実は原点回帰のワゴンR、混戦の軽自動車市場で試される“スズキらしさ”

実は原点回帰のワゴンR、混戦の軽自動車市場で試される“スズキらしさ”

2017.02.03

2月1日に発表されたスズキの新型「ワゴンR」。24年の歴史を持つ同社の看板車種だが、今回のモデルチェンジはデザインを刷新し、マイルドハイブリッドを搭載するなど激変とも呼べる内容だ。しかし中身をつぶさに見ていくと、その方向性は変化というよりも、むしろ原点回帰であることを発見するのである。

看板車種ワゴンRを刷新したスズキ

攻めた内容のモデルチェンジ

攻めてるなあ。2月1日に開催された、通算6代目となる新型ワゴンRの発表会を一言でまとめれば、こうなる。

過去5世代はスクエアだったボディは、トヨタ自動車の高級ミニバン「アルファード/ヴェルファイア」を思わせるダイナミックなラインを取り入れ、フロントマスクは3種類も用意された。これまでもワゴンRとカスタム版「ワゴンRスティングレー」の2種類があったが、新型は上級グレードにもうひとつ独自の顔を与えていたのだ。

新しいスティングレーのフロントマスクは、どこか米国のSUVを思わせるような独特の顔つきだ

初採用の装備も豊富に

インテリアは1993年にスタートしたワゴンRの歴史で初めてセンターメーターを取り入れ、ドライバーの前には軽自動車で初のヘッドアップディスプレイを用意した。使いやすさで定評のある室内は、リアドア内側に傘を立てて置けるなど、さらに進化している。

スズキは日本車で初めてアップルの「CarPlay」を我が国で展開した先進的なブランドでもある。もちろんワゴンRもこの流れに乗っていて、CarPlayだけでなくグーグルの「Android Auto」にも対応した。

軽量化も最近のスズキの得意技。ワゴンRも例外ではなく、「HEARTECT(ハーテクト)」と名付けた新プラットフォームの採用で、ボディ剛性を高めながら20キログラムの軽量化を実現している。「S-エネチャージ」と呼ばれていたパワーユニットも高性能化が図られ、10秒以内ならクリープ走行ができるマイルドハイブリットに進化。1リッターあたり33.4キロメートルのカタログ燃費を実現した。

さらに安全面では、単眼カメラと赤外線レーザーを併用したデュアルセンサーブレーキサポートをスズキの軽自動車で初採用。衝突被害軽減ブレーキのほか、ペダル踏み間違い事故を防ぐ誤発進抑制機能などを持つ。ヘッドランプのハイ/ロー自動切り替えもやはり、スズキの軽自動車で初採用し、ESP(横滑り防止装置)は全車に標準装備した。

浮かび上がる初代との類似点

キープコンセプトを貫いてきたワゴンRにとって、激変という言葉を使いたくなるほどの進化だった。でも筆者はその裏にもうひとつ、“原点回帰”というメッセージを感じた。

初代ワゴンRがデビューした頃を覚えている人は少ないと思われるが、当時スズキがこの新型車に託したのは、2シーター+マルチスペースというコンセプトだった。つまり4人乗りのファミリーカーとして考えたわけではなかった。ゆえに後席には、背もたれを倒すと座面が沈み込み、低くフラットに畳める凝った格納方式を採用する一方で、運転席側にはリアドアがない1+2ドアという個性的なボディ形状とした。

個性的なボディ形状の初代ワゴンR

新型の発表会で、この再来と思わせる説明があった。センターピラーを太くし、前後のサイドウィンドーをはっきり分けたのは、パーソナルスペースと実用スペースを融合したデザインを表現したためと説明したのだ。言われてみれば、真横からの眺めは初代の1+2ドアを連想させるものだった。

横長のリアコンビネーションランプがバンパー上にあることも初代と似ている。初代はテールゲートの開口部を大きく取るためにこの造形としたものの、商用車っぽく見えるということで、2代目以降は縦長となってゲート両脇に移った。それが新型では再び、ゲートの開口幅を重視してこの位置に戻したのだ。

新型ワゴンRは、横から見ても後ろから見ても原点回帰しているポイントを見つけることができる

原点回帰する意味

ではなぜ、ワゴンRは原点回帰と思われる進化をしたのか。近年の軽自動車マーケットの状況が関係していると思われる。

いまの軽自動車の売れ筋はハイトワゴンだ。ダイハツ工業の「タント」や本田技研工業の「N-BOX」がベストセラー争いを繰り広げており、ワゴンRは脇役に甘んじている。スズキにも「スペーシア」というハイトワゴンがあるのだが、ベストセラー争いには加われていない。

軽自動車の売れ筋はハイトワゴン

そこでワゴンRは、これらの争いに加わるのではなく、パーソナル性の高いワゴンという独自性をアピールすることにした。それを強調するためにデザインを激変させたようだ。

人気のハイトワゴンとは一線を画す仕様

ファミリーカーとして使うなら、室内の広さは大事であり、ワゴンRがタントやN-BOXと勝負するのは厳しい。でも逆に、この2台にはデザインの自由度が少ない。スズキはここに目を向け、ワゴンRに凝ったデザインを与えたのではないだろうか。

スズキの代表取締役社長である鈴木俊宏氏は発表会に登壇し、「ワゴンRは軽自動車のど真ん中のクルマ」と言い切った。ベーシックな「アルト」、ハイトワゴンのスペーシア、SUVの「ジムニー」や「ハスラー」など、さまざまな車種をそろえる中で、中心に位置するのがワゴンRというメッセージだ。

価格は107万8920円から、月間販売目標は「ワゴンR」と「ワゴンRスティングレー」の合計で1万6000台だ

そのワゴンRが、ハイトワゴンが人気だからといって背を高くしたり、スライドドアを装備したりしたら、ど真ん中ではなくなってしまう。ハイトワゴンとは一線を画すという意味を込めた言葉でもあったようだ。

もうひとつ、テレビCMにも原点回帰が見られた。広瀬すずさんと草刈正雄さんの2人を起用したCMで、車名の最後のRを「○○であ~る」と語尾にアレンジして使っていたからだ。

ワゴンRという車名の由来が、実はここにある。当初は別の車名を考えていたというが、スズキとして初の軽ワゴンであることから、当時の代表取締役社長で現会長の鈴木修氏の「セダンもある、ワゴンもあ~る」という一言が、そのまま車名になったと言われる。そのときのフレーズを新型のCMで使っていたのだ。

ブランドで売る戦略、着々と

昨年デビューした小型クロスオーバーの「イグニス」では、スズキはかつての名車「フロンテクーペ」やSUV「エスクード」などのデザインモチーフをボディの各所に取り入れることで、スズキらしさを絶妙に表現していた。これと同じような戦略を新型ワゴンRからも感じたのだった。

新型ワゴンRからはスズキらしさを打ち出す戦略が感じられる

スズキは2年前、「お行儀の悪い売り方」、つまり行き過ぎた販売競争から脱却すると宣言した。言い換えれば今後はブランドで売っていくと宣言したわけだが、その方針は昨年のイグニスや今年のワゴンRを見る限り、独自のスタイルで着実に実践されつつあると感じた。

家電の常識を破った、アイリスオーヤマ「モップ付き」掃除機

モノのデザイン 第43回

家電の常識を破った、アイリスオーヤマ「モップ付き」掃除機

2018.09.19

家電の常識を破った「モップ付き」スティック掃除機

アイリスオーヤマならではの、家電と日用品の垣根を越えた製品

そのデザイン上の工夫や開発秘話を聞いた

アイリスオーヤマから6月に発売された「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」。最大の特徴は"モップ付き"であることだ。

本体にモップを入れるケースが装着されており、ホコリを取りたい際にはその場でサッとモップを取り出し、モップがけの手作業がスムーズに行えるというアナログ思想のアイディア製品。モップを入れるケースには静電気を発生させる素材を採用し、ホコリを効率的に吸着できる仕組みを持つ。さらに、付いたホコリはそのままスタンドで吸引できるという仕様だ。

まさに、家電のみならず、食品から生活用品まで、幅広い商材を取り扱うアイリスオーヤマならではと言える製品だが、どのような経緯でこのハイブリッドな仕様が生まれたのだろうか。開発秘話やデザイン上のこだわりを、同社デザインセンター・マネージャーの宮脇将志氏に伺った。

アイリスオーヤマの「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」。"極細"や"軽量"にこだわりを持つ、同社のスティック型掃除機の中でもプレミアムモデルであり、これまで市場になかった要素を持つユニークな製品だ

家電と日用品の垣根を越えた「時短ツール」

スティッククリーナーにモップを合体させるという、ありそうでなかった斬新な発想。宮脇氏によると、そのアイディアの源泉や経緯となったのは、"掃除"という、より大きなカテゴリーからのアプローチだったという。

「弊社はもともと日用品のメーカーで、回転モップなど掃除に関する製品を古くから扱っています。一方で、掃除機に関しては、近年、"極細"や"軽量"を切り口にした製品を多数開発しています。そうした中で、掃除のための便利なツールであって、時短につながるような切り口はないだろうかと考えた際に、注目したのが"ハンディモップ"。今回の製品のアイディアはそうした流れでつながっていきました」と宮脇氏。

"なるほど家電"を標榜する、アイリスオーヤマらしい+αのアイディアは"モップ付き"。スティック部分にケースを備え、その中にモップを常備することで、掃除機をかけながら気になる場所をその都度モップ掛けできるという、効率的な掃除動線を実現した

しかし、一口に"モップ付き"と言っても、さまざまな形状やスタイルがあるものだ。そうした中、初期の段階で着目されたのは、実はまったく別の企画だった。

新製品のスティッククリーナーのモップ部分の仕組みを独立させたかたちで、当初は卓上タイプの製品として手作りで試作を繰り返したという。

難しかったのはモップに付いたホコリの除去。宮脇氏は「モップ=静電気でホコリを吸着する仕組み。逆に、モップについたホコリを除去するためには静電気を剥がす必要があるのですが、それをどのようにして行うかが大きな課題でした」と明かす。

そこで思いついたのが、金属のプレートに接触させて放電することで除電を行う仕組み。新製品の極細軽量スティッククリーナーのスタンド下部には、金属のプレートが備えられているが、この部分にモップを挿し込むことで除電を行い、「どうせなら掃除機の力も使って吸い取ってしまおう」と、セットしたクリーナーヘッドに搭載したパワーブラシがホコリを掻き取り、同時に吸引も行うというスタイルが自ずと決まったのだという。

逆説的な言い方だが、まさにモップと掃除機という2つのアイテムを融合させたからこそ生まれた製品とも言える。

ホウキのような「極細」を目指して

充電台の下にはモップ用のクリーナー部も搭載。金属のプレートで除電を行いながら、クリーナーヘッドでホコリを吸い取れる

こうして結実したモップ一体型のスティッククリーナーだが、モップの収納に関してはパイプ部分に収めるというアイディアも検討されていた。しかし、パイプ部分にはスイッチがあるため、電気をつなぐ必要がある。すると、自ずと太くなってしまうため、"細い"という切り口を阻害してしまうという理由から断念するに至ったという。

「デザイン上はもちろんモップが中に納まったほうがよかったのですが、消耗品として別に付けたほうがかえって使いやすいのかなという結論になりました。最終的にはユーザーさんが使いやすいほうがいいということで、デザインよりも使いやすさが優先されました」

そして、性能や機能とデザインを両立するために、"軽量極細"というもう1つのコンセプトにも苦心したとのこと。「デザイン上、本来はホウキみたいなスティック状の極細にしたかった」と話す宮脇氏だが、掃除機において不可欠なモーターの直径が、どうしてもデザイン上の制約になってしまうのは避けられない要素だと話す。

「新製品はヘッド内部に縦回転のサイクロン気流を発生させるパワーヘッドの搭載などにより、従来モデルよりも吸引力が約3倍もアップするなど性能面でも自信があります。しかし、本体の細さはそのままモーターの径になるので、これ以上のスリム化は望めませんでした」

しかし、それでも極力細く見せようとデザイン面でもさまざまな工夫が試みられている。モーター部分は膨らませたままにし、それ以外の部分をギリギリまでそぎ落として細くする一方、部分的に色を切り替えるなどの視覚効果を利用してできるだけ細く見せるようデザインされている。

モーター部分以外をそぎ落とすデザイン処理。これは、アイリスオーヤマの軽量極細スティッククリーナーのシリーズに共通したデザイン意匠でもあるのだ。

「ホウキみたいな極細を目指した」というデザイン。細さはモーターの直径までが限界ではありながらも、それ以外の部分はギリギリまでそぎ落とし、配色などの工夫によりメリハリを付ける視覚効果で、よりほっそりとしたイメージを持たせている
パイプを外せばハンディクリーナーとしても利用できる2ウェイ方式

さらに、発売時の市場想定価格が2万6,800円(税別)と、"値ごろ感"も訴求ポイントに掲げるアイリスオーヤマとしては、高価格帯の製品でもある。同社では従来から設定した価格のもとで、性能、機能、デザインのすべての面において可能な限り最適・最良の製品を目指すことを製品開発のポリシーに掲げているが、同製品でもそれが貫かれている。

「当社の掃除機のラインアップでは、ハイエンドなモデルにあたります。そこで、高級感を出すためにフル塗装するなど仕上げに関してもこだわりました」と宮脇氏。また、外観上は機能的に見せるため、「全体的には一直線につないだデザインにすることで先進的なイメージを出しつつも、あえてところどころに"角"を出すことで道具っぽさを醸し、機能的なイメージを強調しました」と説明する。

同製品のカラーにはローズゴールドとマッドブラックの2トーンを採用。「2トーンにより機能的イメージを訴求すると同時に、ローズゴールドには少し色気があり、さりげないインテリアのアクセントになる」というのが理由だそうだ。

「極細軽量スティッククリーナー KIC-SLDCP5」の企画・設計・デザインなど製品化の秘話を明かしてくれた、アイリスオーヤマのデザインセンター・マネージャーの宮脇将志氏

"モップ付き"という斬新さが史上に絶大なインパクトを与えた、アイリスオーヤマの新製品。しかし、開発の舞台裏や製品に込められた開発者の思いは想像以上に大きいものを感じた。

同社はもとは日用品から出発したメーカーで、家電業界では新参者とされている。だが、それゆえに可能な製品カテゴリーや業界またぎの自由な発想で企画・開発された独自の製品や発明品の誕生が、今後も期待できそうだ。

新iPhoneで話題の「eSIM」って、そもそも何? GSMA規格に対応?

新iPhoneで話題の「eSIM」って、そもそも何? GSMA規格に対応?

2018.09.19

新型iPhoneが採用発表して話題の「eSIM」を解説

「Apple SIM」との違い、GSMAの標準規格に対応か

日本のeSIMサービスは新型iPhoneで使える?

アップルが発表した新しいiPhone。今回は「iPhone XR」「iPhone XS」「iPhone XS Max」という3モデルが登場したが、その中でも注目の機能の一つが「eSIM」の採用だ。eSIMとはどんな機能なのか。

参考記事:新型はiPhone XSとiPhone XR、Apple Watchも刷新
https://biz.news.mynavi.jp/articles/-/1992

参考記事:大手キャリアも「eSIM」採用が相次ぐ(2017年の記事)
https://biz.news.mynavi.jp/articles/-/818

eSIMとはソフトウェアで物理SIMの機能を実現するもの

eSIMはEmbedded SIM(埋め込みSIM)の略で、物理的なSIMカードではなく、ソフトウェアでSIMの機能を実現するものだ。そもそもSIMとは、「Subscriber Identity Module」の略称で、加入者の情報を記録するためのICチップを搭載したプラスチックカードをSIMカードと呼んでいる。このSIMカードを端末に挿すと、通信時に契約者情報などが送信され、携帯電話会社(キャリア)が契約を確認して、加入状況に応じたサービスを提供できる。

こうした仕組みにより、主に海外ではSIMカードを抜き差しして端末を切り替えて使うことが一般的だった。標準のSIMカードはクレジットカードサイズだが、その後ミニSIM、マイクロSIM、ナノSIMとどんどんサイズが小さくなってきた。歴史的には既に25年以上も使われている技術だ。

契約者情報が埋め込まれるため、基本的には改ざんなどの攻撃に対する耐タンパー性(解析のしにくさ)が求められる。これはセキュアエレメントとしてICチップ内で保護されているが、この情報を安全に端末内にダウンロードして設定を書き換えられれば、SIMカードを物理的に挿入する必要がなくなる。

これを実現するのがeSIMだ。物理的なSIMカードと同等レベルの安全性を実現するため、現在は世界の携帯電話業界の団体であるGSMAが規格を策定し、標準仕様となっている。

契約切り替えが容易になり、海外旅行などでメリット

eSIMを使うと、SIMカードを差し替えるように端末に紐付く契約を切り替えられる。端末を買い換えたら、その端末に契約情報をダウンロードして書き込めば、SIMカードを使わなくても通信が行える。別の端末を使うときも、情報を書き換えるだけでいい。インターネット経由でキャリアと新たに契約した場合も、SIMカードの到着を待たずに、その契約データを端末に書き込めばすぐに通信ができる、というのもメリットだ。

複数のキャリアの情報を一つの端末に書き込めるので、海外旅行に行ったら現地のキャリアと契約して、日本に戻ったら国内のキャリアに切り替える、といったことも簡単にできる。

海外によく行く人だと、毎回スマートフォンのSIMカードを差し替えて現地のSIMカードを挿して使う、という場合も多いだろう。eSIMであれば、差し替えの手間はなく、現地に着いたら、スマートフォンの画面から契約したキャリアに切り替えるだけで済む。

eSIMの仕様は「Remote SIM Provisioning」と呼ばれている。仕様では、まずユーザーがキャリアとの契約を行う。オンラインで契約してしまえばショップに行く必要もない。その後、SIMの書き換えのためにキャリアのRemote SIM Provisioningシステムに接続。この接続にはQRコードを使う例が一般的で、端末のカメラで読み取ってアクセスする。そこからSIMプロファイルがセキュアにダウンロードされ、これをインストールしてアクティベートすれば完了となる。仕様上は、どのキャリアのネットワークに繋がっていてもプロファイルをダウンロードして切り替えができるようになっていなければならないようだ。

新しいiPhoneの「eSIM」はGSMA標準規格か

アップルは、以前からiPadの一部モデル向けに「Apple SIM」と呼ばれる機能を提供しており、似たようなことはできていた。ほかにもGlocalMeがクラウドSIMと呼ばれるサービスを提供している。どちらも、対応する事業者との契約から通信開始までを全てワイヤレスで実行できるが、正式には標準規格で定められたeSIMではない。

逆に、新しいiPhoneでは明確に「eSIM」と表現しており、Apple SIMとは呼称していない。これは、GSMAが定めた標準規格に則っているからだろう。

新しいiPhoneが、こうした仕様に準拠しているかどうかは現時点では分からない。ただし、新しいiPhoneのeSIMソリューションを提供しているのはG+D Mobile Securityのようだ。これは、iPhone発表の当日、米国ロサンゼルスで開催されていたMobile World Congress Americas 2018の会場のG+Dブースで筆者が確認した。同社によれば、新しいiPhoneのeSIMは、GSMAの標準規格に従ったものだということだ。

MWC AmericasのG+Dブースに展示されていたeSIM対応端末
同G+Dブースの、こちらはIoTデバイス向けのeSIMチップ

国内ではIIJがフルMVNOでのeSIMの提供を目指しており、すでにSurface Pro LTE Advancedでの動作検証を行っているという。同PCはeSIMの規格に準拠しており、これもG+Dがソリューションを提供しているため、基本的には新しいiPhoneでも利用可能になると想像できるが、これも現時点では何とも言えない。

新しいiPhoneのeSIM対応では、すでに国外のいくつかのキャリアの名前が挙がっているが、国内3キャリアの名前は出なかった。これに対してソフトバンクは前向きに対応を検討しているという。KDDIも「デュアルSIMの機能使ったサービスで、新しい価値を提供できるように検討中」としている。

ソフトバンクはすでにIoTデバイス向けのeSIMサービスを提供しているし、KDDIもWindows 10を搭載したeSIM対応のAlways connected PCに対してeSIMの通信プランを提供しており、これはSurface Pro LTE Advancedを含めたPC向けのサービスということで、iPhoneにも適用できる可能性はあるだろう。

それに対して、NTTドコモは「お客様のニースや反応を見ながら検討する」とのコメントにとどまっているが、同社も法人向けの「docomo IoT回線管理プラットフォーム」を提供しているほか、タブレット端末の「dtab」でeSIMをサポートしている。

3社ともすでにこうしたeSIMソリューションを提供しており、各社のeSIMプラットフォームはGSMAのRemote SIM Provisioning規格に対応していることから、iPhoneのeSIM対応サービスの提供は可能そうだ。

デュアルSIMがスタンダードになれば世界が変わる

グローバルを含めて、eSIMの用途は基本的に当初はプリペイドでの使い方がメインになるだろう。iPhoneが物理SIMのスロットとeSIMのデュアルSIM構成なので、物理SIMとして普段使っている自国のキャリアのSIMを入れて、海外では現地のキャリアをプリペイド契約して使う、という方法が想定できる。

海外でのプリペイド利用だけでなく、物理SIMをメイン回線、eSIMはサブ回線という場合に、簡単に契約が書き換えられるeSIMならキャリアの乗り換えがより容易になる、というメリットもある。物理的なSIMが不要なので、SIMカードの差し替えも必要なく、どこにいても即座に契約が変更できるというユーザーにとってのメリットは大きい。

もっとも、現実的には「乗り換えやすさ」をキャリアが嫌う可能性はある。プリペイド契約が少ない日本では頻繁にキャリアを切り替えることも多くはないが、2020年を前に、海外からの旅行者が簡単に現地の通信サービスを契約できるというメリットもあり、まずはそうした面からの対応は期待できる。

eSIMに対応するコストもあるため、世界各国でeSIMが使えるわけでもなく、物理SIMは当面なくならないが、iPhoneが対応したことで、今後スマートフォンメーカーも追従する可能性もある。当面は、物理SIMのデュアルスロットの方が便利だが、世の中の変化が始まるきっかけにはなりそうだ。