ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

2017.02.06

ソニーは、2016年度第3四半期連結業績を発表。その席上、通期見通しを修正。売上高は、11月公表値から2000億円増の7兆6000億円と上方修正したが、営業利益は300億円減の2400億円、純利益は340億円減の260億円とした。

ソニーが2016年度第3四半期の業績を発表。通期の純利益が下方修正へ

売上高の上方修正は、主に為替の影響によるもの。その一方で、利益の下方修正は、「第3四半期の業績では、映画分野で営業権の減損で1121億円を計上したことが影響している」と説明した。

2016年度第3四半期における映画の売上高は、前年同期比2.7%減の6006億円、営業損益が1004億円減って1142億円の赤字。また、2016年通期の映画事業の見通しは、売上高は9100億円と据え置いたものの、営業損益は830億円の赤字に転落すると予想した。

2016年度通期見通しの修正および第3四半期実績においては、映画分野の減損が、ソニー全体の経営に大きな影響を与えたのは明らかだ。

映画分野の不振が重くのしかかった

映画分野の収益見通しを下方修正

ソニーは、2017年1月30日に、リリースを出し、そのなかで、「映画分野における将来の収益計画を見直した結果、2016年度第3四半期において、映画分野の営業権について、減損1121億円を営業損失として計上した」と発表した。

今回の減損は、映画分野のうち映画製作事業の将来の収益見通しを下方修正したことによるものとし、市場縮小の加速により、BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売といったホームエンタテインメント事業の収益見通しを引き下げたことによるものと説明している。さらに、映画製作事業の将来の収益見通しにはその前提となる公開作品の収益性の低下も織り込んだという。

また、この損失は現金支出を伴うものではなく、減損の対象となった営業権の過半は、1989年に、コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメントの株式を公開買付けした際に計上したものだという。

ソニー 副社長 兼 CFOの吉田 憲一郎氏

会見のなかで吉田副社長は、映画分野について、「営業権に関して多額の減損に至ったことは、経営として重く受け止めている。また、映画分野が、中期的な目標に対して大幅な未達になっていることは重要な課題である」と反省の弁を述べる。

吉田副社長によると、映画分野の営業利益見通しは、営業権の減損を除いた実質ベースでも2億7000万ドルであり、2016年5月に発表した期初見通しに比べても、約3割減の水準だという。

さらに、「中期経営計画で掲げた2017年度の目標値も一度引き下げているが、今年度末の決算発表時に公表予定の2017年度見通しにおいては、さらにそれを下回ることになる」と、映画分野の落ち込みが激しいことを示す。

こうした映画分野における減速ぶりについては、CEOを務めたマイケル・リントン氏が2004年にソニー・ピクチャーズに入社以降、13年間という長期に渡って経営トップとして君臨。ガバナンスに問題があったとの指摘もあり、会見でもそれに関する質問も飛んだ。リントン氏は、先頃、電撃的にソニー・エンタテインメントのCEOおよびソニー・ピクチャーズのCEOの辞任を発表したばかりだ。

吉田副社長は、「映画事業は蓄積された問題がある。それは、本質的に経営の問題であると認識している」と語り、「エレクトロニクス事業が低迷しているなかで、短期的な利益を追求してきた部分が否めない。スパイダーマンの商品化権をディズニーグループに売却したり、メディアネットワーク事業(中南米の有料テレビ放送事業をタイムワーナーに売却)を売却したりといったように、短期業績を作るために、将来のキャッシュフローを切り捨てた経緯があった。これがいまの収益力の弱さにつながっている」とする。

そして、「いまの経営陣が、腰を据えて建て直していくしかない」と語る。

吉田副社長は、建て直しに向けて、ソニーの平井一夫社長自らが陣頭指揮を執る姿勢を明らかにした。

平井社長自らが映画建て直しの陣頭指揮を執る

映画は平井社長自ら建て直しへ

具体的には、平井社長自らが、映画事業の拠点がある米カリフォルニア州カルバーシティに第2オフィスを構え、映画を中心にエンタテインメント事業全体に深く関与。「ソニー・ピクチャーズの後任CEOの人選や、映画分野の経営体制の強化に優先度をあげて取り組んでいく」とする。リントン氏が今後半年間に渡って現在のポジションの残るとともに、平井社長は、ソニー・エンタテインメントの会長兼共同CEOに就任。リントン氏と連携して、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー/ATVミュージックパブリッシングといったエンタテインメント事業各社およびソニー・コーポレーション・オブ・アメリカの経営の監督にも携わることになる。

そして、もうひとつ強調したのが、「映画事業を売却する計画はない」という点だ。

減損を計上した映画製作およびテレビ番組制作を手がける事業プロダクション&ディストリビューション事業についても、「コンテンツ配信が多様化するなかで、良質なコンテンツを保有することと、作ることの価値が上昇している」とし、吉田副社長は、「映画分野は、将来の利益成長を見込んでおり、引き続きソニーにとって重要な事業と位置付けている」と述べた。

険しくなる経営計画達成への道のり

映画分野の減損によって、2016年度営業利益見通しを下方修正したソニーだが、これは中期経営計画で打ち出した目標を達成する上でも大きな課題を生むことになる。

ソニーは、平井社長体制における第二次中期経営計画を2015年度からスタート。2017年度に、連結営業利益5,000億円以上、ROE10%以上という数値目標を掲げている。

営業利益5000億円の目標には変更がないと話す

だが、今回の下方修正により、2016年度の営業利益見通しは2400億円。つまり、残り1年で営業利益を倍増にしなくてはならない状況に追い込まれたといえる。

吉田副社長は、「営業利益5000億円の目標には変更がない。チャレンジングな目標だが、達成に向けて全力をあげる」と語る。

これまでソニーが営業利益5000億円を突破したのは、1997年度に、5257億円を計上したときの一度だけ。それだけでも高いハードルであることがわかるが、今回の下方修正によって、そのハードルは一段とあがったことになる。

実は、第2次中期経営計画を打ち出して以降、ソニーの前には次々と壁が立ちはだかっている。

当初は、デバイス分野の成長が、計画達成には重要な柱になるとしていたが、スマートフォンの需要鈍化に加えて、平成28年春の熊本地震の影響で、イメージセンサーなどを生産する熊本テクノロジーセンターが一部停止。デバイス事業だけでなく、デジカメやビデオなどのイメージング・プロダクツにも影響した。描いた成長戦略のブレーキを踏まざるを得ない状況を余儀なくされてきた。

そして、今回の映画分野での減損が、さらに追い打ちをかけたというわけだ。

では、どうやってその高いハードルに挑むのか。

赤字の半導体事業 黒字化への期待

吉田副社長は、「赤字の半導体事業をしっかりとターンアラウンドさせること、ゲーム&ネットワークサービス事業を成長させていくこと、そして収益の安定化が大切である」と語る。

半導体事業は、第3四半期累計で売上高は3.2%減の5720億円、営業損益が1086億円減の206億円の赤字のままだ。だが、第3四半期はモバイル機器向けイメージセンサーの販売数量が大幅に増加して、売上高は前年同期比16.9%増の2339億円と大幅な増収を記録。2016年通期の見通しは、売上高が600億円増の7700億円とした。営業損益も前回見通しに対して340億円改善。190億円の赤字まで圧縮する計画だ。

吉田副社長は、「昨年5月に、外販向け高機能カメラモジュール事業の中止を発表し、11月には中国工場を現地企業に譲渡。これにより、多額の損失を計上した。これは、大きな反省材料だと認識している」とする一方、「イメージセンサーは、2016年度上期まで低調だったが、第3四半期から中国メーカー向け拡販の効果や地震影響の減少、円安メリットもあり、収益性は回復傾向にある」とする。

市場変動が激しいことから、市場変化を慎重に見ていく必要もあり、半導体事業が再び成長の牽引役になるにはもう少し時間がかかりそうだ。その点では、2017年度の営業利益5000億円達成の強力なドライバーにはなり得ないだろうが、黒字化による上積みの貢献が期待されている。

PS周辺ビジネスの成長

2つめのゲーム&ネットワークサービス事業では、2017年1月に、プレイステーション4の累計出荷が5340万台に達したこと、これをベースに展開しているプレイステーションネットワークによるネットワークビジネスの貢献が注目されている。

実際、第3四半期には、ネットワークを通じた販売を含む、プレイステーション4向けソフトウェアが前年同期比40%増という成長をみせている。また、今回の会見では、2016年10月以降、品薄が続いているプレイステーションVRが「想定通りに売れ行きになっている」と発言。こうした成果により、第3四半期累計でのゲーム&ネットワークサービスの売上高は2.6%増の1兆2680億円、営業利益が295億円増の1131億円を達成。また、2016年度通期見通しは、売上高で500億円増の1兆6400億円へと上方修正した。営業利益は据え置き1350億円としたが、5000億円への達成に向けて、金融事業と並んで、最も貢献度が高い事業であることは間違いない。

3つのエレクトロニクス事業の収益性

そして、最後の「収益の安定化」という点では、スマートフォンにする「モバイル・コミュニケーション」、デジカメを中心としたる「イメージング・プロダクツ&ソリューション」、テレビを含む「ホームエンタテインメント&サウンド」という3つのエレクトロニクス事業が収益を高めていくことがポイントになろう。

モバイル・コミュニケーションは、欧州地域を中心としたスマートフォンの販売台数減や、前年度に事業縮小を図った不採算地域でのスマートフォンの販売台数減が影響するなど売上高の縮小が続いているが、営業利益は費用削減効果と、スマートフォンの価格が安定化したことで、第3四半期累計では447億円増の253億円と黒字転換。「通期黒字化を目指したい」とする。2016年度通期見通しは、11月公表値に比べて売上高が200億円減の7600億円としたものの、営業利益計画には変更がなく50億円。2016年度にまずは黒字化することが、2017年度の勢いにつながることになる。ちなみに、2016年度のスマートフォンの販売計画は、200万台下方修正し、1500万台。前年の2490万台から大幅に削減することになる。

イメージング・プロダクツ&ソリューションでは、市場全体の低迷により、販売台数減が続いており、第3四半期累計でも売上高は、19.9%減の4247億円、営業利益が202億円減の435億円と減収減益。だが、静止画・動画カメラにおける高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善が貢献。2016年通期見通しは、売上高で100億円上方修正して5700億円、営業利益は90億円増の430億円とした。デジタルカメラの出荷計画は、20万台上方修正し、400万台を目指す計画。少しずつ勢いがついてきたといえる。

また、ホームエンタテインメント&サウンドでは、為替のマイナス影響で第3四半期累計では、売上高は12.7%減の8242億円と減収になったが、4Kテレビの販売増加など、高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善がプラスとなり、営業利益は59億円増の637億円。2016年度通期見通しは、売上高が200億円増の1兆300億円、営業利益は60億円の530億円といずれも上方修正してみせた。

これらのエレクトロクス事業が、今後、利益をどれだけ積み上げれるかが、5000億円達成の鍵になる。

1Q-3Qのセグメント別業績(左)と、通年ののセグメント別業績見通し(右)。エレクトロクス事業の積み増しが、中期経営計画の達成の鍵となるようだ

今こそエレキの復活・成長が必要

2017年1月、米ラスベガスで開催されたCES 2017の会場で取材に応じたソニーの平井社長は、「市場の不安定な環境や、熊本震災の影響もある。しかし、掲げた目標についてはやらなくてはならない。それに向かって、チーム一丸となってやっていくことを新たに決意した」と、計画達成に向けて歩む姿勢を改めて宣言してみせた。

ここでは、「営業利益5000億円達成に向けた大きな原動力は、エレクトロニクス事業」と位置づけ、「各事業部や分社化した子会社の商品が強くなってきたこと、テレビも250億円を超える利益を出してきたことなどもプラス要素である。BRAVIA、α、サイバーショット、ウォークマン、プレイステーションなど、ソニーブランドのコンシューマエレクトロクス商品において、ソニーらしさを感じてもらえるようになり、これらの事業がソニーグループの収益を大きく改善する基盤になるところまで回復してきた」と語り、「これらにより、5000億円達成に向けて、力強く進んでいきたい。2017年度は『総括の年』として、結果を出していきたい」と、計画達成に意欲を見せた。

映画分野の減損により、2017年度の営業利益5000億円達成には、イエローシグナルが灯ったのは明らかだ。ソニーにとって、「本業中の本業」であるエレクトロニクス事業の成長が、計画達成の成否をわけることになる。

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。