“あの手この手”で観光客の誘客を! 松江市による“怪談”推し

“あの手この手”で観光客の誘客を! 松江市による“怪談”推し

2017.03.31

日本政府観光局(JNTO)は、2016年の訪日外国人観光客、いわゆる「インバウンド観光客」が約2,400万人に達したと年初に発表した。訪日外国人観光客による経済効果も大きく、3兆7,000億円を超え、過去最高の水準に達している。

この観光産業においての“好景気”に乗り遅れまいと、各自治体はアイデアを絞り、いかに観光客を呼び込むかに尽力している。

そうしたなかにあって、少し変わったPRをしている都市がある。島根県の県庁所在地、松江市だ。

同市が打ち出したPR素材は「怪談」だ。

小泉八雲旧居(2015年撮影)

なぜ怪談をPR素材に選んだのか。それは、日本の怪談に魅せられたギリシャ系アイルランド人、パトリック・ラフカディオ・ハーン氏が松江市に短期間だが住居をかまえていたからだ。洋名では誰のことかわからないかもしれないが、日本での帰化名を「小泉八雲」という。

彼は「ろくろ首」や「雪女」、「耳なし芳一」といった怪談を再話した。そんな人物が住んでいた地であるからこそ、怪談を市のPR素材として用いることになった。

そんな松江市が以前から松江観光大使として迎えているのが、DLE(ディー・エル・イー)のFROGMAN氏と、小説家でもあり怪異蒐集家でもある木原浩勝氏、そして声優の茶風林氏らだ。彼らは「怪談のふるさと松江」キャンペーンに協力し、「平成松江怪談~怪し(あやかし)~」というアニメを制作した。これを松江市の観光キャンペーンに生かしていくと、メディア向けPRイベントで明かした。なお、島根県を愛するという設定の「鷹の爪団」の吉田くんもイベントに現れた。

FROGMAN氏(写真左)。左から茶風林氏と木原浩勝氏(写真中)。鷹の爪団の吉田くん(写真右)

また、夜間に怪談にゆかりのある地をめぐる「松江ゴーストツアー」を開催し、観光客の取り込みをねらうという。日没時刻の10分前に出発し、「ギリギリ井戸」「月照寺」など、松江市の怪談スポットをまわる。

化粧品メーカーの協力も

ポーラの管千帆子氏

さらに心強い“援軍”も現れた。それは化粧品大手のポーラだ。同社は「ニッポン美肌県グランプリ」を選出しているが、島根県は2015年まで4年連続で1位の栄誉に輝いている。2016年には惜しくも2位となったが、“美肌”の方々が多いという点で、ポーラはグランプリを開催する以前から同県に着目していた。

ポーラの管千帆子氏によれば、日照時間が短いのと空気に含まれる水分が多いこと、肌を荒らす風が吹きにくいという特徴が美肌の方々が多い理由とした。また、“美肌の湯”と呼ばれる玉造温泉の存在、宍道湖のシジミや出雲そばに代表される食生活、さらに“抹茶”を普通に生活にとり入れていることを挙げた。

正直いって、中国地方の日本海側、つまり島根県、鳥取県へ向けられる首都圏の観光客の意識は決して高くない。また、しばしば両県は混同される。昨年、あるテレビ番組で日本地図のテロップが出た際、島根県が鳥取県と表示された例があった。確かな情報を伝えなければならないテレビメディアにおいても、両県の区別が間違われることがあるという一例だ。この番組が流れた際、島根県・鳥取県の在住者からは「またか……また間違われた」というような、ため息交じりの書き込みがネットに数多く書き込まれたという。

自虐というキーワードも……

それは、日本地図上において、両県が隣県であること、島根県の“島”と、鳥取県の“鳥”の字が似たような漢字であること、地図上でみると中国地方の日本海側で両県とも南北ではなく東西に横たわっていることが、混同を生むのかもしれない。

こうした状況からか、両県の担当者はしばしば“自虐”という言葉を使う。この日のPRイベントでも、松江市の担当者から“自虐”という言葉が聞かれた。一方、隣県の鳥取県ではスターバックスコーヒーが県内になく、「すなば珈琲」という喫茶店をオープンしたが、これもある意味自虐といえるだろう。もっとも2015年にはスタバが鳥取県にオープンしたが……。

と、こんなことを書いてしまうと、両県の方々から怒られてしまうかもしれない。だが、広域でみれば、中国地方の日本海側は観光資源が多い。

ほんの一部地域だが、西から列挙してみよう。まず、“縁結びの神様”といわれている出雲大社がある。そして宍道湖、さらにその北東には松江城がそびえている。松江城は5番目に国宝に指定された現存天守で、いわゆる“お城ファン”と呼ばれる人々からにわかに注目を浴びている。さらに東には中海、その北にはカニで有名な境港が、さらに東には大山や鳥取砂丘が存在する。仮に2泊3日の旅程では、これらすべてをめぐるのはなかなか難しいだろう。

松江市産業観光部 井川浩介氏

しかも境港は海産物だけではなく、「ゲゲゲの鬼太郎」の生みの親、水木しげる氏の出身地でもある。「妖怪の町」と知られ、怪談をウリにする松江市との相性はよい。松江市産業観光部の井川氏は、「当然、山陰全体の観光資源の活用を進めていきます。そして松江は、地理的にそうした観光地の中心です。ぜひ“観光時の拠点”にしていただきたいです」と話す。

このように、観光資源を両県で生かす取り組みは以前から行われていた。昨年には海外からの誘客を目指す「山陰インバウンド機構」を発足させ、島根県・鳥取県へのUIターンを促す合同就職説明会も行われている。“自虐”という言葉を使いながらも、決して手をこまねいているわけではないのだ。

まったくの余談だが、筆者は「出雲縁結び空港」への着陸が気に入っている。宍道湖に滑走路が突きだしたこの空港では、着陸時に水面ぎりぎりの景色が窓から眺められるのが一興。一瞬だがまるで“水上不時着”のような雰囲気で、着陸まである意味“自虐的”な感じだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。