街で乗るには奇抜すぎる? なぜメーカーはコンセプトカーを作るのか

街で乗るには奇抜すぎる? なぜメーカーはコンセプトカーを作るのか

2017.02.04

世界各地で開催されるモーターショーで毎年のように発表されるコンセプトカー。多くのクルマ好きの注目を集める一方で、「コンセプトカーって何?」という声も聞かれる。コンセプトカーをそのまま市販したようなクルマに乗る筆者が、コンセプトカーが生まれる背景を紹介していく。

今年も登場! 目を引くコンセプトカー

1月に開催された北米国際オートショー(デトロイトショー)を皮切りに、今年も世界各地でモーターショーが開かれる。モーターショーの華といえばコンセプトカー。2017年秋に開催が予定されている東京モーターショーでも、国内外のブランドがさまざまなコンセプトカーを出展することになるだろう。

デトロイトショーに登場した日産自動車の「Vmotion 2.0」

でもここで、「コンセプトカーって何?」と疑問に思う人もいるはずだ。確かに、コンセプトとは概念という意味の言葉で、曖昧な表現だ。

それに歴史を振り返れば、コンセプトカーという言葉が使われ始めたのは最近のことで、昔は「ショーカー」や「プロトタイプ」といった表現のほうが一般的だったという記憶がある。日本語では「試作車」や「参考出品車」などの言葉が使われていた。これらを総称してコンセプトカーと呼ぶようになったようだ。

デトロイトショーに先立って開催されたCESで発表になったトヨタ自動車「TOYOTA Concept-愛i(コンセプト・アイ)」(画像左)と本田技研工業「Honda NeuV(ニューヴィー)」

カロッツェリアも源流に

コンセプトカーの歴史を作ったのは米国とイタリアだと考えている。米国ではゼネラルモーターズ(GM)をはじめとする旧ビッグ3が、モーターショーに向けて未来的なデザインのクルマを製作し、展示していた。GMは「モトラマ(Motorama)」という名前で自前のモーターショーを開き、コンセプトカーを見せるほどだった。

一方のイタリアでは、ピニンファリーナやベルトーネなど、ボディの製作を専門に行うカロッツェリアと呼ばれる工房がショーカーを送り出していた。戦前の自動車は、カーメーカーはエンジンとシャシーを作るだけで、ボディは専門業者に任せるのが一般的だったのだが、創造性豊かなカロッツェリアは戦後もその流れを受け継いだ。

ピニンファリーナが製作したマセラティ「バードケージ75th」

彼らはカーメーカーと組んでボディを手掛ける傍ら、一品製作も請け負った。それらの多くは富裕層の注文に応えるためだったけれど、戦後多くのカーメーカーがボディも手掛けるようになると、多くの人に彼らの実力を知ってもらうために、モーターショー向けのモデルを製作することが多くなり、そのために自前のブースまで出すようになった。

ユーザーの反応を見るという役割も

こうした流れが日本にも伝わり、1960年代には東京モーターショーで国内メーカー各社がショーカーを展示するようになった。そういったクルマの中には、今見てもカッコイイと思えるスポーツカーが何台もある。高度経済成長時代を反映した、夢のクルマたちだった。

でも多くは、そのまま市販されることはなかった。すると一部のクルマ好きから、市販車に結び付かないショーカーには興味がないという声が出始めた。

そこでカーメーカーでは、将来的に市販の可能性があるクルマに関しては市販予定車という呼び名をつけて、ショーカーと区別することにした。またショーカーについても、市販車とまったく結び付きのないモデルは影を潜めるようになった。つまりフロントマスクやサイドのキャラクターラインなど、ボディやインテリアの一部に将来導入予定のデザイン要素を入れて、ユーザーの反応を見るようになったのだ。

ユーザーの反応が良ければ、市販車もその路線で送り出す。全体がそのまま現実になるわけではないけれど、一部のデザイン概念は市販車と共通している。よってコンセプトカーという言葉が使われるようになったようだ。

つまり先にコンセプトカーが開発されて、あとから市販車が作られるという順序が一般的なのだが、同時進行する場合もある。代表例が日産のコンパクトSUV「ジューク」だ。

ジュークがデビューする前年、つまり2009年のジュネーブモーターショーや東京モーターショーに、「カザーナ」というコンセプトカーが出展されている。実はこのカザーナ、ジュークをベースに前後フェンダーなどを盛って、よりインパクトのある形にしたものだ。このカザーナが好評だったことからジュークもその路線で市販し、ヒットにつなげたのである。

日産「カザーナ」

マツダ「靭」が体現したものとは

さらに個別の車種ではなく、ブランド全体の方向性を示したコンセプトカーも存在する。こちらの代表例は、マツダが2010年に発表し、翌年の東京モーターショーなどで公開した「靭(しなり)」だ。

当時マツダは、リーマンショックによる販売不振が経営に大きな影響を及ぼしていた。ここでマツダは守りに入らず、テクノロジーとデザインの両面で新しい思想を導入した。前者が「スカイアクティブ(SKYACTIV TECHNOLOGY)」、後者が「魂動(こどう)」だ。このうち、魂動の方向性を示すために作られたのが靭だった。

マツダ「靭」

靭を公開するまでは、マツダの社内でも、この方向性で良いのかどうか迷っている人もいたという。しかし実際に展示してみると大好評。社内の風向きがガラッと変わり、魂動デザイン実現に向けて進んでいったそうだ。「アテンザ」が靭の市販版であることは説明するまでもないだろう。

ワガママなクルマ好きをうならせるコンセプトカー

当初は市販が前提ではなかったのに、発売してしまったコンセプトカーもある。ちょっと昔の例になるが、「ギア/いすゞ117スポルト」がそうだった。

カーデザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロがギアというカロッツェリアに在籍していた頃、ギアとつながりを持ち始めたいすゞ自動車は、スポーツカーのデザインを依頼した。1966年のジュネーブショーに展示したところ、複数の賞を受賞するほどの高評価。これを受けていすゞは市販化を決定し、ジウジアーロの協力を受け、2年後に「117クーペ」として発売したのだ。

いすゞ「117クーぺ」

実は筆者が所有しているルノー「アヴァンタイム」も、似たようなプロセスで生まれた。ルノーは昔からコンセプトカーを積極的に送り出してきたブランドのひとつで、その一環として1999年のジュネーブショーでアヴァンタイムを初公開。翌年は東京モーターショーにも展示されるなど、世界各地のモーターショーを巡るうちに、ミニバンをベースにクーペに仕立てた斬新な発想が反響を呼び、2001年にほぼそのままの形で市販されたのだ。

ルノー「アヴァンタイム」

しかし残念ながら、いざ売り出してみると購入する人はごくわずかで、たった2年で約8,500台を作っただけで生産を終了してしまうという失敗作になってしまった。昨年のトヨタ・プリウスの販売台数の約30分の1と書けば、少なさが分かるだろう。

市販に結び付かないショーカーはケシカランと言いつつ、いざ市販してみると現実離れして買う気にならないという。クルマ好きってなんてワガママな人種なんだと思うかもしれないが、そういう人たちを満足させる夢のクルマが、コンセプトカーというものなのかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu