パイロットの1000円万年筆、ヒットの秘訣はアナログ感

パイロットの1000円万年筆、ヒットの秘訣はアナログ感

2017.02.06

パイロットの万年筆「カクノ」がヒットしている。

同製品は、初めて万年筆に触れる子供向けに作られた万年筆。1本1000円で購入できる低価格をはじめ、カラフルなデザインや、子供が使いやすい工夫などが施され、「価格が高そう」「大人が使うもの」「ちょっと古臭い」といった万年筆のイメージを覆した。

カクノがヒットしているその理由は、どこにあるのだろうか。

1000円で購入できる万年筆「カクノ」

おこづかい万年筆

パイロットコーポレーション 営業企画部 高筆企画グループ 斉藤真美子氏

カクノ開発を担当した営業企画部 高筆企画グループの斉藤真美子氏は、「万年筆は『高価で大人が使うモノ』というイメージがあるが、カクノはそれを覆す製品にしたかった」と振り返る。

同社では、カクノ開発より前に、3000円の万年筆「コクーン」を発売している。初めて万年筆を持つ20代から30代の若い世代に向け、「大人への第一歩としてふさわしいデザイン」をコンセプトにしたモデルだ。当時、同社が販売する万年筆の中では、最も安価だった。

そんな背景もあり、経営層はコクーンよりもさらに手に取りやすい「1000円」の万年筆を開発してほしいと斉藤氏に命じた。社内で検討したところ、ターゲット層の重複を防ぐため、対象年齢をさらに下げることに決定。

ヨーロッパなどでは、万年筆を使う学校の授業があり、ここからヒントを得て、「親や祖父母が小学生の子供に買い与えられる万年筆」というコンセプトが出来上がった。

従来の万年筆とは考え方を根本的に変えたため、デザイン面でも従来とは違う工夫がされている。例えば、鉛筆をモチーフにした六角形のボディを採用した。また、通常は付いているはずのクリップは省いている。これは、筆記具をペンケースに入れて持ち運ぶ子供には、かえってクリップが邪魔になることが分かったからだ。さらに、机上で転がらない工夫として、キャップの縁に突起を付けた。

コスト面では、1000円で販売するため、地道な努力を積み重ねた。材料費削減のため、ペン先以外は樹脂製にした。また、部品数を6部品と少数で構成することで組み立ての手間を省いた。さらに、キャップをカラフルにする代わり、軸色は1色に統一して、コスト削減したままカラーバリエーションを増やす工夫を行った

その一方で、書き味にはこだわった。ペン先は、コクーンで使っているペン先を転用することで、価格を抑えると同時に、1000円とは思えない書き味向上につなげた。斉藤氏は、「いくら安くても書き味が悪いと万年筆全体のイメージが悪くなる。絶対にそこは譲れなかった」と語る。

パッケージも、透明の容器に入れ、ペン先を見せ、万年筆であることが分かるように工夫。対面販売が多い万年筆だが、手軽に手に取ってもらえるようなデザインにした。

小学生が使いやすい万年筆をコンセプトにしている

美文字ブームが追い風に

カクノの販売ターゲットは子供だったが、発売当初の購入者は万年筆の利用経験がある男性が多かった。しかしその後は、TwitterなどのSNSから知った女性ユーザーが増加。

また、発売した2014年は「美文字」がブームになった時期。手書き文字を綺麗に書きたいという需要から、「美文字」練習帳と一緒に、万年筆を購入して文字の練習に励む人も増えたことも要因。時代の需要と合ったこともヒットの理由と言えるだろう。

さらに、初心者のみならず万年筆マニアの心にもカクノはヒットした。万年筆の醍醐味といえば、お気に入りの万年筆とインクを組み合わせて文字を綴る楽しみがある。パイロットでは、日本の情景になぞられた色名が付けられた「色彩雫(いろしずく)」というインキを用意している。

万年筆インキ「色彩雫(いろしずく)」

カクノはコンバーターに対応しており、瓶入りインクを使用できる。それを知ったユーザーが、カクノとコンバーターを1人で何本も購入し、複数色の色彩雫を試す現象が起きた。実際、コンバーターが品切れし、色彩雫が飛ぶように売れた。ちなみに、コンバーターの価格が500円、色彩雫が1500円。1000円の万年筆を使うために、ペン本体よりも高い製品が売れたという。

また、カクノなどの低価格万年筆のヒットが、高価な万年筆の販売にも波及し売り上げを伸ばしている。人気モデルのみならず、マイナー製品の売上も好調らしい。

こうしてカクノは、万年筆業界を牽引する製品となった。

「書く=パーソナル」と考える人が増加

リーマンショックの頃、経費削減で会社から文房具が支給されなくなったことで、逆に文房具のパーソナルユース市場が広がったと言われる。世の中の景気は悪くなったが、文房具市場は低迷しなかった。

手書きの機会が減った中で、文房具にお金を掛けるようになった理由として、斉藤氏は「今までの筆記用具は、会社から支給されていたから、書ければ良かった。だが、会社から支給されなくなり、いざ自分で購入するとなった時に、より使いやすくて、自分の好みのモノを選びたいと考える人が増えたのだと思う。筆記具を自分で選ぶ権利が発生したと考えるユーザーが増加したことだろう」と分析している。

実際、安い物はコストパフォーマンスが良いかというとそうでもない。どうせ使うなら少し良い製品を選びたい、高付加価値の製品が良いと考えるユーザーが増えたのではないか。

同じ文房具でも、他の文房具とは違う需要が存在する。筆記具の場合は、常に持ち歩く物で、手帳やノートに自分の考えを書くという動作が、かなりパーソナルな行為である。そのため、こだわりを持って選びたいと考える傾向が見られるように思う。

同社の万年筆を比較。同じペン先であるカクノとコクーンだが、書き味は違う。また、金ペン先のカスタムシリーズと比べても顕色ない。 (上)カクノ 細字 (中)コクーン 細字 (下)カスタム ヘリテイジ91 細字

まずは万年筆ユーザーを増やしたい

「私たちも、筆記具の会社にいなかったら、使う場面がほとんど無いかもしれない。ボールペンなどが台頭し、万年筆は無くても困らないカテゴリーになってしまった。だけど、明らかに他の筆記具にはない良さがある」と斉藤氏は訴える。

万年筆もバブル期には、売上不調で悩んでいた。手書きの手帳から電子手帳に人気が移り、「手間が掛かる万年筆なんて見向きもされなかった時代」(斉藤氏)だったという。現在、バブル以降に生まれた万年筆を知らない世代が増えている。

「カクノを初めとした低価格帯の万年筆を発売する1番の意味は、万年筆ユーザーを増やすこと。まずは若い世代に使ってもらい、万年筆の衰退を防ぎたい。また、使って良いと思ったユーザーが誰かにプレゼントするといった風に、万年筆の輪が広がってほしい」と斉藤氏は述べる。

カクノなら、「価格が高そうだし、選び方も良く分からない。対面販売は敷居が高いし、使いこなせるか心配」と考えるユーザーでも、1000円という気軽な価格で試せる。

手作りやアナログ感が"熱い"時代

近年、「手作り」や「アナログ」といったキーワードが元気である。ハンドメイド製品の売買が活発化し、アナログレコードの人気も再燃している。90年代に忘れ去られていた物を再評価する動きなのではないか。そういった市場を牽引するのは、20代30代の(若い)世代だ。

ある調査結果でも、万年筆を40代50代が「ステータスがある」「字が上手く書けそう」「アナログ感がある」と懐古的なイメージで答えている中、20代は「かっこいい」「おしゃれ」とファッション感覚で評価している。モレスキンなどの高価なノートに万年筆を挿した場面を、InstagramやTwitterなどのSNSにアップするユーザーも多い。

また、ビジネスマン向けの雑誌などで、ビジネス小物のひとつとして万年筆が取り上げられる場面も多い。腕時計や革靴と同じく、自分を「どんな風に見られたいか」を、どの万年筆を選ぶかで演出できるアイテムになっている。

万年筆人気の秘密は、手間が掛かるけど愛着が湧く「アナログ感」満載なところにあるのではないだろうか。今や筆記具は、自分の考えを綴る「パーソナルな部分」で利用するからこそ、こだわりを持って選ぶ人が増えている。

万年筆人気の要因となった「アナログ」や「パーソナル」といったキーワードが、新たなヒット商品を生むヒントになるかもしれない。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。