自動運転や遠隔医療に不可欠な「低遅延」、5Gでどう実現するか

自動運転や遠隔医療に不可欠な「低遅延」、5Gでどう実現するか

2017.03.27

モバイルネットワークの活用の広げる上で、ある意味高速・大容量通信よりも注目されているのが、ネットワークの遅延が少ないこと、つまり「低遅延」だ。遠隔医療や自動運転など、新たな産業創出に有効とされるネットワークの低遅延だが、次世代のモバイル通信方式である「5G」では、どのようにしてそれを実現しようとしているのだろうか。

モバイルに低遅延が求められたのはLTEから

クラウドの利用が一般化し、インターネットの利活用が広まるに従って、注目されるようになった問題の1つに「遅延」がある。ネットワークの遅延とは、要するに送ったデータを受信するまでにかかる時間の遅さのこと。例えば無料通話アプリなどのIP電話サービスを用いて電話をかけた際、自分の声が相手にすぐ届かないという経験をしたことがある人もいるかと思うが、それはデータ通信速度の問題だけでなく、ネットワークの遅延による問題も大きく影響しているのだ。

ネットワークに遅延があると、先のIP電話のようにインターネットを経由したサービスを利用する際に反応が悪くなり、快適にサービスを利用できなくなるという問題を抱えてしまう。しかもネットワークの遅延は、サーバー間の距離やネットワーク機器の処理などによる部分もあるため、単にネットワークが高速・大容量になれば解決するという問題でもないのだ。

そうしたことから、現在ではネットワークの遅延を減らすための技術開発なども積極的になされているようだが、それは固定回線に限った話ではない。モバイル通信においても低遅延は非常に大きなテーマの1つとなっており、現在主流のLTEの仕様を決める時から、低遅延に向けた取り組みは進められているのだ。

LTE以前、つまり3Gまでのモバイル通信は、あくまで音声通話が主、データ通信が従という位置付けであったことから、ネットワーク遅延はあまり考慮されてこなかった。だがLTEではデータ通信を主体にするなどネットワーク設計の大幅なシフトを図ったのに加え、LTEネットワーク上で音声通話を実現する「VoLTE」を実現するには、遅延が少ないことが求められていた。それゆえ、LTEで初めて低遅延が求められるようになったのである。

現行のLTEでは、片道で5ms、往復で10ms以下の遅延を実現することが定められている。だが現在標準化に向けた作業が進められている次世代のモバイル通信方式「5G」では、LTEの10分の1以下となる、1ミリ秒以下の遅延を目指すとされているなど、一層の低遅延が要求されているようだ。

5GではLTEの10分の1となる、1ミリ秒以下の低遅延の実現が求められている

遠隔操作や自動運転の実現には一層の低遅延が必要

ではなぜ、5Gでは一層の低遅延が求められるようになったのだろうか。その要因として挙げられるのが、多くの産業において、遠隔操作や自動操縦などといったITの新技術を活用した取り組みを、5Gのネットワークで実現したいという要望である。

離れた場所にいながら手術ができる遠隔医療や、ロボットなどの遠隔操作、そして車の自動運転などが実現できれば、特に少子高齢化が進む日本においては多大なメリットがあり、非常に多岐にわたる産業に大きな影響を及ぼすこととなる。だがそうした遠隔操作では微細な動きが求められるため、遅延によって操作がずれることは、致命的なミスにもつながりかねないのだ。

自動運転を例に挙げるならば、運行を管理するシステムからの指示伝達が少し遅れただけで、ブレーキなどの操作にずれが生じ、それが大きな事故につながり信頼を大きく損なう恐れがある。そうした致命的なエラーを防ぐためにも、ずれなく確実な遠隔操作を実現できる、ネットワークの低遅延化が求められているのだ。

NTTドコモはディー・エヌ・エーと自動運転車両の遠隔管制に5Gを活用する実証実験を進めているが、将来的には5Gによる自動運転制御なども考えられ、その際は低遅延が強く求められる

遅延の少なさを重視するのであれば、固定のネットワークを用いる手もあるだろう。だがワイヤレスで広範囲をカバーできる5Gであれば、自動車など搭載できる機器の幅が大きく広がるし、都市部だけでなく地方などでも遠隔操作や自動運転の恩恵にあずかりやすくなる。5Gに低遅延が求められる理由は、固定通信並みの高速・大容量通信が可能であり、なおかつフレキシビリティがあるネットワーク故なのだ。

低遅延の実現はモバイルエッジコンピューティングで

LTEの時は、従来別々に処理していた音声通話も全てデータ通信で処理するなどし、ネットワークの構成をシンプルにしたことによって、3Gよりも遅延を少なくすることができた。だがLTEの流れをくむ5Gでは同様の手法を採ることができないことから、どのようにして低遅延を実現しようとしているのかというと、「エッジコンピューティング」である。 従来、クラウドを活用したサービスといえば、全てユーザーの端末とクラウドで直接やり取りする形をとっていた。だがエッジコンピューティングでは、ユーザーが利用するネットワークの近くに「エッジサーバ」と呼ばれるサーバーを置き、さまざまな処理をエッジサーバに分散して処理させる仕組みとなっている。

ユーザーの端末からエッジサーバまでのネットワーク的な距離は、通常のクラウドよりも近いので、その分遅延も少なくなる。そこでモバイルのコアネットワークにエッジコンピューティングの概念を取り入れ、基地局などユーザーと近い部分にサーバーを配置して分散処理を図り、コアネットワーク側の負担を減らす「モバイルエッジコンピューティング」を導入することで、5Gでの低遅延実現が進められているわけだ。

5Gではモバイルのコアネットワークにエッジコンピューティングの概念を導入することで、さらなる低遅延を実現しようとしている

5Gの要素の中でも、低遅延は高速・大容量通信などと比べると一般ユーザーにしてみれば重要性が低い、地味な存在に見えるかもしれない。だが先に触れた遠隔操作の事例などを見ても分かる通り、今後のIT技術の発展を考える上で欠かすことのできない、非常に重要な要素なのだ。

それだけに、5Gによる低遅延の実現には、自動車業界を中心として多くの産業から大きな期待がかけられている。低遅延によってモバイルネットワークがもたらす新しい価値に、一層注目しておきたいところだ。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

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2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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