「こんにゃく」海外進出への道のり

「こんにゃく」海外進出への道のり

2016.03.02

おでんにもつ煮、肉じゃがなど、地味ながらもファンが多いこんにゃく。メインとして調理される機会は少ないものの、その"ぷにぷに"とした食感はなかなか個性的で存在感がある。低カロリーで食物繊維を豊富に含むなど、食感以外にも特筆すべきところがあるのだが、国内での消費量は減る一方。生産者たちはどのようにして起死回生を図るのか。

料理のメインをはることは少ないこんにゃく(写真:PIXTA)

現在のこんにゃく事情

こんにゃくがどのようにしてできるかご存知だろうか。まずは、かぼちゃのような見た目のこんにゃくいもを薄切りにして乾燥させ、細かく砕いて粉にする。それぞれ、薄切りにして乾燥させたものは荒粉、細かく砕いたものは精粉と呼ぶ。精粉に水と凝固剤(水酸化カルシウム)を加えて整形すれば、一般的なこんにゃくの完成だ。

こんにゃくいも(写真は模型)。ずんぐりとした見た目だ。収穫には3年かかる

こんにゃくいもの産地はほとんどが群馬県。2014年においては栽培面積の約85%、収穫量の約92%を群馬県が占めており、圧倒的なシェアを誇っている。

農産物というと、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の影響が心配されそうだが、農林水産省はこんにゃくいもについて「TPP合意による特段の影響は見込み難い」と説明。その根拠として、こんにゃくいもは関税割当制(※)を維持していること、また関税撤廃は免れたこと、こんにゃく製品(加工済みのもの)はTPP参加国からの輸入実績がほとんどないことを挙げている。
※関税割当制:一定数量以内の輸入品については無税もしくは低税率の関税を適用し、一定数量を超える輸入分については高税率の関税を適用する制度。安価な輸入品を提供できるとともに、国内の生産者も保護する。

とはいえ、現場の生産者たちは危機感を持っている。群馬県のとあるこんにゃくいも農家兼加工者は「アジア諸国はこんにゃくへの関心が高い。TPP参加国のベトナムもこんにゃくいもの栽培に本腰を入れれば、強力なライバルになりそうだ」と語る。

東京都中央区にある群馬県のアンテナショップ「ぐんまちゃん家」店頭にて。玉こんにゃくとさしみこんにゃくを配る群馬県のこんにゃくいも農家の方々

ライバルが増えるだけではない。総務省の「家計調査年報」によれば、1世帯あたりのこんにゃく製品年間購入金額は落ち込み続けている。2014年には、1985年の4,161円の半分以下となる2,000円程度となった。こんにゃくが食卓に顔を見せなくなっているというのは、筆者の肌感覚としてもわかる。イタリアンやフレンチ、中華など、和食以外の多彩な料理を気軽に楽しめるようになったなかで、こんにゃくはその鳴りを潜めている。

こんにゃくの強みとは

前ページでも紹介したように、順風満帆とはいえないこんにゃく。しかし、その"ヘルシーさ"と"変幻自在な形"を生かせば、特に海外市場で勝機があるかもしれない。

まずはこんにゃくの強みについておさらいしておこう。一般財団法人日本こんにゃく協会 事務局長の原田都夫氏は、こんにゃくの健康効果について主に以下の4点を教えてくれた。

  • 低カロリー(ヒトが吸収できない食物繊維と水が主成分)でも満腹感を得られる
  • 水分を多量に含んだまま大腸に達し、腸を刺激して排便を促す
  • 食物繊維が腸内細菌のエサとなり、腸内を善玉菌優勢の環境に整える
  • 卵と同等のカルシウムを含んでおり、かつ、溶出して吸収されやすい

原田氏は「こんにゃくはいろいろな料理に取り入れやすいのもメリット」と語る。たしかに、こんにゃくはおでんなり煮物なり、うまくその味に染まってくれる。おかずだけでなく、ゼリーやわらびもちといった甘味にも変身できるのが何よりの証拠だろう。板こんにゃくだけでなく玉こんにゃく、しらたきなど、形も自在なのが特徴だ。

海外の反応「未知の食感」

ニューヨークこんにゃくアンテナカフェ(写真は群馬県提供)

日本一の産地である群馬県は、こんにゃくの知名度アップ、さらには輸出拡大を目的とし、さまざまな取り組みを行っている。そのひとつが、アメリカのニューヨークにある「こんにゃくアンテナカフェ」だ。

こんにゃくアンテナカフェでは、群馬県内の加工業者が製造したこんにゃくを使用。群馬県のぐんまブランド推進課によれば、在米日本人はもちろん、「特に健康意識の高いニューヨーカーから、食物繊維が豊富、低カロリー、グルテンフリーといったこんにゃくの特徴に興味を持ってもらっていると感じます」とのこと。こんにゃく独特の食感やにおいが苦手という人も一部いるようだが、おおむね好評で、特に「こんにゃくチャーハン」「こんにゃくヌードル」料理が人気だ。店内にはこんにゃくができるまでを図示したタペストリーを掲示するなど、こんにゃくを周知するための役割を果たしている。

また、2015年開催のミラノ国際博覧会(ミラノ万博)日本ブースでは、フィナーレを飾った群馬県が「上州和牛」と「こんにゃく」を主にアピール。こんにゃくを用いた現地向けスペシャルメニューとして「紫蘇ペーストで和えたこんにゃくのタリアテッレ、シチリアの赤海老を豆腐のソースで」「上州和牛フィレとこんにゃくのすき焼きスタイル(ミラノ風すき焼き)」を振る舞った。

ミラノ万博で振る舞われたこんにゃくのタリアテッレ(左)とミラノ風すき焼き(右)。すき焼きは日本のものと大きく異なるスタイルだが、ソースが割り下になっている。白いのがこんにゃく
ミラノ万博の来場者。こんにゃくのタリアテッレを配布

来場者アンケートでは、「食感が変」「見た目から想像した味と実際の味がちがう」などの意見もありつつ、「こんにゃくの食感は未知の領域だ、おいしい」「こんにゃく最高ですね。家でもこんにゃく料理を作ってみたい」といったポジティブな意見が7割を占めたという。

こうした取り組みが奏功してか、「欧州では、こんにゃくが"美の食材"として認知され始めています。すでにスーパーでこんにゃくを取り扱っていることからも、プロモーション活動を続けていけば、ますますの普及が見込めると考えています」と、担当者は説明する。

競争力をつけるための努力を続ける

海外でこんにゃくが有名になるのは、シェアNo.1の群馬県にとって重要なことだろう。しかし、こんにゃくがメジャーな食べ物になればなるほど、日本以外の国々もそれに追随するはずだ。これに対して群馬県の蚕糸園芸課は「日本のものに比べて安い海外産のこんにゃくが市場に出るのは仕方ないこと。そのなかで、どれだけ群馬のこんにゃくを食べてもらえるかを考えたい」と回答した。

群馬県は欧米などの「富裕層」をターゲットと定める。その理由は主に2つだ。ひとつは、水を含んで重いこんにゃくは輸送費も関税も相応にかかるため、エンドユーザーが購入する小売店などでは高値になること。もうひとつは、一般的に富裕層のほうが食に対する関心が高いことだ。食感や味よりも、こんにゃくの健康機能を主にアピールしていく。

群馬県の蚕糸園芸課は「こんにゃく海外戦略研究会」を設置。在県留学生にこんにゃくを使ったレシピを考案してもらう「こんにゃく料理コンテスト」などを開催している。写真左は「地元食材のトマトソース煮」(カメルーンの学生が考案)、右は「春巻」(ベトナムの学生が考案、最優秀賞を獲得)

精粉になってしまうと、ほとんど味にちがいは出ないといわれるが、群馬県の蚕糸園芸課によれば、「多少高値でも日本産がほしいという声も多い」そうだ。世界で日常的にこんにゃくを食べるのは日本と中国の一部地域くらいのもので、そうした意味で日本はこんにゃくについての"最先端"技術を持ち合わせているといえる。

たとえば品種改良だ。日本で栽培しているこんにゃくいもは「はるなくろ」「あかぎおおだま」「みやままさり」という3品種で97%以上を占める。そのうち約25%が、群馬県の試験場で開発されたみやままさりだ。あかぎおおだまなど従来品種の生子(種イモのこと)が細長い形をしているのに対し、みやままさりの生子は丸い。この形状のおかげで機械での植え付けが可能となった。加えて、歩留まりがあかぎおおだまより15%ほど多いなど、効率化に貢献。こんにゃく製品の品質だけでなく、価格での競争力もつけようと模索しているところだ。

こんにゃくが受け入れられるには

かつてイタリアに住んでいた筆者知人によれば、「こんにゃくは"知る人ぞ知る"健康食品のような位置づけで、万人が好んで食べるような食べ方は浸透していない」という話だった。これはあくまで個人的な印象かつイタリアの一部地域に限った話だが、こんにゃくの国際的な知名度がまだまだ低いというのは、あながちまちがいではないだろう。

こんにゃくの海外展開が軌道に乗るためには、現地の食生活になじむ食べ方の提案も重要となる。群馬県では、まずは身近な料理と置き換えられるよう、麺形状のものに注力していく方針だ。

"名脇役"は世界での和食ブームを追い風に、どこまでいけるだろうか。スシがアメリカに渡ってカリフォルニアロールが誕生したように、こんにゃくもアレンジに対する寛容さを備えている。世界でヒットする素地は十分にありそうだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu