シャープ業績回復の原動力、鴻海流経営の中身

シャープ業績回復の原動力、鴻海流経営の中身

2017.03.22

シャープが2017年3月13日に大阪府堺市の同社本社で行った社長会見は、シャープの業績回復が順調に進んでいることを裏付けるとともに、鴻海流による改革が、その原動力となっていることを示すものになった。

シャープは、2016年度業績見通しが、営業利益および経常利益で黒字化する見通しを明らかにしている。通期の最終黒字化は来年度以降になるが、それでも第3四半期(2016年10~12月)は、最終黒字化し、着実に成果をあげている。

シャープの戴正呉社長

シャープの戴正呉社長は、「業績の数字は問題にはしていない。株価も気にしていない。内部統制と、構造改革の推進を重視している。構造改革においては、経営資源の最適化、責任ある事業推進体制、成果に報いる信賞必罰の人事制度の3点から取り組んだ」と、成果の要因を示すが、数字はしっかりとついてきている。

シャープは2015年度には、448億円の営業赤字と、2223億円の最終赤字を計上していた。そのシャープが、ここまで回復した理由はなにか。

それはひとことでいえば、鴻海流ともいえる経営手法が浸透してきたことに尽きるだろう。

鴻海流投資への考え方

鴻海流といえる手法のひとつは、投資に対する考え方の浸透だ。

戴社長は、「私は300万円以上のものはすべて決済する。この半年間に、2000件を決裁してきた」とする。

判断のポイントは、この投資が必要なのか、それに至るプロセスはどうなっているのかという点だという。「最初の2カ月の合格率は20%以下。いまでは、7~8割に合格率が高まっている」と戴社長。それまでの投資への提案内容が甘かったこと、そしてこの半年間で、投資に対する社員の意識が変化してきていることを示唆する。

「私は、かつての経営陣のように150億円もの減損が発生するような案件を、精査をせずに決済はしない。カンパニー長にも任せない。そこが以前の経営とは異なる」と語る。

今回の会見は、新たに設置した「集会室」を初めて外部に公開したが、これは、シャープの独立経営時代には、車寄せだった部分。戴社長は、「クルマが2台止まる車寄せだった部分を改装したものであり、そこにガラス窓とカーペットを張っただけで、大きなイベントを行えるスペースを、低コストで作ることができた。今後、記者会見や株主総会にも使える」などと、同じ話を数回繰り返した。これが鴻海流の考え方なのだろう。

会見が行われた「集会室」車寄せだったとは……

そして、こんな言い方もする。

「3月12日に、サウジアラビアの国王が来日したが、専用機から降りる際のタラップがエスカレータになっていた」と前置きし、「本社入口に2階に通じるエスカレータがある。ここにエスカレータが必要なのか。ここは、シャープであって、サウジアラビアではない。この場所に、エスカレータは必要ない」と、冗談混じりに不要な投資が多いことを指摘する。

投資に対する鴻海流ともいえる考え方は、こんなところからうかがい知れる。こうした考え方が全社に浸透しようとしているわけだ。

鴻海とのシナジー効果

2つめは、鴻海とのシナジー効果だ。これも鴻海傘下だからこその成果が生まれている。

すでに、鴻海の拠点を活用した、シャープブランド製品の生産はいくつか開始されている。たとえば、超軽量のスティック掃除機として国内で話題を集めているラクティブエアも鴻海の拠点で生産されたものだ。

さらに、物流面でも鴻海のグローバルネットワークを活用することでのコストダウン効果もある。今後、中国や欧州市場への販売拡大においても、シャープにとっては、メリットになるだろう。

それ以外にも、鴻海との連携によって、いくつかの成果があがっている。

たとえば、かつての経営体制下において、経営不振の打開策として、スロバキアのUMCに、シャープブランドをライセンス供与する契約を締結。欧州市場からは事実上撤退をしていたが、鴻海傘下に入ってから、UMCの株式を56.7%取得して、逆に子会社化するという大鉈を振るい、UMCを通じて、シャープ製品を直接販売できる体制を作り上げた。

「今後、欧州市場においては、テレビだけでなく、様々なシャープブランドの製品を出していきたい」とする。

さらに、ビジネスソリューション事業では、スイスの複写機販売会社「フリッツ・シューマッハー」を買収。欧州での複写機販売も弾みをつける考えだ。こうした買収戦略も、シャープの独立経営時代にはなかった、鴻海傘下ならではの成果である。

また、戴社長は、こんなことも指摘する。

「かつてのシャープには、資金がなかったため、取引先が心配して取引価格を値上げしていた。だが、それが解消したため、コストダウンが図れた。また、シャープは外部の情報が入りにくく、取引先に言われるままの価格で契約をしていたことがあった。こうした取引も改善できた」

シャープには、不平等な契約が数多く存在すると戴社長は語る。

なかでも、太陽光事業におけるポリシリコン材料調達の契約の不平等さを指摘する。「この契約によって、シャープの太陽光発電は赤字になっている。技術や製品のすばらしさや、社員のがんばりとは関係がないところで赤字になっている」とする。

鴻海の力をバックに、不平等な契約も見直しを迫っているのが現状であり、シャープの野村勝明代表取締役副社長は、「過去には不平等な契約もあり、体質として回収ができず、赤字となっていた部分もあった。この半年でしっかりと見直し、コストダウン効果が生まれており、これが収益改善に寄与している」と述べる。

中国市場で反転攻勢へ

戴社長は、太陽光事業におけるポリシリコンの調達などにおける契約を指しながら、「大規模な減損を出さなくてならないような契約を結んだ人たちには責任がないのはおかしい。サインはルールではなく、責任である。私は簡単には契約をしない」などと、過去の経営陣の責任について、厳しい口調で迫る。

戴社長は、いまから5年前に、鴻海がSDPに9%を出資した当時を振り返りながら、「そのときに、私たちは経営管理委員会を設置しようと提案した。これによって、シャープを改造できていれば、いまのようにはなっていなかった。その時からアドバイスができたはずだ」と悔やむ。そして、「過去7年の業績悪化の責任は社長にあった」と断言。過去の経営陣のやり方を強烈に批判してみせた。

堺工場のあるグリーンフロント堺

一方で、今後も中国市場などにおいて、鴻海の生産体制や販売網を生かして、事業拡大に乗り出す考えを示す。これも鴻海流ならではの仕掛けだ。

「昨年2月24日に、シャープは約3500億円の偶発債務が判明したことを発表したが、私がチェックをしたら、そのうちの半分の要因が中国であった。これは、リベートや税金、コストなどによるもの」とし、「日本と中国は文化が違う。だが、鴻海は中国市場に強い。中国市場は鴻海にサポートしてもらいたいと考えており、コンシューマ向け製品の製造、販売を鴻海に任せることができる」などと語った。

戴社長は、「昨年4月2日の記者会見では、2~4年で黒字化するという目標を掲げたが、9月13日までの1カ月間にチェックをした結果、いろいろと手を打てば、黒字化できると考えた」と、シャープの体質の甘さを指摘。これまでの経営革新によって、投資削減で300億円、鴻海とのシナジー効果を含む費用削減で370億円、和解金や事業譲渡などの一過性収益で183億円の効果があることをあげてみせた。

「信賞必罰」の人事制度の中身

そして、もうひとつ、鴻海流として見逃せないのが、戴社長が掲げる「信賞必罰」の人事制度だ。

戴社長が、「普遍な経営ポリシー」とするこの制度は、「成果をあげた人にしっかりと報いる」のが基本方針。さらに、「優秀な人材や若手人材の活躍を後押しする仕組みへと改革し、年齢構成を是正する」という考えを打ち出す。

新たに発表した信賞必罰をベースにした賞与改革では、2017年度の賞与として、年間4カ月分を原資に設定。業績貢献に応じて、最大8カ月から最低1カ月で分配。8倍の格差をつけたメリハリがある賞与を支給する。まさに、「成果をあげた人にしっかりと報いる」制度だ。

さらに、特別な貢献が認められる社員には、社長特別賞を支給。「1、2万円程度のレベルのものではない。もらってびっくりする額」(戴社長)とする。

3月24日には、2回目となる社長特別賞を支給する予定であり、「約500人が対象になる」という。つまり、500人の社員にびっくりするほどの金額が支払われることになる。

そして、「入社まもない新入社員にも、やりがいがある仕事に挑戦する機会を提供し、優秀者には入社半年後でも大幅な給与引き上げを行う」とし、能力と責任、貢献次第では、5万円も昇給する場合があるという。

成果をあげていない人、そして年齢を重ねた社員には、厳しい人事制度であるが、戴社長は、意に介さない。

「去っていく人はかまわない。いまの経営陣と一緒にやりたいと思う人が残ればいい。シャープには白髪まじりの人が多かったが、シャープの平均年齢を45~46歳程度に是正したい」と述べた。

さらに採用戦略として、通年採用や第2新卒の採用を拡大。2018年4月の採用者は、2017年4月に比べて倍増を計画しているという。加えて、「シャープは3年間に渡って、研修を行ってこなかった。これからは細かくやっていきたい」と述べた。

IoTの企業を目指す

一方で、シャープそのものの変革にも言及する。

「これまでのシャープは家電メーカー。私は、シャープをIoTの企業にしたいと考えている」とし、「目指しているのは、『人に寄り添うIoT企業』。この実現は私の使命である」とコメントする。

「日本のすべての電機メーカーが、家電メーカーと呼ばれることが似合わなくなっている。シャープも、これからは、IoTの企業に転換しなくてはならない」とし、「人に寄り添うというのは、我々が市場に送り出す製品が、人がすぐに使え、より緊密な関係を持ちたいという意味がある」と位置づけ、「IoTのビジネスは、中核になるのは家電だが、それだけでビジネスをするのではなく、エコシステムとしてビジネスを捉えたい。ソフトウェア、コンテンツ、AI、ビッグデータなどを組み合わせたエコシステムによって、新たなビジネスモデルを作り上げたい」と語る。

しかし、その推進役を果たす拠点は中国に置く。

「日本の市場は、IoTでは遅れている。日本はITの活用においては先進国ではないということを認識しなくてはいけない」とし、中国・深センに商品開発センターを新設。この拠点を核にした取り組みを進める考えだ。

「IoTを原動力とし、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティを対象にビジネスを成長させる。ここでは、鴻海との連携が重要になる」とし、「商品開発ばかりのビジネスモデルから転換し、事業という観点から全体のビジネスを考え、会社の将来、事業の将来までを考えるビジネスモデルにしていく」というのが、今後のシャープの姿と位置づける。

国内は合格、海外は不合格

戴社長に、これまでの7カ月間の経営について、自己採点の結果を聞いてみた。

「10点満点中6点」と戴社長は語り、「国内は合格点だが、海外は不合格」とする。

4月から始まる2017年度には、欧州市場におけるシャープブランド製品の展開強化、ASEANでのラインアップ拡大、中国市場での鴻海との連携による体制強化、そして、米国市場での体制の立て直しなどにも挑む考えを示す。

とくに、米国では、前経営体制下において、米国市場におけるシャープブランドのテレビ販売のライセンスを中国ハイセンスに供与。「私は、いまはなにもできない状況にある」(戴社長)とする。

だが、戴社長は、この改革にも意欲的だ。

「経営は難しいことにチャレンジするものである。ハイセンスとの話し合いも、ネゴシエーションが大切。がんばればできるといった気持ちを持っている」とする。

米国では、液晶パネル工場建設計画も浮上しており、これを最大限生かすためにも、米国市場において、自らがシャープブランドを販売できる地盤づくりは急務といえる。

シャープといえば世界の亀山工場

「ここ2~3年のシャープは、守りが多かったが、これからは攻めの戦略へと転換する。そのためには、既存領域に留まらず、技術への積極投資、グローバルでのブランド強化、新規事業の加速という3点から取り組むことになる。詳細については、5月中旬に発表予定の中期経営計画において説明する」と、戴社長は述べる。

シャープが回復基調にあるのは明らかだ。だが、過去には、黒字化しては赤字に陥るという事態に陥ったこともあり、外野からみれば、将来の業績に対する不信感はいまだ払拭しにくい。しかし、鴻海流の経営手法の導入で、シャープの企業体質が変化しているのは明らかだといえるだろう。

その上で描かれる5月中旬に発表予定の中期経営計画の内容はどうなるのか。次は、鴻海流の攻めの戦略の描き方が注目される。

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大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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スープラは最高の合作? トヨタ副社長に聞く新型スポーツカーの存在意義

スープラは最高の合作? トヨタ副社長に聞く新型スポーツカーの存在意義

2019.05.20

トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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