ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

ソニーの経営計画に黄色信号、映画変調の影響大きく

2017.02.06

ソニーは、2016年度第3四半期連結業績を発表。その席上、通期見通しを修正。売上高は、11月公表値から2000億円増の7兆6000億円と上方修正したが、営業利益は300億円減の2400億円、純利益は340億円減の260億円とした。

ソニーが2016年度第3四半期の業績を発表。通期の純利益が下方修正へ

売上高の上方修正は、主に為替の影響によるもの。その一方で、利益の下方修正は、「第3四半期の業績では、映画分野で営業権の減損で1121億円を計上したことが影響している」と説明した。

2016年度第3四半期における映画の売上高は、前年同期比2.7%減の6006億円、営業損益が1004億円減って1142億円の赤字。また、2016年通期の映画事業の見通しは、売上高は9100億円と据え置いたものの、営業損益は830億円の赤字に転落すると予想した。

2016年度通期見通しの修正および第3四半期実績においては、映画分野の減損が、ソニー全体の経営に大きな影響を与えたのは明らかだ。

映画分野の不振が重くのしかかった

映画分野の収益見通しを下方修正

ソニーは、2017年1月30日に、リリースを出し、そのなかで、「映画分野における将来の収益計画を見直した結果、2016年度第3四半期において、映画分野の営業権について、減損1121億円を営業損失として計上した」と発表した。

今回の減損は、映画分野のうち映画製作事業の将来の収益見通しを下方修正したことによるものとし、市場縮小の加速により、BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売といったホームエンタテインメント事業の収益見通しを引き下げたことによるものと説明している。さらに、映画製作事業の将来の収益見通しにはその前提となる公開作品の収益性の低下も織り込んだという。

また、この損失は現金支出を伴うものではなく、減損の対象となった営業権の過半は、1989年に、コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメントの株式を公開買付けした際に計上したものだという。

ソニー 副社長 兼 CFOの吉田 憲一郎氏

会見のなかで吉田副社長は、映画分野について、「営業権に関して多額の減損に至ったことは、経営として重く受け止めている。また、映画分野が、中期的な目標に対して大幅な未達になっていることは重要な課題である」と反省の弁を述べる。

吉田副社長によると、映画分野の営業利益見通しは、営業権の減損を除いた実質ベースでも2億7000万ドルであり、2016年5月に発表した期初見通しに比べても、約3割減の水準だという。

さらに、「中期経営計画で掲げた2017年度の目標値も一度引き下げているが、今年度末の決算発表時に公表予定の2017年度見通しにおいては、さらにそれを下回ることになる」と、映画分野の落ち込みが激しいことを示す。

こうした映画分野における減速ぶりについては、CEOを務めたマイケル・リントン氏が2004年にソニー・ピクチャーズに入社以降、13年間という長期に渡って経営トップとして君臨。ガバナンスに問題があったとの指摘もあり、会見でもそれに関する質問も飛んだ。リントン氏は、先頃、電撃的にソニー・エンタテインメントのCEOおよびソニー・ピクチャーズのCEOの辞任を発表したばかりだ。

吉田副社長は、「映画事業は蓄積された問題がある。それは、本質的に経営の問題であると認識している」と語り、「エレクトロニクス事業が低迷しているなかで、短期的な利益を追求してきた部分が否めない。スパイダーマンの商品化権をディズニーグループに売却したり、メディアネットワーク事業(中南米の有料テレビ放送事業をタイムワーナーに売却)を売却したりといったように、短期業績を作るために、将来のキャッシュフローを切り捨てた経緯があった。これがいまの収益力の弱さにつながっている」とする。

そして、「いまの経営陣が、腰を据えて建て直していくしかない」と語る。

吉田副社長は、建て直しに向けて、ソニーの平井一夫社長自らが陣頭指揮を執る姿勢を明らかにした。

平井社長自らが映画建て直しの陣頭指揮を執る

映画は平井社長自ら建て直しへ

具体的には、平井社長自らが、映画事業の拠点がある米カリフォルニア州カルバーシティに第2オフィスを構え、映画を中心にエンタテインメント事業全体に深く関与。「ソニー・ピクチャーズの後任CEOの人選や、映画分野の経営体制の強化に優先度をあげて取り組んでいく」とする。リントン氏が今後半年間に渡って現在のポジションの残るとともに、平井社長は、ソニー・エンタテインメントの会長兼共同CEOに就任。リントン氏と連携して、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー/ATVミュージックパブリッシングといったエンタテインメント事業各社およびソニー・コーポレーション・オブ・アメリカの経営の監督にも携わることになる。

そして、もうひとつ強調したのが、「映画事業を売却する計画はない」という点だ。

減損を計上した映画製作およびテレビ番組制作を手がける事業プロダクション&ディストリビューション事業についても、「コンテンツ配信が多様化するなかで、良質なコンテンツを保有することと、作ることの価値が上昇している」とし、吉田副社長は、「映画分野は、将来の利益成長を見込んでおり、引き続きソニーにとって重要な事業と位置付けている」と述べた。

険しくなる経営計画達成への道のり

映画分野の減損によって、2016年度営業利益見通しを下方修正したソニーだが、これは中期経営計画で打ち出した目標を達成する上でも大きな課題を生むことになる。

ソニーは、平井社長体制における第二次中期経営計画を2015年度からスタート。2017年度に、連結営業利益5,000億円以上、ROE10%以上という数値目標を掲げている。

営業利益5000億円の目標には変更がないと話す

だが、今回の下方修正により、2016年度の営業利益見通しは2400億円。つまり、残り1年で営業利益を倍増にしなくてはならない状況に追い込まれたといえる。

吉田副社長は、「営業利益5000億円の目標には変更がない。チャレンジングな目標だが、達成に向けて全力をあげる」と語る。

これまでソニーが営業利益5000億円を突破したのは、1997年度に、5257億円を計上したときの一度だけ。それだけでも高いハードルであることがわかるが、今回の下方修正によって、そのハードルは一段とあがったことになる。

実は、第2次中期経営計画を打ち出して以降、ソニーの前には次々と壁が立ちはだかっている。

当初は、デバイス分野の成長が、計画達成には重要な柱になるとしていたが、スマートフォンの需要鈍化に加えて、平成28年春の熊本地震の影響で、イメージセンサーなどを生産する熊本テクノロジーセンターが一部停止。デバイス事業だけでなく、デジカメやビデオなどのイメージング・プロダクツにも影響した。描いた成長戦略のブレーキを踏まざるを得ない状況を余儀なくされてきた。

そして、今回の映画分野での減損が、さらに追い打ちをかけたというわけだ。

では、どうやってその高いハードルに挑むのか。

赤字の半導体事業 黒字化への期待

吉田副社長は、「赤字の半導体事業をしっかりとターンアラウンドさせること、ゲーム&ネットワークサービス事業を成長させていくこと、そして収益の安定化が大切である」と語る。

半導体事業は、第3四半期累計で売上高は3.2%減の5720億円、営業損益が1086億円減の206億円の赤字のままだ。だが、第3四半期はモバイル機器向けイメージセンサーの販売数量が大幅に増加して、売上高は前年同期比16.9%増の2339億円と大幅な増収を記録。2016年通期の見通しは、売上高が600億円増の7700億円とした。営業損益も前回見通しに対して340億円改善。190億円の赤字まで圧縮する計画だ。

吉田副社長は、「昨年5月に、外販向け高機能カメラモジュール事業の中止を発表し、11月には中国工場を現地企業に譲渡。これにより、多額の損失を計上した。これは、大きな反省材料だと認識している」とする一方、「イメージセンサーは、2016年度上期まで低調だったが、第3四半期から中国メーカー向け拡販の効果や地震影響の減少、円安メリットもあり、収益性は回復傾向にある」とする。

市場変動が激しいことから、市場変化を慎重に見ていく必要もあり、半導体事業が再び成長の牽引役になるにはもう少し時間がかかりそうだ。その点では、2017年度の営業利益5000億円達成の強力なドライバーにはなり得ないだろうが、黒字化による上積みの貢献が期待されている。

PS周辺ビジネスの成長

2つめのゲーム&ネットワークサービス事業では、2017年1月に、プレイステーション4の累計出荷が5340万台に達したこと、これをベースに展開しているプレイステーションネットワークによるネットワークビジネスの貢献が注目されている。

実際、第3四半期には、ネットワークを通じた販売を含む、プレイステーション4向けソフトウェアが前年同期比40%増という成長をみせている。また、今回の会見では、2016年10月以降、品薄が続いているプレイステーションVRが「想定通りに売れ行きになっている」と発言。こうした成果により、第3四半期累計でのゲーム&ネットワークサービスの売上高は2.6%増の1兆2680億円、営業利益が295億円増の1131億円を達成。また、2016年度通期見通しは、売上高で500億円増の1兆6400億円へと上方修正した。営業利益は据え置き1350億円としたが、5000億円への達成に向けて、金融事業と並んで、最も貢献度が高い事業であることは間違いない。

3つのエレクトロニクス事業の収益性

そして、最後の「収益の安定化」という点では、スマートフォンにする「モバイル・コミュニケーション」、デジカメを中心としたる「イメージング・プロダクツ&ソリューション」、テレビを含む「ホームエンタテインメント&サウンド」という3つのエレクトロニクス事業が収益を高めていくことがポイントになろう。

モバイル・コミュニケーションは、欧州地域を中心としたスマートフォンの販売台数減や、前年度に事業縮小を図った不採算地域でのスマートフォンの販売台数減が影響するなど売上高の縮小が続いているが、営業利益は費用削減効果と、スマートフォンの価格が安定化したことで、第3四半期累計では447億円増の253億円と黒字転換。「通期黒字化を目指したい」とする。2016年度通期見通しは、11月公表値に比べて売上高が200億円減の7600億円としたものの、営業利益計画には変更がなく50億円。2016年度にまずは黒字化することが、2017年度の勢いにつながることになる。ちなみに、2016年度のスマートフォンの販売計画は、200万台下方修正し、1500万台。前年の2490万台から大幅に削減することになる。

イメージング・プロダクツ&ソリューションでは、市場全体の低迷により、販売台数減が続いており、第3四半期累計でも売上高は、19.9%減の4247億円、営業利益が202億円減の435億円と減収減益。だが、静止画・動画カメラにおける高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善が貢献。2016年通期見通しは、売上高で100億円上方修正して5700億円、営業利益は90億円増の430億円とした。デジタルカメラの出荷計画は、20万台上方修正し、400万台を目指す計画。少しずつ勢いがついてきたといえる。

また、ホームエンタテインメント&サウンドでは、為替のマイナス影響で第3四半期累計では、売上高は12.7%減の8242億円と減収になったが、4Kテレビの販売増加など、高付加価値モデルへのシフトによる製品ミックスの改善がプラスとなり、営業利益は59億円増の637億円。2016年度通期見通しは、売上高が200億円増の1兆300億円、営業利益は60億円の530億円といずれも上方修正してみせた。

これらのエレクトロクス事業が、今後、利益をどれだけ積み上げれるかが、5000億円達成の鍵になる。

1Q-3Qのセグメント別業績(左)と、通年ののセグメント別業績見通し(右)。エレクトロクス事業の積み増しが、中期経営計画の達成の鍵となるようだ

今こそエレキの復活・成長が必要

2017年1月、米ラスベガスで開催されたCES 2017の会場で取材に応じたソニーの平井社長は、「市場の不安定な環境や、熊本震災の影響もある。しかし、掲げた目標についてはやらなくてはならない。それに向かって、チーム一丸となってやっていくことを新たに決意した」と、計画達成に向けて歩む姿勢を改めて宣言してみせた。

ここでは、「営業利益5000億円達成に向けた大きな原動力は、エレクトロニクス事業」と位置づけ、「各事業部や分社化した子会社の商品が強くなってきたこと、テレビも250億円を超える利益を出してきたことなどもプラス要素である。BRAVIA、α、サイバーショット、ウォークマン、プレイステーションなど、ソニーブランドのコンシューマエレクトロクス商品において、ソニーらしさを感じてもらえるようになり、これらの事業がソニーグループの収益を大きく改善する基盤になるところまで回復してきた」と語り、「これらにより、5000億円達成に向けて、力強く進んでいきたい。2017年度は『総括の年』として、結果を出していきたい」と、計画達成に意欲を見せた。

映画分野の減損により、2017年度の営業利益5000億円達成には、イエローシグナルが灯ったのは明らかだ。ソニーにとって、「本業中の本業」であるエレクトロニクス事業の成長が、計画達成の成否をわけることになる。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。