「女性活躍推進法」施行直後の今、女性に求められる活躍とは

「女性活躍推進法」施行直後の今、女性に求められる活躍とは

2016.04.28

「男女雇用機会均等法」施行から30年。この節目に、企業の女性登用のレベルを「見える化」することで、女性の社会進出がさらに加速することが期待される「女性活躍推進法」が施行された。現在企業は業界や職種によってその進捗度合いはバラバラだが、女性活躍の先進企業は今、育児をしながらも仕事を続けるための両立支援から次のフェーズに移行している。そこにも新たな課題が見えてきている。その課題とは何か。

復職セミナーに参加する休職中の女性社員など

 育休から復帰後も戦力として期待する企業

3月、東京都内にある情報サービス業の日立ソリューションズ本社では、翌年度に育休から復帰予定の女性およそ50人が久しぶりに会社に来ていた。彼女たちの目的は、毎年この時期に会社が開いている復職セミナーへの参加だ。

「企業がみなさんに期待していること、それはまさしく戦力なのです。貢献できる存在ということです。『私ではない』という人がいるかもしれないですが、少なくともそういう時代に生きているのです」と、集められた女性社員の前でそう話し始めたのは、日立ソリューションズで女性活躍推進の旗振り役を務める、ダイバーシティ推進センタの小嶋美代子センタ長。この後も、「戦力」「活躍」といった言葉が彼女の口から何度も出てきた。

会場で話を聞いていた筆者は驚いた。女性を雇用の調整弁として使い捨てる企業もある。そんな中、戦力として職場に戻ってくることを期待されているというのは、女性にとってうれしいことかもしれない。一方でブランクがあり、これから時間的な制約がある中で働く彼女たちからすれば、戦力として求められることは、心の負担になる恐れもあると思ったからだ。

復職セミナーに参加した吉田史絵さんは「『あなたに期待している』ということが伝わって、実はプレッシャーに感じました。気を引き締めていかなくてはならない」と話した。

日立ソリューションズダイバーシティ推進センタの小嶋美代子センタ長

「ちょっと今回は厳しいことを言ったかもしれません」と小嶋さん。日立ソリューションズでは、出産後、女性社員が職場に戻ってこられるように以前から環境を整えてきた。そのため、最近では出産によって離職する女性はほとんどいなくなったという。その一方、復職した女性が権利を享受するだけになってしまうのではないかと、危惧しているという。

いままで復職セミナーに参加する際、子どもの一時預かり先が見つからなかった人には、子連れ参加を認めていたのだが、今年は認めなかったという。「子どもを連れてくることが駄目だというわけではありません。ただ預け先を見つけておかなくてはならないのだから、『働く準備をしてください』という意味です」と小嶋さん。

吉田史絵さんはこの4月で入社14年目。ソリューションのコンサルタントをしている。役職は、主任だ。6年前に双子を出産して以来、2度目の長期休暇になる。0歳児から2歳児までを預かる小規模保育に子どもを預けることが決まったが、「2歳までなので、3歳までにどこかの保育園に入れたいと思っている。入れなかったら幼稚園という選択肢も考えている」と話す。

吉田史絵さん

復職のために外部の助っ人を準備

「以前復職した時は、どんなに大変か分かっていなかった」と吉田さん。復職後にどうやって育児と業務を両立したらいいのか、復職セミナーでは、専門家から具体的なアドバイスもあった。吉田さんはセミナー後、自動で動く掃除機など最新家電を買ったり、区の子育て支援サポートに登録したりしたという。「1つの方法に頼るだけでなくて、多方面で外の力を積極的に利用して、何かあっても休まなくていいようにしたい。その方が気分的にも安心」と話す。取材した時は、これから家事のサポート先を探すとのことだった。

主任以上の女性社員全員対象とする個別育成計画書

日立ソリューションズでは、吉田さんのような主任以上の女性社員全員の個別育成計画書を所属長と人事部門で作成している。「ほとんどの場合、本人は知らないですが、この人には今年度はこんな研修を受けさせようとか、こんな仕事をさせようとか決めている」と小嶋さん。

厚生労働省HPの「女性の活躍推進企業データベース」などに公開されている日立ソリューションズの企業データによると、正社員は全体で5122人、その中で女性は736人。計画書の対象となるのは主任以上なので、147人になる(2015年4月1日現在)。若年層の女性比率が高いので今後計画書の対象が増えていき、大多数の女性社員の個別育成計画書が作られることが想定される。こうまでして活躍支援を進めるということは、本気度が高いといえよう。

「女性社員は使い捨てのリソースではありません。会社の資産なので価値を高め、利益に貢献できるようにしないとならない。だから本人の思いとは違うかもしれないけれども、会社は計画書を作っています」(小嶋さん)という。

対象になっている吉田さんは、職場の上司とはすでに面談をしていて、復職後の仕事の内容や役割が決まっている。「2回目なのでなんとなく想像できる。うまくやれるかなと思う」。また今後のキャリアについては、「無理しすぎないで、でもちょっと背伸びをすることもやりたいと思っている。自分らしく楽しく仕事ができる人になりたい」と語った。

足掛け10年 日立ソリューションズの取り組み

2010年に日立ソフトウェアエンジニアリングと日立システムアンドサービスの合併により誕生した日立ソリューションズだが、前身の2社とも2006年からダイバーシティの啓蒙啓発を進めていた。その下地があったので、日立ソリューションズが誕生した2010年度はダイバーシティの認知の年としてスタートでき、11、12年度は仕事と家庭を両立する社員に対する支援体制の整備の年として進めてきた。その結果13年度には、厚労省から「均等・両立推進企業表彰」を受賞。14年度は、実際に現場で女性が活躍できるようにという点を重視し、今やっと結果が出始めたという。

「本当にゼロベースの取り組みだったら、こんなにはできなかった」(小嶋さん)。女性の復職者が増え、管理職の中でも2、3割を占めるという。「育児と両立することと活躍することが二律背反のものではない事例が増えてきた」と手ごたえを感じている。20年までに管理職に占める女性の割合を40歳以下は30%、45歳以下は20%、全体では10%にすることが目標。今後は、ダイバーシティマネジメントに関する管理職の意識改革や、柔軟な働き方の浸透といった残りの課題に対し継続して改善を進めるそうだ。

キャリアを守るために両立をマネジメントする時代

「日立ソリューションズは企業の中でもダイバーシティがだいぶ進んでいる」。こう分析するのは、企業の女性登用の実情に詳しい松蔭大学の田中聖華准教授。事実、日立ソリューションズのように個別の育成計画書を作るまで手が回っている企業はほとんどないそうだ。進んでいる企業では、今まで子育て支援を通じて女性が退職しなくてもいいように守るという感じだったが、今ではキャリアのために両立をマネジメントするというフェーズにきているという。

企業の女性登用の実情に詳しい松蔭大学の田中聖華准教授

先進企業が真っ先に直面する課題

田中准教授によると、ここには新しいタイプの離職者の発生を招く可能性があるという。「女性自身がフェーズの切り替えについていけなくなる可能性がある」。意欲があってプランがある人はやりやすいだろうが、ついていけない人が生まれる。そういった人のモチベーションをどうやって上げさせるかという課題があるが、そこに対しての答えは今のところ出ておらず、企業は模索を続けているという。

社会全体の女性活躍の取り組み

「一億総活躍社会」の実現を目指す政府。子育て支援や介護支援、高齢者雇用の促進によって労働人口を増加させ、さらに非正規労働者の待遇改善や、最低賃金を引き上げることによって、消費支出を2025年度には20兆4000億円押し上げるとの試算を内閣府は直近で出している。女性の活躍推進に関わるのは上記の試算の中で主に子育て支援や介護支援の部分だろう。日本全体の経済成長にとって女性登用の拡大は重要になっている。「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%に」というスローガンを掲げる政府は、その1つとして昨年の夏、「女性活躍推進法」を成立させ、この4月から施行した。この法律で中央官庁、地方自治体、301人以上の従業員がいる企業は、組織内での女性の活躍状況の把握や課題を分析をした後、今後の行動計画の策定、それを届出た後に情報を公表することなどが義務づけられた。期限は2016年4月1日。

女性活躍推進法後の課題

女性活躍推進法について田中准教授によると「成立から施行までが半年では、期間が足りない」と指摘する。日立ソリューションズのように、ダイバーシティの中長期プランのあるようなところばかりではなく、一からデータを集めた企業も多い。そのため提出された行動計画について「間に合わせただけという声も聞いた」と田中准教授。従業員の声を聞く時間がなかった企業は、現実に即した行動計画になっていない恐れがあるため、提出後に問題が浮上する可能性を指摘した。

行動計画未提出が3割

実際フタを開けてみれば、4月1日現在、行動計画の提出を義務付けられた全国およそ1万5000社のうち、約3割が未提出と厚労省が発表。今後政府はどうしていくのだろうか。厚労省は、「今後、従業員301人以上の大企業のうち、一般事業主行動計画を策定・届出していない企業に対して都道府県の労働局が、電話などを使って、策定・届出を個別に強力に働きかける『ローラー大作戦』を実施し、女性活躍推進法の着実な履行確保を図っていきます」としている。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。