大きな地殻変動を迎えた教育産業、民間の現場の今は?

大きな地殻変動を迎えた教育産業、民間の現場の今は?

2017.02.08

巨大な変革を迎えている業界がある。ズバリ、教育だ。2021年(2020年度)には大学入試改革が実施され、2020年を目途にタブレットやPCなどの端末が生徒一人一台体制になり、小学生のプログラミング教育も必修化される。

こうした激動期だからこそ、筆者は教育に関わる機関や企業に注視してきたが、改革に向け息巻く現場もあれば、混乱に陥っているところもある。では、いわゆる民間の教育企業はどうか。たとえば“予備校”と呼ばれるような法人だ。

矢野経済研究所によると、2015年度の教育産業全体市場規模は約2兆5,000億円で、前年度比0.9%減だという。そのなかにあって、学習塾・予備校市場は約9,570億円。2012年度が約9,380億円だったが、年々微増を続け、2016年度も約9,650億円と堅調な数字が予測されている。

だが、この微増傾向は続くのだろうか。

少子化だけではない暗雲

正直、雲行きは怪しいといわざるをえない。ご存じのとおり、日本はかつてないくらいの少子高齢化を迎えている。教育を受ける世代が減ることで、将来、市場の縮小が始まることは火を見るよりも明らかだ。

そんななか、予備校大手の駿台予備学校を運営する駿河台学園に話をうかがう機会をえた。少子化という難局に対し、今後どのような戦略を立てているのだろうか。

駿台予備学校 西日本教務部 部長 三澤正之氏

駿台予備学校 西日本教務部 部長 三澤正之氏は「確かにこれまでのように、高卒生徒を事業のメインとするのは厳しいでしょう」と話す。予備校といえば、志望の大学に進めず、翌年の試験に期して高卒生徒が勉強する場、というイメージが強い。いわゆる“浪人生”と呼ばれる層のための“学舎”だ。駿台予備学校は、こうした層への受験対策教育を主戦場にしてきた。

だが、大学受験を取り巻く様相は変化している。まず挙げられるのが、前述した少子化だ。受験者数が減れば競争率も下がり、合格しやすくなるのはごく当たり前のことだ。2000年台に入り、大学が増えたことも、競争率低下に拍車をかけている。

続いてAO入試の浸透が挙げられる。学力試験が課されず、面接や高校在籍時の成績、あるいは何かしらの実技によって入学が許可されるAO入試が広まったことで、受験勉強の必要性が薄まっている。

そして、“現役主義”が好まれるようになったことも、浪人生相手の予備校にとっては逆風だ。現役主義が広まった背景には、リーマンショックによる子育て世代の収入減不安により、浪人生への支出がひかえられるようになったことが挙げられる。また、ここ数年は“売り手市場”とよばれるほど就職環境がよくなったが、これはこれで“今、現役入学して早く就職するべき”という行動に結びつく。

現在、大学受験生を抱えている親のなかには、バブル崩壊による“就職氷河期”を体験した方も少なくないだろう。そうした方々からみれば、いつこの売り手市場が消え去るか、その経験上から現役主義に傾いているのかもしれない。

取材に訪れた駿台5号館

こうして減少傾向にある高卒生徒を対象にした予備校としては、どうするべきか。駿台は、より低学年への教育へとシフトしている。その表れともいえるのが、関西圏で根を張る浜学園との提携だ。浜学園は灘や神戸女学院といった名門中学に数多くの生徒を送り込んでいる学習塾。当然、そうした名門校に進学した生徒は名門国立や医学部といった難関大学を目指す。その際に、駿台を利用してもらえればという判断があるのかもしれない。さらにこの春、大阪では駿台・浜学園のブランドで小中学生対象の難関公立高校受験塾を新たにコラボで展開する。また、前出の三澤氏は「1年ぐらい利用していただける浪人生も大切ですが、6・3・3=12年の需要がある高卒以下の層の要望にも応えていきたいです」と語る。

大学入試改革への対応はどうか?

さて、ここまで聞いてみると、これまでの受験戦争にのっとったイメージがある。だが、冒頭で記載したとおり、文科省は大学入試改革を進めており、従来の詰め込み型教育よりも“思考力・判断力・表現力”が問われる試験になるという。それの対策はどうか。

駿台教育センター 本部 次長 小澤尚登氏は、「すでにトップ大学は、科目横断型の試験に進んでおり、特に思考力が試されるテストになっています。駿台は、そうした試験に対応した教育を進めております」と話す。

予備校といえば、駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナール、それらの頭文字をとって「SKY」と呼ばれるのが大手3社といわれている。だが“Y”は、不動産業への転身を進めていることが数年前に報道された。少子化を見込んで、ホテルなどに転用しやすい駅前一等地の不動産を教室にしていたのは慧眼といえば慧眼だが、本業から離れることで講師たちはどうなるのか……。ただ、最近ではKADOKAWAのN高校との提携を進め、本業のDNAを呼び覚ましている感じもあるが。それを思い起こした筆者は、取材最後に本業以外のことは? と、駿台担当者に聞いてみたが、あくまでも教育を土俵にするとの答えをいただいた。一例をあげると以前から駿台は大学、高校で教員や在校生、学校運営に向けさまざまな支援プログラムを行ってきたが、16年度には新たにWebブラウザを利用した教務支援と学習サポートeラーニングシステムを加えた「賢者+V」を全国展開している。

さて、駿河台学園は2018年に創立100周年を迎えるという。100年以上の企業は日本に集中しているが、駿台もそうした歴史ある企業の仲間入りを果たすことになる。歴史ある予備校として、今後も教育業界でその存在感を高めてもらいたい。

そうそう。まったくの余談だが、駿台の由来となった東京・駿河台は、江戸幕府を開闢した徳川家康が駿府(静岡県)で鬼籍に入ったあと、その旗本たちが江戸に戻り、その土地に数多くの屋敷をかまえたためその名がついたという。つまり、駿河台に人が集まりだしてから、およそ400年……。駿河台学園はその4分の1にあたる歳月をここにかまえていることになる。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。