ソフトバンク10兆円ファンドが進める

ソフトバンク10兆円ファンドが進める"情報革命"への期待と怖れ

2017.02.10

大統領就任前のドナルド・トランプ氏と面会し、米企業に500億ドルの投資を行うと公約したソフトバンクグループの孫正義代表。その資金の出所となりそうなのが昨年10月に設立することを発表した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」だ。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドは不明な点が非常に多いが、8日の決算説明会ではファンドの目指す方向性がより鮮明になり、「情報革命の驚異的な進展」を期待させるものだった。

「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」について語るソフトバンクグループの孫正義代表

ファンドの組成に向けて

ファンドの狙いを記す前に、現段階で公表されていることを記しておこう。ファンドへの出資予定は、ソフトバンクグループ、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)ほか、その他の複数のグローバルな大手投資家たち。アップル、ホンハイ、クアルコムなどの世界的企業の出資も含め、総額1000億米ドル(約10兆円)規模の規模を目指しているようだ。

ファンドの概要。写真は2016年11月開催の決算説明会

規模感について、孫氏によると「全世界のベンチャーキャピタルの総合計の資金量は65ビリオンだが、ソフトバンクだけで100ビリオン」とし、組成されれば世界最大のファンドになりそうだ。組成に向けては、現時点で立ち上げの終盤にあるとしている。

昨年末に、孫氏はドナルド・トランプ大統領(当時は次期大統領)と面会し、米企業に500億ドルの投資を行うと報道されたが、ソフトバンクグループだけで賄える金額ではないことから、同ファンドを通じて資金が投下されるのは間違いないだろう。資金の規模感、政治的側面から、今後も大いにニュースを振りまきそうな予感のするファンドなのだ。

テクノロジーばかりではない投資対象

さて、ファンドの投資対象である。一言でいえば、プレスリリースにあるとおり、テクノロジー分野となるが、言葉を真っ向から捉えると、戸惑うことになる。

なぜなら、孫氏が想定するのは、ありとあらゆる産業が再定義されるとみているからだ。孫氏は、IoT、クラウド、AIの発達をもとにした人間の知能を超えるシンギュラリティが30年以内に到来すると見ており、「今後は靴にもチップが入る。そのチップが我々の知性を超えていく。メガネにも入っていく。ありとあらゆるものにも入っていく」としている。

あらゆる産業にテクノロジーがベースとなって入り込み、シンギュラリティーに到達する過程において、様々な産業が再定義されると見ているのだ。ゆえにテクノロジーが対象といっても、投資対象を広げてみるべきである。ファンドの理念は「情報革命で人々を幸せに」であり、それを満たしつつ、テクノロジーの活用が根底にあれば、どうやら投資対象になりそうである。

第1号案件は低軌道衛星通信

これだけではイメージしにくいと思うので、まずは投資対象の"直球案件"から見てみよう。

先日、発表された米国の低軌道衛星通信事業を営むOneWebへの1000数百億円の出資は、ファンドの投資第1号案件(ファンド組成までソフトバンクが肩代わり)となる。同社の事業は、現在の静止衛星よりも、地球から近い(低軌道)の衛星を打ち上げ、地球を覆うことで、低遅延の高速通信を低コストで提供しようというものである。

低軌道衛星を720基以上打ち上げ地球上のネットワークの良化を目指すOneWeb

地球から衛星までの距離が遠ければ、その分、遅延が生じるが、低軌道であれば、遅延は少なくなる。しかも、上空から通信を可能にすることで、地球上のどこでもネットワークの利用ができたり、車にアンテナを搭載することで、コネクテッドカーの推進にもつながるとみている。

OneWebアンテナを車載することで衛星からの電波を通じて通信が可能に

変化球案件では、たとえば、バイオテクノロジーの分野。バイオテクノロジーなどはソフトバンクにとって、「投資するには少し遠い案件」としており、ファンドの巨額な資産をもってすれば、成長の芽のある企業に、相応の規模感をもってして投資が可能になると見ているわけだ。AIの発達によりディープラーニングを活用して、DNAの解析や病気の予知などに役立てる。そうした事業会社も投資対象となるという。

経営にも深く関与

ひとつ、ファンドというと資金投下するだけというイメージがあるかもしれない。お金を置くだけでは「情報革命で人々を幸せに」というファンドの理念が実現できそうにない。その点、孫氏は深く考えているようだ。

ファンドである以上、イグジット(株式の売却)は存在するが、3%や5%といった少量の株式を保有し短期間で売りぬくといったことはないという。多くの場合は、20-40%ほどの株式を持ち、筆頭株主として、役員を送り、創業者とともに経営戦略について議論する。そして有機的結合をつくっていく。

「情報革命で人々を幸せに」という理念のもとに、情報革命を牽引する同志を増やし、戦略を共有する同志的結合をつくりたいとしている。類似する考えに財閥があるが、同ファンドの場合は、ブランドや国籍などを問わず、それぞれの分野で世界一になりそうな会社が連合体として、シナジーを出していくことを理想としている。

ファンドを通じて目指すのは情報革命を牽引する同志的結合

ファンドの理念は人を幸せにできるか

孫氏が掲げる「情報革命で人々を幸せに」というファンドの理念。この理念自体は、ソフトバンクが掲げる理念とまったく同じ。ソフトバンクグループという単体の企業グループでは、資金力の面から成し遂げられなかった側面があり、それを解消できるのも今回のファンドの魅力だ。ソフトバンクグループよりも、投資対象の規模、広さ、スピードすべてを上回る決断ができる。

ファンドによる投資、資金を元手にした情報革命の推進。それが何百社にもおよび、同時多発的に進むことで、情報革命の時機到来は早まることになるだろう。孫氏が掲げる理念に近づく世界が生まれることへの期待は高まる。

しかし、その一方で、ファンドの莫大な資金は、力の一極集中を生み出してしまう。あらゆる産業を再定義するテクノロジー、重要性を増すインフラが、ファンドのメンバーによって握られてしまう可能性があることに、漠然とした恐れも感じてしまう。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが世界の何かを変えていきそうだが、それは本当に多くの人に望まれたものになるのだろうか。

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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