復活に向け視界は良好? シャープの黒字体質へのスピード感

復活に向け視界は良好? シャープの黒字体質へのスピード感

2017.02.06

シャープが発表した2016年度第3四半期決算は、シャープの回復が着実に進展していることを示すものになった。

第3四半期(2016年10~12月)の業績は、売上高が前年同期比13.8%減の5715億円、営業損益は前年同期の38億円の赤字から188億円の黒字に転換。経常損益は前年同期の141億円の赤字から167億円の黒字、当期純損益は前年同期の247億円の赤字から42億円の黒字となった。

再建中のシャープ。回復の進展を早める段階へ

シャープは、2015年度連結業績において、1619億円という大幅な赤字を計上。自主再建を諦め、2016年8月からは、鴻海傘下での再建をスタートしているのは周知の通りだ。

シャープの野村勝明副社長兼管理統轄本部長。前回の決算とはかわって、落ち着いた雰囲気の会見となった

今回の第3四半期決算会見では、シャープ 代表取締役副社長兼管理統轄本部長の野村勝明氏が、鴻海傘下における半年間の再建の道のりを辿るように、「2016年度第2四半期(7~10月)では、営業黒字を達成したの続き、今回発表した第3四半期では、最終黒字化を達成。ソーラー事業を除いたすべてが黒字化している」とコメント。「構造改革のフェーズから事業拡大フェーズへと移行することになる」と宣言した。さらに、「第4四半期は売上げ成長も対前年比を超えていくことになる。第4四半期の黒字化も達成できるだろう。今後は、事業拡大に軸足を移し、成長軌道へと転換していく」と述べた。

2016年8月12日に、鴻海による出資が完了し、8月13日には、鴻海科技集団の戴正呉副総裁が、シャープの社長に就任。戴社長は、「2016年度下期黒字化」を公言し、それを自らの最初の「通信簿」に掲げた。

今回の業績発表にあわせて、2016年度通期見通しを上方修正。売上高は11月1日公表値に対して、500億円増の2兆500億円、営業損益は116億円増の373億円の黒字。経常損益、当期純損益ともに赤字幅が縮小し、経常損益は161億円増の2億円の赤字、当期純損益は46億円増の372億円の赤字とした。残念ながら通期黒字化は達成できないようだが、公言した「下期黒字化」の目標達成に向けた歩みが、鴻海傘下で、着実に進展していることを示したといえる。

ディスプレイデバイス事業が黒字に

第3四半期の業績を振り返ると、米州における液晶テレビ事業のブランドライセンス化や、大手スマートフォン顧客向けの液晶パネル、カメラモジュールの需要減少などによって売上高は減収となったものの、構造改革の断行やコストダウンの取り組み成果、モデルミックスの改善効果などがあり、これらが営業損益の大幅な改善に寄与している。

また、物流の改善などを含めた鴻海グループとのシナジー効果が、当初予定の99億円に対して、「計画を若干上回るスピードで進んでいる」という効果も見逃せない。

とくに、評価されるのが、ディスプレイデバイス事業における黒字化だ。

第3四半期では、売上高が前年同期比23.3%減の2454億円となったが、営業損益は前年同期の110億円の赤字から、110億円の黒字に転換。「液晶テレビと大型液晶、中小型液晶のすべてで黒字を確保できた」とした。

売上高の約4割を占め、「液晶一本足打法」といわれるシャープの経営再建において、ディスプレイデバイス事業の回復は、「一丁目一番地」として取り組まなくてはならないものだ。今回の第3四半期決算でのディスプレイデバイス事業の黒字転換は、3カ月間の業績結果とはいえ、再建に向けた重要なマイルストーンを達成したといってもいいだろう。

鴻海流の経営手法で各事業が黒字体質に

野村副社長は、「各事業が、黒字体質になってきた」と前置きしながら、「戴社長の体制に移行してから、経営のスピードが速くなっている。これが業績の改善につながっている。そして、グローバルでの戦い方が社員の間に浸透してきた」などと語る。

シャープの戴正呉社長

戴社長は、社長就任直後に、「ビジネスプロセスを抜本的に見直す」、「コスト意識を大幅に高める」、「信賞必罰の人事を徹底する」という3つの方針を掲げ、いわば鴻海流の経営手法を導入してきた。

とくに、信賞必罰を打ち出した人事制度においては、「高い成果を上げた従業員を高く処遇する体系にする」一方で、「挑戦を避け、十分な成果を出せない場合には、マネージャーは降格するなど、メリハリの効いた仕組みを導入する」とし、2017年1月16日からは、一般社員への役割等級制度の導入を皮切りに、一人ひとりの成果にしっかり報いる「信賞必罰を基本とした人事制度」の本格運用を開始。「これまでの『標準に集中した評価』から、『メリハリのある評価』へ転換し、社長特別賞与の増枠をはじめとしたインセンティブ制度の拡充などを進める」(シャープ・戴社長)としている。

鴻海流の経営戦略を象徴する取り組みのひとつが、2016年8月27日の組織改革で実施した「研究開発事業本部」への改称だろう。従来の研究開発本部の名称のなかに、「事業」という言葉が追加しただけの改称だが、この改称は、いわば、研究開発部門のプロフィットセンター化を意味するものだ。つまり、研究開発本部も自ら稼ぐ姿勢を盛り込んだものといえる。

戴社長は、「コーポレート部門のプロフィットセンター化を進め、最終的には、ゼロ・オーバーヘッド化を目指す。すべての組織が収益を追求する」としていたが、それを実行に移している組織のひとつが、この研究開発事業本部ということになる。

実際、研究開発事業本部は、事業化に向けていくつかの取り組みを開始している。例えば、スタートアップ企業をモノづくりの観点から支援するオープンインキュベーション活動である「SHARP IoT. make Bootcamp」を2016年11月から正式にスタート。10日間の合宿型セミナーを実施し、2人で85万円という参加費用を徴収する。また、合宿を終えた企業を対象に、量産アクセラレーションプログラムを提供。そこでも、商品開発から量産までをワンストップで支援するビジネスをスタートしている。それらのスタートアップ企業がシャープや鴻海グループの工場を使って、製品を量産することで収益につなげるという青写真も描いている。

奈良・天理市の同社拠点で始めた新たな取組み「SHARP IoT. make Bootcamp」の様子

現時点での売り上げ貢献はわずかなものだが、研究開発部門にも収益を追求するという意識が生まれ始めているのは確かだ。かつては、「研究開発部門で生まれた優れた技術が、新規ビジネスにつながらない」と同社幹部が嘆いていた時期もあったが、鴻海流の「荒技」ともいえる組織の体質改善が、同部門の意識改革につながっているようだ。

戴社長は、今年1月、社内イントラネットを通じて、「一人ひとりのスキルの向上、変革マインドの醸成、外部からの血の注入などを通じて、個の力を高めていくことが、環境変化にも動じず、持続的な成長を実現する本当に強い組織を創り出すことに繋がると考えている。だが、まずは、社員が、『自ら成長したい』、『自らが変革を担う』といった当事者意識を持つことが必要である」と、社員に呼び掛けている。こうした意識の浸透が、業績にどうつながるかが、これから注目されそうだ。

「反転攻勢」出るための取組み続々

シャープは、今後、「反転攻勢」をキーワードに、競争力強化に取り組む姿勢を示す。

具体的には、「技術への積極投資」、「グローバルでのブランド強化」、「新規事業の加速」の3点を掲げ、「技術への積極投資」では、8KやIoTなどの将来の核となる技術への開発投資を拡大。「グローバルでのブランド強化」では、欧州テレビ市場への再参入など、M&Aやアライアンスによるブランド事業の拡大、ASEAN拡大戦略の再構築に取り組むという。そして、「新規事業の加速」では、ヘルスケアおよびメディカル事業の分社化、蓄熱材料を活用した新たな事業に挑戦する「TEKION LAB」の創設などをあげた。

そして、「再び、『技術のシャープ』を確固たるものにしていく」(野村副社長)と語る。

今年1月の社内向けメッセージのなかで、戴社長は、「シャープの競争力の源泉は独自の技術力にあり、これにさらに磨きをかけていくことが、長期的な成長を実現する上で、極めて重要」とし、具体的には、IoT関連技術、有機EL、次世代ディスプレイ、8K エコシステム関連技術を、「将来のシャープの核となる技術」と位置づけ、ここに積極投資をしていく姿勢を示した。

また、社長ファンドの創設により、重要技術開発の促進や、技術人材への投資を拡大することを示し、「将来、『金が成る』と社長が判断したものに投資をする仕組みであり、社長権限のなかで行うことになる」と、野村副社長は説明。「これまで使えなかったお金が使えるようになった。技術への積極投資を行い、拡大路線に踏み出したい」と続けた。

さらに、4月からスタートする2017年度の新たな事業推進体制では、現在、20のビジネスユニット(BU)を、約50のサブビジネスユニット(Sub-BU)に細分化。Sub-BU単位で事業拡大を加速することを目指す体制とすることも明らかにしている。

「Sub-BUのリーダーには、強いリーダーシップを発揮し、事業拡大を成し遂げ、BUへの昇格を目指してもらいたい」(戴社長)とする。

戴社長は矢継ぎ早の一手を打ち、技術の強化や、事業責任の明確化といった組織体制へと移行。今後、これらの取り組みは、さらに加速することになりそうだ。

シャープの文化を変える意識改革の舵取り重要

2016年度第3四半期の業績は、シャープの再建は着実に進んでいることを印象づけた内容になったのは確かだ。野村副社長も、「これまでは、削減などの構造改革で事業を見直してきたが、今後構造改革から競争力強化へとシフトすることになる」と拡大戦略に意欲をみせる。

だが、通期の最終黒字化は2017年度以降の課題であり、まだまだ経営体質の弱さもある。そして、戴社長体制での具体的な中期経営計画は、現時点でもまだ発表されていない段階であり、これは、2017年4月まで待たなくてはならない。それがどんな内容になるのかも、これからの注目点だ。

一方で、社員の意識改革を最優先する戴社長だが、これまでの104年の歴史が培ってきた文化を変えることは一筋縄ではいかないだろう。アクセルを踏む体制になったと認識したシャープ経営陣が、急アクセルを踏むようだと、社員は疲弊しかねない。そのあたりのさじ加減が気になるところだ。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。