【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

2017.02.08

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

 タクシー業界では、「大日本帝国」が有名である。タクシーの大手4社、大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。その一方で、業界最大の保有台数を持つのは第一交通産業<9035>だ。1970年代からM&Aを進め、全国各地のタクシー会社を買収して成長し、2000年4月に 福岡証券取引所に上場した。2016年3月末時点でグループ全体の保有台数は業界首位の8214台を誇る。第一交通はなぜ業界トップに躍り出ることができたのか?過去のM&Aの歴史を振り返りながらM&A戦略を読み解く。

【企業概要】タクシー8000台、34都道府県に営業網

 第一交通は、日本一の保有台数を誇るタクシー事業を核に、新規事業を展開する。創業当初はわずか5台のタクシーで事業をスタートしたが現在は、タクシー約8,000台を保有し、福岡県を拠点に全国34都道府県に営業網を持つ。第一交通といえば「タクシー事業」というイメージがあるが、そのほかに「バス事業」、「不動産分譲事業」、「不動産賃貸事業」、「金融事業」がある。

 タクシー事業は、道路運送法による一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得て34都道府県で営業を行っている。また、介護車両、寝台車両、ジャンボ、大型、ハイヤー等の車両も保有する。115社、200営業所、8,214台を配置し、随時不特定多数の顧客の求めに応じて輸送を行う。

 バス事業は、沖縄県において那覇バスほか1社の子会社が貸切バス・路線バスの営業(認可台数620台)を行っているほか、福岡県、鹿児島県、山口県、島根県、広島県、大阪府、長野県及び北海道において、第一観光バス㈱ほか5社が貸切バス等の営業を行っている。

 不動産分譲事業は、福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、佐賀県、大阪府及び東京都等において、都市型ファミリーマンションを中心とした企画、販売のほか、第一ホーム㈱において戸建住宅の販売を行っている。

 不動産賃貸事業は福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、山口県、広島県、兵庫県、大阪府、三重県、神奈川県及び北海道等において、飲食ビルを中心とした賃貸ビ78棟その他住宅物件等を保有し、賃貸及びその管理業務を行っている。

 金融事業は、福岡県、熊本県及び東京都を拠点に、第一ゼネラルサービスほか1社の子会社が、主として不動産担保ローン等の貸金業及び不動産再生事業を行っている。

【経営陣】2代目社長として、事業を多角化

 田中亮一郎社長は、大学卒業後、テレビ朝日に入社。1994年に親族が高齢になり体調を崩したことがきっかけで後継者として義父が創業した第一交通産業に入社する。2001年、第一交通産業グループ社長に就任、創業者である黒土始が拡大したタクシー事業を中心に、事業の多角化を行う。現在57歳。

【株主構成】創業家一族が、半数近くを保有

第一交通の大株主
氏名または名称 所有株式数(千株) 持ち株比率(%)
第一マネージメント 6,559 33.44
西日本シティ銀行 815 4.15
福岡銀行 674 3.43
黒土始 592 3.02
黒土優子 588 2.99
田中京子 588 2.99
福岡トヨペット 539 2.74
北九州銀行 529 2.69
第一交通産業従業員持株会 315 1.60
第一生命保険 287 1.46
11,489 58.57
2016年9月末時点、四半期報告書を元に作成

 創業家一族が株式を保有する第一マネージメントが33%ほどの持ち株比率で筆頭株主となっている。続いて西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行がそれぞれ約3~4%安定株主として入る。創業者である黒土始、その妹である黒土優子、その娘である田中京子がそれぞれ持ち分比率で3%ほど保有する。創業家一族で半数近い株式を取得していることから、強いオーナシップを持った経営ができる。

【M&A戦略】 タクシー会社買収で地域拡大、周辺事業も開発

年  月     内容
1960年6月 一般乗用旅客自動車運送事業を営む目的で創業者、黒土始及びその家族で第一タクシー(第一交通産業に吸収合併)を設立
1964年9月 不動産関係事業等を営み、関係会社の管理統括指導を目的として第一通産(現 第一交通産業)を設立
1967年6月 宮崎県のすみれタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、宮崎県へ進出
1968年5月 鹿児島県の林田タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、鹿児島県へ進出
1972年11月 福岡県の大博タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、福岡市へ進出
1975年4月 不動産の賃貸、売買及び仲介を行うことを目的として、第一住宅(現第一ゼネラルサービス)を設立
1975年9月 大分県の大丸タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、大分県へ進出
1980年6月 熊本県のハナカゴタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、熊本県へ進出
1981年8月 山口県の日祥タクシー(現 徳山第一交通)を買収し、中国地区へ進出
1985年3月 長野県のマルキチタクシー(現 第一交通(松本))を買収し、中部地区へ進出
1986年2月 兵庫県の白浜タクシー(現 第一交通(姫路))を買収し、近畿地区へ進出
1988年2月 不動産の売買、賃貸借等を営む目的として、第一不動産情報センター(第一不動産に社名変更)を設立
1988年8月 佐世保市のエボシタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、長崎県へ進出
1991年9月 埼玉県のサン自動車交通(現 サン第一交通)を買収し、関東地区へ進出
1993年4月 第一通産は、九州内のタクシー28社と自動車学校1社、不動産2社を吸収合併し、第一交通産業へ商号変更
1993年11月 平和第一交通を吸収合併
1995年1月 宮城県のワカバタクシー(現 仙台第一交通)を買収し、東北地区へ進出
1995年4月 長尾交通を吸収合併
1996年1月 木屋瀬タクシーを吸収合併
1996年4月 第一タクシーを吸収合併
2000年4月 福岡証券取引所に株式を上場
2000年11月 北海道の定鉄観光(現 札幌第一交通)を買収し、北海道地区へ進出
2000年12月 徳島県の徳島南海タクシー(現 徳島第一交通)を買収し、四国地方へ進出
2001年3月 大阪・和歌山地区南海電鉄系タクシー子会社7社をM&A 大阪・和歌山へ進出
2004年7月 沖縄県の那覇交通より営業を譲受け、那覇バスにおいて路線バス事業へ本格参入
2004年10月 会社分割により当社のタクシー事業を当社100%子会社11社が分割承継
2005年4月 1単元の株式の数を500株より100株に変更
2006年9月 沖縄県の琉球バス㈱より営業を譲受け、㈱琉球バス交通において事業開始
2006年9月 第一メディカル㈱が医療法人湘和会の出資口を譲受け、医療分野へ進出
2007年9月 ヒノデ(現 ヒノデ第一交通)を買収し、千葉県へ進出
2010年5月 中華人民共和国に上海駐在所を開設
2010年10月 京阪電鉄系タクシー子会社7社を買収し、京都・滋賀・福井へ進出
2011年7月 沖縄の水仙タクシ-を子会社化
2012年1月 那覇バスターミナル株式会社を子会社化
2013年7月 沖縄のあづまタクシーを子会社化
2016年2月 長野県の相互タクシーを子会社化

 タクシー業界は、M&Aによる規模の経済が働きやすいため、過去から数多くのM&Aが行われてきた。また近年では、法令面で規制緩和からまた再規制の方向に動いており、事実上増車するためにはM&Aしか選択肢がない状態もありその勢いは加速している。第一交通もその例に漏れず、M&Aによって毎年約300台ずつタクシーを増やしてきた。その中でも直近10年の中で特筆すべきは京阪電気鉄道のタクシー事業の買収だ。

 2010年10月、第一交通は、京阪電気鉄道から子会社の京阪タクシー(車両数:217台)、宇治京阪タクシー(車両数:97台)、大阪京阪タクシー(車両数:138台)、汽船タクシー(車両数:111台)並びに、京阪タクシーの子会社である滋賀京阪タクシー(車両数: 58台、敦賀京阪タクシー(車両数:35台)、トラベル京阪の計7社(タクシー6社の総車両数656台)を完全子会社化した。これにより、第一交通グループのタクシー保有台数は7,251台となり、京都府、滋賀県、福井県の営業エリアが拡大した結果、33都道府県からなるワイドネットワークにより競争力の強化を図った。

 2014年3月期は、兵庫県相生市の相生神姫タクシー(18台)、長崎県佐世保市の三光タクシー(17台)、北海道函館市の寿ハイヤー(42台)、沖縄県うるま市のあづまタクシー(13台)、京都市の八光タクシー(146台)、和歌山市の湊タクシー(19 台)、兵庫県尼崎市の名神タクシー(32台)、福岡市の長住タクシー(33台)の買収並びに5社 (73台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比352台増加の7,683台とした。

 2015年3月期は、名古屋市の大宝タクシー(38台)、大阪市の南大阪 交通(128台)、広島市のつるみタクシー(29台)、福岡市西ビルタクシー(40台)の買収並びに1社(27台)からの事業譲受等 による増加を含めて、前期比2台増加の7,905台とした。

 2016年3月期は、福岡市の㈱西ビルタクシー(40台)ほか1社(21台)、松山 市の㈲富士タクシー(25台)ほか1社(9台)、堺市のロイヤルタクシー㈱(56台)ほか1社(42台)、武蔵野市 の㈱ユアーズ(30台)、函館市の美咲観光ハイヤー㈱(20台)、松本市の相互タクシー㈱(50台)の買収に並び4社(118台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比349台増加の8,264台とした。

沖縄で買収攻勢、バスや不動産にも進出

 第一交通のM&Aの特、色は、タクシー事業が公共交通機関として担う「個別短距離輸送」の地域密着性を、点から面へと「総合生活産業」を展開するなかで、タクシーを足掛かりに周辺事業を固め、新規事業を展開していく点だ。その象徴となるのが沖縄事業である。

 2003年6月に民事再生手続きの申立を行った那覇交通との間で営業の全部を譲り受けることに2004年4月に合意した。那覇交通は1951年に設立され、那覇市内の市内線では別名「銀バス」と呼び親しまれ、ほかに貸切・定期観光バスも保有し、沖縄県民の生活の足としていた。路線バス事業においては、昨今の地方公共交通機関に共通問題である輸送人員の減少、赤字路線の拡大等により、財務体質が悪化したことから、那覇交通は営業譲渡先を模索し、第一交通グループも選択肢のうちの1社として交渉を進めてきた。

 第一交通は、地域に密着し、利用者に喜んでもらえるよう積極的に設備投資を行い、観光立県としてのイメージアップに繋がるようサービス重視の経営を行う。今回の営業譲受けによりバスが255台増加し、第一交通グループ内のバスの総認可車両数は376台となる。

 その後も2006年9月、民第一交通の子会社である民事再生手続中の琉球バス交通との間で事業譲受契約書を締結し、子会社化した。2006年11月には第一交通の 100%子会社である那覇第一交通は、沖縄交通サービスとの間でタクシー事業を買収したほか、沖縄ハイヤーを子会社化。 沖縄県内におけるグループのタクシーの保有台数を64台とした。

 2007年5月、沖縄で初めてとなる分譲マンションを那覇市壺川で着工した。起工式で田中亮一郎社長は「バス、タクシーを含めて沖縄にしっかり根を張りたい」と述べ、今後、県内で年間、数棟を建設する考えを示していた。第2、第3物件として浦添、名護両市に用地を取得した。県内にマンション販売の専門会社も設立し、販売態勢を整えた。

 2008年10月、第一交通子会社の那覇第一交通は、美栄タクシー及び鏡原タクシーの全出資持分をそれぞれ取得し、子会社化した。これにより、沖縄県内における当社グループのタクシーの保有台数は、2社50台が増加することで7社207台とした。2011年7月、那覇第一交通は、合資会社水仙タクシーの全出資持分を取得し子会社化した。当該出資持分の取得によりタクシー21台が増加し、沖縄県内においては既存のグループ子会社6社190台と合わせて211台となった。

 2012年1月、第一交通はリッシより、那覇バスターミナルの全株式を取得し、完全子会社化した。那覇バスターミナルは、那覇市の中心地、沖縄県の玄関口でありながら、また、再開発の指定をうけているにもかかわらず、経済状況の変化や諸般の事情で再開発に着手できなかった状態が長年続いていた。譲受後は、旭橋都市再開発株式会社が事業を進め、第一交通は南地区事業にも参画した経緯もあり、地権者として再開発事業に協力を希望する意向を示した。

 2013年7月、第一交通子会社であるてだこ第一交通は、あづまタクシーの全出資持分を取得し、子会社化した。これにより沖縄県内においてはグループのタクシー13台が増加し、既存の当社グループ7社216台と合わせて229台となった。

 沖縄に11年前にバス事業で参入後、タクシー・自動車整備・不動産分譲・賃貸も軌道に乗り、年間売上高100億円(グループ全体の1割)を計上するまでになった。沖縄県内の路線バスにおける沖縄本島共通IC乗車券「OKICA」導入による乗客の利便性の向上、三線演奏と島唄で人気の「うたばす」「琉まーる」ガイドと大手旅行社とのパッケージツアーによる営業推進、リピーター向け定期観光コースの設定のほか、重複路線の統廃合による効率化、那覇空港と県内主要リゾートホテを結ぶリムジンバスの運行を推進する。第一交通グループは地域密着の徹底を図り、顧客満足を視野に入れた異業種とのシナジー効果による付加価値の充実を図る。

【財務分析】ROE、10%台の高水準

 財務指標をみると、売上・利益ともに好調である。2016年3月期の連結売上高は前期比21%増の1100億円、営業利益は22%増の85億円といずれも過去最高を更新した。タクシー事業は乗務員の制服を刷新した費用で減益となったが、不動産分譲事業が好調で利益を押し上げた。

 2017年3月期は売上高が前期比6%減の1030億円、営業利益が7%減の80億円の見通し。第3四半期までの業績をみると、不動産分譲事業が振るわず減益だが、タクシー事業は増益で推移している。

 自己資本比率は20%前後を維持している盤石とは言い難いものの一方で、自己資本利益率(ROE)が10%台と高水準を維持している。現金及び現金同等物の期末残高も増えていることから、今後は配当や自社株買いなどの株主還元の強化や、M&Aなどの成長投資で現金の有効な使い道を示す必要がありそうだ。

【株価】増配発表で急上昇に転じる

 株価は上下を繰り返しながらも上昇基調にある。2015年末に一時1600円台の高値をつけた。中小のタクシー会社を積極的に買収し規模を拡大していることや不動産分譲事業の好調が評価につながっている。

 2016年以降、株価は軟調に推移していたが、今年2月7日、年間配当を25円に増やすと発表したことをきっかけに株価が急上昇に転じている。増配は企業経営者が先行きの業績に対して自信を持っていることのシグナルといえ、今後の業績拡大期待で当面、株価は堅調に推移しそうだ。

【まとめ】M&Aで地域密着の総合生活産業へ

 中期経営計画では、「地域密着のタクシー事業、バス事業並びに不動産事業をベースにして、他業種との業務提携等を進め、快適な生活環境を創造するLANS(ローカル・エリア・ネット・サービス)カンパニーの確立を目指す」としている。タクシー事業については、大都市圏・地方主要都市圏を中心にM&Aを実施するため、意思決定の迅速化と経営責任を明確にするとある。今後もタクシーを足掛かりとし、周辺事業を展開していく地域密着性「総合生活産業」推進するため、第一交通にとってM&Aは重要な経営戦略といえるだろう。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出典:M&A online データベース

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