ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

2017.02.06

ソニーは、2016年度第3四半期連結業績を発表。その席上、通期見通しを修正。売上高は、11月公表値から2000億円増の7兆6000億円と上方修正したが、営業利益は300億円減の2400億円、純利益は340億円減の260億円とした。

ソニーが2016年度第3四半期の業績を発表。通期の純利益が下方修正へ

売上高の上方修正は、主に為替の影響によるもの。その一方で、利益の下方修正は、「第3四半期の業績では、映画分野で営業権の減損で1121億円を計上したことが影響している」と説明した。

2016年度第3四半期における映画の売上高は、前年同期比2.7%減の6006億円、営業損益が1004億円減って1142億円の赤字。また、2016年通期の映画事業の見通しは、売上高は9100億円と据え置いたものの、営業損益は830億円の赤字に転落すると予想した。

2016年度通期見通しの修正および第3四半期実績においては、映画分野の減損が、ソニー全体の経営に大きな影響を与えたのは明らかだ。

映画分野の不振が重くのしかかった

映画分野の収益見通しを下方修正

ソニーは、2017年1月30日に、リリースを出し、そのなかで、「映画分野における将来の収益計画を見直した結果、2016年度第3四半期において、映画分野の営業権について、減損1121億円を営業損失として計上した」と発表した。

今回の減損は、映画分野のうち映画製作事業の将来の収益見通しを下方修正したことによるものとし、市場縮小の加速により、BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売といったホームエンタテインメント事業の収益見通しを引き下げたことによるものと説明している。さらに、映画製作事業の将来の収益見通しにはその前提となる公開作品の収益性の低下も織り込んだという。

また、この損失は現金支出を伴うものではなく、減損の対象となった営業権の過半は、1989年に、コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメントの株式を公開買付けした際に計上したものだという。

ソニー 副社長 兼 CFOの吉田 憲一郎氏

会見のなかで吉田副社長は、映画分野について、「営業権に関して多額の減損に至ったことは、経営として重く受け止めている。また、映画分野が、中期的な目標に対して大幅な未達になっていることは重要な課題である」と反省の弁を述べる。

吉田副社長によると、映画分野の営業利益見通しは、営業権の減損を除いた実質ベースでも2億7000万ドルであり、2016年5月に発表した期初見通しに比べても、約3割減の水準だという。

さらに、「中期経営計画で掲げた2017年度の目標値も一度引き下げているが、今年度末の決算発表時に公表予定の2017年度見通しにおいては、さらにそれを下回ることになる」と、映画分野の落ち込みが激しいことを示す。

こうした映画分野における減速ぶりについては、CEOを務めたマイケル・リントン氏が2004年にソニー・ピクチャーズに入社以降、13年間という長期に渡って経営トップとして君臨。ガバナンスに問題があったとの指摘もあり、会見でもそれに関する質問も飛んだ。リントン氏は、先頃、電撃的にソニー・エンタテインメントのCEOおよびソニー・ピクチャーズのCEOの辞任を発表したばかりだ。

吉田副社長は、「映画事業は蓄積された問題がある。それは、本質的に経営の問題であると認識している」と語り、「エレクトロニクス事業が低迷しているなかで、短期的な利益を追求してきた部分が否めない。スパイダーマンの商品化権をディズニーグループに売却したり、メディアネットワーク事業(中南米の有料テレビ放送事業をタイムワーナーに売却)を売却したりといったように、短期業績を作るために、将来のキャッシュフローを切り捨てた経緯があった。これがいまの収益力の弱さにつながっている」とする。

そして、「いまの経営陣が、腰を据えて建て直していくしかない」と語る。

吉田副社長は、建て直しに向けて、ソニーの平井一夫社長自らが陣頭指揮を執る姿勢を明らかにした。

平井社長自らが映画建て直しの陣頭指揮を執る

映画は平井社長自ら建て直しへ

具体的には、平井社長自らが、映画事業の拠点がある米カリフォルニア州カルバーシティに第2オフィスを構え、映画を中心にエンタテインメント事業全体に深く関与。「ソニー・ピクチャーズの後任CEOの人選や、映画分野の経営体制の強化に優先度をあげて取り組んでいく」とする。リントン氏が今後半年間に渡って現在のポジションの残るとともに、平井社長は、ソニー・エンタテインメントの会長兼共同CEOに就任。リントン氏と連携して、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー/ATVミュージックパブリッシングといったエンタテインメント事業各社およびソニー・コーポレーション・オブ・アメリカの経営の監督にも携わることになる。

そして、もうひとつ強調したのが、「映画事業を売却する計画はない」という点だ。

減損を計上した映画製作およびテレビ番組制作を手がける事業プロダクション&ディストリビューション事業についても、「コンテンツ配信が多様化するなかで、良質なコンテンツを保有することと、作ることの価値が上昇している」とし、吉田副社長は、「映画分野は、将来の利益成長を見込んでおり、引き続きソニーにとって重要な事業と位置付けている」と述べた。

険しくなる経営計画達成への道のり

映画分野の減損によって、2016年度営業利益見通しを下方修正したソニーだが、これは中期経営計画で打ち出した目標を達成する上でも大きな課題を生むことになる。

ソニーは、平井社長体制における第二次中期経営計画を2015年度からスタート。2017年度に、連結営業利益5,000億円以上、ROE10%以上という数値目標を掲げている。

営業利益5000億円の目標には変更がないと話す

だが、今回の下方修正により、2016年度の営業利益見通しは2400億円。つまり、残り1年で営業利益を倍増にしなくてはならない状況に追い込まれたといえる。

吉田副社長は、「営業利益5000億円の目標には変更がない。チャレンジングな目標だが、達成に向けて全力をあげる」と語る。

これまでソニーが営業利益5000億円を突破したのは、1997年度に、5257億円を計上したときの一度だけ。それだけでも高いハードルであることがわかるが、今回の下方修正によって、そのハードルは一段とあがったことになる。

実は、第2次中期経営計画を打ち出して以降、ソニーの前には次々と壁が立ちはだかっている。

当初は、デバイス分野の成長が、計画達成には重要な柱になるとしていたが、スマートフォンの需要鈍化に加えて、平成28年春の熊本地震の影響で、イメージセンサーなどを生産する熊本テクノロジーセンターが一部停止。デバイス事業だけでなく、デジカメやビデオなどのイメージング・プロダクツにも影響した。描いた成長戦略のブレーキを踏まざるを得ない状況を余儀なくされてきた。

そして、今回の映画分野での減損が、さらに追い打ちをかけたというわけだ。

では、どうやってその高いハードルに挑むのか。

赤字の半導体事業 黒字化への期待

吉田副社長は、「赤字の半導体事業をしっかりとターンアラウンドさせること、ゲーム&ネットワークサービス事業を成長させていくこと、そして収益の安定化が大切である」と語る。

半導体事業は、第3四半期累計で売上高は3.2%減の5720億円、営業損益が1086億円減の206億円の赤字のままだ。だが、第3四半期はモバイル機器向けイメージセンサーの販売数量が大幅に増加して、売上高は前年同期比16.9%増の2339億円と大幅な増収を記録。2016年通期の見通しは、売上高が600億円増の7700億円とした。営業損益も前回見通しに対して340億円改善。190億円の赤字まで圧縮する計画だ。

吉田副社長は、「昨年5月に、外販向け高機能カメラモジュール事業の中止を発表し、11月には中国工場を現地企業に譲渡。これにより、多額の損失を計上した。これは、大きな反省材料だと認識している」とする一方、「イメージセンサーは、2016年度上期まで低調だったが、第3四半期から中国メーカー向け拡販の効果や地震影響の減少、円安メリットもあり、収益性は回復傾向にある」とする。

市場変動が激しいことから、市場変化を慎重に見ていく必要もあり、半導体事業が再び成長の牽引役になるにはもう少し時間がかかりそうだ。その点では、2017年度の営業利益5000億円達成の強力なドライバーにはなり得ないだろうが、黒字化による上積みの貢献が期待されている。

PS周辺ビジネスの成長

2つめのゲーム&ネットワークサービス事業では、2017年1月に、プレイステーション4の累計出荷が5340万台に達したこと、これをベースに展開しているプレイステーションネットワークによるネットワークビジネスの貢献が注目されている。

実際、第3四半期には、ネットワークを通じた販売を含む、プレイステーション4向けソフトウェアが前年同期比40%増という成長をみせている。また、今回の会見では、2016年10月以降、品薄が続いているプレイステーションVRが「想定通りに売れ行きになっている」と発言。こうした成果により、第3四半期累計でのゲーム&ネットワークサービスの売上高は2.6%増の1兆2680億円、営業利益が295億円増の1131億円を達成。また、2016年度通期見通しは、売上高で500億円増の1兆6400億円へと上方修正した。営業利益は据え置き1350億円としたが、5000億円への達成に向けて、金融事業と並んで、最も貢献度が高い事業であることは間違いない。

3つのエレクトロニクス事業の収益性

そして、最後の「収益の安定化」という点では、スマートフォンにする「モバイル・コミュニケーション」、デジカメを中心としたる「イメージング・プロダクツ&ソリューション」、テレビを含む「ホームエンタテインメント&サウンド」という3つのエレクトロニクス事業が収益を高めていくことがポイントになろう。

モバイル・コミュニケーションは、欧州地域を中心としたスマートフォンの販売台数減や、前年度に事業縮小を図った不採算地域でのスマートフォンの販売台数減が影響するなど売上高の縮小が続いているが、営業利益は費用削減効果と、スマートフォンの価格が安定化したことで、第3四半期累計では447億円増の253億円と黒字転換。「通期黒字化を目指したい」とする。2016年度通期見通しは、11月公表値に比べて売上高が200億円減の7600億円としたものの、営業利益計画には変更がなく50億円。2016年度にまずは黒字化することが、2017年度の勢いにつながることになる。ちなみに、2016年度のスマートフォンの販売計画は、200万台下方修正し、1500万台。前年の2490万台から大幅に削減することになる。

イメージング・プロダクツ&ソリューションでは、市場全体の低迷により、販売台数減が続いており、第3四半期累計でも売上高は、19.9%減の4247億円、営業利益が202億円減の435億円と減収減益。だが、静止画・動画カメラにおける高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善が貢献。2016年通期見通しは、売上高で100億円上方修正して5700億円、営業利益は90億円増の430億円とした。デジタルカメラの出荷計画は、20万台上方修正し、400万台を目指す計画。少しずつ勢いがついてきたといえる。

また、ホームエンタテインメント&サウンドでは、為替のマイナス影響で第3四半期累計では、売上高は12.7%減の8242億円と減収になったが、4Kテレビの販売増加など、高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善がプラスとなり、営業利益は59億円増の637億円。2016年度通期見通しは、売上高が200億円増の1兆300億円、営業利益は60億円の530億円といずれも上方修正してみせた。

これらのエレクトロクス事業が、今後、利益をどれだけ積み上げれるかが、5000億円達成の鍵になる。

1Q-3Qのセグメント別業績(左)と、通年ののセグメント別業績見通し(右)。エレクトロクス事業の積み増しが、中期経営計画の達成の鍵となるようだ

今こそエレキの復活・成長が必要

2017年1月、米ラスベガスで開催されたCES 2017の会場で取材に応じたソニーの平井社長は、「市場の不安定な環境や、熊本震災の影響もある。しかし、掲げた目標についてはやらなくてはならない。それに向かって、チーム一丸となってやっていくことを新たに決意した」と、計画達成に向けて歩む姿勢を改めて宣言してみせた。

ここでは、「営業利益5000億円達成に向けた大きな原動力は、エレクトロニクス事業」と位置づけ、「各事業部や分社化した子会社の商品が強くなってきたこと、テレビも250億円を超える利益を出してきたことなどもプラス要素である。BRAVIA、α、サイバーショット、ウォークマン、プレイステーションなど、ソニーブランドのコンシューマエレクトロクス商品において、ソニーらしさを感じてもらえるようになり、これらの事業がソニーグループの収益を大きく改善する基盤になるところまで回復してきた」と語り、「これらにより、5000億円達成に向けて、力強く進んでいきたい。2017年度は『総括の年』として、結果を出していきたい」と、計画達成に意欲を見せた。

映画分野の減損により、2017年度の営業利益5000億円達成には、イエローシグナルが灯ったのは明らかだ。ソニーにとって、「本業中の本業」であるエレクトロニクス事業の成長が、計画達成の成否をわけることになる。

78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

2019.03.19

2030年までに日本国内でIT人材が78万人も不足する危機的状況

学生や若手のIT育成に挑む新機軸の試み、その中身をレポート

企業内実施では難しい基礎育成や異能コラボを補完する可能性も

世界で500億台ものIoT機器が普及することが見込まれている2020年台がいよいよ目前に迫っている。

少し古い調査結果だが、2016年6月の経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は2019年をピークに減少傾向へ転じ、2030年には(高位想定で)約78万人不足すると予測する。IT人材に限らず、日本では少子高齢化が進み、多くの業種で人手不足が発生するといわれている。

その対策の柱となるのが、人材育成だ。これまでの20世紀型のビジネスでの価値創造の要素が「ヒト・モノ・カネ」だったのに対し、今後は「データ・ソフト・サービス」に要素が大きくシフトするといわれている。すなわち、必要となる人材も大きく変わっていくことになる。それは、従来のICT企業に限ったことではなく、ユーザ企業においても然りだ。

そこで今回紹介したいのは、総務省が学生や若手エンジニアを対象にIoT人材育成を目的として実施している「Web×IoT メイカーズチャレンジ」である。2018年度は国内9か所でイベントが開催され、2019年2月から3月にかけては、東京でも開催された。この取り組みが何を変えようとして、どのような一石を投じているのか、イベントで実際に実施された内容を下敷きに紐解いてみたい。

Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19

Web×IoT メイカーズチャレンジ開催の経緯

総務省の情報通信審議会の技術戦略委員会では、かねてよりIoT・ビッグデータ・AI時代の人材育成方策についての議論が続けられており、去る2016年には、中間答申というかたちで以下のような旨の提言も出されている。

「IoTを総合的に理解し、使いこなせる人材・アイデアを発想できる人材が求められており、若者やスタートアップを対象とした開発キットやオープンソースなどを使ったモノづくりを通じた体験型教育やアイデア・ソリューションを競うハッカソンの取り組みを推進することが重要である」

こうしたことを受け、日本最大規模の産官学のIoT推進組織「IoT推進コンソーシアム」の技術開発ワーキンググループ「スマートIoT推進フォーラム」に、「IoT人材育成分科会」が設置されることとなり、そこでの議論を踏まえてこの人材育成事業、Web×IoT メイカーズチャレンジがスタートすることになった。

IoT推進コンソーシアムとスマートIoT推進フォーラムの体制

では、具体的にはどのような人材が今後必要とされるのか? また、未来に向けて、どういった手法でそのような人材を育成していくのだろうか?

Web×IoT メイカーズチャレンジの基本方針などを策定する実行委員会の主査で、上述のIoT人材育成分科会の構成員でもある株式会社KDDIの高木悟氏と、同実行委員会で副査を務める一般社団法人WebDINO Japanの瀧田佐登子氏の両氏に、その点についての話を伺った。

高木氏は、IoTを活用し社会を変革する創造性豊かなエンジニアリング・イノベータ力を備えた若手人材の育成には、

(1)無線装置やセンサ・アクチュエータなどのハードウェアとコンピューティングロジックを中心としたソフトウェア双方を扱えるスキル
(2)情報システムの共通基盤技術となっているWeb技術に基づくIoTシステム構築スキル
(3)企業の製品開発やサービス企画の現場でも、新技術の迅速な導入にもスピード感を持って対応できるアジャイル開発に対応できるエンジニア力
(4)実際にアイデアを試作し、改良を繰り返して実現するプロトタイプ創出力といったスキル

が求められており、Web×IoT メイカーズチャレンジでは、特にそのあたりを意識したイベント設計を行っていると話す。

KDDI株式会社技術開発戦略部マネージャー:高木悟氏

ポイントになるのは、このイベントに参加する学生や若手エンジニアが、座学の講習だけでなく、ハンズオン形式の講習会で実際にボードコンピュータやセンサーやアクチュエータの扱いを体験し、一定の準備期間を設けたうえで、ハッカソンで実際にプロトタイピングを行うという一連のものづくりプロセスを実体験することにある。

Web×IoT メイカーズチャレンジでは、UIやクラウドを含む情報システム全体をひとつの標準化された中立的な技術体系のもとで「ハードウェアを制御できるスキル」を獲得する機会を提供しているが、Webを介することによって、OS、デバイスといったレイヤーごとの違いを吸収し、普遍性の高い共通な技術を学ぶことができる。さまざまなデータをやりとりするには、「Webがもっともやりやすい」と副査の瀧田氏も指摘する。そういった観点からイベント名にもWeb×IoTの文字が冠された。

WebDINO Japan代表理事:瀧田佐登子氏

東京大会の概要をレポート

では、東京大会の様子を交えつつ、本取り組みの具体的な流れを少しレポートしたい。2月9、10日の2日間にわたりハンズオンを含む講習会が開催された。IoTの基礎知識やWiFiやLTEなど、IoT開発には欠かせない通信技術やその根源となる電波の特性について講義を受けたうえで、実際に「Raspberry Pi 3」と各種センサーやデバイスなどの接続・動作を行うハンズオンを約1日半じっくりと行う。受講者は個人単位で参加申し込みを行うが、講習会の2日目にはチーム単位に分けられ、準備期間を置いた後日に開催するハッカソンに向けた準備をスタートする。

東京会場にて。チームでのアイデアソンの風景

チーム分け後は、まずはアイデアソンを実施し、「身近な人をハッピーにするIoTデバイスを作ろう」などといったテーマをもとに議論を進める。初めて会ったメンバー同士で、いかに議論を深めていくか、これが最初の試練といえるだろう。また、各チームには上限額25,000円の予算が与えられ、その中でハッカソンに提出する作品で使うセンサーなどの部品を用意する。ここでは準備期間中の材料調達を含むマネージメント力が求められる。

そして、ハッカソンに向けて作成する作品では、以下の要件が求められる。

・ネットワークサービスの連携、もしくはネットワークからのコントロールが可能なこと
・Raspberry Pi 3を使って、Web GPIO APIあるいはWebI2C APIのいずれかを利用すること

ちなみにハッカソンの審査基準は、以下の通り。

・ソフトウェア・ハードウェアの実装力
・アイデアの独創性・ユースケースの有用性
・無線の活用度

そして、今回の東京大会のハッカソンには、計35名8チームが参加した。

ハッカソンの各チームの様子。今回は計35名8チームが参加した

ハッカソンというと、賞金目当てのツワモノが集まるというイメージがある。しかし、メイカーズチャレンジは、そもそもが「学びの場」として開催しているため、ハッカソン初心者やスキルレベルが不安な学生であっても参加しやすい枠組みを用意している。とにかく、わからないことがあれば積極的にチューターやメンターに聞き、解決していく。終始なごやかな雰囲気で進んでいくことも印象的だ。

こちらはハッカソン2日目の様子。初日のなごやかさからは打って変わり、開発完了に向け緊張感も漂う

それでもハッカソンが2日目にもなると緊張感が漂う。決められた開発締め切りに向かって、時間との戦いである。その日のうちに審査が始まり、今回は、最優秀賞が1チーム、優秀賞が3チーム選出された。

最優秀賞受賞チームの皆さん。後ろに立つ3人は審査員

順序が逆になってしまったが、審査員は以下の通りである。

・村井純氏(慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
・小林茂氏(情報科学芸術大院(IAMAS) 産業文化研究センター教授)
・瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan代表理事、実行委員会副査)

各チームの作品やその他の情報については、Web×IoT メイカーズチャレンジの公式サイトで情報が提供されるので、参照してほしい。

Web×IoT メイカーズチャレンジの成果と今後

今回、2年目を迎えたメイカーズチャレンジの取り組みであるが、その成果はどうだろうか。高木氏は、ほぼ目的は達成されていると判断しているという。実践的な講習会とハッカソンの組み合わせに参加者の多くが満足しており、チューターのサポートやチームでの開発体験を貴重な機会だと感じてもらえたと、手ごたえを語る。

人材育成というと、とかく受講者が受け身の講習が行われがちだが、この施策は講習会からハッカソンまで、参加者が自ら試行錯誤しながら様々なスキルを身につけるアクティブ・ラーニングの機会となっている。瀧田氏は、プログラミングやハードウェアのスキルに限らず、少ないとはいえ制作予算の配分管理や、材料の調達、さらに時間配分やチーム内のコミュニケーションなど、プロジェクトのマネジメントを体験する貴重な機会にもなっていると説明する。

学生から社会人まで、参加者は様々

企業が社員に向けて行う人材育成は、成果の前に、そのコスト・手間暇が大きなハードルとなる。Web×IoT メイカーズチャレンジは、その課題を補完する答えの1つともいえるだろう。今回の東京開催の会場を見ると、30才未満の若手社会人も多く参加しており、大学生や高専生、高校生と混じってチームを組み、真剣にものづくりに向き合う姿が見られた。

Web×IoT メイカーズチャレンジは2019年度も各地で開催される予定だ。立場を問わず関心を持った読者の方がおられれば、将来に立ち向かう可能性のひとつとして、参加や見学を検討してみていただきたい。

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2019.03.18

印鑑業界による印鑑文化の優位性アピールが話題

会社経営者として感じる、捺印作業の面倒さ

「サイン文化」と「印鑑文化」で変わる組織カルチャー

行政手続きのオンライン化を目指す「デジタル手続き法案」をめぐり、全日本印章業協会がアピールした「印鑑のメリット」が話題になっている

「代理決済できるという印章の特長が、迅速な意思決定や決済に繋がり、戦後の日本経済の急速な発展にも寄与してきた」(原文ママ)というものだ。

「ハンコならこっそり代理決済ができる」などと、身も蓋もなく自ら印鑑廃止を後押ししてしまいかねない意見が出てしまったことは興味深い。
でも僕は、ただのバイオテクノロジー屋なので、ITを活用した効率化しますよ業界の回し者でもなければ、印鑑業界の人を敵に回すメリットだってないので、特にこの点について深く言及しないし、「日本における今後のハンコをどうするべきか」なんてことを掘り下げて云々するつもりもない。

ただ、日本を含む4カ国でスタートアップを立ち上げた経験から、企業の組織カルチャー形成に、承認方法としての「印鑑」と「サイン」の違いが、とても大きな影響を与えているのではと実感した話を書いておきたい。

日々、何かと多すぎるハンコ作業

まず共有しておきたい事実は、日本で会社を経営すると、毎日ものすごい数の代表印や銀行印や社印を押さなければいけないということだ。(会社の印鑑って3種類あるの知ってました?)

お客さんと契約してお金をいただくときに契約書に捺印するのはイメージできると思うが、その後もお金が銀行口座に無事入るまで、受領やらなにやら契約書だけでなく、さまざまな書類にとにかく捺印をしまくる必要がある。

また、家賃を払う、プリンターのトナーが切れる、実験試薬を買うなどなど、とにかく会社を運営する活動の一つ一つに対して、それぞれ細かくおびただしい数の印鑑を押す。法人が国や地方自治体に税金を払う時はもちろん、社員のあれこれも、例えば社員の誰かが結婚したり引っ越したりするだけでも印鑑を押しまくる。自分で会社をやってみてつくづくわかったが、とにかく捺印の数が膨大だ。

しかも、びっくりすることに、民間企業も市町村も、同じことをするために、それぞれがまったく違うフォーマットの書類に捺印を求めてくる。

こうして、大量な上にフォーマットがまったく違う書類を毎日渡されて、決められた位置に決められた種類の捺印をすることは、仮に契約書や書類の中身をまったくチェックしないで無責任に捺印したとしても、結構な時間を必要とする作業だ。

捺印にかける時間が惜しい

しかもうわの空で押していると、銀行印を押すべきところに代表印を押し間違えてしまったり、インクが簡単にかすれてしまったりするのが印鑑だ。人生において、こんな捺印ミスなどという程度のことで書類を作り直してもらう羽目になった回数を考えただけで、こんな単純な作業に失敗する情けなさとと、書類を作ってくれる従業員への申し訳なさで、どこかに隠れてしまいたい気持ちになる。

そう、僕は毎日、隠れてしまいたい気持ちになっているのだ。

なぜ、日本から印鑑はなくならないのか

我々の会社のように、たとえ社長だろうがあっちこっちに、営業に謝罪にと、せわしなく飛び回わることで、なんとか会社の体を保っているような規模の企業の方が世の中には多いと思う。そんな"貧乏暇なし社長”がこの捺印という物理的作業に忙殺される時間というのは、正直いって無駄以外の何物でもない。

にもかかわらず印鑑を押すという文化が日本に残っているのは「捺印するという作業」は、誰かに頼めてしまうからなのだと思う。多くの会社において「捺印をし続けるという作業」を自分でやっている社長はあまり居ないのかもしれず、ここが、すべて自ら書かなければいけないサインとの最大の違いなのだろう。

ちなみに、僕の場合は「捺印をし続けるという作業」だけを人に頼むような仕事の依頼の仕方は好みではないので、あちこちに会社を立ち上げては、担当者に「代表取締役」の役職ごと譲るようにしている。

海外の「サイン文化」は印鑑以上に面倒?

冒頭にも書いたが、僕は日本以外の3カ国でも会社を経営している。言うまでもなく日本以外の国は、承認の証としては「サイン」が一般的だ。

日本の会社同士の契約書の場合は、代表者の名前の脇に代表印と社印を、契約書を閉じた裏面に割印を一カ所押す形式であることが多い。つまり、二者間の契約であれば、先方用の契約書と当方用の契約書をあわせて、計4カ所の代表印と計2カ所の社印を押せばよい。

ところが、海外の契約書は、すべてのページにサインをしなければならない。海外の契約書は「実際にそんなことは起きないって」ってくらい、ありとあらゆる場面を想定した契約書になっていることが多く、とにかく契約書が長い。

感覚として、同じような内容の契約をするのに、日本の会社同士の契約の5倍~10倍のページ数になっても驚かない。

つまり、ちょっとした契約書でも軽く100ページを超えてくるわけだが、このすべてのページに手書きでサインをすることを想像して欲しい。契約書の中身を読んでただただサインを書き続けていると、「こんな作業に時間を使い続けてていいのだろうか」という自問の気持ちが芽生えてくる。

その組織カルチャーの差、ハンコとサインの差が原因ですよ

言うまでもなく、サインは誰かに代わりに書いてもらうことはできない。では、サインを書く物理的な時間を減らすために、何が起こるのかというと、「権限委譲」が進むのである。

日本の会社だと当たり前のように社長の名前で締結する規模の契約でも、海外の会社だと担当部長あたりの名前で契約を締結してくる。

もしかしたら、日本の会社のカルチャーだとそれは失礼なことに当たるのかもしれないが、サインを前提とした会社において、会社のすべての契約を社長名義で契約していたら、社長の一日は「サインを書く」という作業だけで終わってしまう。だから、どんどん権限委譲をしていくしかない。

日本の大企業の合意形成や意思決定のあり方を分析する文脈において、「日本の会社は権限委譲が進んでいない」とか、「プロジェクトごとの意思決定者の所在がよくわからないから、スピード感が遅くなってグローバル競争に負けてしまう」などという指摘を頻繁に見る。

特に近年流行りの「日本企業のホワイトカラーの生産性を高めましょう」という議論の多くでは、日本企業のこういった特殊性の原因を、日本人の歴史的・文化的背景や、国民性が理由であると結論づけている。

だからもっぱら、風通しがよく責任範囲が明確で、意思決定の早い会社にするために、せっせと組織構造をいじったり、管理職に研修をしたりと、コンサル屋さんが儲かるだけの努力に大きなお金を払うことになっているのだが、大きな効果が得られているようにみえない。

僕の考えは、特殊性の理由がちょっと違っていて、「その組織カルチャーの差って、捺印とサインの差が本質的な原因ですよ」と、わりと確信に近い自信を持っている。

捺印の作業だけを誰かに頼むのではなく、捺印をする権限ごとどんどん頼んでしまえばいい。ハンコにウンザリしている世の中の社長さん、そう思いません?

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

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