【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

2017.02.08

【第一交通産業】M&Aでタクシー最大手に 地域の「足」を支える

 タクシー業界では、「大日本帝国」が有名である。タクシーの大手4社、大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車の頭文字の「大」「日本」「帝」「国」をつなげた表現だ。その一方で、業界最大の保有台数を持つのは第一交通産業<9035>だ。1970年代からM&Aを進め、全国各地のタクシー会社を買収して成長し、2000年4月に 福岡証券取引所に上場した。2016年3月末時点でグループ全体の保有台数は業界首位の8214台を誇る。第一交通はなぜ業界トップに躍り出ることができたのか?過去のM&Aの歴史を振り返りながらM&A戦略を読み解く。

【企業概要】タクシー8000台、34都道府県に営業網

 第一交通は、日本一の保有台数を誇るタクシー事業を核に、新規事業を展開する。創業当初はわずか5台のタクシーで事業をスタートしたが現在は、タクシー約8,000台を保有し、福岡県を拠点に全国34都道府県に営業網を持つ。第一交通といえば「タクシー事業」というイメージがあるが、そのほかに「バス事業」、「不動産分譲事業」、「不動産賃貸事業」、「金融事業」がある。

 タクシー事業は、道路運送法による一般乗用旅客自動車運送事業の免許を得て34都道府県で営業を行っている。また、介護車両、寝台車両、ジャンボ、大型、ハイヤー等の車両も保有する。115社、200営業所、8,214台を配置し、随時不特定多数の顧客の求めに応じて輸送を行う。

 バス事業は、沖縄県において那覇バスほか1社の子会社が貸切バス・路線バスの営業(認可台数620台)を行っているほか、福岡県、鹿児島県、山口県、島根県、広島県、大阪府、長野県及び北海道において、第一観光バス㈱ほか5社が貸切バス等の営業を行っている。

 不動産分譲事業は、福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、佐賀県、大阪府及び東京都等において、都市型ファミリーマンションを中心とした企画、販売のほか、第一ホーム㈱において戸建住宅の販売を行っている。

 不動産賃貸事業は福岡県、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、大分県、山口県、広島県、兵庫県、大阪府、三重県、神奈川県及び北海道等において、飲食ビルを中心とした賃貸ビ78棟その他住宅物件等を保有し、賃貸及びその管理業務を行っている。

 金融事業は、福岡県、熊本県及び東京都を拠点に、第一ゼネラルサービスほか1社の子会社が、主として不動産担保ローン等の貸金業及び不動産再生事業を行っている。

【経営陣】2代目社長として、事業を多角化

 田中亮一郎社長は、大学卒業後、テレビ朝日に入社。1994年に親族が高齢になり体調を崩したことがきっかけで後継者として義父が創業した第一交通産業に入社する。2001年、第一交通産業グループ社長に就任、創業者である黒土始が拡大したタクシー事業を中心に、事業の多角化を行う。現在57歳。

【株主構成】創業家一族が、半数近くを保有

第一交通の大株主
氏名または名称 所有株式数(千株) 持ち株比率(%)
第一マネージメント 6,559 33.44
西日本シティ銀行 815 4.15
福岡銀行 674 3.43
黒土始 592 3.02
黒土優子 588 2.99
田中京子 588 2.99
福岡トヨペット 539 2.74
北九州銀行 529 2.69
第一交通産業従業員持株会 315 1.60
第一生命保険 287 1.46
11,489 58.57
2016年9月末時点、四半期報告書を元に作成

 創業家一族が株式を保有する第一マネージメントが33%ほどの持ち株比率で筆頭株主となっている。続いて西日本シティ銀行、福岡銀行、北九州銀行がそれぞれ約3~4%安定株主として入る。創業者である黒土始、その妹である黒土優子、その娘である田中京子がそれぞれ持ち分比率で3%ほど保有する。創業家一族で半数近い株式を取得していることから、強いオーナシップを持った経営ができる。

【M&A戦略】 タクシー会社買収で地域拡大、周辺事業も開発

年  月     内容
1960年6月 一般乗用旅客自動車運送事業を営む目的で創業者、黒土始及びその家族で第一タクシー(第一交通産業に吸収合併)を設立
1964年9月 不動産関係事業等を営み、関係会社の管理統括指導を目的として第一通産(現 第一交通産業)を設立
1967年6月 宮崎県のすみれタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、宮崎県へ進出
1968年5月 鹿児島県の林田タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、鹿児島県へ進出
1972年11月 福岡県の大博タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、福岡市へ進出
1975年4月 不動産の賃貸、売買及び仲介を行うことを目的として、第一住宅(現第一ゼネラルサービス)を設立
1975年9月 大分県の大丸タクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、大分県へ進出
1980年6月 熊本県のハナカゴタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、熊本県へ進出
1981年8月 山口県の日祥タクシー(現 徳山第一交通)を買収し、中国地区へ進出
1985年3月 長野県のマルキチタクシー(現 第一交通(松本))を買収し、中部地区へ進出
1986年2月 兵庫県の白浜タクシー(現 第一交通(姫路))を買収し、近畿地区へ進出
1988年2月 不動産の売買、賃貸借等を営む目的として、第一不動産情報センター(第一不動産に社名変更)を設立
1988年8月 佐世保市のエボシタクシー(第一交通産業に吸収合併)を買収し、長崎県へ進出
1991年9月 埼玉県のサン自動車交通(現 サン第一交通)を買収し、関東地区へ進出
1993年4月 第一通産は、九州内のタクシー28社と自動車学校1社、不動産2社を吸収合併し、第一交通産業へ商号変更
1993年11月 平和第一交通を吸収合併
1995年1月 宮城県のワカバタクシー(現 仙台第一交通)を買収し、東北地区へ進出
1995年4月 長尾交通を吸収合併
1996年1月 木屋瀬タクシーを吸収合併
1996年4月 第一タクシーを吸収合併
2000年4月 福岡証券取引所に株式を上場
2000年11月 北海道の定鉄観光(現 札幌第一交通)を買収し、北海道地区へ進出
2000年12月 徳島県の徳島南海タクシー(現 徳島第一交通)を買収し、四国地方へ進出
2001年3月 大阪・和歌山地区南海電鉄系タクシー子会社7社をM&A 大阪・和歌山へ進出
2004年7月 沖縄県の那覇交通より営業を譲受け、那覇バスにおいて路線バス事業へ本格参入
2004年10月 会社分割により当社のタクシー事業を当社100%子会社11社が分割承継
2005年4月 1単元の株式の数を500株より100株に変更
2006年9月 沖縄県の琉球バス㈱より営業を譲受け、㈱琉球バス交通において事業開始
2006年9月 第一メディカル㈱が医療法人湘和会の出資口を譲受け、医療分野へ進出
2007年9月 ヒノデ(現 ヒノデ第一交通)を買収し、千葉県へ進出
2010年5月 中華人民共和国に上海駐在所を開設
2010年10月 京阪電鉄系タクシー子会社7社を買収し、京都・滋賀・福井へ進出
2011年7月 沖縄の水仙タクシ-を子会社化
2012年1月 那覇バスターミナル株式会社を子会社化
2013年7月 沖縄のあづまタクシーを子会社化
2016年2月 長野県の相互タクシーを子会社化

 タクシー業界は、M&Aによる規模の経済が働きやすいため、過去から数多くのM&Aが行われてきた。また近年では、法令面で規制緩和からまた再規制の方向に動いており、事実上増車するためにはM&Aしか選択肢がない状態もありその勢いは加速している。第一交通もその例に漏れず、M&Aによって毎年約300台ずつタクシーを増やしてきた。その中でも直近10年の中で特筆すべきは京阪電気鉄道のタクシー事業の買収だ。

 2010年10月、第一交通は、京阪電気鉄道から子会社の京阪タクシー(車両数:217台)、宇治京阪タクシー(車両数:97台)、大阪京阪タクシー(車両数:138台)、汽船タクシー(車両数:111台)並びに、京阪タクシーの子会社である滋賀京阪タクシー(車両数: 58台、敦賀京阪タクシー(車両数:35台)、トラベル京阪の計7社(タクシー6社の総車両数656台)を完全子会社化した。これにより、第一交通グループのタクシー保有台数は7,251台となり、京都府、滋賀県、福井県の営業エリアが拡大した結果、33都道府県からなるワイドネットワークにより競争力の強化を図った。

 2014年3月期は、兵庫県相生市の相生神姫タクシー(18台)、長崎県佐世保市の三光タクシー(17台)、北海道函館市の寿ハイヤー(42台)、沖縄県うるま市のあづまタクシー(13台)、京都市の八光タクシー(146台)、和歌山市の湊タクシー(19 台)、兵庫県尼崎市の名神タクシー(32台)、福岡市の長住タクシー(33台)の買収並びに5社 (73台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比352台増加の7,683台とした。

 2015年3月期は、名古屋市の大宝タクシー(38台)、大阪市の南大阪 交通(128台)、広島市のつるみタクシー(29台)、福岡市西ビルタクシー(40台)の買収並びに1社(27台)からの事業譲受等 による増加を含めて、前期比2台増加の7,905台とした。

 2016年3月期は、福岡市の㈱西ビルタクシー(40台)ほか1社(21台)、松山 市の㈲富士タクシー(25台)ほか1社(9台)、堺市のロイヤルタクシー㈱(56台)ほか1社(42台)、武蔵野市 の㈱ユアーズ(30台)、函館市の美咲観光ハイヤー㈱(20台)、松本市の相互タクシー㈱(50台)の買収に並び4社(118台)からの事業譲受等による増加を含めて、前期比349台増加の8,264台とした。

沖縄で買収攻勢、バスや不動産にも進出

 第一交通のM&Aの特、色は、タクシー事業が公共交通機関として担う「個別短距離輸送」の地域密着性を、点から面へと「総合生活産業」を展開するなかで、タクシーを足掛かりに周辺事業を固め、新規事業を展開していく点だ。その象徴となるのが沖縄事業である。

 2003年6月に民事再生手続きの申立を行った那覇交通との間で営業の全部を譲り受けることに2004年4月に合意した。那覇交通は1951年に設立され、那覇市内の市内線では別名「銀バス」と呼び親しまれ、ほかに貸切・定期観光バスも保有し、沖縄県民の生活の足としていた。路線バス事業においては、昨今の地方公共交通機関に共通問題である輸送人員の減少、赤字路線の拡大等により、財務体質が悪化したことから、那覇交通は営業譲渡先を模索し、第一交通グループも選択肢のうちの1社として交渉を進めてきた。

 第一交通は、地域に密着し、利用者に喜んでもらえるよう積極的に設備投資を行い、観光立県としてのイメージアップに繋がるようサービス重視の経営を行う。今回の営業譲受けによりバスが255台増加し、第一交通グループ内のバスの総認可車両数は376台となる。

 その後も2006年9月、民第一交通の子会社である民事再生手続中の琉球バス交通との間で事業譲受契約書を締結し、子会社化した。2006年11月には第一交通の 100%子会社である那覇第一交通は、沖縄交通サービスとの間でタクシー事業を買収したほか、沖縄ハイヤーを子会社化。 沖縄県内におけるグループのタクシーの保有台数を64台とした。

 2007年5月、沖縄で初めてとなる分譲マンションを那覇市壺川で着工した。起工式で田中亮一郎社長は「バス、タクシーを含めて沖縄にしっかり根を張りたい」と述べ、今後、県内で年間、数棟を建設する考えを示していた。第2、第3物件として浦添、名護両市に用地を取得した。県内にマンション販売の専門会社も設立し、販売態勢を整えた。

 2008年10月、第一交通子会社の那覇第一交通は、美栄タクシー及び鏡原タクシーの全出資持分をそれぞれ取得し、子会社化した。これにより、沖縄県内における当社グループのタクシーの保有台数は、2社50台が増加することで7社207台とした。2011年7月、那覇第一交通は、合資会社水仙タクシーの全出資持分を取得し子会社化した。当該出資持分の取得によりタクシー21台が増加し、沖縄県内においては既存のグループ子会社6社190台と合わせて211台となった。

 2012年1月、第一交通はリッシより、那覇バスターミナルの全株式を取得し、完全子会社化した。那覇バスターミナルは、那覇市の中心地、沖縄県の玄関口でありながら、また、再開発の指定をうけているにもかかわらず、経済状況の変化や諸般の事情で再開発に着手できなかった状態が長年続いていた。譲受後は、旭橋都市再開発株式会社が事業を進め、第一交通は南地区事業にも参画した経緯もあり、地権者として再開発事業に協力を希望する意向を示した。

 2013年7月、第一交通子会社であるてだこ第一交通は、あづまタクシーの全出資持分を取得し、子会社化した。これにより沖縄県内においてはグループのタクシー13台が増加し、既存の当社グループ7社216台と合わせて229台となった。

 沖縄に11年前にバス事業で参入後、タクシー・自動車整備・不動産分譲・賃貸も軌道に乗り、年間売上高100億円(グループ全体の1割)を計上するまでになった。沖縄県内の路線バスにおける沖縄本島共通IC乗車券「OKICA」導入による乗客の利便性の向上、三線演奏と島唄で人気の「うたばす」「琉まーる」ガイドと大手旅行社とのパッケージツアーによる営業推進、リピーター向け定期観光コースの設定のほか、重複路線の統廃合による効率化、那覇空港と県内主要リゾートホテを結ぶリムジンバスの運行を推進する。第一交通グループは地域密着の徹底を図り、顧客満足を視野に入れた異業種とのシナジー効果による付加価値の充実を図る。

【財務分析】ROE、10%台の高水準

 財務指標をみると、売上・利益ともに好調である。2016年3月期の連結売上高は前期比21%増の1100億円、営業利益は22%増の85億円といずれも過去最高を更新した。タクシー事業は乗務員の制服を刷新した費用で減益となったが、不動産分譲事業が好調で利益を押し上げた。

 2017年3月期は売上高が前期比6%減の1030億円、営業利益が7%減の80億円の見通し。第3四半期までの業績をみると、不動産分譲事業が振るわず減益だが、タクシー事業は増益で推移している。

 自己資本比率は20%前後を維持している盤石とは言い難いものの一方で、自己資本利益率(ROE)が10%台と高水準を維持している。現金及び現金同等物の期末残高も増えていることから、今後は配当や自社株買いなどの株主還元の強化や、M&Aなどの成長投資で現金の有効な使い道を示す必要がありそうだ。

【株価】増配発表で急上昇に転じる

 株価は上下を繰り返しながらも上昇基調にある。2015年末に一時1600円台の高値をつけた。中小のタクシー会社を積極的に買収し規模を拡大していることや不動産分譲事業の好調が評価につながっている。

 2016年以降、株価は軟調に推移していたが、今年2月7日、年間配当を25円に増やすと発表したことをきっかけに株価が急上昇に転じている。増配は企業経営者が先行きの業績に対して自信を持っていることのシグナルといえ、今後の業績拡大期待で当面、株価は堅調に推移しそうだ。

【まとめ】M&Aで地域密着の総合生活産業へ

 中期経営計画では、「地域密着のタクシー事業、バス事業並びに不動産事業をベースにして、他業種との業務提携等を進め、快適な生活環境を創造するLANS(ローカル・エリア・ネット・サービス)カンパニーの確立を目指す」としている。タクシー事業については、大都市圏・地方主要都市圏を中心にM&Aを実施するため、意思決定の迅速化と経営責任を明確にするとある。今後もタクシーを足掛かりとし、周辺事業を展開していく地域密着性「総合生活産業」推進するため、第一交通にとってM&Aは重要な経営戦略といえるだろう。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。