【ユニー・ファミリーマートホールディングス】コンビニ2位浮上、収益力に課題も

【ユニー・ファミリーマートホールディングス】コンビニ2位浮上、収益力に課題も

2017.02.07

【ユニー・ファミリーマートホールディングス】コンビニ2位浮上、収益力に課題も

 ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスが合併し、2016年9月にユニー・ファミリーマートホールディングス<8028>が発足した。コンビニ店舗数でローソンを上回る業界2位に浮上した。しかし、ユニー傘下のサークルK・サンクスのオーナーからはファミリーマートへのブランド統合に不安の声も聞かれる。平均日販ではライバルのセブンイレブンやローソンに大きく下回り、店舗の収益力強化も急務だ。これまでのM&Aを振り返りつつ、今後の課題を展望する。

【企業概要】2016年の経営統合でコンビニ業界2位に

 ユニー・ファミリーマートホールディングス(以下、ファミリーマート)は、1972年に西友ストアー企画室に小型店担当を設置したことから始まった。1年後に実験第1号店を埼玉県狭山市に開店。ファミリーマートという名前は、「お客様とフランチャイズ加盟店、本部とが家族的なお付き合いをしながらともに発展していきたい」という考えから名付けられた。1978年には西友ストアー・ファミリマート事業部を発足し、同年よりフランチャイズの展開を開始した。店舗数を順調に伸ばし、1981年に西友ストアーから営業と資産の譲渡を受け、商号をファミリーマートに変更した。会社発足当時の店舗数は、89店舗(直営2店舗、加盟店87店舗)。こうして現在のファミリーマートが生まれた。

 ファミリーマートは2016年のユニーグループ・ホールディングス(以下、ユニーGHD)との合併により、業界2位のローソンを抜き、業界3位から2位となった。2016年時点で店舗数は国内で18,211店舗、海外で6,201店舗、合計で24,412店舗を展開。セブンイレブンに続く業界2位の店舗数を誇る。商品の特徴としては2012年よりPB(プライベートブランド)のFamilyMart collectionを展開している。シニアライフクリエイトの株式取得によって、高齢者向け弁当配送網を活用した生活必需品の宅配サービスも開始。PB、高齢者向けのサービス等主な特徴としている。

【経営陣】上田社長、2月末で退任

 2016年9月に発足したユニー・ファミリーマートホールディングスの社長にはファミリーマート会長の上田順二氏が就任した。しかし今年2月3日、上田社長が2月28日付で社長を退任する人事が発表された。伊藤忠商事副社長でユニー取締役の髙柳浩二氏が3月1日付で社長に就く。

【大株主】伊藤忠商事、4割強を保有

株主名称 保有株式数(千株) 持株比率(%)
伊藤忠商事 41,411 42.39
日本マスタートラスト信託銀行 8,883 9.09
日本トラスティ・サービス信託銀行 5,489 5.61
NTTドコモ 2,930 3
資産管理サービス信託銀行 2,844 2.91
日本生命保険相互会社 1,571 1.6
良品計画 1,000 1.02
日本トラスティ・サービス信託銀行 917 0.93
野村證券 733 0.75
エスアイエツクスエスアイエススイスナシヨナルバンク 724 0.74
66,502 68.04
2016年8月末時点、有価証券報告書を元に作成

 42%を保有する伊藤忠商事は、1998年に西友に代わって筆頭株主となった。伊藤忠商事は2016年2月末時点でファミリーマートの発行済み株式の約38%を保有していたほか、ユニー・グループホールディングス株についても3%取得していた。ユニーとの経営統合が決まってから、伊藤忠商事はファミリーマート株の買い増しを行った。

【M&A戦略・財務分析】店舗数拡大へ買収

 コンビニ御三家のセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの店舗数と売上高の推移を見てみると、どの会社も店舗数の増加と売上高の増加に正の相関があるのがわかる。顧客からすると、どのコンビニを利用するかは利便性がカギとなり、出店数が多い程有利になってくるのは自明である。従って既存のコンビニを買収することで店舗数と売上高を伸ばすという意図のもとでM&Aが行われる。


ユニー・ファミリーマートホールディングスの沿革と主なM&A
年月      概要
1972年9月 西友ストアー企画室に小型店担当を設置
1978年3月 西友ストアー・ファミリーマート事業部発足(店舗数4店舗)
1981年9月 株式会社ファミリーマートを設立
1988年8月 全家便利商店股份有限公司(台湾)を設立
1992年9月 タイ・バンコク市にSiam FamilyMart(現Central FamilyMart Co., Ltd.)を設立
1995年9月 中部ファミリーマートと合併
1998年2月 筆頭株主が西友から伊藤忠商事グループとなる
2000年9月 アイ・ファミリーマー(福岡)ト、北陸ファミリーマートと合併
2002年9月 松早ファミリーマート(長崎)と合併
2004年5月 兵庫セイコーマーより営業財産の一部を譲受
2009年12月 エーエム・ピーエム・ジャパンを買収
2010年3月 エーエム・ピーエム・ジャパンと合併
2011年4月 エーエム・ピーエム・関西と合併
2012年4月 シニアライフクリエイトを買収
2015年9月 ココストアを買収
2016年9月 ユニーグループ・ホールディングスとファミリーマートが合併し、ユニー・ファミリーマートホールディングスが発足。
コンビニエンスストア事業は、株式会社ファミリーマート(旧サークルKサンクス)に分割。

 ファミリーマートの主なM&Aは以下の通りである。

①エーエム・ピーエム・ジャパンの買収(2009年12月)

②ココストアの買収(2015年9月)

③ユニーグループ・ホールディングスとの経営統合(2016年9月)

ブランド統合、オーナーに不安

 ファミリーマートは買収したコンビニの看板を残さず、全てファミリーマートに変えており、買収した会社のブランドに関心が無いことがうかがえる。サークルK・サンクスのユニーGHDとの合併に関してもエーエム・ピーエムやココストアの買収とは比較にならない規模のM&Aではあるが、狙いは同様と考えられる。

 2016年の9月に行われたユニーGHDとの統合だが同じコンビニに関するM&Aであってもエーエム・ピーエムやココストアと比較しても一線を画すものである。というのもエーエム・ピーエムはおよそ500店舗、ココストアはおよそ700店舗、合算しても約1200店舗の買収。対して、ユニーGHDの有するサークルK・サンクスは6251店舗である。

 ここで問題になるのは経営統合である。先述の通り、ファミリーマートはM&Aで取り込んだコンビニのブランドを残さない方針を取っている。そのためサークルK・サンクスのオーナーの間には不安が広がっている。直近で店舗を改装したばかりのオーナーであれば改装費用の回収が終わる前にブランドの転換が迫られる。改装費用は本部で負担されると言っても不信感をぬぐえない状況である。

 さらに、ファミリーマートへの統合作業は店の看板を変えるだけでは終わらない。ポイントカード、ATM、レジシステムの刷新も行わなければならならない上に店員の再教育も必要である。他にもユニーGHDによって築かれてきた商習慣が変わってしまうのではないかという不安もオーナーの間で広がっている。サークルK・サンクスには複数店舗のコンビニ経営者への優遇措置があり、統合の過程で見直される可能性があるためだ。

 影響はフランチャイズのオーナーだけにはとどまらない。ユニーGHDに商品を納入する企業にも影響は及ぶ。ユニーグループ会を構成していた主要取引先だけでも約700社。経営統合でファミリーマートの色が強く出てくればユニーGHDの取引先も何らかの形で選別される可能性がある。ユニーGHD側のオーナーからすると不安な点が多い経営統合となる。

平均日販、セブン・ローソンに見劣り

 次にファミリーマート側の課題について見てみる。

 ユニーGHDとの経営統合によりコンビニ業界2位へ躍進したファミリーマートではあるが、そのM&Aの結果には課題が多い。まず、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの一日の一店舗当たりの平均売上高を比較してみてみると、2016年2月時点の情報でセブンイレブンが約65万円、ファミリーマートが約51万円、ローソンが約54万円、と全体の売上高ではローソンを追い抜いても平均日販では負けてしまっている。さらに、サンクスの平均日販は同時期で約43万円。システムや取扱商品、サービスの統合だけでなく元サークルK・サンクスの店舗の売上高を引上げ、既存のファミリーマート店舗の売上高の引き上げも必要な状況となっている。全店舗の平均日販におけるセブンイレブンとの差は14万円。

総合スーパーの立て直し急務

 平均日販の差以外にもセブンイレブンに追いつくための、ファミリーマートの今後の成長を考えていく上で避けては通れない課題がある。それはユニーGHDの総合スーパー(GMS)事業だ。ユニーGHDは「アピタ」や「ピアゴ」といったスーパーを傘下に持つがその業績は好調とは言えず、2016年2月期の既設店売上高の詳細を見てみると前期比で衣料品が1.1%減、住居関連が2.8%減、全体では1.0%の増加ではあるが、5年前の2011年2月期の営業収益と比較すると6.8%減と依然として厳しい状況にある。

有価証券報告書を元に作成

 2016年2月期の決算説明会ではGMS事業の再建に向けて、既存店投資拡大や新規事業によるテナント自社開発や不採算店舗の閉店を成長戦略として掲げているが、2016年8月の全店売上高は前年同月比で2.6%減と業績回復は見られない。その後、ユニーは不採算事業の整理のために、呉服専門店のさが美を売却している。

 さが美は少子化やレンタルの普及などで呉服販売が減り、2011年2月期から2016年2月期の間に売上高で約29%も減少していた。セブンイレブンに追いつけるかどうかのもう一つポイントはこういった不採算事業の整理によってGMS事業の立て直しが図れるかどうか、である。

 その他にもファミリーマートは新規事業として「医療・介護・健康」「金融」「ネットビジネス」「宅配」「インバウンド」需要の取り込み、日本郵政株式会社との基本合意締結により「越境eコマース」サービスや宅配ロッカー「はこぽす」の設置、ゆうちょATMの導入拡大に取り組むことを発表している。

【株価】経営統合を好感し上昇

 株価は上昇基調をたどっている。ファミリーマートは2015年3月にユニーグループ・ホールディングスと協議を始めると発表。15年10月には経営統合に向けて基本合意書を締結すると発表し、経営統合による規模拡大や経営効率化への期待が株価にも反映されているようだ。2016年8月には8000円に迫る水準まで上昇した。2016年8月にユニーグループが連結子会社だったさが美の株式を譲渡すると発表しており、統合前に不採算事業の整理を実行したことも評価につながったようだ。

 今期の予想PER(株価収益率)は約41倍。セブン&アイ・ホールディングス(49倍)よりも低いが、ローソン(23倍)と比べてかなり高く、株価は割安感に乏しい。一段の上昇にはセブンイレブンやローソンを下回る平均日販の引き上げや、不振の総合スーパー事業の立て直しが欠かせない。

【まとめ】業界1位へ3つのハードル

 ファミリーマートはエーエム・ピーエムやココストアの買収に続いて、サークルK・サンクスを傘下に持つユニーGHDと合併し、コンビニ業界2位という規模を手に入れた。しかし、過去の買収と比べてサークルK・サンクスは店舗数が非常に多く、統合作業は決して容易ではない。、ユニーGHDとのブランド統合、新規事業による平均日販の上昇、総合スーパー事業の立て直しの3つのポイントが今後業界1位へ昇りつめられるかどうかの鍵となるだろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部


メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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