【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

2017.02.08

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

 タクシー業界では、「大日本帝国」が有名である。タクシーの大手4社、大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。その一方で、業界最大の保有台数を持つのは第一交通産業<9035>だ。1970年代からM&Aを進め、全国各地のタクシー会社を買収して成長し、2000年4月に 福岡証券取引所に上場した。2016年3月末時点でグループ全体の保有台数は業界首位の8214台を誇る。第一交通はなぜ業界トップに躍り出ることができたのか?過去のM&Aの歴史を振り返りながらM&A戦略を読み解く。

【企業概要】タクシー8000台、34都道府県に営業網

 第一交通は、日本一の保有台数を誇るタクシー事業を核に、新規事業を展開する。創業当初はわずか5台のタクシーで事業をスタートしたが現在は、タクシー約8,000台を保有し、福岡県を拠点に全国34都道府県に営業網を持つ。第一交通といえば「タクシー事業」というイメージがあるが、そのほかに「バス事業」、「不動産分譲事業」、「不動産賃貸事業」、「金融事業」がある。

 タクシー事業は、道路運送法による一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得て34都道府県で営業を行っている。また、介護車両、寝台車両、ジャンボ、大型、ハイヤー等の車両も保有する。115社、200営業所、8,214台を配置し、随時不特定多数の顧客の求めに応じて輸送を行う。

 バス事業は、沖縄県において那覇バスほか1社の子会社が貸切バス・路線バスの営業(認可台数620台)を行っているほか、福岡県、鹿児島県、山口県、島根県、広島県、大阪府、長野県及び北海道において、第一観光バス㈱ほか5社が貸切バス等の営業を行っている。

 不動産分譲事業は、福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、佐賀県、大阪府及び東京都等において、都市型ファミリーマンションを中心とした企画、販売のほか、第一ホーム㈱において戸建住宅の販売を行っている。

 不動産賃貸事業は福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、山口県、広島県、兵庫県、大阪府、三重県、神奈川県及び北海道等において、飲食ビルを中心とした賃貸ビ78棟その他住宅物件等を保有し、賃貸及びその管理業務を行っている。

 金融事業は、福岡県、熊本県及び東京都を拠点に、第一ゼネラルサービスほか1社の子会社が、主として不動産担保ローン等の貸金業及び不動産再生事業を行っている。

【経営陣】2代目社長として、事業を多角化

 田中亮一郎社長は、大学卒業後、テレビ朝日に入社。1994年に親族が高齢になり体調を崩したことがきっかけで後継者として義父が創業した第一交通産業に入社する。2001年、第一交通産業グループ社長に就任、創業者である黒土始が拡大したタクシー事業を中心に、事業の多角化を行う。現在57歳。

【株主構成】創業家一族が、半数近くを保有

第一交通の大株主
氏名または名称 所有株式数(千株) 持ち株比率(%)
第一マネージメント 6,559 33.44
西日本シティ銀行 815 4.15
福岡銀行 674 3.43
黒土始 592 3.02
黒土優子 588 2.99
田中京子 588 2.99
福岡トヨペット 539 2.74
北九州銀行 529 2.69
第一交通産業従業員持株会 315 1.60
第一生命保険 287 1.46
11,489 58.57
2016年9月末時点、四半期報告書を元に作成

 創業家一族が株式を保有する第一マネージメントが33%ほどの持ち株比率で筆頭株主となっている。続いて西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行がそれぞれ約3~4%安定株主として入る。創業者である黒土始、その妹である黒土優子、その娘である田中京子がそれぞれ持ち分比率で3%ほど保有する。創業家一族で半数近い株式を取得していることから、強いオーナシップを持った経営ができる。

【M&A戦略】 タクシー会社買収で地域拡大、周辺事業も開発

年  月     内容
1960年6月 一般乗用旅客自動車運送事業を営む目的で創業者、黒土始及びその家族で第一タクシー(第一交通産業に吸収合併)を設立
1964年9月 不動産関係事業等を営み、関係会社の管理統括指導を目的として第一通産(現 第一交通産業)を設立
1967年6月 宮崎県のすみれタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、宮崎県へ進出
1968年5月 鹿児島県の林田タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、鹿児島県へ進出
1972年11月 福岡県の大博タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、福岡市へ進出
1975年4月 不動産の賃貸、売買及び仲介を行うことを目的として、第一住宅(現第一ゼネラルサービス)を設立
1975年9月 大分県の大丸タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、大分県へ進出
1980年6月 熊本県のハナカゴタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、熊本県へ進出
1981年8月 山口県の日祥タクシー(現 徳山第一交通)を買収し、中国地区へ進出
1985年3月 長野県のマルキチタクシー(現 第一交通(松本))を買収し、中部地区へ進出
1986年2月 兵庫県の白浜タクシー(現 第一交通(姫路))を買収し、近畿地区へ進出
1988年2月 不動産の売買、賃貸借等を営む目的として、第一不動産情報センター(第一不動産に社名変更)を設立
1988年8月 佐世保市のエボシタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、長崎県へ進出
1991年9月 埼玉県のサン自動車交通(現 サン第一交通)を買収し、関東地区へ進出
1993年4月 第一通産は、九州内のタクシー28社と自動車学校1社、不動産2社を吸収合併し、第一交通産業へ商号変更
1993年11月 平和第一交通を吸収合併
1995年1月 宮城県のワカバタクシー(現 仙台第一交通)を買収し、東北地区へ進出
1995年4月 長尾交通を吸収合併
1996年1月 木屋瀬タクシーを吸収合併
1996年4月 第一タクシーを吸収合併
2000年4月 福岡証券取引所に株式を上場
2000年11月 北海道の定鉄観光(現 札幌第一交通)を買収し、北海道地区へ進出
2000年12月 徳島県の徳島南海タクシー(現 徳島第一交通)を買収し、四国地方へ進出
2001年3月 大阪・和歌山地区南海電鉄系タクシー子会社7社をM&A 大阪・和歌山へ進出
2004年7月 沖縄県の那覇交通より営業を譲受け、那覇バスにおいて路線バス事業へ本格参入
2004年10月 会社分割により当社のタクシー事業を当社100%子会社11社が分割承継
2005年4月 1単元の株式の数を500株より100株に変更
2006年9月 沖縄県の琉球バス㈱より営業を譲受け、㈱琉球バス交通において事業開始
2006年9月 第一メディカル㈱が医療法人湘和会の出資口を譲受け、医療分野へ進出
2007年9月 ヒノデ(現 ヒノデ第一交通)を買収し、千葉県へ進出
2010年5月 中華人民共和国に上海駐在所を開設
2010年10月 京阪電鉄系タクシー子会社7社を買収し、京都・滋賀・福井へ進出
2011年7月 沖縄の水仙タクシ-を子会社化
2012年1月 那覇バスターミナル株式会社を子会社化
2013年7月 沖縄のあづまタクシーを子会社化
2016年2月 長野県の相互タクシーを子会社化

 タクシー業界は、M&Aによる規模の経済が働きやすいため、過去から数多くのM&Aが行われてきた。また近年では、法令面で規制緩和からまた再規制の方向に動いており、事実上増車するためにはM&Aしか選択肢がない状態もありその勢いは加速している。第一交通もその例に漏れず、M&Aによって毎年約300台ずつタクシーを増やしてきた。その中でも直近10年の中で特筆すべきは京阪電気鉄道のタクシー事業の買収だ。

 2010年10月、第一交通は、京阪電気鉄道から子会社の京阪タクシー(車両数:217台)、宇治京阪タクシー(車両数:97台)、大阪京阪タクシー(車両数:138台)、汽船タクシー(車両数:111台)並びに、京阪タクシーの子会社である滋賀京阪タクシー(車両数: 58台、敦賀京阪タクシー(車両数:35台)、トラベル京阪の計7社(タクシー6社の総車両数656台)を完全子会社化した。これにより、第一交通グループのタクシー保有台数は7,251台となり、京都府、滋賀県、福井県の営業エリアが拡大した結果、33都道府県からなるワイドネットワークにより競争力の強化を図った。

 2014年3月期は、兵庫県相生市の相生神姫タクシー(18台)、長崎県佐世保市の三光タクシー(17台)、北海道函館市の寿ハイヤー(42台)、沖縄県うるま市のあづまタクシー(13台)、京都市の八光タクシー(146台)、和歌山市の湊タクシー(19 台)、兵庫県尼崎市の名神タクシー(32台)、福岡市の長住タクシー(33台)の買収並びに5社 (73台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比352台増加の7,683台とした。

 2015年3月期は、名古屋市の大宝タクシー(38台)、大阪市の南大阪 交通(128台)、広島市のつるみタクシー(29台)、福岡市西ビルタクシー(40台)の買収並びに1社(27台)からの事業譲受等 による増加を含めて、前期比2台増加の7,905台とした。

 2016年3月期は、福岡市の㈱西ビルタクシー(40台)ほか1社(21台)、松山 市の㈲富士タクシー(25台)ほか1社(9台)、堺市のロイヤルタクシー㈱(56台)ほか1社(42台)、武蔵野市 の㈱ユアーズ(30台)、函館市の美咲観光ハイヤー㈱(20台)、松本市の相互タクシー㈱(50台)の買収に並び4社(118台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比349台増加の8,264台とした。

沖縄で買収攻勢、バスや不動産にも進出

 第一交通のM&Aの特、色は、タクシー事業が公共交通機関として担う「個別短距離輸送」の地域密着性を、点から面へと「総合生活産業」を展開するなかで、タクシーを足掛かりに周辺事業を固め、新規事業を展開していく点だ。その象徴となるのが沖縄事業である。

 2003年6月に民事再生手続きの申立を行った那覇交通との間で営業の全部を譲り受けることに2004年4月に合意した。那覇交通は1951年に設立され、那覇市内の市内線では別名「銀バス」と呼び親しまれ、ほかに貸切・定期観光バスも保有し、沖縄県民の生活の足としていた。路線バス事業においては、昨今の地方公共交通機関に共通問題である輸送人員の減少、赤字路線の拡大等により、財務体質が悪化したことから、那覇交通は営業譲渡先を模索し、第一交通グループも選択肢のうちの1社として交渉を進めてきた。

 第一交通は、地域に密着し、利用者に喜んでもらえるよう積極的に設備投資を行い、観光立県としてのイメージアップに繋がるようサービス重視の経営を行う。今回の営業譲受けによりバスが255台増加し、第一交通グループ内のバスの総認可車両数は376台となる。

 その後も2006年9月、民第一交通の子会社である民事再生手続中の琉球バス交通との間で事業譲受契約書を締結し、子会社化した。2006年11月には第一交通の 100%子会社である那覇第一交通は、沖縄交通サービスとの間でタクシー事業を買収したほか、沖縄ハイヤーを子会社化。 沖縄県内におけるグループのタクシーの保有台数を64台とした。

 2007年5月、沖縄で初めてとなる分譲マンションを那覇市壺川で着工した。起工式で田中亮一郎社長は「バス、タクシーを含めて沖縄にしっかり根を張りたい」と述べ、今後、県内で年間、数棟を建設する考えを示していた。第2、第3物件として浦添、名護両市に用地を取得した。県内にマンション販売の専門会社も設立し、販売態勢を整えた。

 2008年10月、第一交通子会社の那覇第一交通は、美栄タクシー及び鏡原タクシーの全出資持分をそれぞれ取得し、子会社化した。これにより、沖縄県内における当社グループのタクシーの保有台数は、2社50台が増加することで7社207台とした。2011年7月、那覇第一交通は、合資会社水仙タクシーの全出資持分を取得し子会社化した。当該出資持分の取得によりタクシー21台が増加し、沖縄県内においては既存のグループ子会社6社190台と合わせて211台となった。

 2012年1月、第一交通はリッシより、那覇バスターミナルの全株式を取得し、完全子会社化した。那覇バスターミナルは、那覇市の中心地、沖縄県の玄関口でありながら、また、再開発の指定をうけているにもかかわらず、経済状況の変化や諸般の事情で再開発に着手できなかった状態が長年続いていた。譲受後は、旭橋都市再開発株式会社が事業を進め、第一交通は南地区事業にも参画した経緯もあり、地権者として再開発事業に協力を希望する意向を示した。

 2013年7月、第一交通子会社であるてだこ第一交通は、あづまタクシーの全出資持分を取得し、子会社化した。これにより沖縄県内においてはグループのタクシー13台が増加し、既存の当社グループ7社216台と合わせて229台となった。

 沖縄に11年前にバス事業で参入後、タクシー・自動車整備・不動産分譲・賃貸も軌道に乗り、年間売上高100億円(グループ全体の1割)を計上するまでになった。沖縄県内の路線バスにおける沖縄本島共通IC乗車券「OKICA」導入による乗客の利便性の向上、三線演奏と島唄で人気の「うたばす」「琉まーる」ガイドと大手旅行社とのパッケージツアーによる営業推進、リピーター向け定期観光コースの設定のほか、重複路線の統廃合による効率化、那覇空港と県内主要リゾートホテを結ぶリムジンバスの運行を推進する。第一交通グループは地域密着の徹底を図り、顧客満足を視野に入れた異業種とのシナジー効果による付加価値の充実を図る。

【財務分析】ROE、10%台の高水準

 財務指標をみると、売上・利益ともに好調である。2016年3月期の連結売上高は前期比21%増の1100億円、営業利益は22%増の85億円といずれも過去最高を更新した。タクシー事業は乗務員の制服を刷新した費用で減益となったが、不動産分譲事業が好調で利益を押し上げた。

 2017年3月期は売上高が前期比6%減の1030億円、営業利益が7%減の80億円の見通し。第3四半期までの業績をみると、不動産分譲事業が振るわず減益だが、タクシー事業は増益で推移している。

 自己資本比率は20%前後を維持している盤石とは言い難いものの一方で、自己資本利益率(ROE)が10%台と高水準を維持している。現金及び現金同等物の期末残高も増えていることから、今後は配当や自社株買いなどの株主還元の強化や、M&Aなどの成長投資で現金の有効な使い道を示す必要がありそうだ。

【株価】増配発表で急上昇に転じる

 株価は上下を繰り返しながらも上昇基調にある。2015年末に一時1600円台の高値をつけた。中小のタクシー会社を積極的に買収し規模を拡大していることや不動産分譲事業の好調が評価につながっている。

 2016年以降、株価は軟調に推移していたが、今年2月7日、年間配当を25円に増やすと発表したことをきっかけに株価が急上昇に転じている。増配は企業経営者が先行きの業績に対して自信を持っていることのシグナルといえ、今後の業績拡大期待で当面、株価は堅調に推移しそうだ。

【まとめ】M&Aで地域密着の総合生活産業へ

 中期経営計画では、「地域密着のタクシー事業、バス事業並びに不動産事業をベースにして、他業種との業務提携等を進め、快適な生活環境を創造するLANS(ローカル・エリア・ネット・サービス)カンパニーの確立を目指す」としている。タクシー事業については、大都市圏・地方主要都市圏を中心にM&Aを実施するため、意思決定の迅速化と経営責任を明確にするとある。今後もタクシーを足掛かりとし、周辺事業を展開していく地域密着性「総合生活産業」推進するため、第一交通にとってM&Aは重要な経営戦略といえるだろう。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。