのものの変革にも言及する。

「これまでのシャープは家電メーカー。私は、シャープをIoTの企業にしたいと考えている」とし、「目指しているのは、『人に寄り添うIoT企業』。この実現は私の使命である」とコメントする。

「日本のすべての電機メーカーが、家電メーカーと呼ばれることが似合わなくなっている。シャープも、これからは、IoTの企業に転換しなくてはならない」とし、「人に寄り添うというのは、我々が市場に送り出す製品が、人がすぐに使え、より緊密な関係を持ちたいという意味がある」と位置づけ、「IoTのビジネスは、中核になるのは家電だが、それだけでビジネスをするのではなく、エコシステムとしてビジネスを捉えたい。ソフトウェア、コンテンツ、AI、ビッグデータなどを組み合わせたエコシステムによって、新たなビジネスモデルを作り上げたい」と語る。

しかし、その推進役を果たす拠点は中国に置く。

「日本の市場は、IoTでは遅れている。日本はITの活用においては先進国ではないということを認識しなくてはいけない」とし、中国・深センに商品開発センターを新設。この拠点を核にした取り組みを進める考えだ。

「IoTを原動力とし、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティを対象にビジネスを成長させる。ここでは、鴻海との連携が重要になる」とし、「商品開発ばかりのビジネスモデルから転換し、事業という観点から全体のビジネスを考え、会社の将来、事業の将来までを考えるビジネスモデルにしていく」というのが、今後のシャープの姿と位置づける。

国内は合格、海外は不合格

戴社長に、これまでの7カ月間の経営について、自己採点の結果を聞いてみた。

「10点満点中6点」と戴社長は語り、「国内は合格点だが、海外は不合格」とする。

4月から始まる2017年度には、欧州市場におけるシャープブランド製品の展開強化、ASEANでのラインアップ拡大、中国市場での鴻海との連携による体制強化、そして、米国市場での体制の立て直しなどにも挑む考えを示す。

とくに、米国では、前経営体制下において、米国市場におけるシャープブランドのテレビ販売のライセンスを中国ハイセンスに供与。「私は、いまはなにもできない状況にある」(戴社長)とする。

だが、戴社長は、この改革にも意欲的だ。

「経営は難しいことにチャレンジするものである。ハイセンスとの話し合いも、ネゴシエーションが大切。がんばればできるといった気持ちを持っている」とする。

米国では、液晶パネル工場建設計画も浮上しており、これを最大限生かすためにも、米国市場において、自らがシャープブランドを販売できる地盤づくりは急務といえる。

シャープといえば世界の亀山工場

「ここ2~3年のシャープは、守りが多かったが、これからは攻めの戦略へと転換する。そのためには、既存領域に留まらず、技術への積極投資、グローバルでのブランド強化、新規事業の加速という3点から取り組むことになる。詳細については、5月中旬に発表予定の中期経営計画において説明する」と、戴社長は述べる。

シャープが回復基調にあるのは明らかだ。だが、過去には、黒字化しては赤字に陥るという事態に陥ったこともあり、外野からみれば、将来の業績に対する不信感はいまだ払拭しにくい。しかし、鴻海流の経営手法の導入で、シャープの企業体質が変化しているのは明らかだといえるだろう。

その上で描かれる5月中旬に発表予定の中期経営計画の内容はどうなるのか。次は、鴻海流の攻めの戦略の描き方が注目される。

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、殴り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に「あ、BMWだ!」と感じてしまうクルマになっているとしたら、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。