復活に向け視界は良好? シャープの黒字体質へのスピード感

復活に向け視界は良好? シャープの黒字体質へのスピード感

2017.02.06

シャープが発表した2016年度第3四半期決算は、シャープの回復が着実に進展していることを示すものになった。

第3四半期(2016年10~12月)の業績は、売上高が前年同期比13.8%減の5715億円、営業損益は前年同期の38億円の赤字から188億円の黒字に転換。経常損益は前年同期の141億円の赤字から167億円の黒字、当期純損益は前年同期の247億円の赤字から42億円の黒字となった。

再建中のシャープ。回復の進展を早める段階へ

シャープは、2015年度連結業績において、1619億円という大幅な赤字を計上。自主再建を諦め、2016年8月からは、鴻海傘下での再建をスタートしているのは周知の通りだ。

シャープの野村勝明副社長兼管理統轄本部長。前回の決算とはかわって、落ち着いた雰囲気の会見となった

今回の第3四半期決算会見では、シャープ 代表取締役副社長兼管理統轄本部長の野村勝明氏が、鴻海傘下における半年間の再建の道のりを辿るように、「2016年度第2四半期(7~10月)では、営業黒字を達成したの続き、今回発表した第3四半期では、最終黒字化を達成。ソーラー事業を除いたすべてが黒字化している」とコメント。「構造改革のフェーズから事業拡大フェーズへと移行することになる」と宣言した。さらに、「第4四半期は売上げ成長も対前年比を超えていくことになる。第4四半期の黒字化も達成できるだろう。今後は、事業拡大に軸足を移し、成長軌道へと転換していく」と述べた。

2016年8月12日に、鴻海による出資が完了し、8月13日には、鴻海科技集団の戴正呉副総裁が、シャープの社長に就任。戴社長は、「2016年度下期黒字化」を公言し、それを自らの最初の「通信簿」に掲げた。

今回の業績発表にあわせて、2016年度通期見通しを上方修正。売上高は11月1日公表値に対して、500億円増の2兆500億円、営業損益は116億円増の373億円の黒字。経常損益、当期純損益ともに赤字幅が縮小し、経常損益は161億円増の2億円の赤字、当期純損益は46億円増の372億円の赤字とした。残念ながら通期黒字化は達成できないようだが、公言した「下期黒字化」の目標達成に向けた歩みが、鴻海傘下で、着実に進展していることを示したといえる。

ディスプレイデバイス事業が黒字に

第3四半期の業績を振り返ると、米州における液晶テレビ事業のブランドライセンス化や、大手スマートフォン顧客向けの液晶パネル、カメラモジュールの需要減少などによって売上高は減収となったものの、構造改革の断行やコストダウンの取り組み成果、モデルミックスの改善効果などがあり、これらが営業損益の大幅な改善に寄与している。

また、物流の改善などを含めた鴻海グループとのシナジー効果が、当初予定の99億円に対して、「計画を若干上回るスピードで進んでいる」という効果も見逃せない。

とくに、評価されるのが、ディスプレイデバイス事業における黒字化だ。

第3四半期では、売上高が前年同期比23.3%減の2454億円となったが、営業損益は前年同期の110億円の赤字から、110億円の黒字に転換。「液晶テレビと大型液晶、中小型液晶のすべてで黒字を確保できた」とした。

売上高の約4割を占め、「液晶一本足打法」といわれるシャープの経営再建において、ディスプレイデバイス事業の回復は、「一丁目一番地」として取り組まなくてはならないものだ。今回の第3四半期決算でのディスプレイデバイス事業の黒字転換は、3カ月間の業績結果とはいえ、再建に向けた重要なマイルストーンを達成したといってもいいだろう。

鴻海流の経営手法で各事業が黒字体質に

野村副社長は、「各事業が、黒字体質になってきた」と前置きしながら、「戴社長の体制に移行してから、経営のスピードが速くなっている。これが業績の改善につながっている。そして、グローバルでの戦い方が社員の間に浸透してきた」などと語る。

シャープの戴正呉社長

戴社長は、社長就任直後に、「ビジネスプロセスを抜本的に見直す」、「コスト意識を大幅に高める」、「信賞必罰の人事を徹底する」という3つの方針を掲げ、いわば鴻海流の経営手法を導入してきた。

とくに、信賞必罰を打ち出した人事制度においては、「高い成果を上げた従業員を高く処遇する体系にする」一方で、「挑戦を避け、十分な成果を出せない場合には、マネージャーは降格するなど、メリハリの効いた仕組みを導入する」とし、2017年1月16日からは、一般社員への役割等級制度の導入を皮切りに、一人ひとりの成果にしっかり報いる「信賞必罰を基本とした人事制度」の本格運用を開始。「これまでの『標準に集中した評価』から、『メリハリのある評価』へ転換し、社長特別賞与の増枠をはじめとしたインセンティブ制度の拡充などを進める」(シャープ・戴社長)としている。

鴻海流の経営戦略を象徴する取り組みのひとつが、2016年8月27日の組織改革で実施した「研究開発事業本部」への改称だろう。従来の研究開発本部の名称のなかに、「事業」という言葉が追加しただけの改称だが、この改称は、いわば、研究開発部門のプロフィットセンター化を意味するものだ。つまり、研究開発本部も自ら稼ぐ姿勢を盛り込んだものといえる。

戴社長は、「コーポレート部門のプロフィットセンター化を進め、最終的には、ゼロ・オーバーヘッド化を目指す。すべての組織が収益を追求する」としていたが、それを実行に移している組織のひとつが、この研究開発事業本部ということになる。

実際、研究開発事業本部は、事業化に向けていくつかの取り組みを開始している。例えば、スタートアップ企業をモノづくりの観点から支援するオープンインキュベーション活動である「SHARP IoT. make Bootcamp」を2016年11月から正式にスタート。10日間の合宿型セミナーを実施し、2人で85万円という参加費用を徴収する。また、合宿を終えた企業を対象に、量産アクセラレーションプログラムを提供。そこでも、商品開発から量産までをワンストップで支援するビジネスをスタートしている。それらのスタートアップ企業がシャープや鴻海グループの工場を使って、製品を量産することで収益につなげるという青写真も描いている。

奈良・天理市の同社拠点で始めた新たな取組み「SHARP IoT. make Bootcamp」の様子

現時点での売り上げ貢献はわずかなものだが、研究開発部門にも収益を追求するという意識が生まれ始めているのは確かだ。かつては、「研究開発部門で生まれた優れた技術が、新規ビジネスにつながらない」と同社幹部が嘆いていた時期もあったが、鴻海流の「荒技」ともいえる組織の体質改善が、同部門の意識改革につながっているようだ。

戴社長は、今年1月、社内イントラネットを通じて、「一人ひとりのスキルの向上、変革マインドの醸成、外部からの血の注入などを通じて、個の力を高めていくことが、環境変化にも動じず、持続的な成長を実現する本当に強い組織を創り出すことに繋がると考えている。だが、まずは、社員が、『自ら成長したい』、『自らが変革を担う』といった当事者意識を持つことが必要である」と、社員に呼び掛けている。こうした意識の浸透が、業績にどうつながるかが、これから注目されそうだ。

「反転攻勢」出るための取組み続々

シャープは、今後、「反転攻勢」をキーワードに、競争力強化に取り組む姿勢を示す。

具体的には、「技術への積極投資」、「グローバルでのブランド強化」、「新規事業の加速」の3点を掲げ、「技術への積極投資」では、8KやIoTなどの将来の核となる技術への開発投資を拡大。「グローバルでのブランド強化」では、欧州テレビ市場への再参入など、M&Aやアライアンスによるブランド事業の拡大、ASEAN拡大戦略の再構築に取り組むという。そして、「新規事業の加速」では、ヘルスケアおよびメディカル事業の分社化、蓄熱材料を活用した新たな事業に挑戦する「TEKION LAB」の創設などをあげた。

そして、「再び、『技術のシャープ』を確固たるものにしていく」(野村副社長)と語る。

今年1月の社内向けメッセージのなかで、戴社長は、「シャープの競争力の源泉は独自の技術力にあり、これにさらに磨きをかけていくことが、長期的な成長を実現する上で、極めて重要」とし、具体的には、IoT関連技術、有機EL、次世代ディスプレイ、8K エコシステム関連技術を、「将来のシャープの核となる技術」と位置づけ、ここに積極投資をしていく姿勢を示した。

また、社長ファンドの創設により、重要技術開発の促進や、技術人材への投資を拡大することを示し、「将来、『金が成る』と社長が判断したものに投資をする仕組みであり、社長権限のなかで行うことになる」と、野村副社長は説明。「これまで使えなかったお金が使えるようになった。技術への積極投資を行い、拡大路線に踏み出したい」と続けた。

さらに、4月からスタートする2017年度の新たな事業推進体制では、現在、20のビジネスユニット(BU)を、約50のサブビジネスユニット(Sub-BU)に細分化。Sub-BU単位で事業拡大を加速することを目指す体制とすることも明らかにしている。

「Sub-BUのリーダーには、強いリーダーシップを発揮し、事業拡大を成し遂げ、BUへの昇格を目指してもらいたい」(戴社長)とする。

戴社長は矢継ぎ早の一手を打ち、技術の強化や、事業責任の明確化といった組織体制へと移行。今後、これらの取り組みは、さらに加速することになりそうだ。

シャープの文化を変える意識改革の舵取り重要

2016年度第3四半期の業績は、シャープの再建は着実に進んでいることを印象づけた内容になったのは確かだ。野村副社長も、「これまでは、削減などの構造改革で事業を見直してきたが、今後構造改革から競争力強化へとシフトすることになる」と拡大戦略に意欲をみせる。

だが、通期の最終黒字化は2017年度以降の課題であり、まだまだ経営体質の弱さもある。そして、戴社長体制での具体的な中期経営計画は、現時点でもまだ発表されていない段階であり、これは、2017年4月まで待たなくてはならない。それがどんな内容になるのかも、これからの注目点だ。

一方で、社員の意識改革を最優先する戴社長だが、これまでの104年の歴史が培ってきた文化を変えることは一筋縄ではいかないだろう。アクセルを踏む体制になったと認識したシャープ経営陣が、急アクセルを踏むようだと、社員は疲弊しかねない。そのあたりのさじ加減が気になるところだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。